俺、賢悟って言います。
俺の地元はすっげー田舎で、今は都会に出て就職してるけど、地元には俺の親友が1人。
俺の1歳年下、哲也。
哲也とは小学生からの付き合いで、家も近いので兄弟みたいな感じで、いつも遊んでました。

PCMAX

哲也と俺には、お互い妹が居ます。
俺の妹(真希)と、哲也の妹(亜矢乃)は同級生。
俺とは3つ離れています。

じゃあ一通り登場人物の紹介。
今回は俺と亜矢乃の話。
ちょっと前置きが長くなるけど、そこは許してください。

俺が高3、哲也が高2、真希と亜矢乃が中3の頃。
お互いの両親がバンドを組んでたこともあったくらい仲良しな音楽一家で、バンドを組めるように同じ時期に子供を作ったり、パートを割り当ててレッスンに行かせたり、そんな家庭で小さい頃から育った俺たち。
俺はドラムとサックス、亜矢乃はギターとピアノ、哲也はベース、真希はキーボードとバイオリンができたので、スタジオに入っては曲を合わせたり、「バンド組もうか」なんて話したり、結構楽しい毎日を送っていた。

亜矢乃と真希は俺と哲也がごろ寝しているところにお構いなしに割り込んできて一緒に寝るやつだったし、寝返りを打ったらたまに胸とかが当たったりしてたんだけど・・・、恋愛対象とか、オカズにするとかっていうのは全然なかった。
スカートを捲ったとか、パンツの匂いを嗅いだとかもなし。
実妹の真希は当然として、亜矢乃も俺にとっては妹同然だったからだ。

でも俺は大学に進むか就職するかってことで迷って勉強しだして、亜矢乃と真希は高校受験ってことで、だんだん会う機会が少なくなっていった。
結局俺は親戚が社長をやってる会社に就職させてもらうことになった。
4月からの新しい生活に向けてアパートを探したり、引越しの準備をしたり・・・。
なんとなく亜矢乃には言い辛くて、真希と哲也には、「亜矢乃には言うなよ」と口止めをした。
でもやっぱり言わなければならない時っていうのは来るもんで、真希と亜矢乃が同じ学校を推薦で合格したとき、4人で久しぶりに俺の部屋で遊ぼうってことになったんだけど・・・。
もう俺の部屋はダンボールが山積みで、邪魔だったからドラムセットもバラしてしまっていた。

亜矢乃「・・・あれっ、賢ちゃん、ドラムは?」

俺「あ、あぁ・・・。まぁ、・・・うん」

言おうと思ってもやっぱり言い辛い。
そう思って口ごもってしまったけど、真希と哲也が俺の方を見る。
やっぱり言わないとダメだよな。

俺「亜矢乃、俺な・・・、◯◯行くんだ。だから、この家にはあんまり戻って来ないかもしれない」

亜矢乃「・・・やだ、やだよそんなの・・・。◯◯って遠いじゃん!なかなか会いに行けないよ?っていうか・・・兄貴と真希は知ってたの?」

涙目になりながら問いかけ、2人は黙って返事をした。

亜矢乃「なんで!なんで私にだけ言ってくれなかったの!?兄貴の馬鹿!役立たず!お前なんか死んじゃえ!」

なぜか怒りの矛先は哲也に向いていた。
俺の部屋を飛び出す亜矢乃、真希が後ろから追いかける。
俺はただその場に留まるしかなかった。

哲也「賢悟ごめん、亜矢乃、馬鹿で」

俺「哲也は悪くねぇよ、言わなかった俺が悪いんだから」

そのあと無言の時間が続いた。
そこに真希が入ってくる。

真希「ねぇっ・・・、てっちゃん、あや、見つからないよ」

息を切らして、そう言った。

俺「真希、お前は家に居ろ。亜矢乃が帰ってきたら俺を呼びに来い。哲也、お前んちに帰ってねえか見てきてくれ」

俺達は立ち上がり別々の方向に走り出す。
そして亜矢乃が行きそうなところを手当たり次第に探した。
もう夜10時を回っていたし、俺達の田舎は雪が結構降るところなので、2月半ばといえば夜は本当に危なかった。
足元が崩れて川に流された人も居るし。
俺は人の目を気にせず、・・・っていってもそんなに通る人もいないんだけど、亜矢乃の名前を大声で叫んで探した。
すると雪を積み上げてある空き地の端に、それらしき人影を見つけた。

