もう6年くらい前になるかな、ちょっと曖昧だけど、当時はまだネットと言えばニ◯ティだった時代。
募集告知板みたいなところで、あるML(メーリングリスト)の募集を発見した。

『エッチな欲求を持つ方が集まったMLの会員を募集しています。体験期間有』
PCMAX

俺は興味本位でメールを送ってみた。
5分も経たないうちに詳細のメールが来た。
2ヶ月無料ということでとりあえず入会してみることにした。
すると・・・。
ある意味、何というかエッチな雑談をする掲示板の延長っぽい雰囲気。
直メールの可否が書いてあり、女性男性ほぼ半数でかなり賑わっているが、俺は中国地方の人間。
オフの話や『直に逢いましょう』等々の話も時折見えて、少し仲間はずれな感じを覚えていた。

そんな中、ある女性の方から直メールが届いた。

『MLでいつも優しそうな書き込みを拝見してます』

彼女は『りな』と名乗っている群馬県在住、5歳年上の人妻さんだ。
ネットを始めたばかりでMLのメッセージは眺めているばかり、勇気を振り絞って俺にメールしてきたようだ。
MLとは別に、彼女とのメールのやりとりが始まった。
俺は仕事の合間、彼女は主婦ということもあり返事も早かった。
旦那のこと、セックスの話、なんでも話すようになっていた。
俺にとっては“何でも話せるお姉さん”みたいな存在になっていた。

そんな中、『お話しませんか?』という本文と共に電話番号(PHS)が書いてあった。
メールの中で冗談半分で『電話とかしちゃおっか?』という話題はあったが、急な電話番号に俺は焦った。

『い、いいの?』と返信。

『かけてきて。待ってるから』

俺はホワイトボードに『取引先』と書き込み、会社を出た。
そして、かけてみた。

「もしもし?」

「あ、もしもし?やすくん?(俺のHN)」

メールであれだけ話していたせいもあって2時間も真っ昼間から電話。
笑いが絶えない楽しい電話だった。

「あ、そろそろ晩ご飯の準備しなきゃ、今日はありがと」

それからは暇さえあれば俺たちは電話をするようになっていた。

そんなある日のこと・・・。

「や、やすくん」

「ん?どうした、りなさん?」

「昨日ね、旦那とエッチする時、相手がやすくんだったらなって思っちゃった、エヘ」

(な、なんと!!!俺???)

「ぇ?まじかよ?間違えて名前を呼んだとか?」

「そんなことしないよー。でもね、ずっと頭の中で『やすくん、やすくぅん!』って言ってたんだよ」

(や、やば。なんか萌える)

「ほほー。で、感じたの?」

「え?やだぁ、う・・・うん。なんかいつもより感じた・・・かも?」

「いやらしいお姉さんだなぁ・・・あ、やべ。なんかりなさんの喘ぎ声を想像しちゃったじゃんか!」

「あ・・・やだぁ、やすくんのエッチぃ・・・私もね・・・やすくんのあの時の息遣いとか想像しちゃったんだよ」

この時すでに俺は、まだ逢ったこともないりなさんの、あんなことやこんなことを想像してしまっていた。
で、思わず黙り込んでしまった。

「あ・・・やすくぅん、何黙ってんのぉ?変なこと想像してるでしょ?」

「だ・・・だってりなさん、そりゃねぇ?」

「・・・ねぇ、やすくん、声聞きたい?」

「え?」

「なんか変な感じになっちゃった・・・そこ、周りは平気?」

幸いにしていつも車を停めてさぼる場所。
周りに人影はまばらで、車の中を覗く人なんていない。

「平気・・・だよ?だけど・・・聞かせてくれるって?」

「・・・ん、やすくぅん、私にキスぅ・・・」

俺とりなの初めての電話エッチ。
会話の中で俺たちはお互いを愛し合い、そして俺は彼女の中にたっぷりと注ぎ込んだ。

「やすくぅん・・・逢いたい・・・」

「俺も逢いたいよ、りな・・・」

「あ・・・嬉しい。もっと呼んで、やすくぅん」

2回戦目・・・。
真っ昼間から電話エッチ2回戦。
今考えると可笑しいくらい。
でも、愛し合った、貪りあった。
この日を境に少しだけ距離が縮んだ気がした。

朝、いつものように机に鞄を置く。
そこには俺宛の郵便物がいくつかある。

(ん?)

