やがて夏が終わり、木々の葉も赤く染まり、風が少し肌寒くなってきていた。
引っ越しの時期も決まり、来年の1月には俺は生まれ育ったこの家を離れることになった。
あの夜から、俺と妹が肌を合わせる回数はすっかり減っていた。
多くて週に2度くらい、2週間ほど間が空くこともあった。
PCMAX
週末の『お泊まり』も、こういう関係になる前のように夜中までゲームをしたり映画を観て一緒に寝るだけで、身体の触れ合いもキス止まりの夜が増えていった。
しかし、身体の触れ合いの回数と反比例するかのように、妹と2人で映画や買い物に行くことや俺の部屋で一緒に過ごす時間は逆に増えていった。
妹が参加するコスプレのイベントについて行ってやったり、写真を撮ってやったりもするようになった。

日曜の朝は、俺は特撮ヒーロー番組を観るために早起きし、それから二度寝するのがここ数年の習慣だったのだが、その後に放送する変身少女アニメを欠かさず観ている妹が、なぜか俺の起きる時間ピッタリに俺の部屋に来るようになり、一緒に観るようになった。
そして俺たちは事あるごとに頻繁にキスをするようになった。
舌を絡めるあうようなキスではなく、唇同士を軽く吸い合うような、あるいは頬に軽く触れるような、そんなスキンシップ以上、ディープキス未満の、言うなれば恋人同士のキスだった。
もちろん、たまに気持ちが抑えきれずにそのままいつものオーラルセックスをしてしまうこともあったが、以前のように器具を使ったり、全裸になって何時間も行為に耽るということはなくなっていった。
落ち着いた、恋人同士のような時間が流れていった。
俺たちは色々な話をした。
話と言っても、妹からの質問に俺があれこれと答えるだけなのだが、勉強のことはそんなに相談には乗ってやれなかったが、大学はどんな所か、サークル活動というのはどんなものか、そんな他愛もないことを妹はよく聞いてきた。

この頃、F実さんから、『Y香ちゃんに内緒で飲みに行かない?』というメールがあり、隣の駅前の飲み屋の片隅でかなり長い話をした。
妹への想い、俺が家を出ようとしていることなど色々なことを話した。
俺は特に酒に弱いわけではないのだが、この日は珍しく吐くまで飲んだことを覚えている。
実はF実さんの目的は妹の学校の文化祭に行くことだった。
妹の学校は女子校なので、トラブルを避けるために必ずグループの中に生徒の血縁者などがいなくては校舎内に入れないルールになっている。
俺はそんなに興味がなかったのだが、前にも書いた通りF実さんは女性を愛する女性なので、女子高の文化祭というものに並々ならぬ興味があったらしく、俺という存在はまさに渡りに船ということだった。

F実さんは仕事でも使っているほぼプロ仕様の一眼レフとヘアメイク&スタイリストの名刺を片手に、あわよくばナンパ、もといカットモデルにスカウトする気まんまんで文化祭に臨んだ。
俺を半ば引きずるように学校に入ると、年季の入った校舎は意外に小汚く、そんなにドキドキするような空間ではなかった。
ただ全体的になんとなくいい香りがしたのは覚えている。

妹のクラスの喫茶店は、全員が制服の上に妹が型紙を起こしたメイド風のフリフリエプロンを着けるというなかなかにフェティッシュな格好で、それなりに可愛かった。
F実さんが冷やかしながら撮ってくれた顔を真っ赤にした妹と俺とのツーショット写真は今でも俺のスマホの待ち受け画面になっている。

妹の16歳の誕生日の夜のことだ。
その日はちょうど土曜日ということで、割と早い時間から妹が『お泊まり』をしに俺の部屋に来ていた。
この夜は妹の、「今日で15歳も最後だから」というわけのわからない理屈で、なぜか俺の部屋で妹のヌード写真を撮影することになり、そのまま少し愛し合った。
ことが一通り終わり、俺たちは全裸のまま時計の針が『00:00』を指す瞬間を見届けた。

