(ああ、こんな私・・・特別なんだから)
自分で自分に恥をかかせてしまいながら、どうしようもなく興奮している私がいます。
ボトルのキャップを締めながら、今度はトートの中にあるデジカメの存在に思い至ります。
(そうだ、カメラを使えば、もっと・・・)
一瞬でイメージがよぎっていました。
不自然でしょうか。
いや・・・ここまで来たら、やらずにいられません。
ペットボトルを仕舞って、代わりにカメラを取り出します。
何食わぬ顔をして振り向きました。
湯だまりを回り込んで、堂々とメガネさんのすだれの前を通り過ぎます。
真っ裸のまま護岸のコンクリート部分に立ちました。
ぴぴっ・・・ぴぴっ・・・。
何枚か、川の風景を撮るふりをします。
(ドキドキ・・・)
私が1人勝手に恥をかくだけ。
(ドキドキ)
誰にも迷惑かけるわけじゃない。
(ドキドキ)
最後の躊躇いを振り払います。
(ドキドキ)
演技のしどころでした。
構えたカメラを下ろして、ふっと横を見ます。
女湯全体を見渡すふりをしながら、ちょっと考えている表情をして見せました。
とぼとぼと歩みを返します。
『どこにしようかな・・・?』
そんな顔で、それとなくすだれの方に近づきました。
適当に足を止めて、セルフタイマーをセットします。
覗いているメガネさんの、ちょうどその前辺りで・・・湯だまりに向けて、地べたにカメラを置きました。
急いで湯だまりに入ります。
カメラのほうを振り返って、そのままお湯の中を後ずさりします。
首から上しか出ないように、それらしく肩までお湯に沈めました。
ぴっ、ぴっ、ぴぴぴぴ・・・。
点滅するカメラのランプを見つめます。
いかにも記念写真ふうに、ぎこちなく微笑みました。
ぴぴっ・・・ぴぴっ・・・ぴぴっ。
2~3秒間隔で3回、シャッターが切られます。
お澄まし顔に戻ってお湯の中で立ち上がりました。
ざば、ざば、ざば。
カメラに近づきます。
撮った写真の画像を確認するふりをしました。
そして・・・あからさまに表情を曇らせてみせます。
もう一度、同じように地べたにカメラを置きました。
(ああ、おじさん)
いよいよです。
ざばっ。
私は湯だまりから上がりました。
置いたカメラの後ろに回り込みます。
すだれを背にして、その場に両膝をつきました。
カメラは地べたに置いたまま、その画面を覗きこむように両手を前につきます。
(ああん、おじさん)
地べたに顔をつけんばかりにして撮影画面を覗き込みました。
わずか数十cm後ろにメガネさんの目があるとわかっていながら・・・。
全裸のまま、地べたに這いつくばってみせます。
(イヤぁ、だめぇ)
真後ろのおじさんに、私のあそこを丸見えにしていました。
(見ないでぇ)
男の人が覗いてるのに・・・。
人前でするには、あまりにも大胆なポーズでした。
(ああん、だめ)
おじさんの目を意識して自尊心を掻き毟られます。
(泣いちゃう)
そろそろ限界でした。
長い時間こうしているのは不自然です。
タイマーをセットして、すぐに立ち上がりました。
お湯の中に飛び込みました。
カメラのほうを振り返って、今度は最高の笑顔を作ります。
(恥ずかしい)
無垢な女の子を演じていました。
カメラに笑顔を向けるふりをして・・・その向こうのメガネさんに、にっこり微笑みます。
ぴっ、ぴっ、ぴぴぴぴ・・・。
ランプが点滅を始めています。
片手だけお湯から出してピースサインを頬につけました。
(恥ずかしいよ)
こんなに恥ずかしいことはありません。
あんなにみっともない姿を覗かれたのに・・・その相手の前でこの表情です。
にっこり顔の私に・・・。
ぴぴっ・・・ぴぴっ・・・ぴぴっ。
シャッターが切られます。
(ああん、もう一度)
例えようのない興奮が私を衝き動かしていました。
(もう一度だけ)
ざば、ざば。
メガネさんの方に近づきます。
カメラを手に取って、撮った画像を確認するふりをしました。
「ふうー」
