『お金目当て、客なんてただの金づる・・・』
なんていうものは、風俗のお姉さんたちが自我を保つための言い訳、いわば大義名分のように思います。
果たしてお金などという、そんな陳腐なもののためだけに人間はその日初めて会った知らない男性の性器を咥える真似などできるものでしょうか。
ましてや、その男の快楽の手伝いなど。
たかがお金のために。
普通の女性はできません。
つまり、それができる風俗で働くお姉さんたちというのは、本当に本当に心の優しい人たちなのです。
けれども、意地っ張りで照れ屋さんだから、そんな姿を人には見せたがらない。
強く儚い心の持ち主です。
おっさんはそんなふうに思っています。
そんなわけで・・・。
おっさん、今から水商売のお姉さんの話をします。
ウザい前フリはスルーしてください。
あれは・・・おっさんが20歳くらいだったと思う。
その頃のおっさんと言えば黄金町のお姉さんたちと毎晩のように遊んでいた。
・・・のだが、まあとにかく今になって強く思うが、あの頃のおっさんはどこまでも若かった。
若い時分というのは常に飢えて、常に渇いている。
あの頃のおっさんは飽くなき女性に対する探究心から、股間にちょろちょろと染み出すカウパー線液を絞るバルブを持っていなかった。
まあ今となっては、ただの尿漏れ。
今もそうだが、おっさんは当時から酒が好きだ。
酒はいい。
何がいいって、酒に酔うとまるで世界はおっさんを中心に回っているかのようだ。
まあ今となっては、ただの眩暈。
・・・とまあ、そんな戯れ言はほどほどにしておいてだ。
おっさんは当時住んでいた近くのカラオケパブ(死語)に通うのが好きだった。
まあ普通に言ってスナックだ。
『20歳でスナックとか終わってる』
・・・と思われるだろう。
あるいはその勇気を賞賛されるかもしれない。
確かに当時のおっさんはまだシャイボーイだった部分も少しはあったし、スナックの敷居は高かったように思う。
しかしそれを差し引いても、スナックに通いたい理由があったのだ。
そのスナックには、当時26歳くらいの推定Fカップのお姉さんがいたのである。
おっさんはその推定Fカップお姉さんに恋をしていた、というより憧れていた。
好きというよりは、なんだか高嶺の花を見ているような、そんな感情を抱いていた。
とても大人びた大人の女性。
そんなお姉さんは酸いも甘いも噛み分けた、大人の余裕の持ち主に見えた。
そして特筆すべきはやはり、張り出す推定Fカップ。
その巨乳でパイズリしてくれたら、どんなに幸せだろう。
これは、そんなことを心の隅に隠した純情ストーリーだったりもする。
さて・・・。
みんなも知っていると思うが、スナックというのは基本、年齢層の高いリアルおっさんが安い焼酎だけを飲み続けるお店のことである。
働いているお姉さんやおばさんは、当時肩パッドが入っているような逆三角形のラメ入りスーツを着たりしていて、ミニスカートに肌色のストッキングがマストアイテムだった。
髪の毛は大概茶髪であり、お姉さん3人のうち1人はレディースに在籍していたのだろうという雰囲気を醸している。
必ずと言っていいほどカラオケが設置されており、海中のワカメみたいな髪型のリアルおっさんが石原裕次郎のブランデーグラスとかを唄っている。
そしてそういう頭ワカメのおっさんは、高確率で前歯がない。
頭ワカメのおっさんは、レディースお姉さんとカラオケのデュエットなんかもする。
そして必ずと言っていいほど、頭ワカメはレディースの腰を触りつつ、横に揺れながら歌を唄う。
そんなゴキゲンな頭ワカメに突然、ニッカポッカでパーマネントを当てたおっさんが、「ゴルァ!」とか言って絡んだりする。
スナックは、そんなカオスな場所だった。
今も、もちろん地域によってはたくさんあるが、たぶん当時ほどではない。
当時はそこらかしこにスナックがたくさんあった。
そして店前には型落ちのセドリックやらクラウンやら軽トラックやらが路駐してあった。
飲酒運転がご法度なのは昔も同じだが、当時は暗黙の了解があったと思う。
普通に車で来て酒を飲み、そのまま車に乗って帰る。
まあ誇張していると感じるかもしれないが、少なくともおっさんの通ったスナックはそんなところだった。
あまり馴染みのない人のために、もう少しスナックの説明を付け加えておく。
スナックにもキャバクラにもお姉さんたちはいるが、それでは何が違うのかというと・・・。
・スナックはお酒を飲みに行くところ。
・キャバクラはお姉さんと話をしに行くところ。
もう少し掘り下げると、つまりスナックというところでは、お姉さんを指名して一緒に飲むことはできない。
端的に言うと、スナックで働くお姉さんには基本、客を選ぶ権利があると言えばわかりやすいか。
あくまでもざっくりな話だが、スナックのお姉さんは嫌な客が来たら、それを拒否できる。
