新しい母親には連れ子がいた。
名前はアズサ。
当時3歳だった。
前の旦那との子供らしい。
なかなか可愛い子だった。
しかし母親同様にどうしても好きになれなかった。
一緒に住み出してからも俺はアズサを避け続けた。
もちろん新しい母親も親父も。
次第に俺は家に寄りつかなくなった。
実母のいる家にいることが多くなり、家にはただ寝るだけのために帰っていた。
やがて時は過ぎ、俺が15歳の時、親父と殴り合いの大喧嘩をした。
殴り合いの最中、俺はそれまで溜まっていた不満をぶちまけた。
半分泣きながら。
でも喧嘩が終わった後、なぜだか今までよりも家族に対して違和感を抱かなくなっていた。
それがきっかけで俺はだんだん新しい家族と打ち解けていった。
母親とも普通に会話ができるようになった。
アズサとも打ち解けることができて、休日には買い物に付き合ってやることもあるくらいまで仲良くなった。
18歳の時、家から少し離れた場所にある大学に行くことになった。
そのため俺は一人暮らしを申し出た。
親父と義母は別段反対はしなかった。
しかしアズサは反対した。
泣いてまで俺を止めようとした。
そこでアズサは、ある条件を俺に突きつけてきた。
それは『一人暮らしの俺の部屋に遊びに来る』というものだった。
別にその程度だったらと思い、俺もOKした。
かくして俺の一人暮らしは始まった。
アズサは月1くらいのペースで遊びに来た。
うちに来ても、俺がゲームしているところを横で見ているか、本を読んでいるくらいしかなかったが。
やがて日帰りだったのが1泊するようになっていった。
土曜日に来て、日曜日に帰るというパターンだ。
アズサが晩御飯を作ってくれることが多かった。
寝るときは一緒のベッドで寝た。
前から一緒に寝ることが多かったので違和感は全くなかった。
最初は泊まるときはパジャマとか持参していたのだが、やがて面倒くさいからと置きっぱなしになった。
こんな状況なので、恋人ができても長続きはしなかった。
やがて大学での俺の評価が、「バカ兄貴」「シスコン」になっていった。
俺はそんなつもりはなかったが、周囲にはそうとしか見えなかったらしい。
そんな状況が2年弱続き、事件が起こったのは俺の成人式の夜だった。
実家の方の成人式に出席した俺は中学の同級生と再会し、その後の飲み会に行くことになった。
もともと酒に弱い俺はあっという間に酔い潰れた。
やがて飲み会もお開きとなり帰ることになったが、タクシーを呼んでもらって乗ったところまでは覚えている。
そこからは記憶が全くなかった。
翌朝、目を覚ました俺はとんでもない物を目にした。
俺が寝ていたのはアズサのベッドだった。
それはまだいいとして、隣に寝ていたアズサの格好がまずかった。
なんと、ショーツのみという姿だったのだ。
今まで何度も一緒に寝ていたが、こんな事は初めてだった。
アズサの育ちかけというか、育ち盛りのバストが丸見えだった。
呆然と視線を時計の方へやってさらに驚いた。
じつは成人式の翌日に大学のテストが入っていたのだが、今から出ても間に合うかどうかという時間だったからだ。
俺は飛び起きて大急ぎで服を着た。
ここで気づいた。
自分が全裸なことに。
トランクスすら穿いてない。
まさに全裸。
俺は叫びそうになった。
急いで学校に向かった俺はなんとかテストに間に合った。
しかし朝の出来事は、頭の中に入っていた知識のすべてを吹き飛ばしていた。
テストはほとんど白紙に近い状況で提出せざるを得なかった。
その次のテストでも、勉強した内容を思い出そうとしても、頭に浮かんでくるのは朝のことだった。
自分が何をしたのか、何もしていないのか?
