<スペック>
オレ:長身、筋肉なしのヘタレ、バイク乗り。
M子:160センチ未満、色白のもち肌、黒髪(肩)ストレート。

2人ともそれぞれの大学を卒業後、新入社員で同じ職場に配属され、同期会にて知り合いたまに話す仲になった。
M子はいわゆる押しに弱そうな見た目&性格なんだけど、実際はすごく芯が強い子でした。
それに相まって清楚な雰囲気と、笑う時にクスッて頬を傾ける仕草に惹かれ、すぐに同期以上の気持ちを抱いてしまった。
PCMAX

オレはヘタレな性格もあり、それまで彼女はいなかった。
だがこの時ばかりはどこからそんな気合いが湧いたのか、M子に3度もアタックすることになる。
彼女に惚れてたのは間違いない。
だが付き合いたい気持ち以上に、(あんな大人しそうな子と、もし万が一エッチできたら、一体彼女はどういう反応をするのか。いや、別にエッチできなくても、あの柔らかそうな胸だけでも・・・)って。
とにかくヤリたいというか、清く正しくドス黒い欲望を募らせていた。

以下、アタック経緯。

<1回目>

「オレ、M子のこと好き・・・かも」

「え~、冗談でしょ~」

「(はい、冗談です)」

夜桜が妙にキレイで切なかった。

<2回目>

「オレ、やっぱM子のこと好き・・・な気が」

「・・・ごめん、困るよ。私、そんなに好きって言ってもらえるような人じゃないし。それに今は誰かのことを好きになれるような状態じゃないし」

「ど、どういうこと?」

「・・・今は自分自身のことで精一杯なの。私のことを好きって言ってもらえるなら、私もそれに同じくらいの気持ちで応えられなきゃいけないと思う。でもそういう気持ちを持てる余裕って言えばいいのかな、それが今の私にはないの」

今にして思えば、新社会人だし忙しいのは当然のことなんだが、当時のオレは絶望的に感じてた・・・。
彼女の微妙な表現も理解できなかったし。
それからは仕事中に何度も、「何か手伝おうか?」とか「疲れてない?」って無駄なアピールしまっくてたな。
クソ暑い夏、ムダに熱いオレ。

<3回目>

「好きでなくても構わない。こっちが勝手に好きになったんだから。だからオレと、その・・・付き合ってもらえないかな?何か大変な状況があれば何でも手伝うからさ。1人より2人でいる方が上手くいくことってあるだろ!」

「いつも色々と助けてくれてありがとう。嬉しいよ。でもね、仕事が忙しいっていうことだけじゃないの。もちろん仕事もそうだけど、家に帰ったら2人分の家事も待ってるし」

(はい、今なんと・・・?)

「帰ったら料理を作ってあげたり、翌日のお弁当も渡したいし。掃除やお洗濯物もつい溜めちゃったりするし」

(彼氏いたんですか?同棲ですね、分かります)

「まだまだ面倒のかかる妹だしね」

「妹?」

「え?あ、うん。私2人暮らしなんだ、妹と」

「あ、そうだったんだー」(←リサーチ不足乙)

この後、妹は高校生なこと。
ご両親は海外赴任であること。
2人で日本に残ることにしたこと。
妹は遊び盛りで、彼女がほぼ家事全般を引き受けていること。
などを聞いた。

しかし!
当時のオレは付き合いたい気持ちでいっぱい。
すっこんでろ妹!・・・くらいなアホだった。

「そんなんじゃ主婦じゃん」

「・・・」

「あのさー、じゃあさ。今度、今度でいいからさ、帰り道とかで今日みたいに偶然会ったらさ、バイクで飯でも行こうよ。いっつも自炊じゃ大変でしょ?飯くらいご馳走させてよ」

「・・・え、でも悪いよ。それにどっちにしても妹のご飯は作んないといけないし」

「帰りももちろん送るよ。家どっちだっけ?そんなに掛からないと思うよ」

「・・・え、でも」

「ま、まぁもちろん偶然会うことがあればだからさ」

後日、彼女の帰りに合わせて道端で待ち伏せしたことは言うまでもない。
通りには枯れ葉が散り、身を晒した木々も心なしか震えているようだった。

「あ、M子!」

「あれ、今帰りなんだ?」

「うん。あの、良かったらさ・・・」

「この間の話、だよね。今日は妹も飲み会でご飯を食べてくるって言ってたから大丈夫だよ」

「え、本当に!そっか。じゃあバイク取ってくるから待ってて」

「うん、でも私、バイクとか乗ったことないよ」

「大丈夫。ゆっくり走るから。はい、これメット」

「え、これってどうやって付ければいいのかな。なんかリングとかベルトがあるけど通らないよ」

「あ、ごめん。ちょっと後ろ向きになって」

「はい」

彼女の白いうなじを眺めながらメットを被せる。
ハーフ勃起。
そんなこんなで彼女をSRに乗せて通りに出る。
洒落た店は落ち着かないし、酒も飲めないしってんで、どこに連れてけば良いのか分からず、あてもなく走ってしまった。