キャバクラのお姉さんは指名されたら余程でない限り、拒否できない。
それは風営法の違いにある。
キャバクラは接客をするためのところ。
つまり、客と同席してお酒を飲むことを許されているところ。
一方でスナックは、客と同席してお酒を一緒に飲んではいけない。
お酌をすることすら法律上はできない。
なぜなら、繰り返しになるが、スナックはお酒を提供するところであって、お姉さんの接客を売るところではないからだ。
もちろん実態としては、そんなこともない。
だが一応、法律上はそうである。
もちろんこれは各都道府県の条例などによっても異なると思う。
そしてキャバクラは風営法のもと営業をしているので、大体深夜2時とかそれくらいまでしか営業ができない。
スナックは別にやりたければ朝まででも昼まででも営業していい。
それも各都道府県や地域の規則によると思う。
まあ大体そんなところだ。
つまり何が言いたいかと言うと、お姉さんを口説きたいならスナックよりはキャバクラの方がやりやすい。
スナックでは、お姉さんに気に入られないと一緒に飲んでもらえないこともあるからだ。
今はきっともっと厳しい。
たとえばスナックやガールズバーというところは風営法により、カウンターから外に出て接客をしてはならない。
それをしていると簡単に営業停止を食らうこともある。
まあ、そんな感じだ。
もちろん実態はスナックもキャバクラもどちらも似たようなものだけれど。
それから一般的には、もちろんキャバクラの方が美人率は高い。
スナックはお姉さんの年齢層も高い・・・かもしれない。
いや、高い、絶対に高い。
特にママさんが平均年齢を20以上は上げている。
というわけで本題に入る。
おっさんが初めてそのスナックに行ったのは、よく覚えていないがベロベロに酔ったときだった。
どこかで誰かと若気の至り飲みをして、その後、当時住んでた家の近所のスナックに、ららら~と唄いながら入った。
明らかに場違いなところに1人で乗り込んだおっさんだが、酔っていたので関係ない。
カウンターに座って瓶ビールを注文した。
そのビールを持って来て、おっさんの前にドン!と置いたのが、推定Fカップのお姉さんだった。
Fカップのお姉さんは誰に似てるかというと、深田恭子をヤンキーにした感じだ。
少し肉付きが良いというか、肉というより、たぶん骨格がしっかりしている。
決してデブではないが、ムチムチ感の強い体つき。
よく紫とか緑とかのキラキラスーツを着ていて、ハイヒールにミニスカート、そして当時よくあった少しテカるストッキングを穿いていた。
脚もムチっとしていて、細くはないが全体的なバランスは良く、まあ美人の部類だと思う。
顔だけで言えば文句なく美人だ。
とても色艶のいい唇の持ち主で、とにかく見た目がオトナの女性というフェロモン系だった。
そして最大の得点アップの理由は、胸元から飛び出そうなデカパイ。
特に当時20歳の小僧だったおっさんには、グラビアアイドル以上のリアリティがあるエロスを感じるお姉さんだった。
そんなわけで・・・。
Fお姉さんは、おっさんの前にビールをドン!と置いたあとすぐに、「若ーい!いくつ?」と話してきた。
おっさんは両手を出して指を10本指を見せ、「はたち!」と答えたが、すぐさま、「何その指、意味わかんない」と返された。
スナックというのは、そんなフランクさがあるというか、礼儀とか社交辞令とかそういうものはあまりない。
特にFお姉さんは、つまらないものにはつまらないと言ってくれる正義の陪審員だった。
その日おっさんはなんの話をしたかも覚えてないが、とにかく酔っぱらっていたので、バカみたいに笑って唄って騒いで帰った。
Fお姉さんも一緒に盛り上がってくれたが、やっぱりあんまり覚えてない。
ただめちゃくちゃ楽しかったことだけは覚えている。
安い焼酎しか置いてないような店なので、毎回2日酔いが酷いが、その後もおっさんはそのスナックに足繁く通った。
週に1~2回のペースだったように思う。
風俗に行った後、黄金町で遊んだ後、友達と盛り上がって帰ってきた後・・・。
色んなときに、あともう少し遊びたいと感じたときはそのスナックへ遊びに行った。
そのスナックは朝の4時~5時くらいまで開いていたのでちょうどよかった。
どれだけ長くいても、どれだけ飲んでも、いつも大体5000円くらいだった気がする。
まあ1人で行くことが多かったにしても、少し安くしてくれてたような気もした。
ところで、当時のおっさんはハタチくらいだったので、まだ女を口説くなんていうことはあまり慣れていない。
まして、自分より5~6歳年上のお姉さんなん、本当にお姉さんで、どうやってそんな話に持ち込むかすらも判らなかった。
しかも相手は高嶺の花として目に映るFお姉さん。
