初めてやったとき、マドカは処女だった。
そして俺にはマドカとは別に彼女がいた。
顔は中の上くらい。
決して美人でも可愛くもない気がするが、愛くるしい笑顔が素敵だった。
化粧っ気がなくて、いつもスッピンでいるようなとこが好印象で、男にも女にもモテててた。
身長がデカく180センチくらいあって、胸も最大でIカップのときがあったらしいが、俺と知り合った頃はGカップだった。
それでも超デカかった。
ちなみにデブじゃなかった。
「首から下はワールドクラス」とか、当時は仲間内でよくからかわれていた。
マドカに彼氏ができてからは、俺とは本当に体の関係だけって感じ。
彼氏は何人か入れ替わった気がするけど、それでも俺との関係は細々と続いていた。
前述したけど、セフレとも呼べないような間柄で、俺としては出会うのが遅かったかなって思うこともあった。
俺も身長が180半ばくらいあって、彼女は、「私と立ちバックができるのはアンタだけ」なんて冗談っぽく笑ってた。
身長は俺の方がちょっと高いけど、脚は彼女の方が長くて、腰の位置がすごく高かった。
俺でも立ちバックにちょっと苦労してたけど、彼女はそれが好きらしく、フィニッシュはいつも立ちバックだった。
身長がお互いに高かったってことが理由だったのか体の相性は抜群で、一晩で5、6回やったこともあった。
所属する学部が違ったので毎日大学で顔を合わせるわけではなく、週1くらいでサークルで会う感じ。
それからしばらくするとサークルでも見かけなくなって、その数ヶ月後くらいに大学を辞めたと耳にした。
(え?)って思って携帯に連絡したけど、『この番号は現在使われていません』というアナウンスだった。
人伝いに、彼女の父親が亡くなって、しかも結構な借金を残したとか、そんな嘘か本当かわからない噂も聞いた。
マドカの彼氏って奴も、最後は唐突に別れを切り出されたらしく、それからずっと音信不通だと嘆いていた。
俺の場合は何の連絡もくれなかったから、俺なんてその程度の存在でしかなかったんだろなと、すぐに諦めた。
まあ連絡を取りたくても実家を知っているわけでもなく、携帯を解約または番号を変えたってとこからも、何か事情があってのことなんだろうと察したので、それ以上は何もできなかったし、しなかった。
マドカと再会するのは数年後で、俺が社会人となり、部下ってやつを2名ほど抱えた頃だった。
たまたま髪を切りに行った店に、どういう経緯かわからないが、美容師としてマドカがそこにいた。
雇われ店長だったらしいけど、「いつか自分の店を持つんだ!」と熱く語るマドカに、俺はすぐ夢中になった。
お互いフリーだったので今度こそ真剣に付き合いはじめるものの、大学時代の時よりも微妙な関係になっていった。
くっついたり離れたりを繰り返し、その間に俺は他の女とやったりもした。
一応別れたつもりになってたのでそれは浮気とは言えないと思ってたし、距離を置いているときに他の異性と何かがあったとしても、お互い何も聞かなかったし、気にも留めてなかった。
マドカはマドカで、社会人になって色気も増してたし、俺なんかいなくても俺の代わりになる相手がいるのかもなって、そんな風に気にしちゃうこともあったけど、中高生のガキの淡い恋じゃあるまいしって俺は割り切っていた。
それにもうひとつ割り切れる理由があった。
マドカは再会後に俺が交際を申し込んだ際、なかなか返事をくれなかった。
俺のことが好きだし、「大学時代からじつは好きだった」とも言ってくれた。
だからこそ最後に連絡ができなかったと、彼女は言った。
それなら今はお互いフリーだし、尚更付き合っても問題はないはずだったのだけど、それでも彼女は首を縦に振らなかった。
彼女の言葉を借りれば、「大学中退後の数年間は色々苦労したから」だった。
それは、『父親の死』『残された借金』という、嘘か本当か不明だったキーワードと残念ながら時期的に合致した。
そこらへんの事情は詳しくは聞かなかったけど、マドカは約2年、風俗の世界に身を投じたと話してくれた。
自分とその家族のためにやれることを無我夢中でやったとマドカは真剣な表情で言った。
「それに、その当時のことはアンタとは無関係だから、許して欲しいだなんて言い方をするつもりはないし、その過去を恥じる気持ちはない」と付け足した。
「引いた?ドン引きでしょ?」
自嘲気味に彼女は笑った。
俺は寝取られM属性とか、そんな体質ではなかったとは思うけど、そんな告白されても意外と平気だった。
俺自身が大学時代に若気の至りで割と派手な女性関係があったし、そのせいでマドカと出会ったってこともある。
マドカと出会った当時、特定の彼女がいながらマドカに手を出したってことも負い目に感じてた。
そんな俺がマドカの過去に関して何か言えるわけもなく、まして何か言おうとも思わなかった。
「それって俺に言わなくても良かったんじゃないの?」
「隠しておこうとも思ったんだけど、このまま言わずにいたら頭が狂っちゃうかもなって・・・」
「じゃあ教えてくれたってことは、付き合いたい気持ちはあるってことだよね?」