俺「亜矢乃!!!」

一瞬俺のほうを見てパッと背を向けた。
亜矢乃は結構薄着だったのでガタガタと震えていた。

俺「ほら、そんな格好してねぇで・・・」

と、腕を引っ張りあげる。

亜矢乃「やだ!!!」

亜矢乃は俺を拒否した。
顔は涙で濡れていた。

俺「何言ってんだよ!早く帰るぞ、風邪引くといけないから」

亜矢乃「・・・ねぇ、なんで言ってくれなかったの?高校入ってバイトしたら、サマソニもソニマニも絶対一緒に行こうねって言ったじゃん!バンド組んで、『◯◯(ライヴハウス)』に一緒に立とうって約束したじゃん!!忘れちゃったの!?・・・ずっと一緒に居られると思ったのに、・・・嘘つき!賢ちゃん酷いよ、酷すぎるよ、ずっと好きだったのに!」

俺の胸あたりを握りこぶしでガンガン叩きながら亜矢乃は俺に言葉をぶつけてきた。
亜矢乃はバスケで鍛えてるだけあって、その一発一発がめちゃめちゃ重い。
突き刺さる言葉も重くて痛い。
痛いけど、俺はそれを受け止めるしかなかった。
俺は負けないくらいの力で亜矢乃を思いっきり抱き締めた。
雪も降ってきて、人通りが少ない。
亜矢乃の嗚咽だけが響いていたと思う。

・・・でも。
やっぱり別れなければならないときは訪れるもので、俺は真希と哲也と一緒に新幹線のホームに立っていた。
もうすぐ哲也の後輩になる亜矢乃と真希。
制服姿くらい見たかったと思ったけど、すぐ手伝って欲しいとのことで引越しが早まってしまったのだ。
ドラムセットは自分の部屋に組み直して、「3人で好きなように使えよ」と言って残した。
マンションで叩いたら、出てけって言われるに決まってるし。

亜矢乃は来てくれなかった。
酷いことをしたってものすごく後悔したけど、仕方がない。

哲也「これ、亜矢乃から預かったんだけど・・・」

可愛い便箋を差し出す。

俺「あ、おう」

ホームに入って来た新幹線、発車を知らせる放送が聞こえた。

哲也「・・・じゃあな、まぁ、さっさと免許とって、ちょくちょく帰ってくるから」

そう言って俺は新幹線に乗り込む。
ドアが閉まって、ゆっくり動き出す。
哲也と真希に手を振り、見えなくなったのを確認して自分の指定席を探し、座った。
さっきの手紙を開けて、ゆっくり中を読んだ。

――――――――――――
賢ちゃん、こんにちは。
この間は困らせちゃってゴメンね。
頭の中ぐちゃぐちゃになっちゃって、賢ちゃんの気持ち、考えられなかった。
よく考えたらサマソニもソニマニも会場近くなるから新しい賢ちゃんちのほうが便利なのにね(笑)
ちゃんと言うつもりだったのに、勢いで「好き」って言っちゃったし。
あとで考えて、めっちゃ恥ずかしかったよ・・・。
でも、ホントにずっと思ってたことだよ。
ドラム叩いてるときの賢ちゃんが一番好き!
優しいとこも、面白いとこも、全部大好きだよ。
◯◯に行ったら楽器やってる人もいっぱい居るだろうし、良いメンバー探してバンドやってね!
絶対見に行くから。
今まで迷惑ばっかりかけてごめんね。
ずっと応援してるから、新しい生活頑張って。
寂しくなったらいつでも戻って来てね。
待ってるから。
本当にありがとう。
さようなら。

あやの
――――――――――――

自然と涙が出てきた。
唇を噛み締めて声が出ないように泣いた。
やっぱり俺にも不安ってもんはあるわけで・・・、「いつでも戻って来てね」って言葉はすごい心強いし、嬉しかった。
亜矢乃に酷いことをしてしまったという後悔が押し寄せたが、窓から俺を照らす春の日差しがなんとも温かくて、俺を穏やかな気分にさせた。

そんなことがあったのは3年前。
地元に3ヶ月1回くらいのペースで帰り、亜矢乃とは普通に接するようになった。
新しい生活というのはいつか新しくなくなるわけで、俺はもうこの生活にだいぶ慣れていた。
月1回送ってくる親からの米や味噌、そして少しの金。
高校生のときから貰っている小遣い“月1万円”を、両親は成人になっても送ってくれた。

