俺は興味本位でメールを送ってみた。
5分も経たないうちに詳細のメールが来た。
2ヶ月無料ということでとりあえず入会してみることにした。
すると・・・。
ある意味、何というかエッチな雑談をする掲示板の延長っぽい雰囲気。
直メールの可否が書いてあり、女性男性ほぼ半数でかなり賑わっているが、俺は中国地方の人間。
オフの話や『直に逢いましょう』等々の話も時折見えて、少し仲間はずれな感じを覚えていた。
そんな中、ある女性の方から直メールが届いた。
『MLでいつも優しそうな書き込みを拝見してます』
彼女は『りな』と名乗っている群馬県在住、5歳年上の人妻さんだ。
ネットを始めたばかりでMLのメッセージは眺めているばかり、勇気を振り絞って俺にメールしてきたようだ。
MLとは別に、彼女とのメールのやりとりが始まった。
俺は仕事の合間、彼女は主婦ということもあり返事も早かった。
旦那のこと、セックスの話、なんでも話すようになっていた。
俺にとっては“何でも話せるお姉さん”みたいな存在になっていた。
そんな中、『お話しませんか?』という本文と共に電話番号(PHS)が書いてあった。
メールの中で冗談半分で『電話とかしちゃおっか?』という話題はあったが、急な電話番号に俺は焦った。
『い、いいの?』と返信。
『かけてきて。待ってるから』
俺はホワイトボードに『取引先』と書き込み、会社を出た。
そして、かけてみた。
「もしもし?」
「あ、もしもし?やすくん?(俺のHN)」
メールであれだけ話していたせいもあって2時間も真っ昼間から電話。
笑いが絶えない楽しい電話だった。
「あ、そろそろ晩ご飯の準備しなきゃ、今日はありがと」
それからは暇さえあれば俺たちは電話をするようになっていた。
そんなある日のこと・・・。
「や、やすくん」
「ん?どうした、りなさん?」
「昨日ね、旦那とエッチする時、相手がやすくんだったらなって思っちゃった、エヘ」
(な、なんと!!!俺???)
「ぇ?まじかよ?間違えて名前を呼んだとか?」
「そんなことしないよー。でもね、ずっと頭の中で『やすくん、やすくぅん!』って言ってたんだよ」
(や、やば。なんか萌える)
「ほほー。で、感じたの?」
「え?やだぁ、う・・・うん。なんかいつもより感じた・・・かも?」
「いやらしいお姉さんだなぁ・・・あ、やべ。なんかりなさんの喘ぎ声を想像しちゃったじゃんか!」
「あ・・・やだぁ、やすくんのエッチぃ・・・私もね・・・やすくんのあの時の息遣いとか想像しちゃったんだよ」
この時すでに俺は、まだ逢ったこともないりなさんの、あんなことやこんなことを想像してしまっていた。
で、思わず黙り込んでしまった。
「あ・・・やすくぅん、何黙ってんのぉ?変なこと想像してるでしょ?」
「だ・・・だってりなさん、そりゃねぇ?」
「・・・ねぇ、やすくん、声聞きたい?」
「え?」
「なんか変な感じになっちゃった・・・そこ、周りは平気?」
幸いにしていつも車を停めてさぼる場所。
周りに人影はまばらで、車の中を覗く人なんていない。
「平気・・・だよ?だけど・・・聞かせてくれるって?」
「・・・ん、やすくぅん、私にキスぅ・・・」
俺とりなの初めての電話エッチ。
会話の中で俺たちはお互いを愛し合い、そして俺は彼女の中にたっぷりと注ぎ込んだ。
「やすくぅん・・・逢いたい・・・」
「俺も逢いたいよ、りな・・・」
「あ・・・嬉しい。もっと呼んで、やすくぅん」
2回戦目・・・。
真っ昼間から電話エッチ2回戦。
今考えると可笑しいくらい。
でも、愛し合った、貪りあった。
この日を境に少しだけ距離が縮んだ気がした。
朝、いつものように机に鞄を置く。
そこには俺宛の郵便物がいくつかある。
(ん?)
