手頃な岩に腰かけます。
「釣りするとこ、少し見てていい?」
とりあえず、ここまでは狙い通りです。
(話しかけなきゃ)
自分に言い聞かせました。
なんとかして彼らとコミュニケーションを取らなければ、先へと繋がりません。
きっかけを掴めずにいると・・・。
「お姉ちゃん、1人で来たの?」
しばらくして1人の子が話しかけてくれました。
おめめがクリクリの可愛い男の子です。
「そうだよー」
小学校の3~4年生くらいでしょうか。
もう1人のチビっ子には私から話しかけてみました。
「ねぇねぇ、どんな魚が釣れたの?・・・見せてよー」
「今日はまだゼロ」
悔しそうに答える、このわんぱくそうな男の子も3~4年生くらいに見えます。
そして・・・人見知りした様子で、なかなか私と目を合わせてくれない男の子・・・。
このシャイで背の高い男の子だけは、どう見ても中学生です。
「お姉ちゃんも釣り好きなの?」
「えー、私1回もやったことない」
「お姉ちゃんは何歳?」
「えー、内緒」
お姉ちゃんと呼んでもらえたことに、実は内心ほっとしていました。
私はもう20代後半です。
この子たちにすれば、本当はおばさんな年齢なのかもしれません。
でも、私のこの顔・・・それにこの服装・・・。
今日は、あえてノーメイクにしていたせいもあるのでしょう。
実際よりもだいぶ若く見られているようです。
「どこから来たの?」
屈託なく尋ねてくるおめめ君に、「東京だよ」と、にこにこ微笑みながら答えます。
友だち同士にしては年齢がばらばらな、この3人の関係がよくわかりません。
「みんなは兄弟なの?」
今度は私が尋ねると・・・。
「えっ、違うよ!」
わんぱく君が笑いながら首を振っています。
「なんで写真なんか撮ってるの?」
人見知りのシャイ君も、ようやく話しかけてきてくれました。
でも・・・。
「趣味なの・・・楽しいんだもん」
私が正面からにっこりと見つめると、すぐに目線を逸らしてしまいます。
わんぱく君は物怖じせずになかなか積極的です。
「一緒に釣りする?」
「えー、私はいいや・・・見てるだけ」
「オレが教えてあげるよ!」
「えー、私はいいよぉ」
しばらくそんな感じで3人とやりとりが続きました。
それなりにいい展開になってきています。
(なんとかなる)
周りには誰もいません。
こんな山の中で、私とこの子たちしかいないのです。
「そうだ、みんなの写真を撮らせてよ」
カメラを構えました。
「釣りしてるとこを撮ってみたい」
レンズを向けると、みんな照れくさそうな表情を浮かべます。
それでも3人とも釣り竿を伸ばしたポーズをしてくれました。
ぴぴっ・・・ぴぴっ・・・。
顔も写るように回り込みながら何度かシャッターを押します。
視線に気づきました。
おめめ君を撮ろうとする私のことを、シャイ君がじっと見つめています。
(すごい見てる)
この子だけは絶対に中学生です。
一番人見知りな感じですが、視線には大人びたものを感じました。
突然現れたお姉さんのことを意識してる・・・。
それがはっきりわかります。
(私が気になる?)
外見の容姿にだけは自信のある私です。
(きれいな人だなって思ってくれてるの?)
イメージが湧いていました。
(・・・きっとできる)
ぴぴっ・・・ぴぴっ・・・。
さらに何枚か撮影して、「ありがとう」と言い、腕が重くなったかのようにカメラを下ろしました。
そろそろ、いい頃合いです。
(やろう)
実はさっきから目をつけていた物がありました。
シャイ君のすぐ近くに、ミニチュアのようなものが入ったケースが置いてあるのです。
釣りに関してはまったく知識の無い私ですが・・・。
確かあれは、ルアーとかいうやつです。
釣りに使う偽エサだということくらいは私にもわかりました。
少しずつ緊張してきました。
プレッシャーがのしかかります。
内心のドキドキを隠しながら・・・。
「あれっ、これ何?」
シャイ君に近づきました。
そして彼の目の前で前屈みになります。
珍しそうに、そのカラフルなミニチュアに手を伸ばしました。
(見て)
前屈みになったことで、チュニックの胸元が大きく口を開けていました。
目の前のシャイ君に、“偶然にも”中が丸見えの状態になります。
(ああ・・・)
チュニックの中では、サイズの合わないブラがカパカパです。
胸から完全に浮き上がっているのが自分でもわかっていました。
前屈みのまま2秒・・・3秒・・・。
(ああ、見て)
興味深そうに、次々と箱の中のミニチュアを手に取ってみせます。
(ちゃんと見て)
昨日、あれだけ鏡の前で試したのです。
角度によっては乳首まで見えてしまうはずでした。
(見た?・・・見えたよね?)