「一応言っておくけど、これで法律的には結婚してもいい年齢になったからね」

言われるだろうとは思ったが、やはり実際に妹の口から直接聞くと重みが違った。

「わかってるよ。誕生日おめでとう」

たとえ何歳になろうとも俺たち兄妹は結婚なんかできるわけがないのだが、それでも愛しい妹がこの世に誕生したその日を祝って、俺は妹に長い長いキスをした。
舌を絡ませあっていると妹の手がスルスルと伸び、俺の胸や腹を弄るように撫でる。

「おい、Y香・・・」

「お願い、あと1回だけ。Y香の16歳になったばかりの身体を今すぐ食べて欲しいの」

最近は少し関係が落ち着いてきていたとはいえ、妹の俺を誘うためのエロい台詞を考えつく才能は健在だった。
俺の獣欲に久しぶりに火がついた。

階下で眠る母に気づかれないようにベッドではなく床に掛け布団を敷き、妹の裸身を抱き締めた。
舌を絡ませ合うキスから、いい形に成長してきた胸を揉みしだく。
綺麗にくびれてきた脇腹や腰に舌を這わせると、いつものように「いやん」とくすぐったそうに身をよじる。
そんな妹の仕草の全てが可愛かった。
俺は、指や手のひら、唇、ペニス、全ての部分でのタッチに精一杯の気持ちを込めて妹を愛撫した。
今までこれほどまでに妹を愛しく思ったことがあっただろうか。
この日は妹の反応も良く、俺の指の動き一つ一つにも、激しい反応を返してくれる。
その反応が嬉しくて、俺はさらに妹の身体を愛撫する。
自分だけが気持ち良くなるのではなく、妹に気持ちよくなってもらいたい。
そんな献身的な睦み合いだった。
それは同時に、俺が今までいかに欲望に塗れた性欲の赴くままのセックスしかしてこなかったかを俺自身に思い知らさせた。
妹の指や唇や舌が日を追うごとに気持ちよくなっていくのに対し、俺は今まで本当に自分本位の行為しかしてこなかったのだと、心底自分の欲望と罪深さを恥じた。
四つん這いの妹の尻を掴み、後ろから妹の性器に口を付け、膣口やクリトリスを激しく愛した。

「お兄ちゃん・・・すごいっ・・・!」

妹がグッと背中を反らせ、歓喜の声を上げた。
がっくりと布団の上に崩れ落ち、荒く上下しているうつ伏せの背中を擦りながら、俺は枕元に置いてあるペットボトルの水に口を付けた。
するとむくりと起きた妹が、水を含んだままの俺の口に自らの唇を押し付け、舌を入れてきた。
もちろん俺の唇からは水が零れ、床に敷いた掛け布団にぽたぽたと零れた。
それでも俺の口の中の水は半分ほど妹の口に流れ込んだらしく、妹は嬉しそうにその水をごくりと喉を鳴らして飲み込んだ。

「びっくりさせんなよ」

「だってお兄ちゃんのお口の中の水が飲みたかったんだもん」

「せめて俺が口ゆすいでからにしろよ、自分の味がしちゃうだろ?」

「お兄ちゃんだってY香がフェラしてゴックンした後にもすぐキスしてくれるじゃん、一緒だよ」

「そうか、そりゃそうだ」

「でしょ?じゃあ今度はY香がお兄ちゃんに飲ませてあげるね」

そう言うと妹は俺の手からペットボトルを取り、水を1口含むと、まるで子供がキスをするように唇をすぼめてきた。
俺は妹の唇を包むように口を付けると、妹は唇を少し開き、ちょろちょろと俺の口腔内に水が流れ込んできた。
妹の体温と唾液で少し柔らかくなった水は、俺の喉を通り火照った身体を冷ましていくようだった。
少し甘いような気がしたが、まぁそれは気のせいだろう。

俺は妹の裸身をギュッと抱き締めると、そのまま抱えるようにして立ち上がり、ベッドに寝かせてやった。
妹は“俺に抱きかかえられてベッドに運ばれる”という行為を異常に好んでおり、俺がたまにしてやると目をキラキラと潤ませ、顔を真っ赤にして何も言えなくなってしまう。
今も本当に思い付きでしてやっただけなのだが、こんなに喜んでくれるならもっとしてやればよかったと今さらのように後悔した。
俺は寝巻き用のジャージを着ながら照れ隠しに、「お前もパジャマ着ちゃえよ」と言うと、妹は俺に背を向け、「わかってるよぉ」と言いながらもぞもぞと着替え始めた。
俺は布団を戻し部屋の電気を消すと、ベッドの中でもう一度妹を抱き締めた。

