『私と会いたいから頑張る』と書いてあった。
その時は本当に嬉しかった。
頑張ってくれていることが何より嬉しくて、メールのことを謝った。
ビスコも、あんな言い方してごめん、と謝ってくれた。
働く前は、ビスコは1日中パソコンをやっていた。
だからメールの返事はすぐに返ってきた。
でも、働きだしてから朝は早いし夜は遅く、メールの回数は減った。
それでも返事は必ず返してくれる。
本当にやさしい人だったと思う。
それから1ヶ月後くらいに、ついに会うことになった。
駅近くのビジネスホテルに泊まろうということになった。
両親には友人の家に泊まると言って、そこから数時間かけて目的の場所へ向かった。
すごくドキドキしながら電車に乗った。
懐かしい。
ビスコは携帯を持っていたけど、金銭的な問題で電話は使えなかった。
駅に着いても連絡はとれず、しばらく駅内をうろうろしていたけれど、それらしき人も見つからない。
だんだん心細くなってきたとき、正面からこっちに向かって歩いて来た人がいた。
ビスコだった。
驚いたのは、ビスコの見た目は写真とは全く違っていたことだった。
身長は高かったけれど、そのぶん太っていて髪はボサボサ、着ている服や靴はところどころ破れていた。
そして、1泊するための下着を透明のビニール袋に入れて持っていた。
写真とはまるで別人だった。
でも自分の名前を知っていたし、声もビスコの声だった。
服装はまだしも、下着を透明の袋に入れて持っていることが恥ずかしかった。
あれだけ会えることが楽しみだったのに、見た目があまりに違い、ショックを受けた。
隣に並んで歩くのが恥ずかしくて少し早歩きをした。
ビスコが手を繋いでこようとしたけど、「恥ずかしいから」と言って照れたふりをして逃げた。
お腹が空いたので何か食べようという話になり、ファミレスに入った。
ビスコは床に下着の入った袋を置き、何品か注文した。
もちろん私も。
ご飯が来るまでの間、とくに話すこともなく気まずい雰囲気になった。
私はビスコに写真について訪ねた。
「あの写真、ビスコだよね?」と。
するとビスコは、「そうだよ、3、4年前のやつだけどね」と笑いながら言った。
食事が出されると、ビスコは背中を丸めて顔を皿に近づけて食べ始めた。
正直、綺麗な食べ方とは言えなかった。
びちゃびちゃと音を立ててスープを飲んだ。
「うっはwこのスープうまw私も飲む?w」
そう言ってスプーンをこっちに向けたけど、他の人の目線が気になって恥ずかしさでいっぱいだった。
同時に、自分はこんなことで人を判断するようなやつだったのかと惨めな気持ちになった。
メールやSkypeの時とは別人のようだった。
でも、そんなこと本人に言えるはずもなかった。
周りのお客さんがこっちをチラチラ見ているのにも全く気づかずにビスコはひたすら食事をしていた。
袋が透明だから下着は丸見えだし、くちゃくちゃと音を立てて食事するし、とにかく早く店を出たいとだけ思っていた。
ご飯を食べ終わってお金を払おうとした。
私は割り勘って考えてたけど、ビスコは「いいよいいよ、俺が出すから」と言って支払ってくれた。
ファミレスを出た後、ホテルにチェックインするまで時間があったから街をブラブラ歩いてた。
時間が経ってくると緊張もだんだん解けてきて、手を繋いだりした。
まぁビニール袋は一緒に歩いてて恥ずかしかったけど、なんだかどうでもよくなってきてた。
それから夕方になってホテルにチェックインした。
最初は普通にキスをした。
ファーストキスは中学生のときに済んでるけど、経験豊富ってわけじゃない。
でも上手なキスってわけではなかったと思う。
唇がくっついただけ。
小さくちゅってするだけ。
エロ知識は豊富でも、実際自分がその立場になるとひたすら恥ずかしかった。
ここに書くのも恥ずかしい。
そこからどんどんディープキスになっていった。
今思うとお互い本当にへったくそだった。
全然余裕なんてなかった。
で、最初に書いておく。
この時、すでにちょっと引いてた。
ビスコに。
格好とか、食べ方とか、写真が何年か前のものだったこととか。
だから騙されたと言いたいわけじゃない。
会うことを選んだのは自分だし。
断ることはできたと思う。
