都内で某大手無線グループのタクシー運転手をしている私は、50歳で独身である。
そんな私に先日、上得意客が出来た。
その女は、かなり有名な芸能人なので名前は伏せておくことにする。

先日、出庫し、回送のままとあるテレビ局からの無線を狙って目的地まで急いでいた。
目的地に着いた私は空車にして車を停めていた。

ピピピ・・・ピピピ・・・。

無線が飛び込んできた。
了解ボタンを押して内容を見ると、取材車輌での呼び出しであった。
拘束時間から考えると5~6万の仕事だ。
微笑みながらテレビ局の車輌課に到着を告げに行き、指定場所で待機していた。
5分ほどすると車輌課の人間が来た。

「出発が延びてるんで長距離大丈夫ですか?」

「ガスは満タンなんで大丈夫です」

「あと、往復になるんで時間は平気ですか?」

「明日の朝、帰庫ですけど。どちらまでですか?」

「群馬のゴルフ場でのロケなんですけど、ゲストさんの送迎をお願いしたいのですが、マネージャーの方が来られてないんですよ。なので荷物運びもお願いすることになってしまうんですが」

片道3~4万の往復に待機料・・・瞬時に計算した私は承諾の返事をした。
チケットを渡され、ゲストが待つ場所へ車を移動させて、置かれている荷物をトランクに乗せ終わると、ゲストがやって来た。

「今日はよろしくお願いしますね。静かに運転してよ」

テレビでもよく見る彼女は美しさが違っていた。
仕事柄、様々な芸能人を乗せるが、いい女とは彼女のことを指すのだろうと思えた。
気さくな彼女は車内でも気軽に話しかけてくる。

「初めてですよね?」

「そうですね。なかなかタレントの方をお載せしませんから。今日はついてます」

「もう長いんですか?」

「まだ2年です。上級試験に受かって2ヶ月ですね」

「そうなんですか?車も新車ですよね?」

「ええ。担当替えがあって、この車輌管理を任されましたので。お気に召して頂けたのでしたら、またよろしくお願いします」

「そうですね。考えさせて頂きますね。ご結婚はなさってるの?」

「以前は。今は独身です」

「人気あるでしょ。静かな運転をされるから」

「とんでもないです。まだテレビ局デビューして間もないですから。たまに芸人さんの送迎があるくらいです。あとは取材対応だけですから。今日みたいにロケ対応なんて初めてです」

「そうなんだ。初体験が私じゃあ悪いことしちゃったかもね」

「とんでもないです。光栄ですよ」

「そうなの?」

「ええ。美しい方だなと見惚れてましたから。あとでサイン頂けますか?本当はいけないんですけど記念に残しておきたいので」

「いいですよ。感じのいい方で良かったわ。どのくらいで着きます?」

「このまま混んでなければ10時には着きます。遅いですか?」

「大丈夫よ。帰りもお願い出来るのよね?」

「はい、承っておりますのでお待ちしてます」

「ロケ終わりが2時から3時だから5時か6時戻りね。なら自宅に送って下さい」

「はい、かしこまりました。後ほど、ご自宅の住所をお願いします。ナビに入れておきますので」

「帰りに教えるわね」

「はい、よろしくお願い致します」

楽しく会話をしながら目的地のゴルフ場に着いた。
到着すると局のスタッフが来て、待機中のトイレなどを指示していく。
退屈な待機中に車輌課に連絡をした。

「ゲスト様ですが、帰りは直接ご自宅とのことになりますがよろしいですか?」

「自宅にって言われたの?しょうがないか。お願いしますね」

何かあるのかと思いつつも、LPGの補給が出来るスタンドを調べていた。
するとインター近くに補給可能なスタンドがあるとわかり、様々なことに対応可能なようにとスタッフに告げて給油をしに行き、戻った。
するとスタッフが来て言った。