「お兄ちゃん、Y香ね、今日久しぶりにいっぱいできて嬉しかった。超気持ちよかったし」

妹は俺の頬にチュッとキスをした。

「あぁ、俺もすっげぇ良かったよ」

お返しに同じところにキスをしてやる。

「ねぇ、お兄ちゃん。いつ引っ越すの?」

「来年の正月過ぎて、成人の日のちょっと前くらいかな。本当は冬休み中が良かったんだけど、それまでその部屋に住んでる先輩の都合があってな」

「ふぅん、そっか。じゃあ、お正月過ぎたら、最後に1回だけデートして欲しいの。ちょっと遠くのラブホで、最後に一日中愛し合いたいの。そこでY香の処女を貰って欲しいの。ね?」

「・・・」

答えられなかった。

「また黙っちゃうし」

「そりゃ出来ねぇよ、そんな約束」

「さっきのエッチも、お兄ちゃんの気持ちがY香に伝わってくるみたいで、今までで一番気持ちよかったんだけどなぁ~」

「そうだよ、俺だって、そういう気持ちを込めてしたからな」

俺はもう1回、妹の頬にキスをした。

「あぁん、もう口にしてよぉ」

妹が頭をずらし、暗闇の中で俺の唇に自分の唇を重ねた。
しばらくキスをしていると、節操のない俺の身体はムクムクと再び反応し始めてしまった。

「お兄ちゃん最後のクンニの時、ピュッピュしてないよね?今ゴックンしてあげるね」

妹は布団に潜り、そのまま俺のジャージのズボンとボクサーパンツを一緒にずり下ろした。
布団の中で、剥き出しになった俺のペニスが素早く生温い濡れたものに包まれた。
妹の舌と唇の感覚に包まれた俺のペニスは、脈動と共にその硬さを増していった。
妹は俺のペニスの根元を指で揉んだり擦ったりしながら、亀頭やカリの部分は顔を上下させ、口腔そのものでしごいてくれたり、ペニスを限界まで咥えたまま強く吸い上げてくれた。
俺は堪らずに一気に昇りつめてしまいそうになり、ペニスの根元にグッと力を入れて耐えた。
すると妹の口腔の感覚がフッと消え、暗闇の中で布団がもぞもぞと動く気配と共に、目の前の空間から「ぷはぁ」という声と共に妹の体温と息が現れた。
妹はそのまま手を伸ばし、普段はほとんど使わない枕元のライトのスイッチを入れた。
闇の中にライトで照らし出された妹の真っ白い裸体が浮かび上がった。
最近また少し女性らしさを増した妹の身体のラインが、光と闇のコントラストでより一層強調され、今までになく艶かしく見えた。
俺がその美しさと艶かしさに思わず唾を飲み込む音が暗闇の中に予想外に大きく響いた。
その音に気付いた妹が悪戯っぽい笑みを浮かべ・・・。

「うふふふふ、なに?お兄ちゃん、今さらY香の魅力に気付いたの?」

「い・・・いや、最近成長したなと思ってさ」

「そうだよ、だって今日で16歳だもん」

妹が自慢気に胸を反らせると、小ぶりだが形のいい乳房がふるんと揺れた。
その先端の薄桃色の突起が柔らかく尖っているのは、秋口の肌寒さだけではない筈だ。

「ねぇ、お兄ちゃん」

妹が俺の肩の辺りに手をつき、そのまま俺の顔に自分の顔を被せるようにキスをする。

「お兄ちゃん、Y香はね、お兄ちゃんが思ってるほど純粋でも可愛い女の子でもないよ」

「・・・どういう意味かよくわかんねぇんだけど」

「本当はね、Y香は結構計算高い嫌な女だって言ってんの」

妹が布団の中で動き、ぎしりとベッドが軋む音がした。
俺の左肩の辺りにあった妹の右手がひょいと俺と妹の身体の間の暗闇へと差し込まれると、俺のガチガチに勃起しているペニスにキュッと妹の指が絡まる快感が伝わった。

