(本気なの?本当にやるの?)
ダウンコートを脱いでいました。
何も気づいていないふりをしています。
(いいよ。あなたの『カモ』になってあげる)
ニットも脱いで・・・。
シャツのボタンを順番に外していくあたりから・・・。
(あああ、無理・・・私、こんなのイヤだ)
理性が猛烈に拒否反応を起こしていました。
それでも・・・。
(見たくてたまらないでしょ?覗き男さん)
そのままジーンズも下ろしてしまう私・・・。
野外で服を脱いでいることに緊張している感じを出してみせます。
お澄まししたまま、すごく真面目な女を演じていました。
ついには上下とも下着だけの姿になって・・・。
(ああん、恥ずかしい)
もう胸が張り裂けそうな心境です。
よもや誰かに見られてはいないかと、ものすごく不安がっているような素振りで、心配そうに周りをきょろきょろしてみせました。
(イヤ~、興奮する)
本当は双眼鏡で思いっきり見られているのです。
緊張感を漂わせた表情で・・・。
(ああん、嫌ぁ)
恐る恐るブラを外します。
(やあん・・・男が見てる)
胸を手で押さえながら、しきりに周りを気にするふりをしてみせました。
そして・・・。
(ひいいい)
するするとパンツを下ろします。
(イヤっ、見ないで)
すっぽんぽんになっていました。
おどおどした素振りのまま・・・。
(ひいん)
几帳面そうに脱いだ服をひとつに重ねます。
(ひいいん)
そっと湯だまりに入りました。
肩までお湯に浸かりますが・・・。
(あああ、助けて)
覗かれているという緊迫感に全神経が異様なほどに昂ぶっています。
(やっぱり、私、耐えられない)
冷えた体にお湯の熱さが凍みました。
だめだとわかっていたのに本当に全裸になってしまった私・・・。
(イヤん、もう逃げられない)
自虐的な高揚感が自尊心を押し潰します。
(どうしよう?)
それは、もはや興奮の極致といってもいい心境でした。
何も気づかぬふりをして、男の前で、すっぽんぽんで、私はお風呂に入っているのです。
(覗き男さん、この幸せもの)
川の流れを見つめながら・・・。
(ねえ、まだ8時半だよ。何時から、そこで待ち伏せしていたの?)
顔もわからぬ相手に向かって心の中で問いかけていました。
(嬉しい?こんな美人を覗けて)
こちらからは相手の素性が全然わかりません。
自分で誘い込んだ相手を手玉に取るパターンとは状況がまったく違いました。
でも、確実に私は覗かれています。
(ああん、ドキドキする)
そのことは裸でいる私にとって、ものすごいプレッシャーでした。
(それにしてもなんなの、あの大きいレンズ・・・)
自然体を意識します。
「ふう」
やっと野天のお風呂の雰囲気にも慣れてきたかのように装いました。
ずっと表情に貼りつけて見せていた警戒感を、時間とともに少しずつ解いていきます。
(あああ・・・ものすごくドキドキする)
私にとってはまさに最高のステージでした。
なんの苦労もしていないのに、お膳立てをしてもらったかのような、このシチュエーション・・・。
ちょっと出来すぎのような気もします。
(ああ、こんなことって、こんなに都合のいい偶然って・・・本当にあるの?)
今私は、まさしく非日常の現実の中にいます。
鼓動が激しく胸を打っていました。
顔の表面が上気してくるのが自分でもわかります。
(レンズの中の私を見つめながら、おちんちん勃っちゃってるんでしょ?)
涙が出そうでした。
こんな男のために、ひとたびお湯から出れば、もうどこにも隠れる場所はありません。
(私は悪くない・・・普通にお風呂に入っているだけ)
自虐的な気持ちが昂ぶって・・・。
(早くお湯から出てやれよ、早くあいつを喜ばせてやれよ)
どんどん自分を追い詰めてくる、もう1人の私がいます。
(お前なんか、あの男に見られちまえ)
体がお湯にのぼせきっていました。
もう出るしかありません。
ざばっ。
湯だまりの中から、おもむろに立ち上がりました。
(やあん、イヤあ)
膝がすくみそうになる臆病な自分を、もう1人の私が容赦なく前へ前へと追い立てます。
(ちゃんと見せてやれよ。ほらっ、自然体で)
最初こそあんなに用心深かった“この女”だけど・・・。
さすがに、もう警戒心も薄れてしまっているかのように演じてみせました。
(ヤあああん)
真っ裸のまま女湯スペースの一番外側に立ってしまいます。
そこが無人の渓谷だと、まったく信じて疑うこともなく・・・。
(イヤぁあ、見ないで)
目の前に広がる景色を眺めながら棒立ちになってみせました。
(ひいいいん、見られてるよう)
冷たい空気に包まれて、のぼせた全身からふわーっと湯気が出ています。
(ああ、あ・・・)
山々を見上げながら艶っぽく髪をかきあげました。
凛として見せた顔のすぐ下には、中学生みたいに貧弱なおっぱい・・・。
(ヤあん、見ないで)
それを隠すこともなく、堂々と立ち尽くしている自分がいます。
アンダーヘアも露わなままに、一糸まとわぬ姿でした。
(せめてパンツを、パンツだけでも穿かせて・・・)