まあ、そんなわけで、おっさんはあんまり積極的に性欲を出してはいなかった。
ただ遊んで大はしゃぎして、ときどき酔っ払いの歯抜けに絡まれたりしてケンカして・・・。
そんなくだらなくて楽しい飲み方の繰り返し。
ときどきはFお姉さんの体に触ったり抱きついたりしたが、あくまでノリの範囲内である。
Fお姉さんもおっさんのことを弟みたいに思っていたかもしれない。
そしてFお姉さんには、なんか中途半端な彼氏もいたらしいので、おっさんもそんなに真剣に想える感じではなかった。
そのスナックには大体5~6人のお姉さん&おばさんがいたが、主に関係したのは、Fお姉さんと、Fお姉さんの友達みたいなこれまた綺麗なお姉さん、そしてそのスナックのママさんだ。
Fお姉さんの友達みたいなお姉さんは、Fお姉さんと同い年くらいで、正統派の美人だった。
誰だろう、上戸彩とか柴崎コウとか、それ系の顔立ち。
ママさんは推定40代後半で、小太りの人。
ただ顔立ちは綺麗で、きっと若い頃は綺麗な人だったんだろうなあという感じ。
ただし、この人も外見とか服装はヤンキーチックな人だった。
おっさんが通っていた間、主におっさんの相手をしてくれるお姉さんはもちろんFお姉さんだったが、ときどきはFお姉さんが休みの日もあった。
そうすると、なんとなく正統派美人のお姉さんが気になるのだが、実際はこのお姉さんは、おっさんのことが嫌いというかウザがっていたように思う。
しばしば露骨に嫌な顔をされたこともあった。
たぶんガキがいきがってそんなところに紛れてくるのが気に食わなかったのだろう。
あとでまた話に出すかもしれないが、その後、正統派美人のお姉さんとは5年後くらいに再会する。
ママさんはとにかく小太りにありがちな気立てのいい、服装以外は可愛いおばさんだった。
いつもニコニコしていて明るい。
このスナックは2人の美人が在籍する、珍しくハイスペックなスナックではあったが、実際のところはやはりこのママさんがやり手で、歯抜けや頭ワカメを掌の上でコロコロさせていたのだと思う。
カラオケを入れても、順番が8番目とか、とにかくいつも満員御礼のスナックだった。
おっさんが特に気に入っていた理由は、なんというか昭和と平成のちょうど狭間世代のおっさんには、どことなく懐かしい空気を感じる場所だった。
今から12、3年前と言えば平成10年かそこらだが、その店は、いまだにお姉さんたちが咥えタバコでカラオケの合いの手を入れてたりする。
「ハイハイ!!」とか合いの手を入れながら、手をパチンパチン叩くような昭和の具合だ。
また店内も昭和の香りがたっぷりとしており、店に入るとまず横長のカウンターがあり、奥に4人掛けが3席くらいのボックス席がある。
文字にすると普通なのだが、とにかくインテリアからなにから昭和の香りがする。
キャパシティとしては、満員で大体20人くらい入るだろうか。
そんなギュウギュウな場所で煙がモクモクしていて、鮮やかな色彩のスーツを着たお姉さんたちがいて、昭和の名曲がカラオケで唄われている。
実際、おっさんにはまだ早いのは間違いないが、そんな空気はどことなく哀愁の趣きがあり、なんだか居心地が良かった。
ただし焼酎は本当に安物だった。
焼酎瓶は『ジンロ』だとかそんなものだが、絶対に中身は4リットルの『大五郎』に移し替えてたと思う。
ジンロのキャップがプシッと開く音を聴いたことがない。
もしかしたらエタノールだったかもしれない。
必ず濃いめのウーロン茶みたいなので割って飲むようになっていて、今思い出してみても本当に臭い酒だった。
しかしそれでも楽しいお店だった。
そんなこんなで、おっさんは通い続ける。
Fお姉さんは時折、おっさんの恋愛話とかを聞いてきたので、おっさんはそんなときは、「Fお姉さんが好きです(はぁと)」とか言ってみたりした。
でもおっさんはそこでは常に酔っていたので、「好きれす!」とか発音してたかもしれない。
おっさんハンサムではないし、また当時のおっさんには筋肉もあまりなかった。
だから本当にその辺にいる若いにーちゃんという感じ。
たぶん褒めるところもなかったのだろう。
いつも「可愛いね~」と言われて頭をナデナデされてたりした。
まあでもいいんだ。
そんな理由じゃなくて、おっさんはFお姉さんの顔を見ながら飲みたいだけなんだよ。
割と普通に言ったつもりなのだが、ふとFお姉さんの顔を見ると、ちょっと頬が赤らいでいた。
おっさんは変なことを言ってしまったと思って、思わず「ごめん!」と言ってしまったのだが、Fお姉さんは「本当に可愛いよ、キミ」と、「本当に」を強調して言っておっさんの頭を撫でた。
たぶん20回くらいは通った頃だったと思う。
それを境に、やっぱりおっさんはFお姉さんを女として強く意識するようになってしまった。
かくなれば、今すぐその推定Fカップを揉みしだきたい!