「・・・」
「それを聞かせたってことは、それを知った上で俺が大丈夫なら、マドカはOKってことだよね?」
「うん・・・」
その日のうちに結論は出さないことにして、とりあえずやった。
マドカは芯が強い女性というのか、結構物事をハッキリ言うタイプ。
「フェラとか上手くなってたらごめんなwww」
冗談っぽくだけど、風呂上がりに言った。
「俺もクンニとか超絶上手くなってたらすみませんwww」
一応そう言い返してのシックスナインは死闘だった。
今までのことを全て忘れて、これから2人で色々と築き上げようって、そういうセックスだった気がする。
やっぱり体の相性は抜群で超気持ちよかった。
結局、俺の方から再度交際を申し込んで付き合いはじめることになった。
まぁ半年もすると、くっついたり離れたりしはじめるわけだけど・・・。
男女関係はいつも面倒だ。
とにかく喧嘩が絶えなかった。
原因は細かいところがいっぱいあったけど、根底にあるのはお互いの異性関係に対しての不信感なのかな。
マドカは短い大学生活の中でも、俺が誰それとやったとか、そういう噂を聞いていたらしく、その誰それから珍しく連絡が来たりすると、今でも関係が続いてるのかもしれないと俺を疑ってた。
俺は俺で、マドカの風俗時代のこととか、聞きたくないような聞きたいような、どうしようもないジレンマがあった。
マドカは「聞かないで」とは言うものの、俺が「教えて」と言うと必要以上にちゃんと詳しく教えてくれるので、俺は超ドキドキしながら嫉妬や鬱勃起で苦しんでいた。
そういう感情って、お互いのためにプラスになる時もあるんだけど、マイナスに転じた時はもうどうしようもなくて、その結果が、くっついたり離れたりになってしまう。
そして離れている時に、お互いが誰とどこで何をして過ごしていようが無関心を装うようになっていった。
マドカとは今度こそ終わったつもりで、俺は職場の若い娘と一夜限りの関係を結んだりもした。
でも心のどこかで、マドカといつか結婚するんだろうな、なんて楽観的に思ってた。
マドカだって今はどこの馬の骨とも分からぬ男と共に過ごしていても、最後は俺のところに戻ってくるだろう、とか。
そんなユルい感じの距離感を保ったまま2年くらいが過ぎていった。
その間、俺は今でも後悔しているんだけど、マドカの風俗時代のことをあれこれ調べてしまった。
マドカと上手くいってる時は、ちょっとずつだけど風俗時代の話をするようになった。
やがてあっけらかんと風俗の話題を持ち出すようになり、もともとSっ気が強いマドカが時々それをネタに俺を言葉責めとか、そんな風に楽しめる時もあった。
いじめられて超興奮した。
彼女は地元を離れて地方のデリヘルに籍を置いていたらしい。
店のホームページにまだ写真も掲載されていなかった数日間の体験入店で、一気に人気爆発。
そりゃそうだ。
Gカップの胸だけでも客は呼べるだろうけど、身長180センチのデリヘル嬢なんて滅多にいないから。
興味本位で呼ぼうとする客だけでも結構な数になったことだろうと思う。
マドカは謙遜気味に「そんなに人気はなかったよ」と言ってたけど、それが嘘だということは後日、俺がネットで調べてすぐに判明する。
そして、ホームページに写真掲載後はさらに人気沸騰、リピーターだけで予約完了みたいな状態。
化粧映えする顔立ちだったし、その卓越したスタイルも含め、ぶっちゃけ風俗嬢としては完璧だったと思う。
「金払いのいいお客さんとは、別料金で本番もしたよ・・・」
「うん・・・」
「目標をクリアしたらすぐやめたかったし、目標金額を稼ぐことだけが当時の私の全てだったから」
「そうか・・・」
その夜、初めてマドカと生でセックスをした。
なんだか2人ともいつも以上に燃えてしまった気がする。
でも、体は燃えても心の中は複雑だった。
正直に言えば、デリ嬢をやってたってことだけでもかなりのダメージだったのに、やらなくてもいいはずの本番をしてたって告白は俺の心を掻き乱した。
マドカに対する理不尽な怒りが唐突にメラメラと湧き上がったり、萎んだり。
俺の心を反映するかのように、チンポもビンビンになったりションボリしたり。
最初はマドカが他の男とやってる姿なんて想像もしたくなかったけど、少し時間を置くと冷静にそういうことを考えられるようになってきた。
元はと言えば大学時代だって他に彼氏がいたわけだし、他の男ともやってたって事実は風俗の世界に身を置くそれ以前からすでにあったことなんだと自分に言い聞かせた。
でも、時間が経つにつれて、想像したくなかったはずのその姿が気になりはじめるようになった。
(他の男の前でどんなふうに喘いだのか?)
そういうことを考えるのが日課になった。
嫌でも頭に浮かんできてなかなか振り払えなかったし、ちょっとだけ質問したりもした。
「別に普通のセックス。心まで抱かれてたつもりはないし」
マドカは冷静にそう答えるのだけど、心ではそう思っていても感度良好なその体は俺以外が相手でもしっかりと感じたはずだろうなと、思いながら俺は聞いていた。