俺と祐子は仲が良く、正樹がいなくても一緒に遊んだし、一緒に風呂に入ったりもした。
「俊ちゃん(俺・仮名)、助けてー」なんて半泣きになりながら俺の後ろに隠れたりすることもあって、性的な対象として見ることこそなかったものの、俺はなんだかんだ言って祐子のことを気に入っていた。
俺らはほんとの兄妹じゃないかと思うくらい仲がよくて、お互いの家に連泊したり、一緒に旅行に行ったりすることもあったくらいだ。
そして3人とも同じ高校に進学。
今、俺と正樹は高校3年生、祐子は1年生。
祐子は活発で友達付き合いも良く、クラスでも部活でも一際目立ってた。
胸はDカップくらいあるし、顔も可愛くて、男からも割とモテていたみたいだ。
そして俺が祐子を“女”として意識してしまう出来事が起こった。
部活の後輩、祐子と同じクラスの男子数人の会話を何気なく聞いていると、祐子の話になった。
「なあ、あいつ、B組のTのことを振ったらしいぜ」
「ちょっとモテるからって調子に乗りすぎだよなあ」
「無理やりヤッて復讐でもしたいくらいだ」
「俺も混ぜろよw」
そんな感じだった。
なんて低レベルな会話なんだと半分呆れたが、もしもそんなことがあったら俺は絶対に許さない。
でも、今、後輩に言いに行ってもなんの解決にもならないことはわかっていた。
それから数日後、事件は起こってしまった。
2、3年だけの強化練習で1年は部活休みだった日の放課後、部活を終えて正樹と下校していたとき・・・。
俺「あ、スパイク置いてきちまった」
正樹「どこにだよ?」
俺「用具庫」
正樹「うぇー、取りに戻るか?」
俺「おう、わりーな。今日、手入れしねぇと。買ってもらったばっかのスパイクを傷めたら親に悪いしな」
そんな会話をしながら学校に戻った。
すると器具庫の小さい窓の向こうから泣き声が聞こえる。
何度か聞いたことがある、確かにあれは祐子の声だ。
俺「おい、祐子の泣き声・・・しねえか?」
正樹「まさか、あいつ、今日は部活ないから先に帰ったはず・・・」
嫌な予感がする。
急いで普段あまり人が通らない器具庫の裏に回ってみた。
カッターシャツのボタンを2つほどちぎられて、いつも綺麗に手入れしてる髪がグシャグシャになった祐子がいた。
髪や顔、鎖骨辺りに白い液体がかかっている。
俺「おい、どーしたんだよ!」
慌てて祐子に駆け寄る。
いきなりのことに驚いたのか、祐子の背中はビクっと反応した。
祐子「しゅん・・・ちゃん・・・な、なんでもないから・・・」
俺「嘘だろ、おい・・・誰にやられたんだよ」
祐子「ちが・・・違うの・・・大丈夫だから・・・」
そんなわけないだろうと思ったところに正樹が来た。
正樹「おい、お前、スパイクも持ってかねぇで、何し・・・」
状況が飲み込めない様子で、正樹はただ祐子と俺を交互に見る。
俺は数日前の会話を思い出して、そいつらの名前を祐子に突きつけた。
俺「吉川に・・・、やられたのか?」
『なんでわかったの?』って感じの驚いた顔で俺を見る。
涙でグシャグシャになっている顔が夕日に照らし出される。
(絶対にあいつらだ)と、俺は確信した。
俺「おい・・・正樹、祐子を連れて帰れ」
祐子にはデカすぎる俺のシャツを祐子の肩にかけて、俺は練習で汚れたユニフォームを着た。
そして手当たり次第に探した。
あの1年生を。
夕日が顔を隠し始めた頃、河原にそいつららしき人影を見つけた。
「おい!」
俺は怒鳴った。
今までこんなに怒りがこみ上げてきたことはない。
そこにいた4人が一斉にこっちを向く。
そのうちの1人はデジカメを持っていた。
俺「そこに何が写ってんだよ?」
後輩「何って・・・、何も写ってないっスよ。どーしたんスか、俊さん」
かなり動揺している様子だ。
俺ら3人が仲いいのは結構みんな知ってるから。
俺「そうか・・・じゃあ見せてみろ」
無理やりひったくってデジカメを見ると、そこには祐子が写っていた。
