備え付けの時計の音が、コチッ・・・コチッ・・・と耳に響いてきています。
ほとんど眠れませんでした。
背徳感の余韻と、激しい自己嫌悪が入り混じった気持ちのまま・・・ベッドの中で悶々としてしまいます。

(ああ、私って最低)

自分の性格の悪さに嫌気がさしていました。
PCMAX
あのタヌキ女・・・確かに嫌な人だったけど、私がやったことだって陰険そのものです。

(でも、興奮した・・・)

数ヶ月ぶりに味わったあの高揚感に、いつまでも脳が休もうとしてくれません。
そんな状態のまま、まったく寝つけませんでした。

(ああ・・・もう、やだ・・・)

時計を見ました。
眠れないまま、もうすぐ朝の5時になろうとしています。
私はベッドから抜け出していました。
再びお風呂に行く準備をします。

(誰かいて。もう一度・・・お願い・・・)

こんなふうにストレートに書くのは恥ずかしいですが、性欲が昂ぶって、どうにもなりませんでした。
誰かと行為をしたいとかいうのではありません。
私の望みは、ただひとつ・・・。
男の人に見られてしまうときの、あのドキドキを味わいたいのです。

バンガローを出てお風呂ロッジに向かいました。
まだこんな早朝です。
望み薄なのは最初からわかっていました。
でも、もう行かずにはいられません。

(あまり無茶したらだめ・・・落ち着いて)

ここは外国なのです。
よっぽど慎重に慎重を重ねないと、どんなことが起こるかわかりません。
そういう意味ではかなり緊張していました。
お風呂建物に入ると同時に、自然と全神経が研ぎ澄まされてくる自分がいます。

(ドキドキ)

誰もいませんでした。
がっかりなのに、ほっとしています。
無人のロッカールームを見渡しながら・・・なんだかホームに戻ってきたかのような感覚を覚えていました。

(やっぱり・・・誰もいないか)

浴室へのガラス戸を開けて中も見ますが完全に無人です。

(どうする?)

戻ったところで、どうせ今から眠れるわけがありません。
水着に着替えました。
とりあえず、このまま朝風呂に入ってからチェックアウトすることに決めます。
ひとりぼっちの貸切状態で湯船に入りました。
ぼーっとしながら、それとなく浴室を観察します。
壁の時計は、ちょうど5時を指していました。

不思議な気持ちになります。
誰もいないお風呂で、ひとりお湯に浸かっている私・・・。
ここは日本ではないのです。
でも、なんだかそんな気がしません。

(昨日のカップル・・・)

あの2人との出来事も、もはや遠い昔のことのように思えてきます。
静けさの中に、ひとりぼっちでいる私・・・。
自分だけ時間が止まってしまったかのような、そんな気分でした。

(こういう非日常的な感じになれるのが、ひとり旅のいいところなんだろうな)

間もなく退社することになる職場のことを思い浮かべます。

(もういいよ、考えなくて。解放されたんだから)

何もせずに、ぼーっとしていました。
温泉のぬるさが、ちょうどいい感じにリラックスを与えてくれます。

「ふうー」

どれくらい、そうしてまったり過ごしていたでしょうか。
突然、気配を感じました。

(ドキッ)

ロッカールームに誰かが来たのがわかります。
頭の中で、ぱちーんとスイッチが入るような感覚でした。
瞬時にして神経が張りつめます。

ガタン。

(誰か来る。怖い・・・緊張する・・・)

ガラス戸が開いて、水着姿の男性がひとり入ってきました。

(あっ)

お互いに顔を見合わせます。
昨日も一緒になった2人組の男の子のひとりでした。
彼も驚いたようです。
まさか、こんな時間からお風呂に入っている人が他にいるとは思っていなかったようでした。

「Hi」

「Good morning」

ちょっと照れくさい空気の中、挨拶を交わします。
胸がきゅんとしました。
なんと言うか・・・昨日もしゃべっていますから、お互いに多少は気心の知れた相手です。
彼も嬉しそうな顔をしていました。
湯船に入ってきます。

