スポーツ新聞を読みつつ聞き耳を立てていると、どうやらそのオバちゃんは『全盲の息子が筆下ろしをしたいと言うので付き添いで来た』らしい。
オバちゃん(以下母)は色々心配事を口にしていたが、話し相手になってた客の数人は「大丈夫」「心配しなくていいよ」となだめていた。
しばらくして奥から白杖持った青年と姫が待合室にやってきた。
青年の履いていた革靴はピカピカで、結構良い服を着ている。
この日のために揃えてあげたのだろう。
母はソファから飛び出して姫と軽く会釈した後・・・。
母「どうだった?いい事出来た?」
青年「うん。よかったよ。このお姉さんのおかげで」
青年は姫を指差したつもりが別の方向だったので、姫が素早く指した方向に移動。
母は顔をくしゃくしゃにして泣きながら「あんたよかったね~!!」と背中を何度もさすっていた。
客も拍手したり「よかったなあ」と激励していて、今まで無口だった893風の客まで立ち上がり、青年の肩をポンポン叩きながら「あんたも一人前の男になったぞ」と祝福していた。
姫も感動して泣いていた。
実に素晴らしい光景。
涙腺の弱いオレは新聞で顔を隠しながら泣いた。