顔は涙で濡れ、苦痛に歪んでいた。
俺の中の何かがキレたように後輩に殴りかかった。
こいつらにとってはモテたいがために入っただけの部活なんだろう。
まともに練習してなんかいないので俺1人でも十分だった。
俺「おいてめえら!!祐子に何やったんだ!?おい!!答えろよ!!」
胸倉を掴み、ぶんぶんと揺する。
後輩「や、やめてくださいよ・・・俊さん、先生にバレたら今度の試合のレギュラーないっすよ」
俺「そんなもんかまわねえよ!!!」
何度殴っても気が済まない。
怒りが次から次へと湧き上がってくる。
結局、全員動けなくなるまで殴り続け、祐子を家に置いて俺を探しに来た正樹に止められて正気に戻った。
次の日、職員室に呼び出されて色々言われると思ったが、祐子の姿が写ったデジカメはしっかりと正樹が持って帰ってきていたので、後輩は誰かに言えるわけもなく、公になることはなかった。
いつも3人で登校するのだが、1週間ほど祐子の姿を見ることはなかった。
「祐子、大丈夫か?」
正樹にそう聞くのが、俺の日課みたいになっていた。
正樹「俺が聞いても、なんも言いたくねえって言うんだよ」
俺「そうか・・・」
正樹「飯も食わねえしな」
本気で心配になって、俺もだんだん飯が喉を通らなくなってきた。
このままではいけないと思って、俺は祐子にメールを送った。
メールの内容は考えに考えた。
彼女を傷つけないように、ちょっとでも前向きになるように。
でも、いい言葉が浮かばないので、結局至って普通のメールを送る結果になった。
俺『大丈夫か?』
2時間ほど経って祐子からメールが来た。
いつもみたいに絵文字をいっぱい使った文章ではなかった。
祐子『うん』
その一言は俺に『大丈夫じゃない』と伝えるようだった。
俺『無理すんな。お前は何も悪くないんだから』
祐子『うん』
正直、これ以上なんて言ってやればいいのか分からなかった。
傷つけることだけはしたくないが、何をされたかも大体しか分かっていないのに、分かったような口を利いて慰めることはしたくなかった。
俺は一生懸命、どうやって返事をしようか考えていた。
すると、もう1通、祐子からメールが届いた。
祐子『俊ちゃん・・・会いたいよ』
びっくりした。
だけど、何かしてやれることがあるならと思って、俺はそれに答えた。
俺『部活あがりで汗いっぱいかいたし、1回家帰る。今夜行くから待っとけ』
祐子『ありがと』
風呂に入って飯食って、俺はすぐに祐子の家に向かった。
おばさん「あら、俊君。久しぶりね。この間はありがとう」
俺「いえ、俺、何もできなくて・・・すみません」
おばさん「そんなことないわ。俊君のおかげよ」
俺「祐子・・・いますか?」
おばさん「ええ、部屋にいるわ。あがってちょうだい」
俺「ありがとうございます」
祐子の部屋にノックして入るなんて初めてかもしれない。
妙にドキドキする。
「どうぞ」と、細い声が聞こえた。
ゆっくりとドアノブを回し、部屋に入った。
電気も点けず、ベッドに腰掛ける祐子がいた。
持ち前の笑顔は消えてしまっていたが、漆黒の髪が月明かりに揺れて綺麗だった。
俺「いつもの店のプリン買ってきたぞ。食うか?」
祐子「ありがと」
俺「・・・もう落ち着いたか?」
祐子「まだ・・・わからない、わからないの・・・」
俺が祐子の横に腰掛けると、彼女は俺にそっともたれかかってきた。
祐子「あの日・・・あの日ね、私、俊ちゃんと兄貴を見てたの。グランドの隅で。そしたら吉川たちが・・・ちょっと用事あるからって連れて行かれて・・・ううっ・・・」
少しずつ話しはじめ、そして泣き出した。
俺「無理して話さなくていいよ、お前が辛いことはわかってる」
祐子「ううっ・・・うん」
俺「ほら、泣くと・・・目が腫れるからな、プリン食え、な」
自分で何を言ってるのか分からなかったが、俺にできることは何もなかった。
祐子「うん・・・。ありがと」
電気を点け、スプーンの袋を開けてプリンに添え、祐子に渡した。