「You alone?・・・your friend?」

「still sleeping」

一緒にお湯に浸かりながら、自然とおしゃべりがはじまっていました。
どんな旅行をしているのか・・・。
今日はどこに行くのか・・・。
お互いにカタコト英語ながら、少しずつ会話が弾んでいきます。
彼は、またここで私に会うとは思わなかったと言っていました。
温泉が大好きだと話す私に、日本の温泉との違いを尋ねてきます。

「Japanese hot springis a・・・」

20歳くらいだと思うのですが、どこかあどけなさも残っている男の子でした。
なんとなく可愛いウサギを思わせるような前歯をしています。
日本の温泉の話をしてあげました。
最初こそ、少しだけ緊張しているようでしたが・・・。
そのうち私に対して興味津々という感じの顔になってきます。

(なんかちょっと気恥ずかしい)

微笑みを浮かべて見せながら、抑えきれない欲求が疼きはじめていました。
もう、このときには・・・無意識に演技をはじめていたのかもしれません。
話の流れの中で年齢を聞かれて・・・。

「25」

嘘をついている自分がいました。
ノーメイクの私なら、どうせばれることはありません。

(ドキドキ)

素直そうなこの子の気持ちをうまく誘導しようとしていました。
職業の話になったときには・・・。

「cabin attendant」

さらに嘘を重ねます。
私の得意なパターンでした。
いかにも清楚でしとやかな、美しいお姉さんになりきります。
余計なことはしませんでした。
ときどき水着の胸元に視線が来るのを感じますが・・・。
無意識に手で押さえるようなふりをして、ガードの固さを印象づけます。

お互いに、お湯に浸かったり湯船の縁に腰かけたりを繰り返しながら、おしゃべりが止まりませんでした。
彼の目を真っ直ぐ見つめながら、にこやかに相手の話にも同調してあげます。

(大丈夫)

少しずつ手応えを感じていました。

(この子なら問題ない)

私がしゃべっているときの彼の目・・・。
私の顔を見つめている、ウサギくんのその瞳・・・。
自惚れていると思われるかもしれませんが、だんだんと私に見惚れてくれてきている感じがわかるのです。

(ドキドキ)

湯船の縁に腰かけていた彼が脚を組み替えていました。
私としゃべりながら指で自分の足の裏を押しています。

(ツボを押してるの?)

私は、そのチャンスを見逃しませんでした。

「pressure points?」
「Do you know alot about it?」

最初、彼は無意識にその仕草をやっていたようです。
私に『ツボに詳しいのか』と聞かれて・・・。

「a・・・yes」

自分の足の裏を見ながら、今度はきちんと指で押しはじめていました。
私は興味深そうな顔を作って、その手つきを見つめます。
ちょっと賭けに出ました。
お湯の中で、真似するように自分の足の裏を押すふりをしてみせます。
そして・・・。

ざば。

彼の方に近づきました。

「where?」

相手の指に私も自分の指を添えます。
私の手で足の裏を触ってあげていました。
あえて日本語のまま・・・。

「この辺り?ツボって、この辺にあるの?」

あくまでも大真面目な顔で、その位置を聞いているふりをします。

(あー。この子、ドキドキしてる)

痛いほどにそれが伝わってきました。
ウサギくんの足を持ったまま・・・。

「ここ?」

なおも真剣な表情で私の指を押しつけます。

(嬉しそうだね)

そして彼から離れました。
再びお湯の中に身を沈めて・・・。

「ん?・・・ここかな?」

自分の足の裏を指で押すふりをします。

「Do you want me to?」

思っていた通り彼が、『やってあげましょうか?』と聞いてきました。

「えっ?No・・・」

びっくりしたように、ちょっとどぎまぎして見せます。

「No・・・no thank you」

ウサギくんに、照れたお姉さんの可愛らしさを見せつけました。
お湯に浸かったまま恥ずかしそうに・・・。

「やだあ」

そして、お互いに笑い合います。

(ドキドキ)

すべて演技でした。
その後も、何事もなかったかのようにおしゃべりをします。
男の子の水着が・・・。

(うわ)

股間のところで、もっこりと膨らんでいました。
気がついていないふりをします。

(私としゃべってるだけで、そんなふうになっちゃうの?)

