たったそれだけの間に運命的な出会い、“変態”から“いい人”へ急転、初恋のウキウキ、初告白のドキドキ、告白成功。
勢い余って童貞喪失かと思われたそのとき、自爆して“いい人”から“変態”に転落。
妹には俺が告白して振られたということだけが伝わっていた。
S子が余計なことは何も言わなかったんだな。
自分のためでもあろうが、こんな俺の名誉を守ってくれた。
じつはまだ脈がある?
汚名返上の第一歩として、S子のパンツを潔く捨てた。
捨てる前に2回使った。
さてどうする?
知り合いに相談して変な噂になったら、下手すりゃS子が傷つく。
だが俺は知っている、こういうときはプレゼントで気を引くのだということを!
やったことはないが・・・。
目には目を歯には歯を、ちんこにはまんこって言うくらいだから、パンツにはパンツだ。
近くに衣料品スーパーがあるが、地元の目があるところはだめだ。
日曜日、都心のデパートまで遠出した。
ここまで恥知らずと勢いで乗り込んだ俺だが、実際に下着売り場を目の前にしたらビビりまくり。
俺、すごい場違いじゃね?
うお、女の下着ってこんなに色々あんの?
店員がこっち見てる!
いかん、不審者扱いされる。
こんなときは正々堂々と正直に。
これ基本中の基本。
「ああああの、パンツがパンツ下さい」
やっちまった。
店員さんの眉間にしわ。
「はい、お待ちいただけますか?」
そう言っておばちゃん店員はどっかに消えた。
代わりにすげーキレイな背の高いお姉さんが来た。
おえ、こんなきれいな人っている?
じつはこれも運命的な出会いだった。
魔女の宅急便のオソノさんに似てた。
オソノ「いらっしゃいませ。パンツってショーツのことでいいのかな?パンティって言った方がわかる?」
話し方からして俺は完全に子供扱い。
実際18歳のガキだが。
おばちゃんからめんどくさいのを押し付けられたのかも知れない。
だが笑顔のすばらしさはさすが接客業。
オソノ「ふうん、18歳か。プレゼント?」
俺「あのあの、彼女にあげたい・・・」
オソノ「へえ。やるもんだね、しかも1人で。よし、安心して!相談に乗ってあげるからさ」
いい人だ。
オソノ「彼女の好みとかサイズは分かるかな?」
うわ、何も知らずに来ちまった。
もらったパンツが白だったてことしか知らない。
俺「たぶん色は白で。あとは、あのそのあの・・・」
オソノ「そっか、サイズだけど、せめて身長とか体型くらいは教えてよ」
俺「身長は確か俺よりは少し低くて・・・体型は?普通・・・?」
おどおど。
オソノさんの目がギラリ。
オソノ「ねえキミさ、それ本当に彼女?本当にプレゼント?」
俺は恥ずかしいのと情けないのとで優しいお姉さんに申し訳なくて泣きそうになった。
オソノ「アハハ、ごめんごめーん!・・・なんか事情があるんだね?」
俺「彼女になってくれたけど5分で振られました!だからパンツで謝りたい!」
結局全部話した。
出会いから振られるまでの出来事を。
そして初恋だったことを。
初めて何かしてあげたいって思えた子だったということを。
オソノ「ぶはははは!キミ面白いね!ごめんごめん、真剣だよね。うん。えっとね、もしその子がホントにキミを嫌いになったんなら、このプレゼントは逆効果だね。普通のものならまだしも、これじゃあ気持ち悪いって思われて終わりだよ。ただね、話を聞く限りじゃ、その子はびっくりした勢いで振っただけ。まだ大丈夫。その子もキミの白ブリーフを穿いてるんだから、きっと似たものカップルだよ。手紙を添えた方がいいね。ただし!格好つけずに正直な気持ちを全部書くこと。その上で、汚しちゃったショーツを返すって意味でのプレゼントなら、きっと伝わるよ!そのショーツにタグがついてれば、ううん、いいや、そのまま持ってまたおいで。それ見てから、サイズも含めて私が考えてあげるから。もちろんしっかり洗ってからね!」
世の中にこんないい人がいるとは思わなかった。
ありがとう!
