なぜかは分からないが、水曜日が女友達というのは固定になっていった・・・。
毎回5、6人の連中と楽しく酒を飲み、下らない話で盛り上がっているだけで幸せだった。
そして水曜日。
いつものようにチャイムが鳴る。
「開いてるよー」
いつものように俺が答えると、いつもは平気でドカドカ入ってくるはずの奴らが入ってこない。
(・・・?)
仕方ないので出てみた。
(ん・・・???)
そこにはあまり話したことがない同級生が立っていた。
学校にも行かずに釣りばかりやっていた俺には、あまりにも遠い存在って感じの可愛い子。
石川亜沙美にそっくり。
「どうした?」
俺が尋ねると・・・。
「あ、いや、いつもここで飲み会やってるってA子が言ってたから・・・」
なぜか恥ずかしそうにしている彼女を家に招き入れ、魚をさばいてみんなを待つことにした。
よく知らない可愛い女の子と自分の部屋で2人きりというのは想像以上に気まずい。
いつも一緒に飲んでいる女共とは明らかに違うおしとやかなタイプだったからかもしれない。
10分後、会話に詰まった俺達は先に飲み始めることにした。
2人ともいい感じに出来上がって他愛もない話で盛り上がっていたとき、俺の携帯にメールが入った。
『ごめーん・・・今日、他の飲み会が入っちゃってみんな行けないわー。シコッて寝ちゃって下さい(笑)』
・・・とても女が寄越すメールとは思えない文面に俺が苦笑していると、彼女がこう言った。
「じゃあ、もしかして今夜は2人だけ?」
(うわぁ・・・気まずい・・・)
さっきの嫌な空気がまた戻ってきたようだった。
急に俺の顔が引き攣ったのかも知れない。
「なに?私とじゃ不満?」
・・・目付きが怖い・・・。
俺が首を横に振ると、彼女は満面の笑顔に戻って・・・。
「んじゃ、朝まで飲みますか!!!!!!」
って俺、そんなに酒強くないし・・・。
ってその前にお前、すでに結構きてるだろ?
キャラ変わってるし・・・。
そんなツッコミを飲み込んで、俺達は朝まで飲むことにした。
こんな可愛い子と2人きり。
正直下心がなかったとは言わない。
だっていっつも人が多すぎなんだもん。
さて2時過ぎ。
俺も彼女もだいぶ出来上がり、下ネタも炸裂し始めていた。
「俺クンは、どんくらいの胸が好き~?」
「あー、あんまにデカいのは嫌いだけど?」
突然、彼女が俺の手を取り、自分の胸に押し付けた。
「こんくらいは?」
「あ、いや、最高ですけど・・・」(なぜか敬語w)
でも、なぜか彼女は不服そうである・・・。
「これでもEあるんですけどー?デカいのは嫌いなんでしょ~?ぐへへへ~」
(ぐへへへ~?)
あかん。
もうあかん。
完全に逝ってる・・・。
でも、超可愛い!
って、その前に、Eカップは巨乳なのか?
いや、待て、デカいぞ・・・うん。
デカいデカい。
ん?
あ、これは罠だ!罠に違いない!
絶対危険日だ!
(しかし、マジで誘ってるんだったらどーしよー、うわぁぁぁぁぁぁぁ・・・)
と、考えてるうちに彼女が寝てしまいました・・・。
仕方ないので抱き上げてベッドに寝かせ、1人で暗い酒を飲みました。
自分の勇気のなさを恥じながら飲みました。
そして朝になりました。
途中で悪戯しようとも思いました。
でも思い留まりました。
午後から実験です。
ここで寝たら絶対に起きれません、あぁ・・・。
「ふぉ・・・」
ガバッと布団をはねのけ、彼女が突然起きた。
「あ、おはよう・・・」
ビックリして挨拶すると、彼女は「よー」って感じで手を上げた。
「寝てないん?」
「ん、飲んでた・・・」
「まだ眠いから一緒に寝よ?」
「・・・ん」
意識が朦朧としていた俺は彼女に抱きつきながら寝てしまった。
彼女がモゾモゾしてるんはわかったけど気にせずに。
そして夕方。
起きてみると顔に柔らかいものが・・・。
(ん?・・・オッパイ!)
ごめんなさい。
俺のヨダレが付いてます・・・。
しかも胸のとこに・・・。
俺が起きたのに気づいた彼女が笑顔で、「おはよ」と挨拶した。
俺は慌てて飛び起き、ひたすら謝った。
実験をサボらせちまったってのもあったが、何より一晩中“胸枕”してもらっていたかも的な罪悪感が何とも・・・。
「色んなとこに触られたぁ~!」
ニヤニヤしながら彼女が言う。
聞けば、パンツに手を入れたり、胸を直揉みしたり、マジで酷かったらしい・・・。
すんません、マジで覚えてません。
さすがに2人で日本酒1升半(ほとんど俺)は飲み過ぎました・・・。
寝る前までの記憶は全部あります。
てか、寝てからの記憶を俺に返せ!
しかも・・・気持ち良かったらしい・・・。
しかも・・・俺の顔が痛いかも知れないってんで、ブラまで外してくれたいじらしさ・・・。
なぜにこの子は、そんなによくも知らない俺のためにここまでしてくれる?
大学の教授に釣ってきた魚をあげて単位もらってたカスですよ?
いいんですか、俺で?
いいんですか、こんなカスで?
正直、惚れました。
その後、彼女は毎週水曜日の飲み会に必ず顔を出すようになった。
他の女子たちに疑われたりもしたが、気にもせずに・・・。
俺はこの関係が壊れるのが怖くて、彼女に何も言えなかった。
一緒にいた2年間、何も言えなかった。
自分の不甲斐なさに涙が出そうです。
卒業して数年・・・。
彼女を忘れようと、何人かの女と付き合った。
当たり前だけど、そんな気持ちで長続きするはずもない。
そして約1年ほど前。
当時の飲み会に参加してた女友達とたまたま会ったんで、それとなく話を振ってみると・・・。
彼女はなぜかこんな俺に惚れてくれてて、あの日、2人きりになれるように仕組んでいたらしい。
この話を聞いて、頭の中が真っ白になった。
ゲラゲラ笑ってる女を殴りたくなった。
そして色々考えた。
思えば彼女からは何回もアプローチがあった気がする。
「釣りに連れてって」と言われて一緒に崖を下りたり、一緒に大波を被ったり、マイナス20度の世界で氷に穴を開けたり・・・。
俺ってマジで駄目人間だ・・・。
卒業式の日、泣きながら俺にしがみついてきた彼女。
俺も泣いていたが、彼女を抱いてあげられなかった。
頭を撫でるのが精一杯だった。
関係が壊れるのが、ただひたすらに怖かったから。
・・・駄目だ。
もう何年も前のことなのに泣けてくる。
何で俺はあんなに臆病だったんだろ?
彼女と付き合ってれば、今頃俺はどーしてるのかな?
子供とかいるのかな?
彼女と付き合いたかった。
心から好きだって言えるのは、今まで生きてきて彼女だけだった。
正直に言う。
一度でいいから彼女とやりたかった・・・。