その中にはいつも亜矢乃が焼いたお菓子が入っている。
料理教室をやったりしているおばさんに似て、亜矢乃はすごく料理が上手だ。
色んな菓子屋で高い菓子を買っても、亜矢乃が作るものに勝る菓子には出会ったことがない。
お礼のメールを入れることはあったけど、俺から何かお返しすることはなかった。
地元に帰っている間も、その間も特に何かしてあげるっていうことはなかった。
変に期待を持たせてまた傷つける・・・、それだけは絶対にしたくなかったからだ。

まぁこれだけ長いことこっちにいれば彼女もできるわけで、俺は洋子さんって年上の人と付き合ったりしたけど、とあることで大喧嘩して別れた。
亜矢乃がくれたクッキーの包み紙とかを、なんとなく捨てられなくて取ってあったことが原因だ。

そんなある日、亜矢乃から電話が入った。

亜矢乃「ねぇ~、兄貴と真希が付き合ってるんだけど~!知ってた?」

俺「はぁ!?まじでか??哲也も趣味わりーな」

亜矢乃「真希も趣味悪いよ~、兄貴のどこがいいんだか」

俺「じゃああれか、趣味が合わない同士は気が合うんだな(笑)」

亜矢乃「あはは、そうかもね~」

雑談を交わし、お互いの近況を言い合ったりした。
声がすごく大人っぽくなってる感じがした。
9月に地元に帰ったとき、真希と哲也が恥ずかしそうにそのことを話してきた。

俺「あぁ、知ってるから。まぁ、うちのキモい妹を頼むよ」

真希「兄貴!!!(怒)」

って感じで終わったんだけど。
そのあと2人で出かけるとかって仲良さそうに家を出て行ったから、当然のように俺と亜矢乃は家に残るわけで。

俺「さー・・・どーすっか?どっか行きたいとこある?」

亜矢乃「ゆっくりしに来たんでしょ、家でゴロゴロしてていいよ」

俺「んなこと言うなって、ちょうど給料入ったし、サマソニ連れて行ってやろうと思ったのにお前居なかったし、いっつもクッキーとか・・・美味いもんもらってるから」

亜矢乃「そんなのいーよ、気ぃ遣わなくて」

俺「俺がダメなの!!引っ張ってでも連れて行くからなー」

愛車に乗せて、とりあえずその辺をブラブラ。

俺「あっれー?あんなのあったっけー?」

亜矢乃「最近できたんだよ、カラオケとかあるから楽しいよ~」

俺「おっ、行ってみるか!」

ノリノリで2人で叫ぶように歌った。
ほんと、食ったばっかりのカルボナーラも五臓六腑も出るんじゃないかと思うほどに。
そのあとボーリングに行って、亜矢乃にボロ負け。
俺、カッコ悪い・・・。

俺「あーーー疲れた・・・。まじ明日は筋肉痛決定だ、これ」

亜矢乃「ほらーっ、だから家にいよーって言ったじゃんか」

俺「む~・・・まぁ、いいんだよ。うん。楽しかったし」

そんなことを話しながら運転していると、前のトラックから何かバサっと飛んできて、俺の車のフロントガラスに張り付く。

俺「ぅ・・・ぁああああああ!!!」

叫びながらブレーキを踏んだ。
びっくりして道端に車を停め、その正体を確かめる。
・・・エロ本だった。
それも・・・ハードSMっぽいやつだったと思う。
それを見て2人とも言葉を失った。

