ある時、イベントに全体的に線が細いがスタイルのいい女性が現れた。
顔はそれほど美人ではないが、雰囲気がとても柔らかかった。
聞くと、それがMの彼女で、Mはベタ惚れらしいという情報を仕入れた。
Mに呼ばれ・・・。
M「よぉL、紹介するよ。俺の彼女のS」
俺「あ、どうも。はじめまして。入り口で綺麗なんで見惚れちゃったよ。Mの彼女なんだぁ」
S「はじめましてぇ。Mからよく話を聞いてます(微笑)」
その微笑に俺は、はっとした。
M「L。俺はSのこと超好きなんだけど、Sがいまいちなんだよぉ。だからって手出すなよ?」
俺「当たり前じゃーん。俺もお前の彼女に手を出すほど日照ってないよ(笑)」
S「私、別にMのこと嫌いじゃないよぉ。ちゃんと好きなのに信じてくれないの。Lさん、何とか言ってぇ」
俺は、別に仲いいとは言え、Mに義理立てするほどのものじゃないし、のろけ話を聞いてるほど暇じゃなかったので適当に受け答えして、そこを離れようとした。
俺「愛し合う2人を前に、俺もちょっと食傷気味だから、席外すよ(笑)」
M「変な気を使うなよー。俺とお前の仲じゃん」
(知らねー)と思いつつ俺は、「あははは、それじゃーねー」と言って、その場を去った。
まぁ適当にイベントの時間を過ごして、俺も酒が入ったため酩酊状態だった。
先輩と店を出ようとすると、ちょうどSがいた。
俺「あ、Sさん、どうもお疲れさまー。もう帰りまーす。Mと帰るの?」
S「あ、お疲れ様ぁ。うん、そのつもりだったんだけど・・・なんか捕まったみたいで。もぉ」
俺「そうなんだぁ、何かと大変なんだよ。許してあげてね?」
S「うん。Lさんって彼女連れて来ないんですかぁ?いるんでしょ?」
俺「まぁいるけど、来たがらないんだよねぇー。まぁいいんだけど、そっちの方が(笑)」
S「うわぁー、すごい冷めてる。だめだよぉ」
俺「じゃあ、Sさんが熱くしてくれると嬉しいなぁ、なんちゃってー」
S「口は上手なのね。そういえば、まだ名刺もらってなかったね。いい?」
俺「あ、失礼しました。よろしくお願いします」
俺は名刺を差し出した。
当然、携帯番号は入っている。
S「ありがと。私、K県で仕事してるんだぁ。バーなんだけど。よかったら来てね」
逆にショップカードを差し出された。
見たところ普通のバーみたいだ。
そうして軽い会話を終えると、俺は先輩に連れられ次の店に向かった。
数日後、友人と新宿の焼き鳥屋で飲んでいると、見たことのない番号から携帯が鳴った。
俺「もしもーし」
電話の主「もしもし?Lさんですか?」
女性だった。
俺「はい。えと、どなた?」
電話の女性「Sです。声でわからないかなぁ。ちょっとショック」
俺「あーーーー、この前はどぉもぉー。どうしたんですか?」
嬉しい偶然にちょっと声が舞い上がった。
S「あ、今大丈夫?」
俺「もぉー全然OKです。野郎飲みしてうだうだしてただけなんでぇー」
ちょっとほろ酔い気味のせいか、やけに饒舌な俺。
周りの友人数名は、「またかよ・・・」と苦笑気味。
賑やかな席を離れて、電話の聞き取りやすい場所へ移動。
俺「あーすみません。ちょっと飲み屋だったんで、うるさいので移動しました。えと、どうしたんですか?急に」
S「この前、名刺もらったんで、ちょっと電話してみよーかなーって思って」
俺「Mに怒られちゃいますよー。あいつ嫉妬深いし。独占欲強いし」
S「実はさぁー、そのMのことなんだけど。ちょっとねぇ」
俺「え?あまりうまく行ってないんですか?そうは見えなかったけど」
心の中でほくそ笑む俺。
S「最初からうまくいってないよぉ。あいつがしきりに『付き合ってくれ』って言うし、優しいからつい付き合っちゃったけど」
俺「あらぁ、それは・・・うーん、何て言ったらいいかわからないけど、じゃあ・・・L相談室でも開きますか?」
S「うん!でも、彼女に悪いんじゃない?」
俺「あーいいっていいって。今日はもう微妙な時間だし、いつにする?」
S「明日かぁ・・・仕事あるんだよねぇ・・・今日は飲んでるんだよね?」
俺「うん。仕事って例のバー?」
S「うん。そう。終わるのって3時とか4時とかすごい遅いの」
俺「そっかぁー、実は飲んでるけど、今日俺もこれから仕事だから、良かったら俺の仕事先に来る?」
S「え?何やってるの?」
俺「実は同業なんでーす。23時からなんだけどね。朝の6時までなんです」
S「えーなんで教えてくれなかったのぉ?え、場所はどこ?」
俺「恵比寿の代官山駅に向かう途中にあるよ」
S「あ、そうなんだぁ。ちょうど今渋谷にいるし・・・どうしよっかなあ」
俺「あ、今俺、新宿なんだけど、22時ちょい過ぎに出るから一緒に行く?」
