「こんにちは」と入ってきたのはTだった。
そういえば、放課後に勉強の相談に乗る約束をしていたっけ。
「ああ、いらっしゃい」
招き入れると、Tもなんだか緊張した顔をしている。
それを見て私の脈拍はまた少し速くなった。
「ええと、試験勉強は順調?」
「何やったらええんか分からんからやってない」
勉強道具を取り出しながらTはぶっきらぼうに答える。
でも、その言葉の端には、何かを思い詰めているような雰囲気が漂っていた。
まずいな、と私は思う。
コイツは勉強の話をしに来ただけじゃない。
私は努めて平静を装った。
「ダメやなあ。じゃあ教科書見せて」
Tに渡された英語の教科書を開くと、最初の方は行間にびっちりと訳が書いてあった。
でも、今回の試験範囲には、何も書いていないページが多い。
「ノートはとってないの?」
「とるわけないやん」
「せめてさあ、訳は全部書きなさいよ。あ、ここの訳、間違ってる・・・」
「うそお!?」
Tが教科書を覗き込む。
いつの間にか私の横にぴったりと椅子をつけて座っている。
必要以上に距離が近い。
まずいな、と私は思う。
でも自分から体を離すことはなんだかしたくなくて、近い距離のままで話を続けた。
「あ、ここも間違えてる・・・」
「え!!」
触れるか触れないかの距離にTの顔があった。
「もういいよ、英語は捨てた」
そう言いつつもTは嬉しそうだ。
せっかく心配してやっているのにと歯痒い気持ちになる。
この時間、この場所で、私は教師だ。
担任から「よろしく」と言われたこともあるが、このところ私は横にいる学生の世話を焼いている。
いい教師の顔をして。
でも、この学生に対しては、不純な気持ちが混じっていないとは言えなかった。
「私、まだ仕事が残ってるんだよね」
Tは勉強の話を終えたがっている。
次の話題、いや、次の行動に向けて体勢を整えようとしている。
それを感じ取った私は身構えた。
「テスト、頑張ってね」
早く帰ってくれと言わんばかりの言葉。
我ながら冷たいヤツだと思う。
「仕事、頑張ってね。終わったら言って」
Tは私の横を離れて、部屋の中で物色を始めた。
とりあえずは切り抜けられたようだ。
私はほっとして、できるだけゆっくりと仕事をしながら、どうやってこの状況から逃げ出すかを考えた。
この部屋で何かがあっては、まずいのだ。
「まだ終わらないの?」
Tの柔らかい指先が私の髪に触れた。
ビクンとして慌ててよけて後ろを振り向く。
「う、うん。まだだよ」
突然の事態に動揺を隠せない。
そのことにまた動揺して心臓がバクバクいっている。
いつの間にかTは私のすぐ側に立っていた。
私が必要以上に体を反らしたので、それに驚いたTも数歩後ずさった。
「そっか。大変だね」
Tはそう言うのが、私の心臓はまだバクバクいっている。
でも、動揺しながらも私はTの指の感触を反芻していた。
胸がきゅんとなる。
(だめだ、私は教師なのだ)
そう思いつつも、(もう一度触って欲しい、もっと感じたい)という気持ちが私の中で広がっていく。
Tとは年が10歳も離れている。
それに、友達や同僚ではなく、教師と学生の関係だ。
イケナイことをしている罪悪感。
でも結局は、私はただの女だ。
「ふー、終わった」
その言葉を聞きつけて、Tがまた横に寄ってくる。
「お疲れ様」とTの目が私の目を見つめる。
私は『やってはいけない』という感情と、『やりたい』という欲望の間で心が乱れ、困ったような顔をしてTを見返した。
Tは、その視線に少し躊躇いを見せたが、次の瞬間、私に抱きついてきた。
男の人に抱き締められるのは、どれくらいぶりだろう?
