俺はスマホのメモアプリを見ながら答えた。
祐介とは大学の頃からビリヤードをよくやった。
そして毎回賭けで勝負をしているが、実際にお金のやりとりはなく、こうやって数字上の金額だけを記録し続けている感じだ。
それにしても、俺もいい負けっぷりだと思う。
ひと勝負500円程度の賭けで、ここまで負けが貯まってしまうということは、俺にはビリヤードの素質はないのかも知れない。
「そろそろ精算するか?」
祐介が笑いながら言う。
と言っても、祐介も本気で言っているわけではない。
彼は卒業と同時に親父さんの会社に入社し、まだ30歳前だというのに、もう役員になってしまった。
親バカで典型的なダメな親族会社のテンプレかと思いきや、若い祐介が積極的にネットでの販売ルートを拡大していった結果、粗利が3倍になるという大貢献をしたそうだ。
なので、祐介はまったくお金には困っていない。
その上、俺はいつも色々とご馳走してもらったり、お下がりを譲ってもらったりしている情けない状態だ。
彼の車がBMWのM4で、俺の車はフィット・・・そんな感じの格差。
ただ、一つだけ俺が勝っているものがある。
それは嫁の優香だ。
なぜ俺と結婚してくれたのか未だにわからないが、俺に一目惚れした優香が猛アタックしてきて、すぐに結婚することになった。
優香は俺の取引先の受付の女の子で、最初に会った時から可愛いなと思っていた。
当時まだ23歳で、肩までの真っ黒な髪がとても艶やかで、清純なイメージだったのをよく覚えている。
大きな瞳と、すっと通った鼻筋、ちょっと冷たい感じのする美人な顔だが、少しアヒル口っぽい感じの口のせいで全体で見ると可愛らしい印象だ。
なぜだかわからないが、優香は俺に一目惚れしたらしい。
そして次に彼女の会社に訪問した時、アドレス(当時はまだメルアドだった)を渡され、すぐにデートをするような関係になった。
「いつもこんな事してるの?」
誰にでもメルアドを教えているのかな?と思って聞くと、「初めてですよぉ。だってウチに来る人で、高橋さんみたいな人いなかったし」と、少し頬を赤くして言う。
「俺みたいって?どんな感じなの?」
「内緒です」
「なんだよそれ。からかってるの?」
「違いますよぉ!私の好みのタイプってことです」
そう本当に照れながら言った優香。
この時、俺も優香のことを本気で好きになったんだと思う。
そして金曜の夜に一緒に食事をし、俺の家に誘って結ばれた。
今どき当然だと思うが、優香は処女ではなかった。
でも、経験豊富という感じでもなかった。
俺もそれなりに遊んできたので、特に過去のことは聞かなかったが、せいぜい1人か2人程度だと思った。
それから結婚まではあっという間だった。
そして優香は今年で26歳になった。
俺は来年30歳だ。
子供はまだいないが、そろそろ作ろうかなと思っているところだ。
「なぁ、腹減ったろ?ウチで飯食うか?」
俺が祐介を誘う。
すると祐介は本当に嬉しそうに、「いいのか?スゲぇ嬉しいよ」と素直に言った。
祐介は優香のことがお気に入りだ。
いつも「羨ましい」と言われている。
そして俺も自慢というわけではないが、少し優越感もあって、こんな風に彼を自宅に誘う。
俺はすぐに優香に電話をした。
「いいよ。じゃあ、もう作り始めとくね!」と、優香も嬉しそうに言う。
結婚して会社も辞めた優香は、まだ子供がいないということもあって、なかなか話し相手がいない。
子供が出来ればママ友とかも出来るのだろうが、今は寂しい思いをさせているなと感じることが多い。
なので俺が祐介を連れて行くと、本当に嬉しそうにしてくれる。
祐介のM4で俺の家に向かった。
俺のフィットに比べると加速も尋常ではないし、音にも痺れる。
「でも、これってスピーカでエンジン音を足してるんだぜ。ターボだから音がそんなに良くないんだとさ。インチキ臭いよな」
祐介はそんな説明をするが、俺にしてみれば、そんなのは関係ない。
作られたサウンドだとしてもいい音だと思うし、いつかはこんな車を転がしてみたいと思うが、俺の給料では叶わない夢に終わりそうだ。
部屋の鍵を開けると、すでに玄関に優香がいた。
「祐介さんの車、音ですぐわかっちゃいます」
笑顔で言う優香。
一瞬、嫉妬心みたいなものが頭をもたげるが、「圭ちゃん、おかえり、んっ!」と、祐介がいるのも構わずキス待ちの顔をする優香。
俺はメチャクチャ嬉しいが、祐介の手前、軽く唇を合わせる程度のキスをする。
「今日もお疲れ様」と俺のカバンを持ってくれる優香。
「相変わらずラブラブだねぇ」と、からかうような感じで言う祐介。
でも羨ましいと思っている感じが伝わってくる。
「祐介さんは結婚しないんですか?ラブラブっていいものですよ」
優香がそんなことを言う。
「なかなか相手がね。優香ちゃんみたいないい子、なかなかいないんだよね」
「またまた~。私みたいな女の子なんてそこら中にいますよ」
優香は元気よく言う。