S「え?いいの?友達に悪くない?というか同伴って、そういう水商売なの?」
俺「ちっがうよぉー。普通の飲み屋。あいつらはどっちみち俺が仕事だから別れるし、全然問題ないよー」
S「えー。じゃあ行っちゃおうかなぁ・・・でも行っていいの?」
俺「あーいいよいいいよ。マスターに言えば全然OK」
S「じゃあ、どうしようか?どっかで待ち合わせる?」
俺「じゃあ恵比寿駅の西口でいいですかぁ?日比谷線の入り口がある方」
S「唐突にごめんなさい。じゃあ22時ちょっと過ぎた頃には待ってます」
俺「はーい。じゃあまた後ほどー」
S「はい、それじゃ」
電話を切って友人達がいる席に戻った。
友人Sと友人Eがそこにはいる。
友人S「どした?L」
俺「あー、なんか知り合いの彼女が悩んでんだって。電話してきた」
友人S「へぇ・・・つーか何でおめーばっか女から電話来んだよ!お前これから仕事だろ?俺らなんか野郎同士でこれから2軒目だよ」
友人E「で、どうすんの?」
俺「あー、なんでも俺の仕事場に来んだって。まぁアポとったって感じだな」
友人S「あーったく。じゃあ俺もお前の仕事場に行って、その女に会ってやる!」
俺「マジ勘弁してよー。いいじゃん。お前らだって、どうせこれから合コンなんだから」
友人E「そんな日に仕事入れてるお前も付き合い悪いよなぁー。しかも職場アポとかとってよー」
俺「まぁまぁ、こんど誘ってよ(笑)」
とってもお馬鹿さんな会話をしつつ、22時をそろそろまわりそうなので店を出ることになった。
実は知人Mとは友人Eと俺の共通な知人で、当然その彼女を知ってるので、店に来られるととっても困るところだった。
幸い友人SとEは2対2の合コンで張り切っていたため、俺の電話の相手が誰かなんてことはまったく意に介さなかったのが幸運だった。
歌舞伎町で飲んでいたため俺は2人とそこで別れ、俺は缶コーヒーと水を買って、酔い醒ましにタバコを吸いながら缶コーヒーを一気飲みし、体内アルコールを薄めていった。
新宿西口、小田急の1階で電話した。
もちろん相手はS。
俺「あ、Sさん?今どこですかー?」
S「あ、恵比寿です。ちょっと早く来ちゃって」
俺「今から新宿を出るので、あと15分くらいで行きまーす」
S「待ってますね」
心なしか落ち込んでるような雰囲気な声だったが、俺は階段を下り、改札を抜けて山手線に乗り込んだ。
一応彼女(Y)にメールで仕事に行く旨と、バッティングしないようどこにいるか確認した。
彼女『仕事頑張ってね!今日はT(彼女の親友)と食事して帰ります。時間あったら電話してね』
俺『終わるのはいつも通り朝までだから、休憩のときに電話します。それじゃTさんにもよろしくー』
俺は、彼女がTと食事しているという最大の安牌を引いたので、安心して仕事に向かった。
彼女は某女子大の同年次の学生だった。
気は強いが、まぁ憎めないところがあって、2年近く付き合っていた。
浮気は過去に何度か容疑はかけられたが、何とか切り抜けて平和な生活を送っている。
安心していると、もう恵比寿に着いた。
胸の高鳴りを抑えつつ、一度しか会ってないので、どういう顔をしているかすっかり忘れてしまったが、改札を抜けると確かに雰囲気が他と若干異なる見覚えのある顔があった。
Sだ。
俺「あーどぉもぉー。すみません。お待たせしちゃって」
S「いいの。ごめんなさい。急に変なこといっちゃって」
俺「いいのいいの。じゃあ行きましょうか」
俺達は俺の仕事場の店まで歩いて向かった。
S「お店ってどんな感じ?バー?」
俺「有り体に言うとそうですね。えーっとカウンターに10脚、テーブルが3卓って感じの店です。人が滅多に来ないんで暇なんですよ。っていうとマスターに怒られちゃうんですけどね(笑)」
S「へぇーじゃあバーテンやってるの?」
俺「バーテンっていうか、2人しか店員いないから、酒も作るし飯も作りますよ?」
S「へぇ、お料理もするんだぁ。すごいねぇ。でもこうやって女の子をいっぱい連れて来てるんでしょう?(笑)」
俺「あー、ないとは言わないけど、ほとんどないですよ。彼女が来たらやばいですし」
S「そうだよぉー、私もそれは怖いな」
俺「そうそう、本題のMとなんかあったんですか?」
S「Mってさ、すごい独占欲あるし、拘束するし、嫉妬するから、一緒にいると疲れるし、居なくてもすごいストレスなの」
俺「そうなんだぁ。まぁわからなくはないけど、それだけ好きなんじゃない?」
S「それはわかるけど・・・逆に信頼されてないっていうか・・・いちいち『誰と会う?』『どこに行く?』『何をする?』って聞いてくるの。もうそれが嫌で。一緒に居てもいつも携帯で話してばっかりいるし。昼間のデートなんか1回もしたことないんだよ?いつも行くところって、この前会ったようなイベントばかりで、会う人ってなんかみんな業界人みたいな人とか、先輩って呼ばれる人とかで・・・友達ってあまり見たことない」