適当にひとつミニチュアを選んで前屈みから姿勢を戻します。
「きれいだね、これ」
手に取った黄色いミニチュアを見せて微笑むと・・・。
「うん」
頷くシャイ君の目が、明らかに泳いでいます。
自分の顔がかーっと熱くなるのを感じました。
(やっぱり見えたんだ)
彼の表情でそれがわかります。
あまりの恥ずかしさに、どんどん顔が火照ってきますが・・・何も気づいていないふりをしました。
「これ、撮っていい?」
なおも彼の瞳を見つめます。
シャイ君が、「うん」と、こっくり頷きました。
そのぎこちない表情に彼の期待が感じられて・・・。
(ああん、イヤ)
ますます私の羞恥心を煽ります。
恥ずかしさの感情を押し隠して、また前屈みになりました。
チュニックの胸元が無防備に垂れ下がります。
(見て)
足元の小岩の上にミニチュアを並べて、そのまましゃがみ込みました。
(ああん、来て)
しゃがんだまま両手でカメラを構えます。
その作業を見守るかのようにシャイ君が寄り添ってきました。
(あああ、見えちゃう)
チュニックの胸元は、ぽっかりと口を開けたままです。
接写するように両腕を伸ばしてカメラを構えると・・・。
(ああん)
ブラがますます胸から浮きました。
ぴっ・・・ぴぴっ・・・。
シャッターを押します。
(だめぇ)
真横に立ったままのシャイ君が・・・。
(イヤぁ)
さりげなく何度も上から覗き込んできます。
(恥ずかしい)
それでも気づかないふりを続けました。
覗かれてると知っていながら・・・写真を撮るのに夢中になっている無垢なお姉さんになりきります。
ぴぴっ・・・ぴぴっ・・・。
興奮していました。
男の子が夢中になって私の胸を覗きこんでいます。
私は・・・私は・・・男の人に自分の乳首を見られているのです。
(イヤぁ)
屈辱感に背中がぞくぞくしました。
(恥ずかしい。そんなに見ないで)
あああ・・・そろそろ立たないと不自然です。
「よし・・・っと」
何食わぬ感じで立ち上がりました。
「ありがとね」
シャイ君にお礼を言ってミニチュアをケースに戻します。
彼の顔を見ると・・・。
(あ・・・)
まだ中学生とはいえ、さすがに男の子です。
無表情を装いながらも、にやけを隠しきれていません。
(この子、こんな顔するんだ)
自分の顔が赤くなっていないか心配でした。
(ああ・・・イヤ)
心臓がドキドキしています。
興奮の、もう真っ只中にいました。
(イヤぁ、恥ずかしい)
この感覚・・・このドキドキこそ、私が求めていたものです。
久々に味わうこの高揚感に自分の気持ちを抑えられません。
無表情を取り繕おうとしているシャイ君に、「どうしたの?」と、にっこりと微笑みを向けます。
なんでもないというふうに首を振るシャイ君を見つめながら・・・。
(もうだめ)
興奮に背中を押されていました。
(次は?・・・次はどうする?)
トートの中にカメラを仕舞います。
とりあえず、彼らとはちょっと離れた岩に腰かけました。
(どうしよう)
こんなチャンスはそうそうありません。
頭の中で一生懸命に考えを巡らせます。
それなのに・・・。
(え?)