大きくため息をついて見せます。
カメラを持ったまま、湯だまりからあがりました。
自分で演じるこの不運な女の子が、憐れでなりません。
どこからどう見ても、まじめそうな女のはずなのに・・・。
誰もいないから、セルフで記念写真を撮ろうとしてるだけなのに・・・。
(だめ、おじさん見ちゃだめ)
すぐそこからメガネさんが覗いています。
(見ないであげて)
さっきと同じように、その顔を背にして両膝立ちになりました。
湯だまりに向けて、持っていたカメラを地べたに置きます。
(可哀想・・・見たら可哀想だよ)
“何も知らない私”は、両肘までべったり地べたにつけてしまいます。
四つん這いになって、カメラの画面を覗き込みました。
(あああ、だめぇ)
さっきよりお尻の位置が高く、両脚を大きく開いています。
女の部分を露わにしたまま、お尻を後ろに突き出していました。
(見ないであげてぇ)
呑気にカメラの角度を気にしているふりをします。
(可哀想・・・。私、可哀想・・・)
屈辱感に悶えながらカメラをもっと手前に置き直します。
そのぶん自分も下がろうと・・・膝の置き位置をぐいっと後ろに下げました。
ごん。
つま先がすだれにぶつかってしまいます。
一層メガネさんに近づいたその場所で・・・また顔を低くして、カメラの画面を覗き込みました。
わずか20~30cm後ろにあるはずのメガネさんの顔・・・。
その顔の目の前に、お尻を突き出してしまいます。
(あああ、だめぇ)
人に見せられるはずのない恥ずかしいところ・・・。
それをおじさんに・・・。
こんなおじさんなんかに・・・。
二重に膨らむ私の割れ目を、余すところなくお披露目してあげます。
飛び出しきた内側の羽が恥ずかしくて、泣きそうに興奮しました。
(ああん)
もう恥も外聞もありません。
カメラの置き位置を微調整しながら・・・お尻の穴をわざときゅっと窄めます。
そうかと思えば今度は、ふっと緩めます。
(もうだめ)
自分の肛門までお披露目しながら何も知らずにいる、可哀想な女がここにいました。
(だめ、だめ・・・)
すだれに顔を押しつけてニヤニヤしているおじさんの顔を想像します。
(見ないで、もうイヤぁ)
セルフタイマーをセットして立ち上がりました。
興奮して膝がカクカクします。
(だめぇ)
湯だまりに入りながら、必死にお澄まし顔を作っていました。
(もうだめぇ)
ざば・・・ざば・・・。
なんとか素知らぬ顔になってから、メガネさんのほうを振り返りました。
ぴっ、ぴっ、ぴぴぴぴ・・・。
こっちを向いたカメラのランプが、ピカピカと点滅しています。
何事もなかったかのように、お湯の中に肩を沈めました。
(おじさんに、ちゃんと見せてあげなきゃ)
何も知らずに恥をかいた、不運な女のこの顔を・・・。
ぴぴぴぴ・・・。
きちんと口角を上げて、にっこり微笑みます。
ぴぴっ・・・ぴぴっ・・・ぴぴっ。
私にできる最高の笑顔を向けて、すだれに透けるメガネさんの影を見つめていました。
(もうだめ)
もう十分でした。
あまりの恥ずかしさに、これ以上は耐えられません。
笑顔から素の表情に戻した私はカメラに近づきます。
撮った画像を確認するふりだけして湯だまりから出ました。
(自然体・・・自然体で・・・)
それだけを心掛けて帰り支度をはじめます。
すだれのほうは一切見ないようにしていました。
トートにカメラを仕舞って・・・持ってきたタオルを取り出します。
簡単に体を拭いて、ショーツとブラを身に着けました。
下着姿になったところで、さりげなくすだれの方に目を向けます。
(ふう)
そこにあったはずのメガネさんのシルエットは、もう消えていました。
でも、最後まで油断はできません。
念のため・・・ドキドキしながらも、護岸のコンクリート部分に身を乗り出してみました。
すだれの裏に、もう人の姿はありません。
メガネさんが男湯に戻ったとわかった途端、全身が脱力するようにほっとしていました。