名刺をもらったら、売り場責任者だった。
ネタならオソノさんに惚れる展開も面白いが、今の俺は飛ばねばならない!
速攻で家に帰り、ゴミ箱を漁ってS子のパンツを引っ張り出す。
袋に入れ、再び家を出る!
できるだけ早くS子に謝りたい!
パンツを洗うためにコインランドリーへ!
そしてホカホカパンツを穿いて、いや持って、さっきのデパートに向かう。
夜になっていたが、まさか今日中に来るとは思わなかったようで、オソノさんはびっくり笑顔で迎えてくれた。
オソノ「若いっていいね、一直線で。よっぽど好きなんだねえ、羨ましいな、その子が」
ショーツはシンプルなのが良かろうっことで、選ぶのに時間はかからなかった。
オソノ「黒は女を美しく見せるのよ」
でも白にした。
オソノさんには何度もお礼を言った。
オソノ「お礼はいいから、もしうまくいったら彼女とおいで。パンツの売上に貢献してもらうからさ!頑張って!」
気持ちが嬉しくて泣きそうだった。
応えなければ!
家に帰って手紙を書いた。
今でも大体覚えてる。
内容はこんな感じ。
――――――――――――
とにかくすまなかった、俺は最低だ、変態だ。
S子のパンツは穿きたくて穿いた。
我慢できなかった。
S子には正直でいたいから言い訳はしない。
自分が変態だってことも否定しない。
でも二度としない。
もう一度話がしたい。
もしまだ俺を許してくれるなら、そのパンツを穿いてまた家に来てほしい。
見て確かめるわけじゃない。
穿いてるなら、笑顔を見せて欲しい。
――――――――――――
こんなのを書いて、パンツと一緒にして妹に託した。
「S子ちゃんに渡してくれ、絶対に中は見るなよ!」
俺は待った。
2ヶ月待った。
夏休みのある日、その日は来た。
たぶん初めて見る私服。
ピチTシャツとデニムのミニスカート、生足。
可愛い!
見せて欲しいと言った笑顔は、照れてるんだか怒ってるんだか困ってるんだか、複雑でよくわからない。
穿いてるのか穿いてないのか、ドキドキ。
妹の目を盗むようにしてS子は紙袋を渡してきた。
俺「手紙、読んでくれたんか?」
S「うん。アニキさんごめん、これは受け取れん」
俺「そ、そっか、すまんかった、迷惑だよな」
やっぱだめだ・・・。
S「勿体なくて穿けんよ。あたしにはアニキさんの白ブリーフがお守りだから」
俺「それってどういう」
S「あたしもごめん。ずっと考えてた。アニキさんは変態だけど誠実な人だし。男なら誰でも考えることだもん、もうしないなら許す。あたしは時々お守りの白ブリーフを穿くけどね!」
やったよ、俺!
誠意が伝わったよ!
嬉しいよ!
さっそくデパートの下着売り場に2人で報告に行った。
2ヶ月前の悩めるガキが可愛い女の子を連れてきやがった!
結果は一目瞭然。
オソノさんほっとしたような笑顔を見せてくれた。
S子ともすぐに仲良くなった。
オソノ「そっかそっか、よかったねえ。S子ちゃん、アニキ君は大丈夫。こんなバカ正直な男、なかなかいないよ」
S「でもアニキさん、全部話したんでしょ?信じらんない、恥ずかしいよ」
オソノ「それだけ正直だから、S子ちゃんも見捨てられなかったんでしょ?」
S「・・・うん、おかげであたしも素直になれたようなもんで、感謝です」
オソノ「私もね、2ヶ月やきもきしてたから嬉しいよ。そうそう、あのショーツどうだったかな。気に入ってくれた?」
俺「はい、すごく穿き心地がいいです!」
終わり。