見たこともない会社名。
俺は何か感じ、開けてみた。

『愛するやすくんへ。これが私の写真だよ。こんなおばさんでゴメンネ』

子供と一緒に写っているりなだった。
なんとなく嫉妬したけど、言うほどおばさんじゃない、むしろ若いくらい。
電話の中で「会社の住所、教えて」と言われたが、まさかこんな風に彼女の顔を見れるとは思わなかった。
が、やはり中国地方と群馬県。
実際に逢うには遠すぎる。

「逢いたいよ、りな」

「うん・・・私もやすくんに抱かれたい・・・」

まだ今ほどネットの出逢いが普及しているわけではない時代。
俺たちは、こんな出逢いに酔っていたのかもしれない。

そんな折、俺がタイミング良く(良すぎ)、東京の本社へ転勤になる。
りなにそのことを話した。

「え?ほんとなの?」

「あぁホントだよ。来月には引っ越す」

「やったぁ!やすくんに逢えるね。東京なら近いし」

初めてのメール交換から1年が過ぎていた。
決して彼女は旦那と上手くいっていないわけではない、子供もいる。
けれど、そのことは関係なく、彼氏彼女になっていたように思う。
俺はりなの顔を知っている。
りなは俺の顔を知らない。
そこが不安だったけれど、彼女は引っ越しを手伝ってくれると言ってくれて、その日が初対面の日になった。
それまでの間も、たまに電話で愛を確かめ合い、彼女の中にたっぷりと注ぎ込んだ。
想像でも何でもいい、俺は彼女に夢中だった。

運命の日、俺は新しいアパートにいた。
駅からすぐ見えるアパートなので、そこで待つことにしたのだ。
トラックが着き、2人のアルバイトが慌ただしく荷物を入れ込む。
しかし、りなが来ない。

(何かあった?)

そう思った矢先、電話が鳴った。

「あ、やすくん・・・ごめん、今日行けなくなっちゃった」

「え?なんかあった?」

「訳は聞かないで・・・。ごめん。ホントゴメン。来週でいいかな?必ず行くから」

「あ・・・あぁいいよ。大丈夫か?」

「・・・うん。ホントゴメンね。怒ってる?」

「いや・・・怒ってないよ」

(振られるのかな?)

少し不安になった。
けど次の日には普通に電話で話せたし、大丈夫だろうと言い聞かせた。
電話でのエッチはなかったけれど。

1週間後、彼女はやって来た。

「あ、やすくん!」

彼女は人混みの中からすぐに俺を見つけた、顔を知らないのに。

「なんでわかんだよ?」

「え?えへへ、すぐわかっちゃうよー、やすくんだもん」

部屋に入れた。
1週間、俺は一生懸命に部屋を片付けた。
ロフトベッド、TV、パソコン・・・なんとなく片づいてる部屋。

「初めての来客だぞ?感謝しろー」

「えへへー、ホントはもう女の子を連れ込んでたりして?」

「んなことしねぇよ!りなが最初だぞ」

「嬉しいなぁ。あ、片づいてるね、頑張ったじゃん」

1時間2時間と雑談で時間は過ぎていく。
彼女を5時には送り出さなければいけない。
時計は2時を指していた。

「やすくん、想像通りの人だったなぁ。ごめんね、1週間予定がずれちゃって・・・」

「あぁ、気にすんな。今こうして一緒にいるだろ?」

彼女の身長は150センチくらいだろうか。
写真よりもさらに若々しく、ノースリーブのシャツにジーンズ。
髪は少し茶色がかり、腰まであろうかという長さ。
座っていると床に付くくらいだ。
顔立ちも、とても2児の母とは思えないくらい可愛らしい。
唇がとても小さく、それでいて色っぽさを感じる。
ぱっと見、すごく子供っぽいのだが、一緒にいるとやはり色気みたいなものを感じていた。
俺は、りながすごく愛おしく思えた。

「りな、写真よりずっと可愛いよ」

「え・・・?そうかなぁ、おばさんだよー」

「そんな事ないって」

俺は隣にいる彼女を抱き寄せた。

<続く>