「ゲストさんが呼んでるんだけど来てくれないかな?」

「え、私ですか?」

「他に誰がいるのよ?」

「はい」

走るスタッフに続くように走り、控え室に入っていった。

「来た来た。帰りなんだけど、水澤うどんを食べてから帰りたいから、大◯屋に寄ってね。渋川の近くだったはずよ」

「はい。分かりました。大◯屋でしたら分かります」

「ほら。私の言った通りでしょ。これからロケの時は、この方にしてね」

「運転手さん。良かったね。気に入ってもらえたみたいだから、これからよろしく頼みますね」

「えっ?お話が見えないのですが」

「後で話すから、ちょっと待ってて。彼女が出るまで」

「はぁ・・・」

撮影の為にスタッフが出ていくと・・・。

「運転手さん。出勤日は固定なの?」

「はい。水・金・日ですけど何か?」

「ちょうどいいかも。出庫時間は何時?」

「7時です。帰庫は翌4時ですけど」

「そうしたら、水曜は朝7時半に局に来て。日曜は8時に来てよ。ウチの番組で使うからさ。ほぼ彼女の専属になるだろうけど。グループには今から連絡するから」

「いいんですか?」

「こんなに気に入られたの初めてだよ。良かったね。基本的に12時間拘束ね」

「分かりました。ありがとうございます」

会社にその旨の連絡をしてくれているのを確認しながら有頂天になって車に戻った。
しばらくすると会社から電話が入ってきた。

「聞いたと思うけど、水・日は朝から12時間ね。仕事がなくても12時間は先方の言う通りでお願いします。最低4万8千円の売り上げは確定だからね」

「了解です」

正直ついてると思った。
集中して稼げば、かなりの稼ぎになるからだった。

やがてロケも終わり、彼女の姿がロビーに見えた。
車を移動させ、荷物を積み込んで、彼女が来るのを待っていた。
スタッフに見送られながら彼女が車に乗った。

「ありがとうございます。私に出来ることはしますので仰って下さい」

「安心して乗ってられたからね。水・金・日なんだって?携帯の番号教えてね。呼ぶからさ」

「はい。ありがとうございます」

「じゃあ大◯屋に行って」

「本当に行かれるんですね。かしこまりました」

車を走らせると彼女はうたた寝を始めた。
バックミラーでチラ見しながら目的地まで行く。
目的地に着いて彼女に声をかけた。

「大◯屋に着きました」

「着いたの?生麺と舞茸の天ぷら買ってきて。持ち帰りのやつね」

「あっ、はい」

「2人分ね」

「分かりました」

車から降りて、頼まれた品を買い、戻って渡す。

「はい、住所」

名刺の裏に手書きで書かれた住所を渡され、ナビ入力を済ませると・・・。

「携帯の番号書いてあるから掛けて。登録するから」

「あっ、はい。では掛けさせて頂きます」

書かれた番号に電話をかけると満足そうな顔をした。

「他の局からも呼んでいいんでしょ?」

「はい。大丈夫です」

会話を交わしながら帰路に就いていた。
途中、渋滞に嵌まった。

「遅くなっちゃうね。時間は大丈夫?」

「大丈夫です。一番のお客様になって頂きましたので、常に最優先させて頂きます」

「はっきり言うのね。でも嫌いじゃないな。運転手さんから私ってどう見える?」

「そうですね、歯に衣着せない素敵な方だとお見受け出来ます。美しいですし」

「お世辞でも嬉しいわ。なんで結婚出来ないのかな?」

「ガードが固いのでは?皆さん美しさに気後れしてしまうのでは?」

「私ね、好きにならないと駄目なんだよね。素でいられる人じゃないとキツい物言いになっちゃうみたい」

「良かったです。私にはキツい物言いじゃなくて。誰しも好き嫌いはありますから」

「運転手さんも?」

「この仕事をしていますと余計にかもしれませんけど、色々とありますね」

「芸能人でも?」

「ええ、まぁ。お断りする方もいらっしゃいます」

「私は大丈夫だったの?」

「喜んでます。はっきり物事を仰って頂けますし、心の美しさが伺えましたから」

「営業が上手いのね。見習わないとだな」

「営業じゃないですよ。本音でお話させて頂いてますので」

「そうなんだ・・・」

「ええ。乗って頂いた中で一番のお客様です」

「ありがとう。何時に着きそうかな?」

「ナビですと7時頃になりますね」

「着いたらその後は?」

「営業区域に戻って仕事をこなすだけですね。でも今日は目標額をクリアしてますので、のんびり無線待ちです」

「なら、一緒に買ってきたうどん食べて行けるよね?」

「無線が飛び込んで来ない限りは問題ないですね」

「区域外でも入るの?」

「成田からの予約配車や、局関係の方から」

「1時間いくら?」

「停車したままだと4千円いかない程度です」

「なら3時間で1万2千円ね。付き合える?」

「宜しいんですか?お邪魔してしまって?」

「荷物もあるし、これからも迎えに来てもらうんだからいいのよ。お願いね」

「はい、かしこまりました」

その時は、なんて気前のいい女だと思っていた。
結婚出来ないのが不思議なほどであったのだが・・・。

とあるマンションに着き、メーターを落として一旦精算を済ませてから再度メーターを入れ、エンジンを切った。
荷物を持ち、彼女の後に続いて部屋に入った。
広めの1LDKには洒落て落ち着いた家具が並んでいる。
男っぽさが溢れている室内に驚いた。

「座って寛いでて。着替えて来るから」

そう言って彼女は寝室に消えていく。
取り残された私はソファーに座り、室内を見回してしまった。
女性の独り暮しなんて、もう何年も入ったことがなかった。
いい香りの漂う室内に酔いしれるようだった。
彼女が戻ってきた。
ロングTシャツ1枚の姿にドキドキしてしまう。

「部屋着はこんな感じなんで許してね。雰囲気変わる?」

「お仕事での服装もセンスがありますけど、私としては今の方が好きですね。目のやり場に困りますけど」

「ドキドキする?女を感じちゃってるの?」

「最初から女性を感じてますよ。今はそれに輪をかけてドキドキしてます」

「はっきりした上に素直なんだね。ますます気に入っちゃった。誘惑しちゃおうかな?」

「それは困ります。大切なお客様ですから。冗談は止めてくださいね」

「本当に大切なお客?なら誘惑に乗っても良くない?」

「そんな・・・困りますよ」

「貴方と話してたら、女が目覚めちゃったのよね。それとも私みたいなオバサンじゃ嫌なの?」

「オバサンなんてとんでもないですよ。お綺麗で美しい女性です」

「ならなんで?」

「お客様とその・・・まずいかと思いまして・・・」

「恋人じゃないんだから気楽に考えましょうよ。貴方は仕事の一環として捉えて。私は癒しの時間と捉えるから。ギブアンドテイクの関係」

「本当にお望みなんですか?自信ありませんけど、どうしてもと言われるのなら・・・」

「決まりね。こう見えて奉仕好きなの。何もしなくていいから任せて頂戴ね」

「はぁ・・・」

返事もまともに返せないまま彼女が覆い被さってきた。

<続く>