「結構、会社から離れたよね?」

「あ、うん。そうだね。なんかこの辺って店ないよねー」(←やべっ)

気付いたらオレの家の近くまで走ってしまった。
いい加減、どこかに入らなければと思った頃、通りにファミレスを発見。
・・・あぁ、他にマシな店はなかったのか。
しかしこれ以上寒空の中を彷徨うわけにいかないので、ファミレスに入った。

オレ、ハンバーグ。
彼女、なんか野菜がいっぱい乗ったプレート。

話の内容なんて緊張してあんまり覚えてないけど、思いのほか彼女がリラックスして笑ってくれてることに安堵した。
が、オレの脳内は・・・。

(エッチしたい→ダメならおっぱいだけでも→そのためには、今ここで帰らせるわけには→じゃどうするのよ?→「ホテル行こ?」なんて当然言えないし→じゃあオレんち?→いやいや、「妹がいるから帰る」って言うだろうよ・・・)

ここまで約3秒。

店内の壁時計は23時を回っていた。
彼女も左腕につけた細い腕時計の文字盤を目で窺うようになっていた。
ファミレスの安っぽいガラス窓は湿気だろうか曇っている。

「そろそろ帰ろうかな?」

「え、ああそうだね。そういえば妹さんは?」

「まだ連絡ないみたい」

「じゃあ、とりあえずM子の家の近くまで送るよ」

「ありがとう。夜遅いのにごめんね」

ファミレスを出て駐輪場に向かう。
外は随分と冷え込んでおり、時間の経過を冷気に感じた。
バイクに跨がりエンジンをかける。

(あれ、エンジンがかかんない)

ブルブ、ボ・・。
ブルブ・・・。

(やべ、冷え込むと調子悪いな)

「大丈夫?」

「え、あ、うん。ごめん。なんか調子悪いみたいで」

「動かないの?」

「あぁ、なんかエンジンが・・・」

「困ったね・・・」

(困った?そうか困ったか、ん?これは・・・)

「ガソリンスタンドとかに持っていけば良いのかな?」

今にして思えば、郊外型のファミレスだったんで、見える範囲にスタンドがなかった立地条件が勝因かもしれない。

「でもガソリンスタンド、周りに見えないよね」

「うん・・・」

「あ、あのさぁ。よかったらオレの家行かない?」

「えっ!?」

「いや、あの、オレの家、ここからだったら歩いても帰れるんだけど、帰れば修理道具とかもあるから」

「え、あ、でも・・・」

「うん!このまま立っていても仕方ないし、冷えるし」

オレは稀に見る強引さでM子を押し切り、バイクを押しながら彼女を自宅(一人暮らし)へ連れてきた。
見慣れた自分の部屋なのに、女の子がいるだけで、どうしてこうも景色が変わるのだろうか。
壁紙が薄汚れたグレーから白に変わった気さえする。

「何かお茶でも入れようか?」

「ありがとう。でもそれよりバイクを修理して帰らないと。それか駅とかこの辺りって近いの?」

「大丈夫だよ。電車なくなってもバイクを直せば送れるから。それに体も冷えたし、まずは温まろうよ」

「うん・・・。分かった」

ポツ、ポツ。

お湯がぐつぐつ沸いたのとほぼ同じくらい、音が重なってしばらく気付かなかったけど、このとき初めて、オレは神の存在を感じました。

ポツ、ポツポツ、ザザーッ・・・。

雨粒が落ちる音が聞こえたかと思うと見る間に外が雨模様に。

「外、すごいね」

「うん・・・。通り雨、かな?」

「とりあえず様子を見るしかないね」

「うん・・・」

「修理、どうしようか?」

「雨、止まないと難しいんだよね?」

「そうだね。細かい作業になるし、視界が塞がれるし」

「・・・」

(まずい、なんか空気が重い感じに・・・)

ヘビーな空気を取り払うため、彼女に就職の時の話を振ってみた。
うちの会社はちょっと特殊というか、いわゆる面接が普通の面接ではなく、ちょっと捻った質問をしてくる。
その質問も人によって違うという話をちら聞きしたので、それを彼女に振ってみたのである。
結論から言うと、正解だった。

<続く>