今から10数年前の俺が大学2年生だった夏のこと。
バイト仲間の健から、「海にナンパ行かね?」と誘われた。
ナンパなんかうまくいくとも思えなかったが、健は彼女と別れたばかりだったし、俺は面白半分、付き合い半分で行くことにした。
貧乏だった当時、その金をどうやって捻出したかは覚えていない。
PCMAX
とにかく健と1泊の予定で海に向かった。

「おめーと2人で夜を過ごすのは洒落になんねーな」

俺たちは笑い合っていたが、いざ浜辺につくと凍りついた。
人がいない。
いや、いるにはいるが、ほぼ家族連れ。
言ってみればファミリービーチだったわけだ。

『成せば成る』

昔の偉い人も言ってたし、俺たちなりに頑張ってみた。
余裕で全敗だった。
特に最後に声をかけた娘には彼氏がいて、「なになに、俺の女に何か用?」なんて凄まれてしまった。
それで俺たちは意気消沈。
まだ陽も高いうちから宿に退散した。

これがまたしょぼい宿だった。
描写するのもだるいんで、一口に言うとくたびれた民宿。

「せ、せっかくだから」と俺たちは酒を飲むことにした。

が、民宿の自販機は高い。
というわけで近くの酒屋に向かった。

「今日はあれだ、飲み明かそうぜ!」

無理やり盛り上がってみたものの酒屋がまた遠かった。
しかも帰りは酒が重い。
宿に着いた頃にはお互いクタクタだった。

「か、乾杯・・・」

俺はビールを1缶だけ飲み干すと大の字に伸びた。

「おい」

その時、健が俺を揺すった。

「何よ?」

「隣だよ、隣」

そう言うと健は壁に耳をつけた。
俺も黙ってそれに倣う。
すると、人の気配とともにはしゃぐ声が聞こえた。
女の声だった。
俺たちは部屋の中央に戻ると興奮しながら話し合った。

「女だな」

「だな」

「2人っぽくね?」

「ぽいね」

「男の声は?」

「しなかった」

だが、ここで先ほどの忌まわしき記憶が蘇った。

「他の部屋にさ、男がいるとかあり?」

「・・・ありだな」

事は慎重に運ばねばならぬ。
この一点で俺と健は限りなくシンクロしていた。

「まず男がいるかどうかの確認。これが必須」

確かめるのは簡単だった。
この民宿は、客が食堂に集まって一緒に夕食をとることになっていたからだ。

「いなかった場合、行動に出るよ」

「なんて?」

「んー、『一緒に飲まない?』とか?」

(まんまじゃん・・・)

そう思いつつもこれ以上の案が出るわけもなく、結局それで行くことに決まった。
そして夕食の時間がきた。
俺たちは一番乗りだった。
誰もいない。

「焦りすぎだろ、バカ」

「うるせーよ、ボケ」

そんなやり取りをしていると、徐々に宿泊客が食堂に集まってきた。
カップルらしき2人連れは1組だけで、あとは全員家族連れだった。
まあ安宿なんで、若いのは無理してでもいい所に泊まるのだろう。
そして、お目当ての2人は最後の登場だった。
俺たちは出された物をほぼ食べ尽くしていたため、お茶を限りなくゆっくり飲みながら様子を窺った。
見る限り男の影は見えない。
どうやら女2人客。

この2人、ちょっと年上っぽいけどノリが良さそうだし、結構可愛かった。
1人は髪がソバージュで、肌が小麦色のほっそりした美人タイプ。
もう1人は栗毛色の髪の毛で、肌が真っ白な可愛いタイプ。

というわけで最高の環境が整った。
このチャンスを見逃すわけにはいかないのである。
だが、いざ行動に出ようとしてもきっかけが掴めない。
食堂でナンパするのも正直気が引けた。
ガキどもが走り回っててうるせーし。
というわけで結局、何をするわけでもなく食堂を後にした。

「どうする?」

「どうしよう?」

俺たちは部屋に戻るなり相談した。
が、どうしても下心丸見えで、うまくいくとは思えない。
俺たちは酒を片手にしばらくの間、頭を抱えていた。
どれくらいの時間が経ったか分からないが、それは突然起こった。

コンコン。

部屋のドアがノックされたのだった。

「え、誰?」

俺は首を傾げながらドアを開けた。

「こんばんはー」

顔を覗かせたのは、先ほどの肌の白い可愛いタイプの子だった。

「こ、こんばんは」

予期せぬ事態に俺は大いに動揺したが、構わずこの子は続けた。

「あのさ、迷惑じゃなかったらなんだけど・・・。あとでちょっと、ここに遊び来てもていいかな?」

「は、はひ」

「やりぃ。んじゃちょっとしたら来るね」

それだけ言うと、その子は自分の部屋に戻っていった。

「・・・信じられねぇ」

そう言いながら振り向くと、健は仰向けに倒れていた。
近づいて顔を覗き込むと、「戦じゃー!戦じゃー!」と呟いていた。

その後の俺たちのチームワークは完璧だった。
敷かれてる布団をさっと丸めて隅に追いやり、素早く場所を確保。
次にゴミを片付けた。
掃除機があったらノータイムでかけていただろう。
こうして酒宴の場は滞りなく準備できた。

