声の大きい者が勝つタイプの職場でしたので、気がつけば全ての責任を負わされていました。
先方への謝罪行脚やサービス残業、尻拭いも始末書作成も全て自分でやりました。
責任の擦り付け合いよりも、会社の損失をこれ以上拡げないことを優先すべきと思ったからです。
そこまでして他人のミスを必死に取り繕ったのに、待っていたのは降格人事と部署異動の告示でした。
今までの職場のビルの向かいにある、2階建ての中古ビルの倉庫が新しい自分の職場です。
ここに飛ばされた男性は数年のうちに辞めるか、精神を病むかと言われる我が社の追い出し部屋です。
本社ビルに吸い込まれていくかつての同僚を倉庫の掃除をしながら毎日眺めています。
そういえば先日、自分を陥れた同期が取引先の社長のご令嬢と婚約し、完全に出世街道に乗ったと別の同期から聞きました。
今の職場は9割が女性で、クレーム処理とコピー取りやシュレダー係などの雑用が主な業務です。
クレーム処理と言っても重要な案件は一つもなく、正規のお客様相談室が悪質もしくは言いがかりと判断した案件を引き受ける、所謂ゴミ捨て場です。
また女性ばかりと聞くと羨ましいと思うかも知れませんが、全員ほぼ自分より年上のお局様達です。
いかにもお局様といった外見で、閉経と更年期障害で全員いつもカリカリしているせいか、年齢よりもだいぶ老けて見えます。
そんな彼女たちは、落ち目の者に対しては果てしなく残酷です。
自分は毎日、苛烈なイジメにあっています。
生来自分は気弱で女性が苦手です。
女性経験も今まで妻としかなく、妻と出会う30歳過ぎまで恥ずかしながら童貞でした。
その自分にキツイ女性ばかりの今の職場はあまりにも辛く、毎日辞めることばかりを考えていました。
ある工程で伝達ミスがあれば全て自分のせい、逆の立ち位置で同様のミスがあってもまた自分のせいにされます。
同じミスでも自分がミスをしたときの責め方は陰湿で長時間です。
左遷の理由になったミスについても毎回引き合いに出されます。
わざと聞こえるように悪口を言われ、先日も「愚図はアッチも愚図だから子供が出来ないのよ、奥さんが可哀想」と言われました。
しかしそんな自分と結婚してくれた妻の為にも、今仕事を辞めるわけにはいかないと、毎日歯を食いしばっています。
「飛び込みとかやめてね。駅員さんが迷惑しちゃうじゃん」
自殺するつもりなんて全くなかったのですが、お局様達のイジメに疲れてボーっとホームに立っていると、以前の同僚の女性から声をかけられました。
口が悪いのは相変わらずだなと思いつつも、それでも女の子に優しい言葉をかけてもらったのが嬉しくて少し涙ぐんでしまいました。
彼女は30歳手前の既婚の主任職で、以前の自分の部下でした。
上戸彩に土屋アンナを混ぜたような、すごい美人というわけではないですが、どちらにしても自分には高嶺の花の部類です。
彼女も僕の今の状況を聞いていたようで、「愚痴を聞いてあげるよ」と駅内の喫茶店に誘われました。
かつて彼女が僕の部下だった頃、先輩の女子にイジメられていた彼女を守ってあげたこともあり、何度か帰り道に相談に乗ってあげたりもしましたが、今ではすっかり立場が逆になってしまい、役職も彼女のほうが上になってしまいました。
「元気出しなってー。たまに冷やかしに行ってあげるからさー」
彼女の屈託ない笑顔に、「もう女はやだー」「女こえー」「仕事を辞めたい」と、つい本音をぶちまけてしまいました。
「ちょっとオジサン。私も一応女の子なんだけど」
笑いで返す彼女のピンクの唇、小柄な体には少し不釣り合いな大きさの胸、腰のくびれ、長いまつ毛に、オジサン全開で目線が行ってしまい、ひとり気まずくなって慌ててその日は解散となりました。
その日、お互いのメールアドレスと携帯番号を交換して、それから仕事が終わると彼女からメールが入るようになりました。
『またあの喫茶店で』
多くて週3回、帰り道に喫茶店で愚痴を聞いてもらうだけの関係でしたが、本当に救われました。
少なくとも、死にたいと思うようなことはなくなりました。