もうイメージは出来上がっていました。

(ドキドキ)

壁の時計のほうを見て・・・。

「What time now?」

彼に尋ねます。
近視のふりをしていました。
時間を教えてくれるウサギくんに、メガネをかけていないからよく見えないと嘘を言います。
ふっとお互いの会話が途切れました。
彼が新しい話題のきっかけを探すような顔をしています。

(今だ)

ざば。

ウサギくんがしゃべりだす前に私はお湯から立ち上がりました。

「シャワーに行ってくるね」

湯船から出て、傍らに置いておいた自分のミニポーチを持ちます。

(ああ、お願い・・・ドキドキしたいの)

2つ並んでいるシャワーブースへと歩いていきました。
昨日と同じく左側のほうを選んで中に入ります。
内側からカギをかけました。
水着を脱いで全裸になります。
2回目の利用ですから、中の様子はよくわかっていました。
このシャワーブースは、電話ボックスを一回り大きくした程度の広さしかありません。
中はせいぜい、直径で1.5mといったところでしょうか。
出入口の扉は横にスライドして開閉するタイプでした。
うまく説明するのが難しいのですが・・・この円柱形をしたブースの形通り、カーブした形状の樹脂製の扉です。

コックを捻って、シャワーのお湯を出しました。
昨日、私はたまたま見つけていたのです。
この扉の、ある部分のパッキンが劣化していて・・・本来は密着しているはずのところに、わずかな隙間ができてしまっていることを。

(ドキドキ)

お湯を浴びながらシャンプーをします。
そして一度シャワーを止めました。

(ドキドキ)

ガチャ。

カギを外して、扉を少しだけ開けます。
首から上だけを外に出すようにして・・・。

「ごめーん」

ウサギくんの姿を探しました。
湯船にいた彼がこっちを見ます。

「ボディソープ、そこら辺にない?」

さっきポーチを置いたあったほうを指差しながら言いました。
もちろん、あらかじめ、わざとボディソープだけを置き忘れておいたのです。
彼がそれを持って来てくれました。
私は首から上だけしか見せずに・・・。

「thank you」

手を伸ばして、そのミニボトルを受け取ります。
シャンプーで泡だらけの頭のまま、にこっとして見せました。
ウサギくんの目の前で再び扉を閉めます。
カギをかけました。

(ドキドキ)

この扉の閉まったカプセルの中には、お姉さんが裸でいるのです。
あとは、彼が気づくかどうかでした。
なんとかして覗いてみたいと思ったなら・・・。
たった1ヶ所だけ開いた、そのわずかな隙間にすぐ目が留まるはず・・・。
壁に固定されたシャワーノズルの角度を手で調節しました。
背後からお湯を当てるような向きで立ちます。

(ドキドキ)

縦に5cmくらいパッキンが取れてしまっている、その部分・・・。
隙間の幅自体は1cmもありません。
でも、その隙間に目をぴったりくっつければ・・・あの子には、中の様子が丸見えに・・・。

(ドキドキ)

扉の隙間を真正面にしたまま頭からシャワーを浴びました。

(ドキドキ)

そして・・・。

(あっ・・・あぁっ!)

まさに自分の計算がばっちり当たった瞬間を見届けてしまいます。
その隙間のところが、明らかにすっと暗くなりました。

(あ、あ、あ・・・)

隙間の位置は私の膝くらいの高さにあります。
中はとてもスペースが狭く、それこそ手が届きそうなくらいの近さでした。
今、あの男の子の目の前には・・・シャワーを浴びて立っている私のちょうど下半身があります。

(男の子に、見られてるう)

ものすごい興奮でした。
頭からすーっと血の気が下りていったかと思うと・・・次の瞬間には、かーっと顔が熱くなります。

(あ、ああ、あ・・・)

そのまま頭上からシャワーを浴びていました。
スペースが狭いせいで・・・もしあの子がいくら見上げようとしたところで、せいぜいその視野に入るのは私のお腹くらいまでです。
目が合ってしまうような心配はありませんでした。

(あ、ああぁ・・・)

お湯に濡れたアンダーヘアーと・・・絶対に見えてしまっている、股の割れ目を披露したまま・・・。

(ああん、ウサギくん、恥ずかしいよ)

立ったままで髪のシャンプーを流します。

(ひいいいん)