でも嬉しそうだ。
俺があまり褒めたり出来ない性格なので、こんな風に褒められるのは嬉しいのだと思う。
そして3人での夕食が始まった。
「いや、ホントに美味しいよ。優香ちゃんって可愛いだけじゃないんだね」
祐介が勢いよく食べながら言う。
「褒めても何も出ないですよ?」と、優香は満更でもない感じだ。
こんなに楽しそうな優香を見ていると、俺まで幸せな気持ちになってくる。
しばらく楽しい歓談が続くが、さっきのビリヤードの話の流れで、「え?借金?」と優香が眉をひそめた。
「そうそう。圭介、ビリヤードの負けが100万もあるんだよ」
笑いながら言う祐介。
「いや、だから89万だって」
俺が訂正する。
「そんなに!どうするの?お金ないよ」
優香が真顔で言う。
「いや、数字だけだから。本気で貰うわけないじゃん」
祐介が慌てて説明をする。
「でも・・・。いつもごちそうになってるし、悪い気がするよ・・・」
優香が悲しそうな顔をする。
「じゃあ優香が身体で払っちゃう?」
場を明るくしようと、茶化して言った。
「え?・・・うん。私なんかで良ければそうする」
優香は真顔で答える。
「え?優香ちゃん、何言ってるの?」
祐介がビックリした顔で言う。
「いや、冗談だって!」
俺も慌ててそんなことを言うが・・・。
「お金のことはちゃんとしないとダメだよ。そうやって友情が壊れるのって、すごく寂しいよ」
思い詰めた顔で言う優香。
あまりに真剣な顔で言う彼女に俺も祐介も言葉が出てこない。
「もう、そういうの見たくないんだ・・・」
意味ありげに言う優香。
どうやら過去に何かあったみたいだ。
「じゃあ圭ちゃん、ちょっと出てくれる?30分くらい・・・コンビニでも行って来てよ」
普通の顔で言う優香。
冗談を言っている気配はない。
「な、何言ってんの?そんなのダメだって!俺がちゃんと返すし!」
「いや、いいって、そんなことしなくても!金なら困ってないし、そうだ!たまにこうやって夕ご飯ごちそうしてくれれば、それでOKだよ!」
祐介も慌てている。
彼の人の良さが滲み出ている感じがした。
「いいから行って・・・。私は大丈夫だから」
「だって、おかしいでしょ!そんなことでセックスするなんて」
「え?セックス?」
キョトンとした顔で優香が言う。
「え?違うの?」
「そんなわけないじゃん!圭ちゃんがいるのにエッチなんてするわけないでしょ!バッカじゃないの!」
顔を真っ赤にして言う優香。
でも、だったらどういう意味だったんだろう?
「早く行って。30分くらい時間を潰してきてね」
優香はそう言って、部屋から俺を追い立てるようにして強引に外出させた。
意味がわからないと思いながらも、「エッチはしない」という言葉を信じてコンビニに行った。
落ち着かない気持ちのまま立ち読みをしたが、全然頭に入ってこない。
仕方なくコンビニを出て、家の前まで移動した。
3階の俺の部屋は電気が点いたままだ。
(あの中で今、何をしているのだろう?)
嫌な想像ばかりしてしまう。
俺がビリヤード弱いばっかりに・・・。
(でも、エッチじゃない方法で『身体で返す』って、どうやるのだろう?)
そんな事ばかりを考えていた。
30分経過すると、すぐに俺は自宅に戻った。
すると、もう祐介はいなかった。
「あれ?祐介は?」
「もう帰ったよ」
優香は落ち着いた感じだ。
服も着てるし、髪も乱れていない。
「え?何したの?」
「手でしてあげただけだよ」
「えっ!!」
「私はお口でしようとしたんだけど、手でいいんだって。それで1回で5万円引いてくれるって!だから、あと17回だよ」
スッキリした顔で言う優香。
「手でイカせたってこと?」
俺は信じられなかった。
「うん。そんなのでいいなんて、やっぱり祐介君って優しいよね」
優香は罪悪感など一切感じていないようだ。
「そんなのダメだよ!浮気みたいなもんじゃん!」
「え?どうして?キスもエッチもしてないのに?」
「い、いや、でも・・・」
「そんなんで借金がなくなるんだから、ありがたいって思わないと」
優香はどこまでも真剣な顔だ。
「ゴメン・・・。俺のせいで嫌な思いをさせちゃって・・・」
「いいよ。祐介君だったら全然平気だしね。もうお金を賭けちゃダメだよ!」
優香は笑いながら言った。
俺は気持ちの整理がつかなかった。
嫁が手でしごいて友達を射精させる・・・。
それって浮気ではないのか?
混乱してしまって、よくわからない。
でも・・・手コキで5万は高すぎると思う。
そんなグチャグチャな感情のまま風呂に入り、ベッドに潜り込んだ。
すると優香が抱きついてきた。
「ねぇ、怒ってる?」
「イヤ・・・。怒ってないよ」
「良かった・・・。ねぇ、エッチしよ?」
そう言って抱きついてくる優香。
俺は嫉妬や色々な感情で頭がグチャグチャだったので、すぐに優香のパジャマを脱がせ始めた。
「アン。圭ちゃん、怖いよぉ」
いつもの可愛らしい声で優香は言った。