考えるだけで頭がいっぱいになり、テストどころではなかった。
結局、その日のテストは全滅状態だった。
大学からの帰り道。
俺の部屋の隣にやはり一人暮らしをしているクラスメイト(女)に相談した。
彼女曰く、「やった」とのこと。
目の前が真っ白になった。
ただ、彼女はアドバイスをくれた。
「過ぎたことよりも、これからどうするかじゃない?それに実の兄妹じゃないなら別にいいんじゃない」
なんともお気楽なアドバイスだったが、「そんなことより目の前のテストに集中しろ」とも言ってくれた。
俺もとりあえずそれに従い、テストに集中することにした。
次にアズサが来るのはテスト明け。
テストの時期には来ないように言ってあるからだ。
(それまでに何かしら答えを見つけないと・・・)
テスト勉強には、隣のクラスメイト(以後、日奈とする)が付き合ってくれるとのこと。
友情に感謝した。
そしてテスト期間が終了した。
しかし、結局答えは見つからなかった。
気持ちがまとまらないままアズサがやって来た。
いつになく笑顔が眩しく感じた。
そしていつになく、アズサが俺に擦り寄ってくる。
さて、どう切り出すか。
俺はいつも通りのことをしながら考えていた。
でも擦り寄ってくるアズサが、そんな俺の思考を妨げる。
髪から漂ういい匂い。
肌の柔らかさ。
甘ったるい声。
今までは感じたことのない感じ方をこの日はしていた。
夕食が終わっても変わったことはなかった。
どうしてもアズサを意識してしまう俺と、アズサがいつもより多めに俺にくっついてくること以外は・・・。
夜11時を過ぎたくらいだったか、アズサが風呂に入った。
この日はもう何もないと思い込んだ俺は、いつも通りゲームを始めた。
アズサが風呂から上がってきた。
入れ替わりに俺が風呂に入るつもりだったが、出てきたアズサの格好を見て驚いた。
バスタオルを巻いただけの格好だったからだ。
いつもはこんな格好で出てくることはなかった。
俺は平静を装って、早くパジャマを着るようにアズサに言って風呂に行った。
風呂の中で再び、どう切り出すか考えるはめになった。
覚悟を決めて俺は風呂から上がった。
腰にバスタオルを巻いただけの格好で。
これは別に意識してというわけではなく、いつもこうだ。
部屋に戻ると、やはりアズサはバスタオルのみの格好で、俺に背中を向ける形でベッドに座っていた。
俺はタオルで頭を拭きながらアズサと背中合わせになる形でベッドに腰掛けた。
アズサが何を求めているのかはわかった。
俺もそれを実行するのに躊躇いはなかった。
成人式の翌日以降、俺はアズサを義妹としてではなく、1人の女として考えはじめていたからだ。
でも、どうしてもハッキリさせておかなきゃならないことがあった。
背中合わせのまましばらく沈黙が続いた。
俺「あのさ・・・」
アズサ「ん?」
俺「成人式の夜さ、俺たち一緒に寝てたよな」
アズサ「うん」
俺「次の日の朝、全裸だったよな」
アズサ「・・・うん」
心なしかアズサの声がトーンダウンした気がした。
俺「あれさ・・・やっぱ・・・やっちゃったんだよな・・・?」
アズサが隣へ来て、怪訝そうな顔で俺の顔を覗き込んだ。
アズサ「覚えてないの?」
俺「・・・申し訳ない・・・覚えてないんだ・・・」
アズサ「・・・そう・・・」
そう言って、また少し沈黙。
アズサ「そんなのってあり?」
俺「・・・」
アズサ「・・・ひどいよ」
俺「・・・スマン」
アズサ「私・・・あれが・・・」
そう言ってアズサは両手で顔を覆った。
見ると肩が震えていた。
俺はやっぱ言い方をマズったと思った。
だが次の瞬間。
アズサ「・・・プッ」
(?)
アズサ「ククククっ・・・」
(???)
アズサが急に笑い出したのだ。
最初は無理やり堪えたような笑い方だったが、次第に耐え切れなくなったのか大声で笑い始めた。
俺には何がなんだかよく判らなかった。
やがてアズサの笑いが収まってくる。
相当おかしかったのか、笑い終わった後もしばらく呼吸を整えていた。
アズサ「嘘だよ~ん」
(え、嘘って何が?)
アズサ「あの夜、なーんにもなかったんだよーん」
俺「・・・は?」
まだ事態が呑み込めなかった。
アズサによると、あの日の夜、俺が帰ってきたのは深夜だった。
すでに親父や義母は眠ってしまっており、アズサだけが起きていたのだが、玄関で眠りそうになっていた俺を布団に連れて行こうとしたらしい。
しかし俺の布団などというものは実家には存在しなかったため、急遽アズサの部屋に引っ張っていったらしい。
そして自分のベッドに乗せ、俺の着ていたスーツを脱がしてくれたようだ。
スーツとネクタイ、ワイシャツを脱がしたとき、ふと悪戯心が浮かんだらしい。
俺のトランクスまで脱がし、自分もショーツのみでベッドに入った。
そう、“やりました”という状況をアズサが作ったのだ。
本来は、翌日すぐにネタばらしをするつもりだったと言う。
アズサ「でも、起きたらもう兄貴いなかったから・・・」
俺「・・・」
アズサ「本っ当にゴメン!」
喉まで怒鳴り声が出掛かっていた。
だが、それを出すことはなかった。
俺「・・・はぁーーー」
俺は変な溜め息しか出なかった。
なんのためにテストを犠牲にして悩んでいたのか。
日奈に恥を晒すことを承知で相談したのか。
なんだか自分が情けなくなった。
そして俺の覚悟とは、一体なんだったんだろう。
アズサ「もしかしてすごい悩んじゃった?」
俺「ああ、恐ろしいくらいにな」
アズサ「怒ってる?」
俺「怒る気にもならん。なんだか拍子抜けしたよ」
俺は肩の力が抜け、一気に肩を落とした。
アズサ「でもさ、もし本当だったら?」
抜けた肩に再び力が入り、ビクッと俺は跳ねた。
アズサ「もしも本当にしちゃってたら・・・兄貴どうした?」
俺「・・・」
予想外の展開で答えられなかった。
まさかあれが嘘でこんな展開になっていくとは。
アズサ「責任・・・取ってくれた?」
この問いに対する答えはすでに決まっていた・・・はずだった。
だがあれが嘘だったことで俺の決意は揺らいでしまった。
自分から行くはずだったが、揺らぎのせいで俺は動きが遅れた。
そこへアズサの顔が近づいてきた。
両手で俺の顔を掴んでいる。
俺の顔の寸前、呼吸が感じられるくらいまでに接近した。
<続く>