「お兄ちゃんがY香の処女を傷付けたくないのは十分わかったし、Y香も無理に抱いて欲しいなんて言わないよ」

妹は半ば手探りのように逆手で持った俺のペニスを自らの性器に宛てがった。

「でもY香はどうしてもお兄ちゃんが欲しいの。一つに結ばれたいの。そして、いつかお兄ちゃんとの赤ちゃんを産みたいの」

俺のペニスの先端が柔らかく温かい粘膜に触れる。

「お兄ちゃんがY香の処女を貰ってくれないなら、Y香がお兄ちゃんの童貞奪っちゃうからね」

妹がぐっと上体を起こすと、俺のペニスの先端、亀頭の1/4ほどが妹の美しい割れ目に咥えこまれているのが見えた。
このまま妹が体重をかければ、おそらくその重みで俺のペニスは妹の膣に挿入されるであろう。

「お兄ちゃん、いいよね?Y香たち、愛し合ってるんだもんね」

妹がゆっくりと体重をかけるのが伝わる。
ペニスに圧迫感が伝わり、快感が増していく。
対象的に妹は目を瞑り、小さな肉体の蕾を押し広げられる未知の感覚に耐えているようだった。

「んん・・・」

目をぎゅっと瞑り、眉根に皺を寄せ、未知の感覚と苦痛に耐えている表情は、美しさと切なさをの同居した形容し難い美しさを纏っていた。

「あ、痛っ・・・ん・・・お兄ちゃん、もうちょっとだから待っててね・・・」

俺の身体を挟むように膝立ちになり、俺の肩に手をかけ、一生懸命に腰を下ろそうとするが、やはり痛いのか何度も何度も腰を下ろしては引き上げ、体重をかけては止まりを繰り返していた。
俺は上体を起こすとペニスを妹の性器からずらし、そのまま俺の足の上に座らせると妹の冷え切った身体を抱き締めた。

「ありがとうY香、もういいよ、ごめんな」

妹は俺の肩に顔を伏せ、シクシクと泣き始めた。
俺のペニスもすっかり萎えてしまい、俺たち兄妹はそのまま服を着て、冷えた身体を温め合うようにお互いをしっかりと抱き締めあって寝た。
もうすぐ冬が訪れる。
この家で過ごすのも、残りあと2ヶ月と少しとなっていた。

クリスマス前の日曜日、いつものように2人で朝の特撮ヒーロー番組と変身少女アニメを観終わると、妹がぐっと伸びをしながら、「さ、今日は出かけるから用意しなくちゃ」と立ち上がった。
俺はこの日はバイトを入れていなかったので、このまま2時間ほど二度寝を決め込むつもりだった。
年末の恒例で父も家におり、母も今週は美容室が休みの日なので今日は外食に行く予定だった。

「夕方には帰って来るんだろ?」

「っていうか、お父さんとお出かけだから」

「へぇ、珍しい」

「期末も普通に成績上がってるしぃー、何か買ってくれるのかなー、うふふふふ」

「コスプレ衣装とか派手な下着とかはやめろよ、頼むから」

「大丈夫だよぉ」

そう言って妹は嬉しそうに部屋から出て行った。
俺は耳栓代わりにiPodのイヤホンを耳に入れ、スイッチを入れるが、うんともすんとも言わない。
そういえばこの前ポケットから落としてしまい、それ以来調子が悪かったことを思い出し、仕方なくアイフォンで小さく音楽を聴きながら目を閉じた。
その後、起きて階下に降りると、母も近所の友達とお茶に出かけてしまい、家には俺1人だった。
俺はこの機を利用して部屋の整理を始めた。
本や夏物の服など必要最低限以外のものはあらかじめ運送屋や友人から貰ったダンボールに詰め、古いゲーム機や、妹の好きな某忍者マンガや新しい部屋に飾る場所のなさそうなガンプラたちはこのまま置いていくことにした。
本棚のほとんどは空になり、部屋は一気に殺風景になった。
俺の心の準備も少しずつ進んでいった。

あの誕生日の夜以来、俺たち兄妹はキスより先の行為には至っていない。
妹の期末試験が近かったこともあり2人で出かけることもなく、極めて普通の兄妹としての関係が続いていた。
正直、物足りなさはあったが、(これこそがあるべき姿なのだ)と自分に言い聞かせ、撮り貯めた妹の写真や動画は封印した。
エロ動画も妹ものはもちろん制服ものや女子高生ものも控えたが、それでもどうしても妹に似た面影の女優や、ショートカットの女優をセレクトしてしまう己の弱さに苛まれていた。