大興奮のシチュエーションでした。
密閉されたこの小さなカプセルの中で私に隠れ場などありません。

(恥ずかしいよ。見ないで)

一度シャワーを止めて簡単に髪を束ねました。
その場にしゃみこんで・・・。
そして、そのまま床に両膝をついて見せます。
向き合ったまま、同じ高さで顔と顔とを見合わせるような形でした。
一瞬、隙間のところが明るくなりましたが・・・すぐにまた影で暗く埋まります。

(ああん、いるう)

でも、近視だと言っていたこのお姉さんが、覗きに気づくことはありません。
床に置いてあったボディソープのミニボトルを手に取ります。
私は、なおも変わらずに楚々とした顔をしていました。
一度手の中で泡立ててから・・・。

(ヤあん、近いよ、近いよう)

床に両膝をついたまま、腕、肩、首へとボディソープを伸ばしていきます。
あんなにガードの固かった、このお姉さんが・・・おっぱいを丸出しにしたまま自分の胸を洗っていました。

(ああん・・・見られてるよう)

屈辱感も相まって・・・。

(イヤあん、ばかあ)

自分が覗かれてしまっているというその現実に、恍惚とさえしてきます。
お腹の辺りまで洗ったところで立ち上がりました。
両脚を半開きにして・・・。

(あああ、ぜんぶ見えちゃう)

立ったまま手で撫で回すように股間を洗います。

(恥ずか・・・しいよう)

もはや興奮の極みでした。
ウサギくんのニヤつく顔を想像します。

(だめえ、だめえ・・・お尻はイヤだよ)

一旦横を向くようにしゃがみ込んで、ボディソープを手のひらに足しました。
何秒か私の横顔を目にさせることで、あの子に後ろめたさを感じさせます。

(可哀想だよ。お姉さんが可哀想)

そして・・・今度は反対側を向くように立ち上がりました。

(だめ・・・だめえ・・・。お尻の穴が見えちゃう)

隙間から覗いた50cm先には、お姉さんの生身のお尻・・・。
あくまでも自然体を装います。
真後ろからお尻を眺めさせてあげながら、手のひらの中でボディソープを泡立てました。

(このお姉さんは悪くない。普通に体を洗ってるだけ)

後ろ手に腕をまわして・・・。
男の子の顔の前で撫でるようにお尻を洗います。

(だめえ、許して)

腰から、太ももへと手のひらを下ろしていって・・・。
興奮のあまり、(死んでもいい)そう思いました。
ぐーっと前屈みになって膝から下も洗っていきます。

(あああん、イヤあ)

あの子に丸見えでした。
中腰のお尻が、ぐいーっと開ききって・・・その中心には・・・。

(見ちゃイヤ、見ちゃイヤあ)

全身を洗い終えた私はシャワーで勢いよく体を流します。
水着をつけると、影になっていた隙間の部分がすっと明るくなっていました。

(ドキドキ)

私は、今からあの子の前に出ていかなければなりません。
緊張しすぎて泣きそうでした。

(ドキドキドキドキ)

ガチャ。

扉を開けて外に出ます。
湯船に入っているウサギくんが私を見ました。
心の中で、(絶対に自然体で)と、とにかくそれだけを自分に言い聞かせます。

(ドキドキ)

湯船に入って、「さっぱりしたー」と、にこやかな顔でお湯に浸かって見せるお姉さん・・・。
表情には何の憂いもありません。
当然ながら、彼は何食わぬふりをしていました。

(ああん、いじわる)

再びおしゃべりをしながらも、そのウサギくんの鼻の下は伸びっぱなしです。

(覗いてたくせに)

平静を装って楽しく会話をして見せる私ですが・・・。
そんな彼の表情の端々には密かな優越感が滲み出ていました。

(良かったね。こんなにキレイなお姉さんで)

胸のうちでドキドキがとまりません。

「I go,too」

ウサギくんがシャワーブースのほうを指していました。
そんな彼を・・・私はお湯に浸かったまま見送ります。

(さよなら。私、いなくなっちゃうね)

あの子がブースの中に入って扉を閉めると同時に・・・慌てて湯船から出て・・・。

(もうだめ)

逃げるようにお風呂から上がる私でした。

<続く>