信じたくない光景を目にしていました。
(あ・・・)
向こうで、おめめ君とわんぱく君が釣り道具を片付け始めています。
(まさか)
嫌な予感がしました。
おめめ君が何かシャイ君に声を掛けています。
何を言っているかまではわかりません。
(え・・・え・・・?)
その様子を眺めながら胸騒ぎがしていました。
(うそ・・・そんな・・・)
シャイ君も荷物を片付け始めています。
(嘘・・・もう帰っちゃうの?)
「今日は釣れないや」
わんぱく君がこっちに近づいてきます。
「オレたち帰るね」
(まずい・・・本当に帰っちゃう。なんとかしなきゃ・・・)
そう思っても体が動きませんでした。
「そっかあ、気をつけてね」
つい、にっこりと微笑んでしまいます。
おめめ君とシャイ君も、「バイバイ」と、向こうで手を振っていました。
「バイバイ」
彼らに手を振り返すしかありませんでした。
(このまま帰られちゃう)
わかっていても、どうにもなりません。
(ああ、逃げられちゃう)
去って行く3人の後ろ姿を見送りながら何も出来ずにいました。
(ああ・・・そんなぁ)
岩場の狭間に1人取り残されます。
あまりの呆気なさに、呆然としてしまっていました。
こんなことってあるでしょうか。
せっかく掴みかけたチャンスが、ものの見事に手の中からすり抜けていった感じです。
川の流れを見つめながら途方に暮れていました。
(あーあ)
つくづく思うようにならないものです。
(もっと積極的になれば良かった)
ものすごい後悔に襲われていました。
あのときのシャイ君の表情・・・。
乳首を見られてしまう屈辱感・・・。
思い返すだけで胸苦しくなります。
どうせ周りには誰もいなかったのです。
私自身が大胆になれば、もっと何でも出来たはずでした。
(千載一遇のシチュエーションだったのに・・・)
そう思うと、ますます悔しさが募ってきます。
だからといって・・・今さら嘆いたってどうなるものでもありません。
(帰ろう)
本当に久しぶりにあの興奮を味わうことができたのです。
それだけでも満足でした。
(もともとダメ元だったんだから)
下流の方へと戻りながらシャイ君の顔を思い浮かべます。
そういえば、そもそもあの3人組はどういう関係だったのでしょうか。
それぞれ年齢もバラバラでしたが・・・。
結局、それもわからずじまいです。
森の細道を車へと歩いていました。
鬱蒼とした木々と蝉の声・・・。
来たとき以上に日差しを暑く感じます。
汗がだらだらと背中を伝いました。
歩きながら実感していました。
(昔のようにはいかないな)
勘が鈍ったということでしょうか。
どうあがいても、もう以前の自分とは違うのかもしれません。
車に辿り着きました。
ドアを開けると、中は熱気が充満しています。
もう、元の服に着替えるのも面倒でした。
そのまま車に乗り込みます。
(あっちぃ)
汗が噴き出していました。
エンジンをかけてエアコンをつけます。
吹きつけてくる冷たい風に、ようやく生き返った心地になりました。
なんだかぐったりでした。
(帰ろう)
もう終わったのです。
これからまた長い時間、自分で運転していかなければなりません。
気持ちを切り替えていました。
スマホを手に取ります。
せっかく遠出してきたんだから・・・。
(何か美味しいものでも食べて帰ろう)
食事できそうなところを探して、この辺りのことを調べてみます。
すると・・・偶然にもこの近くに温泉があることを知りました。
車でなら、ほんの10分か15分で行けそうな距離です。
(お風呂に入っていこう)
私は結構温泉好きなこともあり、迷いはありませんでした。
せっかくなので汗を流してさっぱりして帰ることにしたのです。
多少遅くなってしまうかもしれませんが、たいしてお腹が空いているわけでもありません。
(お昼はそのあとでいいや)
車をスタートさせます。
国道に戻る道を途中から逆に進みました。
(この辺かなぁ?)
目印を見落としてしまわないようにスピードを落として運転します。
もう男の子たちとのことなんか忘れていました。
いつまでもくよくよしていたってしょうがありません。
それよりも、思いがけず温泉に入れるかもしれないことに喜んでいました。
<続く>