俺「これ・・・どーすっか?捨てとくか、この辺に」

亜矢乃「地球に優しくしましょうねー。近くのコンビニで捨てればいいじゃん」

俺「うむ・・・」

仕方なくそれを持って車に乗り、また走り出す。
しばらく前を見たまま運転していると・・・。

亜矢乃「うぅ・・・うはーーー・・・なんだこれ、こんなの絶対やだぁ・・・」

俺「・・・亜矢乃、お前何見てるんだよ?」

亜矢乃「さっきの本」

ちらっと見ると、手足を縛って、目隠しで、口とアソコに極太バイブが突き刺さってる写真。

俺「馬鹿お前、まだ未成年だろーがー」

亜矢乃「賢ちゃんだって見てたじゃんか(笑)」

俺「馬鹿、俺はこんなハードなの見てねぇよ」

亜矢乃「ん~、じゃあどんなのを見てたのかなぁ~??w」

俺「じょ・・・冗談じゃんか!見てないって、そんなの」

亜矢乃「本棚の奥の方にあったアレはなんなのかなぁ」

俺「・・・なんだ知ってたのかよ」

亜矢乃「ばっちり見つけちゃったもんね~、真希と」

俺「ま・・・まじかーーーぁ!!!」

亜矢乃「それよりコレ・・・こういうのって気持ちいいものなのかな?」

俺「ん~・・・人によるんじゃねえ?俺はそこまでやるの好きじゃないし」

亜矢乃「ふふっ、だったらどこまでが好きなんですかぁ?」

俺「・・・お前なぁーーー!!」

亜矢乃もそういう年頃だから仕方ないけど、なんか違和感が・・・。
コンビニに着いたので、さっさとその本を捨てて、また走り出した。

亜矢乃「賢ちゃんって、彼女いるの?」

俺「いねー、・・・居たけど別れたんだよ」

亜矢乃「えーっ、なんで~?」

俺「・・・色々あるもんなの!そう言う亜矢乃はどうなんだよ」

亜矢乃「居ないでーっす。好きな人は居るけどね」

俺「お?誰だ?◯◯(近所のガキ)か?(笑)」

亜矢乃「そんなわけないじゃん!!・・・ヒントはね~。う~ん、3年前と一緒」

俺「・・・わかんねー」

いや、ほんとはわかってるんだけど。
『わかった!俺だ!!』なんて言えるわけがない。

亜矢乃「うわー、ひどい!!!」

俺「あ~、あ~、わかったわかった、ごめんって」

亜矢乃「・・・賢ちゃんのことなんか忘れてさ、格好良くてやさしい彼氏を高校で見つけようと思ったんだよ・・・」

俺「お、お前・・・(汗)」

亜矢乃「・・・でもやっぱり無理だった。だって賢ちゃんのほうがいいんだもん」

2人とも黙ったまま家の近くまで行ったと思う。
そこでまた亜矢乃が口を開いた。

亜矢乃「ねぇ、賢ちゃん・・・」

俺「ん?なんだ?」

亜矢乃「あんね・・・。その、もう1回・・・告白していい?」

俺「・・・」

亜矢乃「だってね、2回言ったのに・・・YESもNOも言ってくれないじゃん」

俺「そういうこと言えない位置に居るんだよ、俺ん中で・・・」

亜矢乃「・・・兄貴の妹だから?だから振れないとか思ってる?」

俺「そんなんじゃねーって・・・」

亜矢乃「わ、私は!ほんと、賢ちゃんのこと・・・好きなんだよ?ずっと・・・ずっと前から。好きでいられるならそれだけでいいって思ってたけど、叶わないなら、もう苦しい思いをしたくないよっ・・・」

やれやれって感じで、ちょっとため息ついた後、俺は優しい目をして言った。

俺「・・・前の彼女と別れた理由、教えてやろうか」

亜矢乃「・・・?」

俺「お前にもらったクッキーの包み紙も手紙も全部捨てられなかったんだ。携帯に入ってる家族以外の女のメモリーを全部消せって言われても、お前のだけは絶対無理だったし、母さんが無理やり持たせたアルバムに入ってたお前の写真も捨てられなかった」

亜矢乃「・・・えっ」

俺「俺・・・、なんて言うか、お前のこと、すっげー大切に思ってるんだよ。だからさ、振るのも、遠距離とかで亜矢乃が傷ついたりするのも嫌なんだ」

亜矢乃の白い頬に涙がツツーっと流れた。
表情を変えず、俺の話を聞こうとしてくれている。
家に着いたが、泣いている亜矢乃をどうするわけにもいかないので、また走り出した。

俺「もし亜矢乃が俺のせいで傷つかないなら・・・付き合って欲しい」

亜矢乃「遠距離は・・・辛いよ。でも、それでも賢ちゃんのこと好きだから・・・辛くても我慢できるよ、私」

俺「そっか・・・」

亜矢乃が泣き止むまで片手を繋いだままその辺をぶらぶら走って、泣き止んでからうちに到着。

俺「ただいまー」

母さん「あら、おかえりー。早かったわね。亜矢乃ちゃんいらっしゃい」

亜矢乃「こんばんは!」

母さん「いつも、真希が哲也君のお世話になってるみたいで・・・ごめんねー」

亜矢乃「いえいえ、あんな兄貴、真希みたいな子に拾ってもらえて、妹としても安心してます」

そんな冗談を交えつつ、2人で俺の部屋に入った。

<続く>