部屋の片付けの最中に母からメールがあり、都内のとある駅で待ち合わせることになった。
その駅は偶然、俺の大学の新しいキャンパスから数駅のところにあり、今から出ても待ち合わせの時間ギリギリだった。
しかもなぜか、「襟のあるシャツとジャケットを来てくるように」とのお達しがあった。
俺がその駅に着くとすでに両親と妹が待っており、それまで下を向いて携帯を弄っていた妹が急に走って来て俺の手に絡みついた。

「お兄ちゃん、今日ね、お父さんがすっごい美味しいところ連れて行ってくれるんだって!」

妹もやたらとおめかししていて、母がしてくれたのだろう薄っすらメイクまでしていた。

「あれ?Y香今日は随分大人っぽいじゃん」

「えへへへへへ、そんなことないよ。えへへへへへへ」

デレ妹だった。
父親が連れて来てくれたそこは、父のかつての同業者であり親友が、その業界を辞めてまで独立した店とかで、皿が何枚も出て来て、ナイフとフォークで食べるような、メニューのどこを探してもライスのラの字も存在しない本格的なイタリアンレストランだった。
いつもはやかましい妹も、この日はお澄ましして、器用にナイフとフォークを駆使していた。
俺も父が進めてくれたワインを飲み、日本酒や焼酎よりこっちの方が好きかも知れないと思ったが、父曰く「お前の歳からこんなの飲んでたら身が持たないぞ」という通り、そのとんでもない値段に思わず噴き出しそうになってしまった。
どうやら今日は父のボーナスで、妹の好成績のお祝いと、俺の独立を応援するための食事だったらしい。

「へぇ、Y香ってそんなに成績良かったんだ?」

「なに言ってんのよアンタ、Y香は最初の頃はアレだったけど、今はクラスの上位10%に入ってるのよ、脅威の伸び率だって学校の先生もびっくりしてるんだから」

母はまるで自分のことのように誇らしげだった。
そういえば去年の今頃、妹が進学コースへの受験のストレスから精神的に不安定になっていた時、一番妹と衝突し、それでも一番妹のことを心配していたのは母だった。
きっと家族の中で誰よりも妹のことを案じているのは、昔も今もこれからもずっとこの人なのだろう。
それはとても嬉しく誇らしいことであり、同時に申し訳ない気持ちにもさせられた。

「でね、お兄ちゃん、3人からお兄ちゃんにプレゼントがあるの」

「お前iPod壊れたって言ってたろ、だからな、これ」

そう言って父がくれたのは最新型のiPodだった。
ちなみに父はApple信者で、カタカナで『アップル』と書くと怒るくらい重症な人で、俺や妹が使っているパソコンも全て父のお下がりのMacだった。

「うわー、ありがとう。いやほんとありがとうございます」

俺は思わず頭を下げた。
父の若い頃、上京したてで金がない時、唯一ラジカセと、近所の古本屋のワゴンセールだけが娯楽だったと言う。

「今はパソコンがあるけど、まぁ音楽は必要だからな」

そう言って俺からiPodの箱を取ると、ひょいと妹に渡した。

「とはいえ俺は今時の音楽なんか信用できん。だから俺と母さんとでお前に必要な音楽をたんまり入れて渡してやる。お前もたまには良質な文化に触れて自分を磨け」

「音楽を入れるのはY香がやるからね、楽しみにしててね」

(こいつに渡すということは、また良からぬ音楽や映像を入れられてしまうのでは・・・)

気付いたのは、時すでに遅く、それから数時間後のことだった。

正月が過ぎ、引越しまであと数日となったある日、俺たち兄妹は約束通り最後のデートに出かけた。
親には「映画でも行ってくるわ」と言い、妹は「最後にお兄ちゃんとデートしてあげるんだ♪」とご機嫌だった。
2人でお出かけの時は、お互いに少し時間をずらして家を出て、最寄りの駅で待ち合わせるのが妹の定めたデートのルールだった。
俺たち兄妹は定期にチャージし、冬の海を目指した。