果たしてそれから30分もすると、コンコンと再びノックされた。
俺がドアを開けると、「お邪魔しま~す」と2人が入ってきた。
俺の前を通り過ぎる時、香水のいい匂いがした。
2人はビールとお菓子を持参していた。

「いきなりでごめんねー。暇でさー」

「いやいや、俺たちも暇だったんで嬉しいっすよ」

心の底からそう言うと4人で乾杯をした。
2人は思った通りノリがよく、2本目のビールを手にする頃にはすっかり打ち解けていた。

聞くとこの2人、社会人だった。
小麦色の美人系は怜さん、色白の可愛い系は茜さんといった。
2人とも24歳で大学からの友達なんだとか。
なんでもここへは茜さんの車で来たらしく、今日は違う浜辺で遊んでいたとのことだった。
そして一通りこちらの質問が終わると、今度は怜さんが俺たちに聞いてきた。

「なんで男2人でこんなとこ来たの?」

「あ、すんません。ナンパ目的っす」

「やっぱりねぇ~」

2人はケラケラ笑った。
食堂の俺たちの態度からバレバレだったらしい。
正直に言ってよかったと思った。

「おふたりこそ、なんで?」

「んー、なんとなく」

最初こそそんな感じではぐらかされていたが、しばらくすると怜さんが事情を話し始めた。
茜さんは最近彼氏と別れたらしく、「元気出しなよ」と怜さんが海に誘ったんだとか。
だが急な話だったため、いい宿が取れず、なんとか空いていたこの民宿に来たとのこと。
俺たちにとっては降って湧いた奇跡と言えた。

「よし、とりあえず飲みましょう!」

「おう!」

俺たちはガンガン飲み始めた。
しばらくすると、茜さんと健、怜さんと俺という図式が成り立っていた。
健と茜さんは別れた者同士ということで盛り上がり、俺と怜さんは共通の小説や映画の話で盛り上がった。
そして最初に本性を出したのは健だった。

「茜さーん、茜さーん」

甘え声を出して茜さんに絡んでいた。
茜さんも笑いながら。「しょうがないねぇ」と満更でもない様子。
そのうち2人は、「酔い醒ましに散歩してくる」と言って部屋を出てしまった。
残された俺と怜さんは・・・。

「あの2人、雰囲気よくない?」

「付き合ったりして?」

なんて笑いあった。
そして笑いあった後、俺も怜さんと2人きりだということに今更ながら気付いた。

怜さんはTシャツに短パン姿で、スラっとした小麦色の足が綺麗だった。
ほっそりしている割には胸が大きくて、ピッチリしたTシャツがさらにそれを強調していた。
ソバージュの髪は後で束ねられ、細いうなじが色っぽい。
だが残念なことに、怜さんには大学時代からの彼氏がいた。
もっとも卒業してお互い地元に戻ってしまい、月に1回会うかどうかと言っていた。

(どうにかして落としたい・・・)

俺は躍起になっていた。
だが、そこは社会人。
飲み方も知っていたし、ヒラリヒラリとかわされてしまう。
怜さんは確かに酔ってはいたものの、決して潰れるようなことはなかった。
それどころか逆に俺が酔い潰れてしまい、いつの間にか眠ってしまった。

どのくらい眠っていたが分からないが、俺は体を揺すられて起こされた。
目を開けると怜さんが俺の顔を覗き込んでいた。

「・・・起きた?」

「あ、すんません・・・寝ちゃいましたね」

「いいからいいから、ちょっとすごいよ」

そう言いながら、怜さんは壁に耳をつけると俺を手招きした。
(?)と思いながらも、俺は壁に耳をつけた。
すると、何かを打ちつけるような物音が聞こえた。
たまに、「あっ、あっ」という声も混じっている。
そして健も茜さんもこの部屋にはいなかった。

「嘘、あの2人?やってます?」

「うん、やってる」

俺たちは小声で話をした。
いきなりのことですごい驚いたが、それを通り過ぎると、(健と茜さんが隣でセックスしてる・・・)と興奮し、チンコがみるみると勃起した。
しばらくすると健がスパートをかける音がして、「うーっ!」という茜さんの声を最後に静かになった。
俺と怜さんは壁から離れると、「すげぇ・・・初めて人の聞いた」と小声で盛り上がった。
そしてそれが落ち着くと沈黙が流れた。

<続く>