お互い既婚者なのでわきまえてはいましたが、いつしか彼女からのメールを待ちわびるようになりました。
そして彼女は、僕が彼女を女と見ていたのを見抜いていたのだと思います。
彼女と会うようになってから数ヶ月。
その日は特に愚痴が多かったわけでもなく、特に落ち込んでいたわけでもない普通の日でした。
強いて言えば普段よりも店内に人が少なく、自分たちの周りは全て空席になっていました。
酒が飲めない自分のために、いつもケーキセットで語り合っていたのですが、何気なく自分が、「そっちのケーキも美味しそうだね、季節限定だっけ?」と聞くと、彼女は「食べてみる?」と身を乗り出してきて、いきなり自分にキスをしてケーキを口移ししてきたのです。
咄嗟に身を引きましたが、後ろが壁だったのでそのまま押し付けるようにキスをされ、舌を使って口の中のケーキを掻き回すように流し込まれました。
繰り返しますが、自分は30歳過ぎまで童貞の非モテで、決してこんな事をされるような人間ではありません。
永遠とも感じられる時間の後、口を離した彼女にどういう台詞を吐いたらいいかわからず、「・・・どうしたの?」と絞り出すのがやっとでした。
「やっべー。店員に見られてたから店出ようか」
彼女に言われ、2人で店を出ました。
いつもならそのままホームに向かい、お互い電車に乗って別れるのですが、その日彼女は駅から出て夜の街に向かって歩きはじめました。
彼女がホテルに向かっているのは分かっていたのですが、何と言ったらいいのかわからず、「ケーキを口移しで食べたの初めてだよ」と見当外れの軽口を言ってついて行くのがやっとでした。
藍色のいかにもな感じのラブホテルの前で彼女は立ち止まって、私の言葉を待ちました。
「嫁がいる」
「知ってる。私も旦那がいる。だから?」
「こういう慰め方は好きじゃない」
「あー、うるさいなー。係長のくせにウダウダ言ってんなよ。ここで立ってる方が恥ずかしいのー」
軽く蹴りを入れられ、なし崩し的にホテルに入りました。
彼女がシャワーを浴びてる間、色々なことを考えていました。
妻以外の女性とこういう関係になったことはありませんし、妻とももうしばらくご無沙汰です。
ラブホテルに来るのもほぼ10年ぶりです。
妻の顔が浮かびました。
彼女がシャワーから出たら、やはり断って、このまま帰ろうと決意しました。
彼女が出てきました。
もともと土屋アンナ似で自分好みの顔、というより彼女に似ているから土屋アンナも好きになったので、化粧を落とした顔も十分魅力的で、むしろ湯上がりで上気したすっぴんがたまらなく艶っぽく見えました。
その顔をよく見たくて、彼女に近づいて彼女の着ていたガウンを開きました。
ネットのエロ画像であるような形の良い巨乳が現実の立体物としてそこにありました。
同い年の妻とは違う、20代の張りのある乳房と血色の良い乳首が水を弾いていました。
「シャワーは?」
気がついたら彼女を抱き締めていた僕に彼女が聞きました。
「浴びたほうがいい?」
「いつもちゃんとお風呂入ってる?」
「昨日も入った」
「じゃ、いいや。待ってるの暇だし」
「自分はゆっくり浴びてたくせに」
「女の子は違うのよー」
自分でも驚くほど会話も流れもスムーズに彼女と繋がっていました。
彼女のアソコは石鹸のいい香りがしました。
どこかまだ迷いのある僕を無理に盛り上げるように彼女の息遣いが激しくなっていきました。
挿入前のお互い前戯の段階から喘ぐような大声で全身を押し付けて、我を忘れたように舌を絡ませるディープキスを何度もしてきました。
こんな状態の女性を見るのは初めてだったのですが、そんな彼女の全身から、匂いとは違う、目に見えるエロさとも違う、何とも言えない“気”のようなものが出ているのを感じ、それが僕の性器をかつてないほどに硬くしていきました。
(これがフェロモンというものなのかな)
と、彼女につられて呼吸が荒くなったボーっとした頭で考えていました。
挿入をせがむようにベッドの中で何度も股間を押し付けてくる彼女でしたが、僕がゴムを付けるのに手間取っているのに気づくと、僕の手をとって自分の背中に回し、僕の口の中が彼女の舌でいっぱいになるようなキスをすると、そのまま腰を使って生で僕のペニスを自分の中に挿入しました。