Tは壊れ物に触るように柔らかく私を抱き締める。
そのやさしさに私は次の行動を許した。
Tの唇が私に触れる。
私は、自分の下半身が湿りを帯びていくのを感じた。
その後もTは何度も何度も私を抱き締め、そしてキスをした。
私は体を委ね、されるがままになっていた。
胸はきゅんきゅん鳴りっぱなしで、ショーツははっきり分かるくらい濡れていた。
Tの指先と、腕と、唇と、そして眼光に私は理性を失った。
「バイトがあるから、もう帰らなくちゃ」
Tは名残惜しそうに、そう言った。
私は教師の顔を取り戻して、「うん。頑張ってね」と、彼を送り出した。
学校から帰る途中、電車の中で私はTの感触を反芻した。
思い浮かべるだけで乾きはじめていたショーツにまた染みができた。
こんなに柔らかく、それでいて情熱的に抱き締められたのは初めてだった。
体が中心からとろけていくような、そんな感じがした。
私はうっとりとして、夜を迎えた。
「今から行ってもいい?」
泣きそうな声でTから電話がかかってきたのは、もう日が変わろうかという頃だった。
「え・・・今から?」
頭はフルスピードで回転する。
(会いたい。また抱き締められたい)という気持ちと、(学生が家に来るのはいけない)という思い。
「寂しい。我慢できない・・・」
私の中で欲望が理性を倒した。
「うん、分かった。気をつけておいで」
一人暮らしの家に、それも夜遅くに来るということは、当然私とセックスしたいという思いがあるに違いない。
でも今日は・・・と思う。
まだ体を許すべきではない。
しかし、それならなぜ断らなかったのか?
本当はどこかで期待しているのではないか?
私は混乱した頭を抱えて部屋の掃除を始めた。
程なくしてTから電話が入った。
近くまで来たらしい。
私は迎えに出た。
夜の暗い道路の脇でぽつんと佇んでいるTがいた。
「こんばんは」
私が近寄っていくと、Tは抱きついてきた。
「会いたかった・・・」
私は自分の中で渦巻いていた思いを飲み込んで、家へとTを案内した。
家に上げると、「へー、本ばっかりだあ」と、すっかり元気を取り戻したTは私の部屋を物珍しそうに見ている。
私はキャラメルマキアートを作ってTに勧めた。
私の心臓は鼓動を速めた。
(来た!)と思った。
私はその視線を一旦は逃れた。
でも欲望が私の逃げ道を塞いだ。
Tは私を押し倒した。
「だめだよ、今日は」
そう言いつつも私は積極的に抵抗しようとはしなかった。
私は処女ではない。
でも、相手と初めて結ばれる時はいつもドキドキして、期待と不安とで情けない顔になってしまう。
それを見抜かれたくないから、形だけの拒絶をしてしまう。
本当に嫌がってはいない。
その証拠に、まだ何もされていないのに、アソコは濡れている。
「お願い」
Tはそう言って私の中に入ってこようとする。
私の体、そして、心の中に。
「・・・うん」と頷くと、Tの指が私のヴァギナを弄る。
髪に触れたあの指と同じ指とは思えないほど、激しい。
「・・・あ・・・」
か細く声が漏れる。
セックスをするのは久しぶりだ。
頭も体も、愛され方をすっかり忘れてしまったらしく、男の人が萌えるような反応を示すことができない。
ヴァギナだけは、久しぶりの来訪者に喜々として涎を垂らすように、いやらしい液体を生産し続けている。
私の欲望は舌なめずりをして、Tのペニスが入ってくるのを待っているらしい。
表面上は、あまり感じていないように見えるはずなのに。
Tはひとしきり指でヴァギナを刺激した後、硬く大きくなったペニスを挿入した。
「あ・・・」
久しぶりの感覚だ。
ペニスが入るその瞬間が、私は好きだ。
欲しがっていた物が手に入る快感。
体が歓喜しているのが分かる。
私の穴を埋めてくれるペニス。
Tのペニスは私の中で一段と大きくなっていく。
いや、私のヴァギナがTのペニスに吸い付いていっているのかもしれない。
無意識のうちに私のヴァギナは収縮する。
例えれば、シェイクを太めのストローで吸う時のような感覚。
Tのペニスで私は窒息してしまいそうだ。
こんなことは今までなかった。
ペニスが自分の中に入っているというそれだけで、もうすぐイキそうっていうくらい感じてしまう。
「あん・・・あん・・・」
「気持ちいい。先生の中、最高に気持ちいいよ」
私はぎこちなくTの体を抱いた。
(教師なのに)という罪悪感が、私にポーカーフェイスをさせているのかもしれない。
セックスには不要の無理に作った冷静。
『私も、すごく気持ちいい』
私は、心の中でそう呟いた。