ここまで言えば、もうマコがいじめられることはない。
でも負け惜しみみたいな悪態をついてくる2人。
「ちっ、何それ?ちょっと助けただけでマコの旦那気取りかよ、うぜー」
「格好つけたつもりだろ、どうせマコは爽やか先輩と付き合うって知ってんのかね?」
「ウチらが邪魔しないとマコは先輩と付き合っちゃうよ?それでいいのかよ」
負け惜しみは惨めだな。
俺はもっと惨めな変態だけどな!
「うるさいうるさいうるさい!俺は『謝れ』って言っただけだ。先輩とか何とかそんなの知るかっ。大体お前らのせいで俺は!俺は・・・もういいなんでもない」
・・・お前らのせいで俺はマコに変なとこ見られちゃったんだよ。
恥ずかしくてしょうがないよ。
なんで俺こんなに熱くなってるんだろうな?
こいつらの言う通り、おかしいな。
マコに嫌われたのに。
何の見返りもないのに。
「とにかく明日、もう1回ここ(プール)に来てマコに謝れ。俺も見てるからな」
いつの間にか俺は泣いてて、それに気付いた森と泉は何も言わなくなった。
翌朝のプールサイドに、マコを呼び出して謝罪する森と泉の姿があった。
俺はそれをプールの外からこっそり金網越しに見届けた。
それから夏休みの間、俺はプールに行かなかったし、マコにも会わなかった。
俺の初恋は終わった。
新学期になって最初に会話したのは同じクラスの泉だった。
マコが爽やか先輩への返事を、実は保留し続けていたことを知った。
そして夏休み中に丁重にお断りしたらしいことも。
泉は言った。
「睦ちゃんを好きになったからに決まってるだろ!」
森と泉はあの日の更衣室で俺とマコに起こった真実までは知らない。
いじめで閉じ込めたマコを俺がヒーロー気取りで救った、とだけ認識している。
俺とマコが自然にくっ付くと思うのが当たり前かも。
マコが先輩を振ったとなればなおさら、その理由は俺への好意だと思うだろう。
でも、廊下ですれ違っても、マコと目が合うことはなかった。
いつ見てもマコは暗い表情をしていた。
今までは、クラスは違うけど顔を合わせば話すことは出来た。
それもなくなった。
いじめを解決したことと、変態行動を見られたこと。
これを合わせたら、良くてプラマイゼロだ。
でもマコの態度を見れば、マイナスだってわかる。
お礼くらいは言われたっておかしくないのに。
それすらないんだから、マコが俺を避けてるのは明らかだった。
付き合う付き合わないは置いといても、急接近どころか疎遠になった俺とマコ。
森と泉も、なんか不自然だな~と感じ始めたみたいだった。
いじめと謝罪を経たことで、マコと森と泉が仲直りしたかどうかは興味がなかった。
でも時々3人でいるのを見るようになったから、そうなのかも知れない。
その秋、次期生徒会役員の選挙運動が始まった。
マコが生徒会長に立候補したと知って、俺はびっくりした。
勉強は出来るけど、こんなふうに表に出てくるような性格じゃなかったのに。
さらに驚いたことに、推薦人は森と泉だった。
仲直りまではともかく、何があったんだろう。
でも、もうマコと関われない俺は理由を聞くことは出来なかった。
俺は一応マコに投票したけど、結局落選した。
でも落選しても生徒会のナントカ役員になれたらしい。
年が明けて、生徒会役員として活き活きした表情で働くマコを見た。
元気になったのかな?
嬉しかったけど複雑な気持ち。
もう俺には関係ないことだ。
・・・と、思っていた。
ある日、森と泉に呼び出された。
場所は、冬なので閉鎖されてるプールの建物の前だった。
何じゃーと思って行ってみると、マコもいた。
何じゃー・・・。
2人に突っつかれて、マコが話し始めた。
「ほんとは会長に当選できたら話そうと思ったんだけど。落ちちゃったけど、色々やってみて、ちょっとは自信がついたから言うね。あれからすごい恥ずかしくて、睦ちゃんと話ができなくなって、ごめん」
マコはしっかり俺の目を見て言ってくれた。
「あの時はありがとう。好き」
俺は目の前が真っ暗になった(いい意味で!)。
マコは俺のことを見捨ててなかった!