彼女は角度と位置を調整して、まるで膣でペニスを折るようにペニスの上面裏面をそれぞれ強く擦るように動いてきました。
それはまるでセックスというよりも彼女の膣を使って激しくオナニーをしているような感覚で、今まで自分がしてきたのは本当のセックスではなかったということを僕に思い知らせました。
あまりの快感に僕がイッてしまいそうになると、彼女は動きを止めて僕の手を自分の乳房の上に乗せました。
お互い笑顔で彼女の乳房を揉みながら呼吸を整えて絶頂感が収まるのを待ちました。
そうやって何度かの生殺しの後、正常位で彼女と繋がりながら、「イク」と小さく彼女に伝えると、彼女は脚を僕の腰に回してお互いを密着させ、そのまま彼女の一番深いところで、ビューーーーーッ、と音が聞こえるような大量の射精をしました。
しばらくセックスもオナニーもしていなかったせいか、彼女の膣から流れ出てきた精液はまるでゼリーのような、指で摘んで持ち上げられるほど濃い精液でした。
それから子供を抱くように彼女を包み込んで、ベッドの中で話をしました。
彼女の今の上司(課長)が例の自分を陥れた同期だというのは知っていたのですが、その彼にセクハラめいたことをされていること。
それを断ったせいか、大きな仕事から外されたこと。
逆にその事で、彼女の方が自意識過剰の面倒な女扱いされて、部署で辛い立場になりつつあること。
「だからさー係長、元気出して早く戻ってきてよー。待ってっからさー」
彼女はいつも通りの口調で冗談ぽく笑いながら話してくれました。
彼女を抱き締めながら、(だから僕みたいな非モテの中年とこんな事をしたのか)とか(もう僕は係長じゃないのに)とか色々考えながら聞きました。
彼女は僕を退屈させないように、ベッドの中で僕のモノを扱きながら話していました。
その刺激と先程の快感の記憶でまた僕のモノが彼女の手の中でカチカチに勃起しました。
この感じなら今日はもう2、3回はヤレそうかなと、彼女を別の形で抱き直そうと考えていたら、「だからさー、またあの時みたいに私を守ってよー」と、扱きながら少し泣き声で言いました。
僕は彼女の手をペニスから離して、改めて強く彼女を抱き締めました。
正直、あの最高のセックスをもう一度したくてたまらなかったけど、それ以上に彼女を抱き締める手を一瞬でも離してはいけないような気がしました。
彼女の小さい背中を抱きながら考えました。
うちの会社は圧倒的に女性の役職者は少ないです。
彼女は女性というだけで、理不尽な仕打ちを受け、不公平な扱いに苦しんでいる。
そんな彼女に一方的に愚痴を言っていた自分が、そして彼女の方からホテルからセックスまでして慰めてもらった自分が恥ずかしくなりました。
かと言って今度は自分からセックスをするのも何か違う気がして、その時の僕には彼女をそのまま抱き締め続けるくらいしかできませんでした。
彼女との関係はその一度だけです。
妻にも誰にも決して言えない墓場まで持っていく秘密です。
あれからお局様達にいびられてもあまり辛く感じなくなりました。
彼女たちも苦労してきたんだろうなと思いながら接していたら、心なしかお局様達も少し優しくなってきたような気もします。
お局様達は最近少し話しかけてくれるようになりました。
例の同期は幹部候補になり、自分が配る社内報に写真が載るようになりました。
彼女は結局、会社を辞めました。
あの後、例の同期が彼女とホテルでやったのを自慢していたというのを人づてに聞きましたが、それが原因かは分かりませんし連絡もしていません。
そして自分がいつ元の立場に帰れるのかも分かりません。
今日も平社員として雑用です。
一生このままなのかも知れません。
(彼女とヤッた?それがどうした。どうせ彼女のあんな激しいセックスは知らないだろう?)
幹部候補になった同期の満面の笑顔の写真を睨みつけながら、今日も僕は頑張るのです。
一度だけの本物のセックスの思い出を胸に。