きっとあの双眼鏡で、上から下まで、じろじろと眺めまわされているはずです。
そんなこととは夢にも思わずに、気持ち良さそうに全身で伸びをする“この女”・・・。
「ううーん」
薄っすら雪をまとった渓流の美しさに、ぼーっと目を奪われているふりをしてみせます。
憐れな女でした。
どこからどう見ても真面目そうなOLなのに・・・。
本人だけは何も知らずに、覗き男にオールヌードを披露してしまっています。
(泣いちゃう)
(ああん、もうだめ)
(もうイヤあ)
くるっと後ろを向きました。
お湯のぬくもりが恋しくなったかのように、じゃぼっと、再び湯だまりに入ります。
(ひいん、ひいいいん)
正直な気持ち、もう生きた心地がしていませんでした。
遠いようで意外と近い、この50mという距離感です。
しかも、あれだけの双眼鏡・・・。
普通のバードウォッチングとか、そういう感じのものとは明らかに違っていました。
手持ちのタイプではないくらいですから、とんでもない高性能なものの気がしてならないのです。
(怖いよう)
(ああん、こんなの)
(この子が可哀想だよ)
自分で演じている“この女”が、あまりにも気の毒でなりませんでした。
何の罪もない独身女なのに・・・。
たった1人、誰かに守ってもらえることもなく、全裸のまま完全にあの覗き男のターゲットです。
可哀想すぎる・・・。
もし本当に素の女だったら・・・。
きっとショックで立ち直れないだろうに・・・。
私は楚々として見せていました。
何も知らずに、幸せそうに微笑みながら、まったりとお湯にくつろいでしまっています。
この無垢な女を、いじめてやりたい気持ちでした。
(でもお前さあ、おっぱい小っちゃくて、恥ずかしいんだろ?)
お湯から出れば、そのまま見られ放題になってしまうのに・・・。
すっかりのぼせたかのように、ざばっと湯だまりの縁に腰かけてしまいます。
(もっと見てもらえよ、そのおっぱい)
自虐的な気持ちでいっぱいでした。
心の中では双眼鏡の性能に怯えながら・・・。
男の前でコンプレックスの薄っぺらい胸を曝け出しています。
(ああん、イヤあ、見ないで)
両方の腕を頭の後ろに持っていきました。
片側の肘を押し込むようにして・・・湯だまりの縁に腰かけたまま肩の筋肉をストレッチします。
(ああん、恥ずかしすぎる)
あたかもその貧弱さを強調してしまうかのように背筋を反らしていました。
ぐうーっとおっぱいを突き出しながら・・・『この顔と見比べて』とでも言わんばかりに胸を張ります。
乳首がぽっつり尖っていました。
真剣な表情で肩や腕を入念にストレッチしてみせます。
(あああ最高・・・)
この屈辱感がたまりませんでした。
あくまでも、何も知らない可哀想な女になりきります。
(きれいでしょ?私の体、細くてきれいでしょ?)
ここまで来たら、もう同じでした。
どうせ恥をかくのは私が演じる“この女”・・・。
ぱちゃっ。
生真面目そうなこの女を楚々とした表情のまま、湯だまりの縁から立ち上がらせます。
躊躇いはありませんでした。
(私は知らない。本当に何も知らないんだから)
野天スペースの端っこはコンクリートの護岸になっています。
すっぽんぽんのまま、その平面の場所で膝をついていました。
よりによって、あの男の方にちょうどお尻を向けてしまう形で・・・。
四つん這いになってみせます。
(ああん、ばか・・・。こんな格好したら・・・)
ぐーっと両腕を突っ張りました。
背中を仰け反らすようにして、思いっきり腰を突き出します。
大自然の開放感の中、気持ち良さげに、火照った体を左右にひねって見せる“この女”・・・。
(うう、う・・・だめえ・・・四つん這いのままなんて恥ずかしい)
そして、その場でゆったりとピラティスのポーズを取っていました。
右腕と左脚を同時に浮かせて・・・まっすぐ前後に伸ばした格好のまま、ぴたっと静止します。
(あああん、イヤぁぁ)
朝日に照らされたコンクリートの上で・・・真っ裸のまま、羞恥の快感を味わっていました。
(見ないで、人前で恥ずかしいよ)
体幹を伸ばすポーズのまま、頭の中がふわーっと・・・脳がとろけそうなほどの感覚に包まれます。
(ああん、いやあ)
双眼鏡でどこを狙われているのかはわかっていました。
手足の左右を入れ替えて、今度は右脚を宙に伸ばす私・・・。
(ひいいん)
いかにも清廉そうなOLが、剥き出しの太ももをぐーっと反り上げてあげます。
(あああ、男の前で・・・こんな格好・・・)
丸見えのはずでした。
しなやかに宙に浮かせていた脚を辛そうにぶるぶる震わせます。
(ひいいん、恥ずかしい)
手足を下ろして、「ふうう」と、力尽きたように肩で息をしました。
まるで何事もなかったかのように立ち上がります。
澄ました顔で、ざぶ、ざぶっと湯だまりの中に戻りました。
お湯に浸かった途端、ついほっとしてしまったのがいけなかったのでしょうか。
感情をコントロールする琴線が、その瞬間にぷつんと切れていました。
<続く>