そんな風に意識してしまってからのおっさんはちょっと積極的になった。
とりあえずFお姉さんを店の外に誘い出したい。
Fお姉さんは彼氏持ちだが、まあそんなことはどうでもよい。
おっさんはちょっと吹っ切れて、Fお姉さんにアターック!してみることにした。
まあそんなわけで、口説きのツールがないおっさんは、「Fお姉さん!お願いだからごはん一緒に食べに行ってよ!」というヘボい直球を投げた。
まあヘボい打ちごろの球なのだが、実は今もあんまりそのスタイルは変わってないかもしれない。
いや、もしかして今はもっとショートカットするかも。
Fお姉さんは、じーっとおっさんの顔を見ていたので、おっさんもFお姉さんの顔を見ていた。
そこからしばらくして・・・「えっ、それだけ?」という言葉が返ってきたので、おっさんは「それだけ!」と、なぜか自信満々に返事をした。
するとFお姉さんは、「いいよ~、どこ行く?」と返してくれた。
おっさんは玉が破裂しそうになった。
しかし、若い頃というのはどうしてあのような無意味な勃起をするのだろう。
カチンカチンなチンコは自尊心を満足させるが、おっさんが思うに、今のおっさんの・・・芯は硬いが、外はぷにぷにみたいなチンコがマンコにはベターな気がする。
そのぷにぷにのところが小刻みに伸縮した方がたぶん気持ちいいはず。
そんなわけで、ついに念願のFお姉さんとデートなるものをすることになったおっさん。
季節はよく覚えてないが秋だった気がする。
確かFお姉さんは、デニムのジャケットにインナーはTシャツだった。
下もパンツルックだった気がする。
そこで覚えているのは、はち切れそうな巨乳の谷間がTシャツからはみ出していたことくらいだ。
キャバクラのお姉さんと違って、スナックのお姉さんというのは気取りがない。
だから外で会うと本当に普段着という感じだった。
夕方頃に待ち合わせをして、なんだかイタリアンレストランみたいなところへ行った。
ふだんは酔っ払いと言えど、なんとなく店の客の視線が気になるが、今日は2人きりだ。
ここはチャンスとばかりにおっさんはFお姉さんと出会ってからのおっさんの気持ちを全部伝えた。
どうやって口説いたらいいのかわからないので、とりあえず全部話した。
Fお姉さんはずっとニコニコして聞いていた。
その後、Fお姉さんとドライブをして、なんだかよくわからないが横浜の山下公園に行った。
氷川丸の前あたり、海が見えるベンチに座って色々話した。
どこかから、かすかな光がFお姉さんの顔に当たって、その前をおっさんがすこし動くと、ふっと影ができて・・・。
そこで思わず、影に隠れたFお姉さんの唇に近づいていった。
恐る恐る、ゆっくりゆっくり近づいていくと・・・。
もうすぐで到達するという少し前で、Fお姉さんが前倒しにおっさんの唇を奪った。
さすが年上のお姉さん!と感動した。
おっさんの股間は傍目にもわかるチンコテントを張っていて、おっさんが慌ててポジションを直すと、それを見てFお姉さんが笑っていた。
しばらく茫然と流れる時間を過ごした後、Fお姉さんが、「じゃあ帰ろうか」と言ってきた。
なので、おっさんは、「嫌だ!」と答えた。
そしてそのまま車を走らせておっさんの家に連れて行った。
時刻も時刻で、すぐにベッドに向かったおっさんたち。
しかしFお姉さんはディープキスまでは許してくれるものの、それ以上を許してくれなかった。
「今日、あの日なんだ」
・・・なんという切ない断り文句。
おっさんは返り血を浴びることなんて全然気にしないが、Fお姉さんが、「今日は我慢できる?」と言ってきたので、おっさんは結局我慢した。
そして少しして、Fお姉さんを家に送った。
それ以降、はっきりとFお姉さんを好きになってしまったおっさん。
