(早く帰ろう)
トートの中からスポーツタオルを出します。
手早く全身を拭きました。
(ない・・・!)
パンツとストッキングがありません。
さっき、あのまま彼らに持って行かれてしまったのです。
(もう、いい)
車に戻れば、念のため持ってきた予備の服が一通りあります。
それに、あんなふうにいたずらされた下着なんて・・・どうせ身に着ける気になんかなれません。
ブラを着けて、ニットを着ます。
下半身は・・・そのままスカートを穿きました。
膝丈のフレアですが、大丈夫。
とりあえず中が見えることはありません。
(早くこの場を去りたい・・・)
それこそが最優先でした。
トートの中を確認します。
無くなった物もありません。
荷物は全部無事です。
多少のプレッシャーはありました。
帰るためには・・・彼らがいる男湯スペースを通り抜けていかなければなりません。
「ふーっ」
深呼吸しました。
(大丈夫)
私は悪くありません。
(悪くないんだから)
自分にそう言い聞かせて・・・。
「ふーっ」
大きく息を吐きます。
ガタッ。
木戸を開けました。
湯船に浸かっていた2人が同時に私のほうを見ました。
どちらとも目を合わせたくありません。
俯いたまま男湯スペースに踏み出します。
2人が、何やら頷き合っているのが目に入ってしまいました。
その瞬間から嫌な予感しかしてきません。
茶髪が湯船の中から立ち上がっています。
(関わりたくない。来ないで)
私は、もう帰りたいのです。
早足で男湯スペースを進みました。
こっちに近づいてきた茶髪が・・・。
(ドキドキ・・・)
「あの・・・さっきはすみませんでした」
殊勝な口ぶりで話しかけてきます。
私が無視しようとすると・・・。
「ちゃんと謝らせてください」
行く手を阻むように前に立ち塞がろうとしてきました。
「さっきは本当にすみませんでした。もう帰っちゃうんすか?」
神妙な顔つきで謝ってくる彼のおちんちんが丸見えでした。
「ちょっと・・・」
私が困ったように目を背けると・・・。
湯船の中のおデブが向こうでニヤニヤしています。
無性に腹が立ちました。
要するに私はからかわれているのです。
(こっちが女1人だからって)
人を馬鹿にしてると思いました。
(関わっちゃいけない)
「どいてください」
あくまでも無視しようとすると・・・。
「そんな怒んないでくださいよぉ」
行こうとする前へ前へと茶髪が回り込んできて・・・。
「怒った顔が可愛すぎるんですけどぉ」
おちゃらけながら私を足止めさせようとします。
あからさまにムッとして見せる私に・・・。
「待って待って。ごめん、パンツも返さなくっちゃあ」
まったく悪びれる様子がありません。
「てことはあれぇ?今は?」
その白々しい声のトーンに、内心びくっとしました。
ニヤニヤしながら・・・。
「穿いてないのぉ?」
このときの悔しさは、今でも忘れることができません。
すべて一瞬のことでした。
茶髪の横をすり抜けようとしたときには・・・。
(えっ)
もうスカートの裾を掴まれていました。
あっと思う間もなく・・・。
「きゃ・・・」
後ろからバッと捲られてしまいます。
「きゃあっ!!」
慌てて前を押さえました。
必死にスカートを直そうとしますが・・・。
「きゃっ」
どさくさな感じでお尻を撫でまわされます。
「イヤっ、痴漢!ふざけないでよっ!」
あまりのことに何がなんだかわかりませんでした。
焦って振り払おうにも・・・。
(ちょっと!)
スカートを捲られたまま離してくれません。
(嫌っ)
茶髪の手のひらが私のあそこを鷲掴みにして・・・。
「きゃあ!」
大切なところをぐにゅぐにゅ揉みまわしました。
「イヤ!変態!!」
押しのけるように茶髪を突き飛ばします。
(最低・・・最低・・・)
こんなことってあるでしょうか。
トートバッグを抱きかかえて階段道を駆け上がります。
(なんで私が)
さすがに茶髪も追いかけてまでは来ませんでした。
階段道の中程まで上がったところで息をつきます。
振り返ると・・・。
遥か下から2人がこっちを見上げています。
ヘラヘラとせせら笑うような表情が見て取れました。
(何よ・・・最低!)
文句の一つも言ってやりたいところですが、ショックで口が開きません。
憤りを飲み込んで、残りの階段道を駆け上がりました。
森の歩道を駐車場へと戻っていきます。
痴漢されたという悔しさと、惨めな気持ちで胸がいっぱいです。
(私が何をしたっていうの?)
もちろん・・・あの子たちが来る前に私がしていたことは咎められても仕方のないことかもしれません。
でも、それとこれとは話が別でした。
私の軽率なあの行動を彼らに知られていたわけではないのですから。
あの子たちにしてみれば、自分たちを怒鳴りつけてきた女・・・。
その相手にあんな悪ふざけしたのですから、さぞや胸がすっとしたことでしょう。
きっと今頃、得意げになっているだろう茶髪の顔が目に浮かんできます。
(ふざけないでよ・・・)
運が悪かった、そう思うしかありません。
いえ・・・あの程度で済んだのですから、むしろ運が良かったのかもしれません。
悔しさも惨めさも、私自身で噛みしめるしかありませんでした。
駐車場には大型のオートバイが2台停まっていました。
きっと彼らのものでしょう。
自分の車に乗り込みました。
念のため持ってきていた着替え用のショーツをバッグから出します。
運転席に腰かけたまま、穿きました。
ストッキングの予備はありません。
車をスタートさせながらも・・・。
(最低・・・最低・・・)
無理やり触られたときの茶髪の手のひらの感触・・・。
まだそのまま残っているかのような感覚があります。
(二度と、こんなところ来ない)
ミラー越しに遠ざかっていく駐車場を見つめながら、私は自己嫌悪でいっぱいでした。