けど、ここまで来てビスコに、「あなたの見た目に引いたの。だからセックスはしたくない」なんて言うのは、あまりに酷いと思えて断らなかった。
どんなうまい理由をつけてもビスコが傷つくだろうと思った。
メールやSkypeをしてた半年とちょっとのビスコとか、それまでの好きっていう思いもあった。
こんなこと書いといて、することはしたけどね・・・。
ずっとキスしてるとだんだん濡れてきて、どんどん服を脱いで、胸を揉まれたり下を触られたりした。
セックスするまでは色々と考えてたけど、いざ始まると微妙な気持ちよさとか恥ずかしさでどうでもよくなった。
他のことを考える暇がなかった。
当時は、だけど。
「舐めて欲しい」と言われて、ビスコのを咥えた。
フェラチオという行為は知っていたけど、男の人がどうされたら気持ちいいのか全くわからなくて本当にただ舐めたり、咥えて動かすことしか出来なかった。
かといって、「どうすれば気持ちいいの?」なんて聞けなかった。
69の体勢にもなった。
自分のを舐められても正直そんなに気持ちよくはなかった。
でも恥ずかしくて舐められるたびに「うぅ~」とか、なんか変な声は出た。
色気の欠片もない。
自分のことばっかで相手のことを考える余裕がなかった。
ちょっとしてビスコが挿れたいと言った。
私が下で、ビスコが上。
正常位だった。
指でちょっとは慣らしてたけど、それでも痛かった。
息もできないくらいだった。
ビスコが腰を進めようとしても痛くて力んで、自然と太ももで押さえてた。
痛さにだいぶ慣れて気を緩めた瞬間、ビスコが思い切り突いてきて、一気に奥まで入ってきた。
それはそれは痛くて悲鳴をあげた。
今思うと悲惨な状況だ。
まぁ初めてだったし、痛いのも仕方ないけども。
動かされるのに慣れると、痛いのか気持ちいいのか判らなかった。
ただ異物感は強烈だったし、苦しくて突かれるたびに自然に声が出た。
その後、ビスコがイッて、抱き締められて終了。
疲れて、2人でくっついて寝た。
見た目がどうでもビスコが好きだと思った。
セックス後の雰囲気に流されてただけだろうけど、そのときは幸福感もあった。
次の日は最初から手を繋いでた。
ご飯を食べて、また街をブラブラした。
公園があったからブランコに乗ったりもした。
帰る時間が近づいて、どんどん暗くなってきて、互いに口数が減った。
帰るために駅に向かう途中、ふとビスコの顔を見たら涙目になっていた。
驚いて、建物の陰に引っ張った。
「なんで泣いてるの?どうしたの?」
そう聞いても、泣き笑いのような表情でこっちを見たまま喋らなかった。
そんなビスコを見てたら自分も泣きそうになってしまったので、「泣かないでよ」と言った。
そしたらビスコが、「だって離れたくないんだよ」と言ってさらに泣いた。
ついでに抱き締めてきた。
「また会えるよ」と励ましたけど、結局2人で抱き合って泣いた。
それから互いに泣き止んだ後、電車に乗って帰った。
ちなみに感動話のようだけど、そうじゃない。
帰って1週間くらいしてからだった。
母が友人の家に電話して、ビスコとしたことがばれた。
「どこに泊まった!?まさかあんた前に言ってた男と!?その男を訴えるからね!あんたたちがしたことはそういうことだ!お父さんとお母さんの信頼を裏切って!自分のしたことがわかってる!?」
殴られはしなかったけど、母は泣いてた。
私はずっと黙っていた。
結局訴えはしなかったけど、途端に両親に申し訳なくなった。
母が怒って泣くところを初めて見た。
人間、現実に引き戻されると冷静になるよね。
あれだけ好きだとかどうのこうの言ってセックスまでしたけど、急に冷めてしまった。
辛いこともあったけど、やっと会えてセックスもして幸せ。
色々と障害はあるけど、ビスコが好きだから平気!
とか、普通に思ってた。
自分じゃ大恋愛をしているつもりだった。
けど、端から見ればネットで出会った男とセックスしたってだけの話。
結局、(何してんだ、私は?)って思い始めると、どんどん嫌になってきてしまった。
最初に下着をビニール袋に入れてて引いたこととか思い出して、私はどうしてこの人と付き合ってセックスしたんだろうと思った。
結局2ヶ月くらいで別れた。
本当にあっけなかった。