「プレゼントも何もいらない。コスプレとかも関係なしで、2人で静かなところに行きたい」

それが妹の希望だったのだ。
電車とバスを乗り継ぎ、2時間くらいの場所にあるその海岸は、子供の頃家族で来たことがあるような気がする少し懐かしい場所だった。

「広ーい!すごーい!あはははははは!」

妹は無邪気に砂浜を走り回る。
海岸には俺たち兄妹以外の人影は見えず、妹が俺を呼ぶ声と、風と波の音が冬の空によく響いた。
俺はアイフォンを取り出し、砂浜ではしゃぐ妹の姿を動画に収めた。
波打ち際から少し離れたところにある、おあつらえ向きの流木に座り、俺たちは駅前のコンビニで買ったパンやおにぎりで簡単な昼食をとった。
吹きっさらしの海岸はさすがに寒く、妹は俺にぴったりと身を寄せてぼんやりと寄せては返す波を見つめていた。

「ねぇ、お兄ちゃん『人魚姫』の話って知ってる?」

「何だっけ、最後泡になっちゃうんだよな」

「そう。人魚姫はね、海で助けた王子様と結ばれたくて、自分の声と引き換えに魔女に足を貰うの。その足は歩くと物凄く痛くて、しかも王子様が別の女と結婚したら人魚姫は泡になっちゃう契約なの。だけど人魚姫は声が出ないから自分が王子様を助けたことを伝えられなくて、結局王子様は他の女と結婚しちゃうの。でも人魚姫のお姉さんたちが自分の髪と引き換えに魔女から貰ったナイフで王子様を刺せば人魚姫は泡にならなくて済むんだけど、人魚姫は王子様を殺さないで泡になることを選ぶの」

「・・・いいやつだな、人魚姫。っつーか、王子何やってんだよな」

「ふふふふ、ほんとだよね。命の恩人なんだから顔くらい覚えててよって」

「・・・」

「お兄ちゃん、Y香も泡になりたい」

「馬鹿なこと言うなよ」

「だって一緒じゃん。大好きな人と結ばれられないんだったら、泡にでもなっちゃった方がまだマシだよ」

「Y香・・・」

「Y香ね、お兄ちゃんのこと諦める気なんかないよ。お兄ちゃんが他の女と手ぇ繋いだり、キスしたり、クンニしたりなんて絶対認めないから。お兄ちゃんの童貞はY香のものだし、Y香の全ては絶対お兄ちゃんのものだから」

俺の本当に馬鹿なところは、妹にこんなことを言われたら叱ったり、諭さなければならない筈なのに、嬉しかったり安心する気持ちの方が上回ったりしてしまうところだろう。
まったく救いようのない馬鹿兄貴だった。

「・・・Y香ね、昨夜、どうしてこうなったんだろうって考えてたの。そういえばY香、昔デートクラブとかやってたんだよね、中学生のくせに。ふふふ、マジで馬鹿だったね」

「そういやそんなこともあったな、すっかり忘れてたよ」

「ちょっとぉ、忘れちゃってたのぉ?」

「だって、それから先のことが色々ありすぎてさ、俺はそっちの方で頭がいっぱいだよ」

「ふふ、そうだよね。ふふふふふ・・・でもね、Y香凄く嬉しかったの。あの時お兄ちゃんに『もう二度とそんなことするな』って言われて、生まれて初めて誰かに命令っていうか、はっきりと厳しく何か言われたなって思ったの」

その時、俺は全てを理解した。
確かに、俺は子供の頃から妹が親に厳しく叱られているのを見たことがない。
それは、単純に親が娘に甘いだけだと思っていたのだが、そうではない。
こいつは頭が良く、場の空気を察する力に長けているばかりに、怒られるような失敗をすることなく、それまでの人生を生きることができてしまっていたのだ。
だから漠然と“こうすればいい”ことだけはわかっていても、“こうしなければいけない”“こうしてはいけない”ということが理解できていなかったのだろう。
頭がいいということは、こういう弊害も生むのかと、大袈裟ではあるが、人生というものの複雑さの一端を垣間見たような気がした。

「あの時本気で泣いたけど、でも後で思い出すたびにすっごくワクワクしたの。新しいことがわかった時とか難しい問題が解けた時の、『そうか、こうすればいいんだ』って時と同じ感じがしてすっごく安心したの。それで、それをお兄ちゃんが教えてくれたんだってことが本当に嬉しくて、本当に感謝してるの。Y香に本当に大事なこと教えてくれてありがとうって。だから、今思い返すと、もうあの時には、お兄ちゃんのこと大好きだったんだね」