俺「そうなんだぁ」
そう言いつつ、Sにオーダーされたレッドアイを差し出した。
S「ありがと。で、この前、LさんがMとすごい仲良さそうに話してて、それを紹介してくれたんで気になってたの。それで今日悩んだけど思わず電話したってわけです」
俺「そうだったんだぁ・・・俺はてーーーーーっきりデートのお誘いかと思ってワクワクしてたんですが、残念です(泣)」
マスター「L、振られちゃってるねぇ(笑)」
S「あ、ごめんなさい。半分興味本位なんですが、あの時って忙しかったし、あまりLさんとお話出来なかったから、もう少し話してみたいなぁ・・・って思ったのもあります」
俺「あ、そうだったんですかぁ。それはそれですごい嬉しいです(笑)」
S「でもこの店いいですねー。何でお客さん来ないんですかね?」
マスター「場所が悪いしねぇ・・・宣伝してないし。しょうがないでしょー」
俺「でもまぁ、いいんじゃないですか?ここって社長が好きでやってるんだから」
マスター「ばかやろー、俺とお前の給料出ねーぞー」
俺「あ、それはまずいっすね。何かイベントとか入れましょう!」
何か普通な仕事先の話をしつつ、ふとSに目をやると、やっぱり元気がない。
俺「Sさんさぁ、今日はどうする?終電って大丈夫かな?あ、タクる?」
S「うーん、どうしようかなぁ・・・でも、もう少し飲んでいくね!」
俺「了解。まぁ好きにしていってよ」
S「Lさんは何か飲まないの?」
俺「いや、俺、仕事中だし」
マスター「じゃあ俺、ズブロッカちょーだい」
俺「・・・はい。つーか仕事中なんですが・・・」
マスター「いいって、まぁ軽ーく飲みながらやろう。飲み屋なんだから飲んで潰れるようなら、やる資格ねーよ」
俺「いい加減だなぁ・・・じゃあ、俺ビールもらいます」
俺はマスターにズブロッカのストレートを出した。
S「いつもこんな感じなの?」
俺「うーん、まぁ大体ね。あそこにいる常連さんが来るとマスターは飲んでるね」
S「Lさんは?」
俺「うん。まーねー。嫌いじゃないし。酒」
S「そうなんだぁ・・・いいね。気楽な仕事で。カウンターに立てるし」
俺「Sさんはちゃんとしたバーなんだよね?どんな感じ?」
S「うーん、すごい厳しいよ。やっとカウンターに立たせてもらえるようになったけど、やっぱりレシピ覚えないといけないし、お酒の由来とかそういうのもちゃんと勉強しないといけないし」
俺「でも、好きで飲んでりゃ、そんなの覚えるじゃん。飲んでるときの“うんちく”って結構モテるしねー(笑)」
S「不純だね、Lさんって(笑)でも、そうなんだろうね。好きじゃないからMのこともよくわからないんだろうね」
俺「あーっと、そういうオチかぁ」
S「そういうわけじゃないけど・・・でもやっぱり好きになれないんだよねぇ」
俺「じゃあ俺のことは?」
S「もぅLさんたら・・・そうやって、女の子をたぶらかしてるの?」
俺「いや、素直にそう思っただけだよぉ(笑)」
S「Lさんのことはまだよくわからないけど、話しやすいのがいいね。だって初めてなのに、こんな風に話してるし・・・なんでだろうね?」
俺「ははは。まぁいいんじゃない?おかわりどうする?」
S「うーーん、じゃあ、今日はちょっと強いの行こうかなぁ。何かある?」
俺「うーん、普通にスピリッツのストレートとかロックとか・・・マティーニとか・・・って、釈迦に説法だね。Sさんの方が詳しいかもしれないし」
S「うーん、そんなことないけど。じゃあドライマティーニもらおうかなぁ」
俺「了解。超ドライなマティーニね」
俺は冷えたタンカレーを冷凍庫から出し、ドライマティーニを作ってSの前にカクテルグラスを出して注いだ。
S「はぁ・・・なんだかマティーニってすごい好きなの。今日は酔っちゃおうかなー」
俺「お店で寝ないでね(笑)」
S「そしたらLさんが介抱してね(笑)」
マスター「こいつはホント気をつけてよー。いつも女の子連れてきて、お持ち帰りするんだからねー(笑)」
S「あ、私、Lさんならいいんですー(笑)」
俺「そんなに、ここに連れて来てないんですけど・・・彼女と女友達数人じゃないですか・・・もう。つーか、いいの?(笑)」
S「えへへへへ、いいよぉー」
マティーニを飲んで、Sは変なスイッチが入った感じだった。
早すぎるくらいにスイッチオンな状態だ。
終始そんな感じで3、4杯マティーニを煽ったS。
もう酩酊状態で、ちょっと難しい状態になりつつある。
<続く>