今思えばチャンス満載の時代を素通りしてきたような気がする。
修学旅行のとき、女子が男子の部屋に「◯◯が□□に話があるってよ」と大勢で押し掛けて来た。
問題の二人を押し入れに閉じ込めて話させてる間、ある女の子が俺に引っ付いて来たことがあった。
真横に座って肩を密着させてきて、「俺君はアイちゃんが好きなんでしょ?」と図星なことを言われた。
慌てて否定する俺。
「でもアイちゃんが好きなのは別男君だからねー。残念でしたwそして俺君が次に好きなのはAちゃんでしょ?」
誰にも言ったことないのにどうして分かるのか不思議だったけど、想像以上に女は男の視線や態度に敏感なのだなと、ずいぶん後になって理解した。
「じゃあ私は何番目?」
正直、密着してきた女の子のことはあんまり意識したことはなかった。
けど、理科の実験や家庭科の料理が同じグループだったから、安心して冗談を言い合える仲ではあった。
まあ異性に対しての好意とは別の仲間意識かな。
俺は照れ屋なものだから、「何番目って、ホントは1番が誰かもわからんくせに」と狼狽えながら言葉少なに適当に話してた。
するとその子は急に真剣な顔になって言ってきた。
「私は俺君が1番目だよ」
それを聞いた瞬間、俺の中で化学変化が起こった。
というか、化学反応が暴走して昇華させるような意識変化が起こってしまった。
目が点になり身体がコチコチに固くなり返事もろくにできなくなった。
真横に体育座りしたその子は俺の肩にしなだれかかってくる。
今のスケベ丸出しな俺なら咄嗟に肩を抱きすくめて密着返しをやるだろう。
だが純情でええかっこしいで照れ屋な俺の性格がそれを拒絶した。
俺はその子から離れた。
が、なおも密着してくる彼女。
恥ずかしがる俺。
そして本音とは裏腹な言葉を俺は叫んだ。
「うるさい!」
立ち上がって廊下に出て、別の男子たちの部屋に逃げていった。
しかし本音はその子のことが気になってしかたがなかったし、俺の中の化学変化は沸点に達しそうだった。
適当に男子の部屋で過ごして自分の部屋に戻ったら女子はみんないなくなってた。
布団に入っても俺は全然眠れなかった。
翌日、朝食前の散歩のとき、俺はその子の姿を目で追った。
なんとなく俺から離れてる感じがした。
二十六聖人像の前で説明を受けてる時も心は別にあった。
修学旅行が終わるまでその子の姿を追い、心はその子にしかなかった。
俺はずっと昨晩のことを謝りたかった。
その後、修学旅行の記念文集を作る時にその子と同じ班になった。
その子はケロッとした感じだったけど、俺は後ろめたさを引きずったままだった。
ある時、二人だけの時があり、思いを決して謝った。
「いいよ。もう忘れたしw」
なんの屈託もない返事が返ってきた。
さらに、「私の1番目も別男君だし」と決別宣言。
ほのかな俺の恋心が終わった瞬間だった。
そして虚しさだけが心に残った。
男は女と違って、子どもから大人になるのが遅いんだなと、ずっと後になって思った。