俺たちは付き合い始めて二週間目、二回目のデートの時に初めて手を繋ぎ、一ヶ月半、五回目のデートで初めてキスをした。
近づくほどに由香の小ささ、儚さを実感し、より強く守ってやりたいと思った。
俺にとって由香は初めての彼女だし、由香にとって俺は初めての彼氏。
つまりお互いの初めてを捧げあいながら俺たちは進んできた。
それは俺にとって、理想の形だった。
その年のクリスマスが近づいていた。
俺17歳、由香16歳。
この歳なら、もっと先に進んでも良いだろう。
学校の帰り道、いつも別れ際に抱き締めたりキスしたりしているが、それだけではもう満足出来なくなっていた。
由香の、『最後の初めて』が欲しい。
俺は勇気を出して、クリスマスイブの夜、由香を俺の部屋に誘った。
両親は一泊二日の旅行に行くし、兄はバイトで居ない。
そのことを説明した上で・・・だ。
由香に告白した時のように心臓をバクバクさせながら答えを待つと、由香は「イブの夜に二人っきりかぁ」と呟き、「なんか、ドキドキするね」とはにかんだ。
俺は成功を確信した。
己の幸福を、全校に吹聴して回りたい気分だった。
イブの夕方、兄がバイトに出る時間を見計らって、由香を自室に招いた。
室内は三日かけて完璧に片付けてある。
もちろん、いかがわしいものは全て処分した。
雑誌の『HOW TO SEX』系の記事は、事前に読んでいた。
ある記事で断定されていることが、他の記事では否定されている。
童貞の俺はそれらの意見に振り回され混乱したが、今日、由香の体を知ることで、俺の中での結論は出るのだ。
由香の処女を貰うからには一生大切にするつもりだ。
俺は由香を本当に愛しているし、就職したら結婚してずっと守るつもりでいる。
由香は、俺の部屋のベッドに座っている。
女の子が俺の部屋に来ること自体が初めてで、すごく変な感じがする。
俺がお茶を淹れて由香に出すと、由香は「ありがと」とはにかんだ。
由香の可愛さに、暖かい気持ちになる。
と同時に、これからのことを想像して、体も熱くなってきていた。
「由香・・・」
お茶を机に置かせて、ベッドの上でキスをする。
唇が触れ合うだけの慣れたキスに、由香は安心したように身を預けた。
俺は繰り返し口づけた後、由香の唇を舌でなぞり、口腔内に差し入れた。
由香は驚いたように体を硬直させ、俺に口の中を蹂躙されるがままにしていた。
俺は興奮のままに由香の体をまさぐった。
服に手を差し入れ、ブラのホックを外し、邪魔なカップをずり上げる。
初めて見る、生のおっぱいだ。
服の上から見る華奢な見た目とは違って、由香のおっぱいは確かな質量を持っていた。
形も素晴らしく綺麗で、乳首も幼く感じるほどの澄んだピンク色だった。
たまらず由香を押し倒し、手のひら全体で柔らかさを堪能しながら乳首に吸い付く。
頭に血が上り、息が荒くなり、下はもうガチガチに勃起していた。
HOW TO本では、うるさく『前戯をしっかり』と繰り返してあったが、もうそんな余裕など無かった。
入れること以外、頭から吹き飛んでいた。
俺はもどかしくジーンズを脱ぎ、凍りついたように固まっている由香のスカートを捲りあげた。
淡い水色のギンガムチェックが入った、綿の子供っぽいパンツが露わになる。
(由香のおまんこまでもう少し・・・)
俺もパンツを膝まで下ろし、これまでに無いほど膨張して我慢汁をだらだら垂らしている肉棒を露わにした。
そして由香のパンツを脱がそうと手を伸ばした、そのとき、今まで完全に無抵抗を保っていた由香がカタカタと震えながら後退りした。
「気持ち悪い・・・」
由香は、自らの上半身を守るように抱きしめながら、震えていた。
「あ・・・」
咄嗟に、間抜けな声が出る。
その、由香の真っ青な顔色と、嫌悪に強張った表情を認識した瞬間、発情した気分が冷水を浴びせられたように、一気に引いていった。
由香は恐怖と嫌悪の混ざった目で、俺の目をじっと見つめ、俺との間合いを確保しながらベッドから降りた。
そして素早く床に置かれた自分のバッグを掴むと、乱れた服を整えながら俺の部屋を走って出て行った。
『追う』という選択肢は、頭に浮かばなかった。
由香の本心から搾り出されたような、「気持ち悪い・・・」という声が、頭の中を何度も何度も巡った。
それから俺は、何をどうしていいのかも判らず、冬休みの間ずっと由香を放置した。
毎日交換していたメールも、その間一切しなかった。
すると冬休み明けに由香の女友達から呼び出しがかかった。
俺と由香、そして付き添いとして由香の女友達、の三人で話すことがあるらしい。
「由香が、先輩と別れたいんだそうです」
屋上に繋がる人気の無い踊り場で、なぜか由香の女友達からその言葉が紡がれた。
由香は女友達の斜め後ろから、窺うように俺を見ていた。
(そうか。面倒なことは人に言わせるのか。)
可愛く見えていた頃は心身の幼さが長所だと感じていたが、今となっては幼稚で鬱陶しい女だとしか思えない。
俺が黙っていると、由香の女友達が、由香に目配せをした。
「あの・・・」
由香がおどおどと喋りだした。
「私、小学校の頃、一度転校してて・・・」
「たまたま、性教育のところ、どっちの小学校でも習わずにきてて・・・」
「中学の保健の授業も、部活の大会で早退してるときで・・・」
「だから、よく知らなくて・・・先輩を傷つけたとしたら本当にすいませんでした」
この由香の独白を、この付き添いとやらが驚くことも無く見守っているということは、彼女はクリスマスイブの俺の醜態について、由香から余すことなく聞いているのだろう。
「それで別れるんだ」
俺が苛々と吐き捨てると、「ごめんなさい・・・」と、答えだか答えじゃないんだか判らないような言葉が返ってきた。
あれから俺は誰とも付き合うことなく、童貞のまま35歳になった。
由香の裏切りで女への期待を失った俺が告白などする気になる訳も無く、そんな俺に告白してくる女もまた、居る訳がなかった。
風の噂で、由香は28歳か29歳で結婚して、既に2児の母になったと聞いた。
歳を取り冷静になった今となっては、“性知識の無い女が男を受け入れるまでには、心の準備としていくらかの時間が必要なのだろう”と理解することができる。
要するに、俺は由香の旦那が由香に受け入れられるための下地を作っただけだったのだろう。
面白いことだ。
俺にはもう、二人の不幸を祈るエネルギーすら無い。