今まで週1~2で通うペースが週3くらいになった。
つまり1日おき。
正統派美人のお姉さんは露骨に嫌な態度を募らせてきたが、おっさんはそれどころじゃなくFお姉さんに夢中だった。
もちろんメールやら電話やらでFお姉さんに会いたい旨を伝えてはいたが、やはり夜の仕事、しかも朝方まで続く仕事をしている中では時間が合わなかった。
いや、きっと合わせてもらうことはできたのだろうが、おっさんはFお姉さんにあんまり無理をさせるのが嫌だったので店に通った。
なのだが、正直なところ、Fお姉さんもそれ以来、あまりおっさんとの距離を縮めてくれるようなことをしてくれなかったこともあった。
逆になんとなく距離が離れてしまったような感じもして、おっさんが会いに行っても前ほど相手にしてくれなかったような気がした。
しかしそれでもおっさんが帰るときにはときどきドアの外に出てきてくれて、おっさんの口にちゅっとキスをしてくれた。
おっさんが我慢できたのは、今でこそそんなこともないが、若い時分には誰かのことを好きになると、好きな気持ちが勝ってしまって逆に性欲がなくなる・・・みたいなこともあったからとも思う。
たぶん男ならこんな経験があるのではないだろうか。
好きなんだけど、今すぐヤりたいとは思わない感じ。
いや、ヤりたいはヤりたいんだけど。
もちろんおっさんの今現在は、速攻でヤる。
というより、ヤってから好きになる、みたいな。
そういうふうに、順序が逆のほうが簡単な場合もあるかもしれない。
しかし・・・。
そうは言っても、やはりヤりたい。
そして心ごと振り向いても欲しい。
そしてFカップの胸に舐めつきたい。
おっさんはその頃、破れかぶれにカラオケでラブソングを唄って、店の空気を窒息レベルにしたこともある。
まあ若気の至りだ。
そしてちょうどその頃、Fお姉さんの誕生日などもあって、おっさんはFお姉さんの豊乳サイズに見合う、おそろしくデカい花束を持って登場したこともある。
当然、店内は失笑か大爆笑かが起こったが、おっさんはそのへんは無駄にタフなので気にしなかった。
ママさんも笑顔で、「よくやった!」とフォローしてくれた。
Fお姉さんはそれ以降も、基本おっさんに対して嫌な顔はしないものの、やはりどこか違う様子だった。
それから数10回通って・・・。
いい加減におっさんも自分が迷惑なことをしている気分になり・・・。
酔って荒れたこともあった。
ただでさえなんだか知らないやるせなさを感じているのに、訳のわからんニッカポッカの酒臭いおっさんがおっさんに絡んでくる。
イライラして暴言を吐くと、ニッカポッカのおっさんが、「表出ろ~ウラーッ」とか言っているので、外に出ていってボコスカ殴った後、ヘッドロックして失神させて捨ててきたこともあった。
まあそんなことが日常茶飯事なのもスナック。
「俺はどこどこ組の誰を知ってる」だとか、「俺は昔ヤクザだった」とか、世界平和的に超どうでもいいことで揉める。
普段はスルーするおっさんだが、ちょっと八つ当たりして可哀想なこともした。
それはおっさんがケンカ強いというより、酒臭いおっさんが弱すぎたから・・・。
それも若気の至りだ。
そして別段、警察沙汰などになることもない。
それがスナックという酒場。
そんなある日、おっさんは突然、Fお姉さんに別れを告げた。
「もう来ないね」
Fお姉さんは即座に寂しそうな顔をしたが、おっさんはそれを発してしまった手前、後に引けず、そのまま店を去った。
家に帰って風呂に入り、頭をむしるようにジャバジャバと洗って、そのまま濡れたままの髪の毛でベッドに横たわっていた。
酷く溜まっていたにも関わらず、なんだか何もかもが虚しく感じた。
あ、そういえば失恋ってこんな感じかなあと思った。
とてもやるせなかった。
<続く>