見たこともない会社名。
俺は何か感じ、開けてみた。
『愛するやすくんへ。これが私の写真だよ。こんなおばさんでゴメンネ』
子供と一緒に写っているりなだった。
なんとなく嫉妬したけど、言うほどおばさんじゃない、むしろ若いくらい。
電話の中で「会社の住所、教えて」と言われたが、まさかこんな風に彼女の顔を見れるとは思わなかった。
が、やはり中国地方と群馬県。
実際に逢うには遠すぎる。
「逢いたいよ、りな」
「うん・・・私もやすくんに抱かれたい・・・」
まだ今ほどネットの出逢いが普及しているわけではない時代。
俺たちは、こんな出逢いに酔っていたのかもしれない。
そんな折、俺がタイミング良く(良すぎ)、東京の本社へ転勤になる。
りなにそのことを話した。
「え?ほんとなの?」
「あぁホントだよ。来月には引っ越す」
「やったぁ!やすくんに逢えるね。東京なら近いし」
初めてのメール交換から1年が過ぎていた。
決して彼女は旦那と上手くいっていないわけではない、子供もいる。
けれど、そのことは関係なく、彼氏彼女になっていたように思う。
俺はりなの顔を知っている。
りなは俺の顔を知らない。
そこが不安だったけれど、彼女は引っ越しを手伝ってくれると言ってくれて、その日が初対面の日になった。
それまでの間も、たまに電話で愛を確かめ合い、彼女の中にたっぷりと注ぎ込んだ。
想像でも何でもいい、俺は彼女に夢中だった。
運命の日、俺は新しいアパートにいた。
駅からすぐ見えるアパートなので、そこで待つことにしたのだ。
トラックが着き、2人のアルバイトが慌ただしく荷物を入れ込む。
しかし、りなが来ない。
(何かあった?)
そう思った矢先、電話が鳴った。
「あ、やすくん・・・ごめん、今日行けなくなっちゃった」
「え?なんかあった?」
「訳は聞かないで・・・。ごめん。ホントゴメン。来週でいいかな?必ず行くから」
「あ・・・あぁいいよ。大丈夫か?」
「・・・うん。ホントゴメンね。怒ってる?」
「いや・・・怒ってないよ」
(振られるのかな?)
少し不安になった。
けど次の日には普通に電話で話せたし、大丈夫だろうと言い聞かせた。
電話でのエッチはなかったけれど。
1週間後、彼女はやって来た。
「あ、やすくん!」
彼女は人混みの中からすぐに俺を見つけた、顔を知らないのに。
「なんでわかんだよ?」
「え?えへへ、すぐわかっちゃうよー、やすくんだもん」
部屋に入れた。
1週間、俺は一生懸命に部屋を片付けた。
ロフトベッド、TV、パソコン・・・なんとなく片づいてる部屋。
「初めての来客だぞ?感謝しろー」
「えへへー、ホントはもう女の子を連れ込んでたりして?」
「んなことしねぇよ!りなが最初だぞ」
「嬉しいなぁ。あ、片づいてるね、頑張ったじゃん」
1時間2時間と雑談で時間は過ぎていく。
彼女を5時には送り出さなければいけない。
時計は2時を指していた。
「やすくん、想像通りの人だったなぁ。ごめんね、1週間予定がずれちゃって・・・」
「あぁ、気にすんな。今こうして一緒にいるだろ?」
彼女の身長は150センチくらいだろうか。
写真よりもさらに若々しく、ノースリーブのシャツにジーンズ。
髪は少し茶色がかり、腰まであろうかという長さ。
座っていると床に付くくらいだ。
顔立ちも、とても2児の母とは思えないくらい可愛らしい。
唇がとても小さく、それでいて色っぽさを感じる。
ぱっと見、すごく子供っぽいのだが、一緒にいるとやはり色気みたいなものを感じていた。
俺は、りながすごく愛おしく思えた。
「りな、写真よりずっと可愛いよ」
「え・・・?そうかなぁ、おばさんだよー」
「そんな事ないって」
俺は隣にいる彼女を抱き寄せた。
<続く>