今から5年ほど前の夏、1人の女性にあった。
イスラエルから来た彼女と逢ったのは、六本木の外苑東通りから一本入った路地裏の、名も知らぬオープンカフェの前。
通りがかった彼女とたまたま目が合い、手招きしてお茶を飲んだのが始まりだった。
PCMAX

ワンレングスの黒髪、パルクフィクションのユマ・サーマンをずっと美人にしたような彼女は、その時に黒いスパッツに安いブルゾンを上に羽織り、大きなナイロンバッグ一杯に荷物を詰め込んでいた。
彼女の名前はノーラ。
イスラエルから来てまだ1ヶ月ほど、日本に来てはみたが、まだ日本人の友達もいないという。
また滞在先も古いアパートを改築しただけの、狭っ苦しい小さな部屋だという。
彼女としては別に贅沢を言うつもりはなくても、仕事が終わってから真っ直ぐ帰る気になれないのだろう。
白く透き通るような肌に濡れたような真っ赤なルージュ、艶のある黒髪。
その美しいコントラストの中に、すっと伸びた鼻筋と、ライザ・ミネリのような大きな瞳・・・。
黙っていても見惚れてしまうほどの美貌だった。
年の頃は20代の後半だろうが、しかし体型は下腹部からヒップにかけて若干崩れているし、日本人女性の30代半ばと同等の大人びた雰囲気を見せていた。

「これからどうする?予定がないなら、よく行く店があるんだが」

「少しだけなら」

そんな感じで、歩いて行きつけの店のカウンターに腰を預けると、彼女は酒を断り、グレープフルーツジュースを手にした。
俺はライムカクテルのカミカゼをシューターで頼んだ。
俯き加減でなかなか目を向き合わせることはなかったが、彼女の照れた素振りがなんとも言えずチャーミングに思えた。

それから何度か深夜のデートを重ねたとある晩、12時を過ぎた頃に携帯が鳴った。
ノーラからだった。
店から帰りたいが突然の強い雨で帰るに帰れないと言う。
六本木に車で来ていた俺がノーラを迎えに行くと、彼女が吹き付ける雨の中、傘も差さずにビルのフロアから車道に小走りに駆け寄ってきた。
その一瞬、ネオンの輝きを受けて光る雨が、腰近くまでスリットの入った赤いスパンコールのイブニングドレスに注ぐ。
その姿は映画以上にドラマティックだった。

「誕生日なのに、こんな雨だなんて。でも雨は色んなものを育てるから嫌いじゃないけど」

唐突なその言葉に驚きつつ、俺は少ない稼ぎに見合った予算ながら、楽しめる場所を考え、ノーラを横に車を走らせた。
しかしその僅かな移動の間に豪雨は止み、おかげで夏の夜というのに誰もいないオープンテラスが目に入った。

「テラスでいいや」

そうウェイターに告げると、「濡れるかもしれませんが、いいんですか?」と返される。

それでもノーラと俺は「ここでいい」と考えが一致し、店の中を2人で通り抜けた。

タンクトップにデニムのワークシャツ、ワークブーツという出で立ちの俺の前を、真紅のイブニングドレス姿の外国人女性が歩いている。
不釣り合いな2人だったが、フロアの客たちの視線は一斉にノーラに向けられ、どよめきを呼んでいた。
それほどにその夜の彼女は美しく、ゴージャスでセクシーだった。

ノーラに「行き先を任せる」と言われ、俺は悩んだ。
彼女のバースデーにラブホテルというのは抵抗があった。
俺は車を走らせ、首都高速から湾岸に乗って横浜へと向かった。
せめて、俺が好きな湾岸の夜景を眺める程度のドライブくらいしかプレゼントするものが思いつかなかったからだ。

ノーラは悩ましい眼差しで俺を見つめると、イブニングドレスを両手で捲り上げ、ゆっくり目を閉じると、キスを求めるように唇を突き出した。
濡れた赤い唇、朝の薄い光が赤いドレスに包まれたノーラの白い肌を蒼く染める。
唇を重ね、舌を絡ませる。
手をどうしていいのかわからない。
躊躇する俺にノーラは愛を囁くように何かを呟き、俺の手に捲り上げたドレスを委ね、俺の髪を悩ましく撫でると白い肢体の方へと頭を導いた。
俺は路上に跪き、ノーラの白い肌と黒い草むらに顔を埋めた。
舌を這わし、ノーラのクレヴァスを綺麗にするように舐め回す。
舌にノーラの蜜の味が広がる。
そして液体の味・・・。
心底、俺はノーラのその蜜を美味しいと思った。
俺の髪を押さえるノーラの手が震える。
彼女は爪を立てて喘ぐと、少しして腰の力がガクンと抜けてしまった。

ノーラを抱きかかえ、車のドアをなんとか開くとバックシートにノーラを寝かせる。
一瞬、大きな声で顔を押さえてノーラが笑う。
そして再び俺の瞳を見つめる。
俺は再び唇で愛撫した。
何度も小刻みに震え、仰け反り、再び絶頂を迎えると彼女は静かになった。
再び唇を重ね、舌を絡ませる。
デニムの表にまで俺の液体が滲んでいるのを彼女は手で擦ると、「来て」とそっと呟いた。
濡れたヴァギナに滑り込むように俺のが挿入する。
両足を抱え上げ、ゆっくりと先端まで入れて黒い茂みを裏から突き上げる。

「ああっ」

ノーラが息を吐き、目を細める。
小刻みにノーラが俺を締め上げるのがわかる。
その感度の良さは最高だった。

「あっ、ああ!」

声を高めるとバックシートに飛沫が降り注いだ。
俺は踊るように腰をグラインドさせ、子宮の口めがけて突き上げる。
ノーラの子宮がペニスの先端に触れる。
もっと深く、大胆に、より奥深くへ・・・。

“愛してる”

そう言いたくなる気持ちを抑えて、絶頂へ向けて深く交わり、悩ましく、そして激しく腰を寄せ合った。
俺から吹き上がった液体がノーラの下腹部からイブニングドレスを飛び越え、ノーラの美しい顔にかかっていた。
大声でノーラが笑った。
顔に両手を当てて深呼吸するノーラ。
彼女はその濡れた手を俺のペニスに添えると、「悪い子ね」というようなことを言い、うっとりとした表情で、「今度は私がキレイにするのよ」とつぶやき、まだ余韻に浸るペニスに舌を這わせ、その真紅の唇の奥深くに頬張った。

秋が深まるまでに俺とノーラは何度となく愛を交わしたが、その頃、別居中ではあったものの既婚者である俺には彼女に恋人以上のことはできず、また結局は彼女のほうもそれ以上を望むこともなく、笑いながらイスラエルに帰国した。
成田での別れがあれほど切なかったのは、彼女が最初で最後だった・・・。