俺にとってチンチンがデカくていいことなど、これまで一つもなかった。
おまけに、「風俗嬢はデカチンは大嫌い」「女の子が告白!大きさなんて関係ない!」など、俺のもとに集まる情報は不利なものばかり。
19の春を迎えても俺は童貞のままだった。
大学に入り、俺はブラバンをやることにした。
正直まったく経験がなく、運動バカだった18年間だが、とにかく人前で着替えなくても済むような部活に入ろうと決めていたのだ。
吹奏楽なら、俺のデカチンをからかうような下品な男もいないだろうし、女子も多いので俺の灰色の青春に終わりを告げるチャンスも増えるに違いない。
まったくの初心者は珍しがられたが、俺のやる楽器は先輩によってチューバに決められてしまった。
身長182センチで体重82キロ、水泳で無駄に広がった肩幅を見て決められたのだろうか?
初心者の俺に先輩方は丁寧に教えてくれ、俺も初めて経験する文化部の和やかな雰囲気に満足していた。
3年生や4年生のお姉さま方は、もっちゃりとしたうちの大学にしては結構垢抜けていて、身長と同じく年々増大していく性欲を昇華するロンリーな行為に、優しく教えてくれる先輩方を使ってしまい、しばしば自己嫌悪に陥ることもあった。
7月が終わり、そろそろ授業も休みになる頃、チューバのリーダーをしている先輩(♂)が、「あのさあアベッチ(俺)、家庭教師やるつもりない?」と聞いてきた。
ブラバンはなぜか文系の生徒が多く、俺のような理系バカはその先輩を入れても少なかった。
「俺で良ければ、バイトも何にもしてないですし、そろそろ仕送りだけじゃ辛いかなって思ってたとこなんで助かります」
と俺は答えた。
「15歳の男の子なんだけどね、数学だけが苦手なんだよ。俺さあ、落ちると思ってた留学試験に受かっちゃって。紹介してくれたのがアベッチも知ってる××先生だから、こりゃどうしようかなと思って」
先輩が言う××先生というのは、個人的に演奏を見てくださる人のことだ。
次の週、俺は先輩の車の助手席に座り、一応面接らしきものを受けに向かっていた。
「アベッチに頼んだのはさ、もちろん理系ってこともあるんだけど」
先輩が俺に言った。
「あるんだけど、なんですか?」
「アベッチさ、うちの女子に教わる時、すげえ緊張してるよね(笑)。同期の女子と話すときもなんか表情が硬いし」
俺は少し傷ついた。
「男子校だったんで、キモいっすか?」
先輩は少し慌てたように、「あ、違う違う、アベッチって女子に人気あるんだよ」と笑った。
「いいですよ。別に」
俺は少し傷ついたのでぶっきらぼうに返事をした。
「だから違うんだって」
と、先輩はタバコに火をつけながら俺に言った。
「アベッチみたいな雰囲気の奴って、あんまりうちみたいなとこにいないじゃん。まあガタイもいいし、妙に礼儀正しいし、練習はまじめだし」
「はあ」
「うちに女子どもがアベッチにつけたあだ名って知ってる?」
「知りません」
「武士」
そう言って先輩は笑った。
「『ドーモくん』ってうのもあるらしいけど。あのさ、悪口じゃないと思うよ」
そう言われても俺は結構傷ついた。
「あのさ、今から行く家のお母さんがなかなかの美人でさ。うちって結構ちゃらちゃらした奴が多いっしょ?でもアベッチなら間違いはないと思って。向こうもアベッチみたいな爽やかな方が安心すると思うんだよな、うん」
結果的に先輩の期待を裏切ることになってしまったわけだが・・・。
マンションに着いた。
その家は4LDKのいわゆる高級マンションだった。
“なかなかの美人”というお母さんは、確かに綺麗だった。
中3の息子がいるようにはとても見えず、小柄だがアクセントのある体つきで、セミロングの栗色の髪の毛は綺麗にセットされていた。
で、とりあえず面接は合格だった。
先輩や先生の顔を潰さないように、俺はとにかく真面目に教えた。
もともと数学を教えるのは嫌いではなく、ユウダイ君(仮名)も俺に懐いてくれた。
そして俺は週2回のカテキョーが楽しみになっていった。
成績が目に見えて上がったのも嬉しかったが、これはそれまでが悪すぎただけで、コツさえ教えれば中学の数学は誰でもできる。
俺の楽しみはもちろん、綺麗なお母さんだった。
どことなく宮崎よしこに似た顔立ちや優しい声。
小柄なのに結構胸が目立ち、腰や脚は細いほうだ。
俺のロンリーフィンガープレーの対象は、お母さん一色になっていた。
ユウダイによると、21歳の時に生まれたらしいので、今は36歳になるわけだ。
その日も俺は紅茶を置いて部屋を出ていくお母さんの脚とお尻を超横目で見ながら、「さて」と仕切り直した。
ユウダイが、「今度あいつらが家に来るんだよ、嫌だなー」と背伸びした。
「友達が家に来るのが嫌なのか?」
俺は聞いた。
「この前さ、三者面談で母さんが学校に来たんだ」
「へえ、で?」
「あいつらさ、『お前の母さん美人だなー』とか『見てるだけで立った』とか言うんだよ」
ユウダイは怒っていた。
「先生みたいに大人じゃないんだよな、あいつら。人の母親をそんなふうに見るなってーの、ね?」
俺は恥ずかしかった。
2学期がはじまり、ユウダイは無事中間をクリア、後は期末を乗りきれば内申はほぼ安全圏内に入るほどになった。
その日、俺は部活を終え、バイクに跨がりユウダイの家に向かった。
途中でいきなり物凄い雨が降ってきた。
カッパを忘れた俺は結構なずぶ濡れでユウダイの家に着いた。
部屋番号を押してしばらく待つと、お母さんの声が聞こえた。
「アベです」と言うと、「え?」といつもと違う反応。
オートロックが解除され、俺は家にあがった。
部屋に入るとユウダイはいなかった。
今日からサッカー部の合宿があり、引退した3年生も学校に泊まり込みで指導にあたるらしい。
「あの子、先生にちゃんと言うって・・・」
お母さんは申し訳なさそうな顔をしていた。
そして、「でも」と笑いながら「ひどい格好、びしょびしょじゃない」と言い、「とりあえずシャワーを浴びてください」と、さらりと怖いことを言った。
「いえいえいえ」
俺は手を振った。
しかしお母さんはまじめな顔で、「先生に風邪を引かすわけにはいかないでしょ?とりあえず温かくしてきて下さい」と俺を風呂場に誘導し、「脱いだらそこの篭に入れておいて下さいね」と言った。
俺は熱いシャワーを浴びながら、頭から必死で妄想を振り払っていた。
<続く>