しかも「好き」だって!
でも・・・なんで?!
泉が、原稿用紙みたいのを俺に渡してきた。
会長選挙の最終演説のボツ原稿の一部だそうだ。
こんなことが書いてあった。
――――――――――――
私は少し前までいじめられていた、冴えない人間です。
本当は、こんなところに立つような人間ではありません。
でも私は変わりたい。そう思って立候補しました。
私をいじめから救ってくれた人がいます。私もそういう人になりたい。
自分が恥をかいても誰かのために頑張れる、そんな人になりたい。
まだその人には、恥ずかしくてお礼も言えていません。
私にはまだ、恥をかく勇気がありません。
私にはまだ、その人の前に立つ資格がありません。
生徒の皆さんのために頑張る生徒会長という立場になれたら、その資格を持てるような気がします。
――――――――――――
森と泉はニヤニヤ笑っていた。
「公開ラブレターみたいだからボツにした!でも睦ちゃん、良かったなあ」
そして俺とマコを2人にしてくれた。
でも、『キスでもするんじゃねーか!』と期待しながら遠くから見てたらしい。
その期待は外れたけど、でも、俺の初恋はまだ終わってなかったんだな・・・。
俺はヒヤヒヤしながら聞いた。
「あんなことがあって、なんで俺を好きになんの・・・?」
マコは涙目で笑った。
「ほんとは前からちょっと好きだったよ」
(マジですか!)
「でも、だったらなおさら幻滅されることじゃん!」
「うん、はっきり言って気持ち悪かった!」
「ぎゃふーん」
ちょっと間を置いてマコが言った。
「睦ちゃん、言ったよ。『裸で好きな人の名前呼んだらドキドキして嬉しい』って言ったよ」
「そんなこと言ったっけ?(改変されてるような気もするけど)」
「私もあの時、ドキドキしたよ、なんか嬉しくなったよ・・・」
思い出した!
あの時マコは、すっぽんぽんのカーテン越しに俺の名前を言った。
「なんでもない」ってその時は言ってたけど、あれは俺の真似をしたのか。
そしてドキドキしてくれてたのか。
「『気持ち悪い』って言ってごめん。でもあとで思い出したら、そうでもなかった。思い出しながらお風呂とかで睦ちゃんの名前を呼んだらドキドキして嬉しくなる。睦ちゃんの言った通りだ。だから私は睦ちゃんが好きなんだなあって思った」
「でもマコ、そのドキドキって」
「内緒!」
その時、俺は理解した。
変態行動を見ても、俺を嫌いにならなかったのは、マコも変態だからだ!
そのドキドキって、エッチな気分になるって意味だよ。
それはマコも自覚してるはずだけど教えてはくれなかった。
俺のちんこを思い出してオナニーしたのかも知れない!!!
全勃起したけど、冬服だからバレなかった。
バレなかったけど、マコはその部分を見ていた気がする。
中学3年になって、また夏休みが来た。
マコとプールに行こうと約束した。
でも前年と違って日数と時間がかなり制限されたので、空いてる日はなかった。
そこそこ賑わってるプールの前で、マコが残念そうに言った。
「更衣室も人がいっぱいかな?」
「うん、でもしょうがないじゃん」
「去年みたいなことにはなりそうもないね」
去年みたいに更衣室で2人になりたいって意味かな?!
一緒に着替えたり、2人で裸になりたいって意味かな?!
それを期待して言ったのか、ただなんとなく言っただけなのかは判断できなかった。
確かめるために聞いてみた。
「・・・マコは服の中、水着着てる?」
「ううん」
「俺も穿いて来てない」
「なんで穿いて来なかったの」
「マコはなんで?」
お互いの質問にはどっちも答えなかった。
だからもうひとつ聞いてみた。
「じゃあ俺んち(学校から徒歩3分)で着替えてから行く?」
マコは「うん」と言ってくれた。
でも結局、この日、俺たちはプールには行かなかった。
おしまい。