そう言って妹は恥ずかしそうに俺にぴったりくっついたまま俺の胸に顔を伏せた。

「でもやっぱり好きになっちゃいけない人なんだよなぁ、この人は。こんなに大好きなのに、本気で愛してるのに、結ばれちゃいけない人なんだよなぁ、お兄ちゃんは」

妹の声は震えていた。

「諦められるわけなんかないのに、なんで好きになったりしちゃうのかなぁ?法律でも絶対に無理なのに、赤ちゃんだって病気とか色々大変なのに、なんで好きになることだけできるのかなぁ?神様って意地悪だよね。なんで・・・どうして・・・」

妹は波音に混じって聞こえないくらいのか細い声で啜り泣いていた。
俺は妹を抱き寄せたままの手で妹の形のいい頭を何度も撫でた。
高校進学くらいの時期から伸ばし始め、今やセミロングくらいの長さになった髪は、さらさらと柔らかく、いつまでも撫でていたかった。

「・・・お兄ちゃん、フェラチオさせて」

「ここでかよ」

いきなり何を言い出すのかと思ったが、妹の涙に濡れた瞳は真剣そのものだった。

「あたしは、いつでもどこでも、貴方とセックスができるくらい、貴方のことを愛しています。その証明をさせてください」

「・・・ちょっと待ってな」

俺は着ているモッズコートを一度脱ぎ、2人を包むようにかけ直した。

「あと、今寒くてちょっと縮こまってるかもしれないけど」

そう言ってジーンズのファスナーを下ろし、ペニスを露出させた。
妹は俺のペニスを手に取ると、涙を流しながら真っ直ぐに俺を見つめた。

「Y希さん、Y香は貴方が好きです。あたしの一生に必要な男性は貴方1人だけです」

妹の涙に濡れた可憐な唇が俺のペニスを包み込んだ。
その舌は温かく、俺のペニスにはたちまち血流が流れ込み、熱く勃起した。

「凄い・・・硬い・・・」

波の音が静かになった冬の海に妹が俺のペニスに激しく吸い付く音が響いた。
冬の海岸線には見渡す限り人1人おらず、まるで世界に俺たち2人きりしかいないかのように錯覚させた。

「はぁ、んむっ、大好き・・・この味、んん、んふ、んふ」

上下動する頭の動きに合わせ、妹の涙がぽとり、ぽとりと砂浜に落ちる音が聞こえる。
妹の頭を撫でる俺の手にも俺の涙が落ちる。
俺は上を向き、青みの濃い大気と白い雲のコントラストが美しい冬の空を仰いだ。
上空の風の流れは強く、雲の先端は切れ切れになりながら少しずつ形を変えて流れていく。
きっとこの空は何年も前からこうやって少しずつ形を変え、しかし何年も後もこうやってこの空であり続けるのだろう。
俺とY香が兄と妹であることは変えようのない事実だ。
そして俺たちが今、こんなにもお互いのことを愛しく思っているのもまた事実だ。
俺はこんなにも真っ直ぐに自分のことを愛してくれる少女を、妹を、諦めることができるのだろうか?
この涙を流すほどの愛おしさは、空を流れる雲のように一時の感情なのだろうか?
嫌だ、諦めたくない。
俺は妹を愛している。
誰よりも大切に思っている。
このまま2人で何もかもを捨てて逃げてしまおうか。

止め処ない想いが、頭の中をグルグルと駆け巡る。
しかし刻の終わりは急速に訪れる。
ペニスの奥から滾る想いが溢れる寸前だった。

「Y香、イクよ」

喘ぎそうになるのを抑えながらそれだけを告げると、妹は口戯を亀頭の部分だけに集中し、ペニスの幹の部分を指先でしごきあげた。

「Y香、Y香、ありがとう。愛しているよ、Y香」

俺は寒空の下、自分の気持ちと共に妹の口内に精を放った。
その後、俺たち兄妹は手を繋いで海沿いの街をしばらく歩き、電車とバスを乗り継ぎ、帰路についた。

<続く>