すべて自分の意思でやったことだったのに・・・。
自分が思っていた以上に、ものすごく緊張していたんだということを実感します。
(それにしても・・・)
こうやって近くで見ると、本当に隙間だらけのすだれでした。
試しに顔を近づけて向こう側を覗いてみます。
(ああ)
こんなに粗かったら何もないのと同じでした。
(ああ・・・だめ)
このすだれの前で四つん這いになっていた私・・・。
その自分の姿を想像して興奮が蘇ってきます。
(オナニーしたい・・・)
強烈な欲求に襲われます。
まさかここでするわけにもいきませんでした。
(帰ろう・・・早く帰ってオナニーしよう)
もうこんなところに長居は無用です。
持ってきていた替えの服をトートから出しました。
髪がすっかりバサバサでしたが、ゴムで束ねてしまいます。
Tシャツを被ってスカートを穿きます。
最後にまたメガネさんと顔を合わせなければなりません。
恥ずかしくて自虐的な気持ちでいっぱいになります。
でも、行くしかありませんでした。
サンダルを履いて、トートを肩にかけます。
緊張しながら木戸を開けました。
男湯側へと足を踏み入れます。
一番遠いところに、お湯に浸かっているメガネさんの姿がありました。
(いる)
心臓が爆発しそうにドキドキしてきます。
何食わぬ顔で男湯の中を通っていきました。
出口へと真っ直ぐ進んでいく私ですが、メガネさんの前を通ろうとしたとき・・・。
「お帰りですか?」
案の定、しゃべりかけられてしまいました。
「あ・・・はい」
私は足を止めていました。
こちらには何の非もないという前提なのです。
そう思って勇気を出していました。
「ここ、本当にいいお湯ですね」
微笑みを向けたままメガネさんの顔を見つめます。
「本当にそうなんですよ、ここのお湯は」
さっきと同じ、話好きなおじさんそのものの口調で・・・。
「いつ来ても貸し切りみたいなもんですしねぇ」
また畳みかけてくるようなおしゃべりが始まります。
でもさっき話したときとは明らかに目が違いました。
おじさんの目線に、はっきりいやらしさを感じます。
「ゆっくりくつろげました?」
「ええ、女湯も貸し切り状態だったんですよ」
「それは良かったですね」
おじさんの視線を意識しながら、あくまでも楚々として見せます。
そんな私に、とうとうメガネさんの表情がゆるみはじめました。
「山奥すぎて気軽に来れないのが難だけどねぇ。そのぶん、仕事のことなんか忘れちゃうんだよねぇ」
話しかけてくるメガネさんの顔がどんどんニヤニヤしてきています。
(ああん、この顔)
羞恥心が私の心臓をきゅうっと締めつけました。
おじさんを喜ばせてあげようと、「え?・・・どうしたんですか?」と、とぼけたふりをして尋ねてあげると・・・、おじさんは何も言わずにニヤニヤ顔で首を振るだけです。
私は『わけがわからない』という顔で、にっこりしてあげました。
おしゃべりが途切れた瞬間を見計らって・・・。
「それじゃあ、私、行きますね」
もう一度、自分にできる最高の笑みを作りました。
「お先に」
最後まで無垢な女の子を演じます。
(さよなら、おじさん)
もう振り返りません。
階段道を上がっていました。
そのあと、歩道を戻ったときの記憶がほとんどありません。
気づいたら駐めていた車の中まで帰って来ていたような感じです。
まだ興奮の余韻でいっぱいでした。
久しぶりのこの高揚感・・・。
危ない橋を渡ったということは、もちろん頭ではわかっています。
それでも抗いきれないこの陶酔感・・・。
愚かとしか言いようのない行為なのに、満ち足りた気持ちでいっぱいでした。
(あのおじさんだって、きっと喜んだはず)
エンジンをかけて車を出しました。
後悔はありません。
むしろ清々しさでいっぱいです。
それなのに、帰りの運転中に何度も涙を拭っている自分がいました。
(恥ずかしかった)
あのおじさんの表情・・・しばらく忘れられそうにありません。