飴みたいになってるカラメルを砕く音だけが響く。
何も言わずに食べ終わり、片付けた後、祐子が口を開いた。
祐子「デジカメの写真・・・全部、見たの?」
俺「その、あれだ、最初の1枚だけな。成り行きで。・・・後は見ないほうがいいと思って」
祐子は立ち上がり、机の引き出しを開けて何かを取り出し、俺の手のひらに置いた。
・・・SDカードだ。
たぶん、あのデジカメのものなのだろう。
祐子「兄貴にもらったんだけど・・・見る気になれなくて」
俺「無理に見なくていいんじゃねえか?正樹も見せたくて渡したもんじゃねえよ、きっと」
祐子「・・・そうだよね・・・」
俺「うん。なんなら見ないで焼き払ってもいいと思うぞ。あいつらたぶんパソコンにも入れてないだろうし、たぶんコレだけだ。あのときの写真が記録されてるのは」
祐子「うん・・・」
俺「まあ、お前次第だ。俺が指図して決めることじゃねえからな」
祐子「うん・・・」
俺「・・・ちょっと外、歩かねえか?家こもりっぱなしだと逆に疲れるだろ」
祐子「そうだね・・・」
最初はぎこちない距離だったが、いつの間にか自然と手を繋ぎ、祐子について行った。
祐子の足は俺が後輩をボコボコにした、あの河原に向かった。
祐子「ここだよね・・・?」
俺「・・・ああ?・・・うん」
祐子「見たかったな、俊ちゃんが・・・その男子をボコボコにしてるとこ」
今日初めて祐子が笑った、ちょっとだけ。
俺「ははっ」
祐子「その・・・怪我しなかった?」
俺「ああ、ぜんっぜん。楽勝だったな」
祐子「さすがだね!・・・ねえ、これ」
手を差し出した。
さっきのSDカードだ。
俺「ああ・・・捨てるか?」
祐子「うん。そうしようと思って」
俺「それがいいな」
祐子「ねえ、俊ちゃんが捨てて」
俺「・・・いいのか?」
祐子「うん、はい」
俺にさっきのSDカードを手渡した。
俺「じゃあ、いくぞ」
そう言って川に向かって思いっきり投げた。
暗闇の中に消え、そして水が流れる音に消されるくらい小さな音量でポチャといった。
また祐子が静かに泣き出し、あの日のことを話し出した。
用具庫の裏に連れて行かれた後、無理やり脱がされ、写真を撮られた。
そして髪を掴まれ、フェラをさせられたらしい。
胸を揉まれたり、舐められたりもした。
その後、スカートを捲り上げられ、パンツを脱がされた。
祐子は処女で、あまりにもキツかったので入れられなかったが、結局4人のモノを口の中で出されたり、体にかけられたりした。
他にも何かされたかもしれないが、祐子はここまでしか話さなかったし、俺もそれ以上は聞こうとしなかった。
祐子「ねえ、俊ちゃん」
俺「ん?」
祐子「・・・好き」
俺「・・・」
祐子「私、私ね、その・・・小学校のときから、ずっと・・・好きだったの。・・・迷惑かな?」
俺「・・・」
祐子が嫌いなわけじゃない。
でもいきなりのことだし、この状況で言われると思わなかったので、気の利いた台詞なんか言えなかった。
祐子「・・・迷惑だよね・・・、ごめん、忘れて・・・」
言葉を返す前に、俺は祐子を抱き締めていた。
祐子の髪からシャンプーの匂いが漂ってきて、自分自身を追い詰めていた俺を癒した。
一度祐子を自分から離して、「ごめん、痛かったか?」と言うと、首を小さく横に振って涙目になり、俺に抱きついて声をあげて泣いた。
俺「ごめん、祐子。俺、何もできなくて、ほんとごめん・・・」
そう言いながら俺も泣いた。
俺「俺ら、付き合おう。俺がずっと守ってやるから。これからずっと守ってやるから・・・」
祐子「私・・・学校行こうかな。勉強も遅れてるし・・・。みんな心配してくれてるし・・・」
俺は嬉しくなった。
俺の言葉で祐子が動いてくれたような気がして。
一足先に泣き止んで、「そろそろ行こう、な?」と言って祐子の手を引く。
あまり遅くなると、おばさんやおじさんに心配かけると思ったからだ。
<続く>