彼女は自分の可愛さを自覚している奴で、高校のときはラグビー部やらサッカー部の奴を手玉に取ってた。
付き合って3ヶ月で別れたり、そういう奴。
俺は中学から高校一緒になった時期に彼女を好きだったりもしたんだけど、まあとてもじゃないんだけど手におえないから諦めた。
実際よく喋るようになったのは大学生になって中学校の同窓会をやってから。
両方地元に住んでるからそれ以降、半年に一度とか一年に一度位のペースで近況を報告しあうようになった。
本当に近所だから髪を切ったのも親から聞いたくらい。
食卓での会話。
母「今日パート帰りに会って少しお話したんだけどね、◯◯さんちの由香ちゃん。髪切ったのねえ」
俺「へえ」(もぐもぐ)
母「あなたも切りなさいよ。サラリーマンなんだからそんなむさい頭じゃ」
俺「うっさいなあ。そんな長くないって」
ってなもんだった。
久しぶりだなと思って、部屋に戻ってメールした。
『お久しぶりです。暇?飲み行かね?』
10分後。
『おひさ。行く。いつ?』
一週間後、地元のお好み焼き屋に行った。
久しぶりに会ったら肩まではあったけれど、確かに髪は短くなってた。
シャギー入れて、耳元にはピアス。
髪を切るたびに後悔する俺と違って、お洒落な奴は何やってもお洒落なもんだなと思った。
「お久しぶり」
「おひさ。先週お母さんと会ったよ。まだスーパーでパートやってんの?」
「もういい加減古株だよ。友達いるから辞められないって」
学生の頃はこんな口調じゃ絶対話せなかった。
こうやって話せるようになったのも近況を伝え合ったりできるようになったのも就職して、容姿でもスポーツでも金でもないものに俺が誇りを持てるようになったからだと思う。
ちゃんと話してみれば彼女はラグビー部やサッカー部の彼女じゃなくて、同級生の女の子だった。
向い合わせの席に座ってぽっぽ焼きのイカとビールを頼んで仕事の近況報告。
「出張多くて参るよ」
「あ、お母さん言ってた」
「1週間の出張3連続。ワイシャツも何もなくなって大変だったよ」
「へえ、私はデスクワークだからわかんないけど。なんかそういうのっていいなあとか思うけどね」
「いやー別に上手いもん食える訳じゃないしね。入って2年目じゃ下っ端もいいところだし」
当たり障りのない話をしながらビールを3杯ほど。
4杯目からは近所の話。
「青木君いたじゃん。紀子ちゃんと結婚したんだって」
「マジで!?うちの中学、これで3組目だっけ?」
「たぶん。多いのかな?」
「いやー、わからんけど。同級生ってだけじゃなかったらもっと多いかもな」
「恐ろしいね。ミンミンなんて子供2人目産まれるしね」
「へー」
当たり障りのない話をしながらビールを2杯。
お好み焼き屋の親父が話に加わる。
「うちの娘だって同級生と結婚したよ」
「嘘、じゃあここからも近いの?」
「近いもなにも魚正の息子と。一昨年」
「えーーー。お好み焼き屋の娘と魚屋の息子が結婚したの?」
由香が噴き出す。
「そうなるな」
はっはっは、と笑いながら言ってた。
ビール一杯。
そろそろ2人ともいい顔色になってきたから、河岸を変えることに。
15分くらい歩いて駅前のワタミに行った。
「ワタミって久しぶりだな」
「俺は3日ぶり」
「来過ぎ。それ」
「だって家から近いじゃん」
「なんか美味しいのあるの?」
「・・・ないね」
2人で笑いながら入った。
日本酒とワイン一杯ずつ。
「恋人は?」
「いないね。相変わらず」
「あれ?大学のときいなかったっけ?」
「・・・君のことが忘れられなくてね。別れたよ」
「うわ、嘘だ」
「泣いて『捨てないで』ってすがりつく彼女に俺は言ったね」
「なんて?」
「こんな俺でも待っている人がいるんだ。行かなくちゃいけない・・・ってね」
「カッコイイね」
「ただいま・・・由香」
「待ってないよ」
カクテルとお摘みと日本酒(おそらく)。
「お前どうなのよ?」
「私?私は別に」
「髪切ってるじゃん」
「気分です」
「嘘だ」
「う・そじゃないですー」
「男じゃないの?」
「私は男じゃないですー」
「か・みを切った理由は男じゃないんですか?」
「違うもん。違うし。ぜっんぜん違うし!」
ワインとチーズ、後サワー(たぶん)。
「あれでしょ?こう、失恋したから切ったんでしょ?」
「違うし。振られたことなんてないし」
「じゃあ振ったんだ。それで罪悪感で。やだね。汚れてるね」
「違うっつうの。ていうか私、処女ですから。男なんて知らないですし」
「うわ・・・」
「何よそれ」
「俺童貞」
「大嘘つかないでよ」
「俺のセリフでしょそれ」
シメに日本酒とお茶漬け(のはず)。
いい加減に酔っ払った彼女と家路につく。
「いやーー相変わらずざるだね」
「そっちもだろう。なんぼ飲んだよ今日」
「わかんない。あーーふらふらする」
そう言うと狭い坂道をジグザグに歩いてた彼女が急に手を取ってきた。
胸の膨らみが押し付けられてきたけれど、正直酔っ払ってたからその感触がどのくらい柔らかかったのかとか、そういったことはあんまり覚えていない。
彼女がしがみついて来るようにして、俺は引きずるようにして歩いた。
そして彼女の肩を抱くように抱えた。
恋人と別れるとか、今の仕事のこととか、誰でも抱えているけど自分にとってはすごく深刻で、人に言うとチープになってしまう悩み。
そういったものに押しつぶされそうな気持ちは俺はよくわかった。
俺は今よりもむしろ学生時代がそうだったから。
「色々あるんだな。わかるよ。色々ありすぎてわかんなくなることってあるよ」
そう言って肩を抱えなおす。
もし俺の肩でよければ、いつでも貸してあげたい。
そう思った。
彼女は上目遣いで俺のことを見て。
「何にもないのよ」
そう拗ねたように言った。
「は?」
「はーー。だから何にもないんだって、ここ1年くらい」
「何にもないって?」
「1年前に大学のときの男と別れてから何にもないの。事務職で周りは子供2人とか3人とかいるおばちゃんばっか。仕事終わってもやることないし」
酔ってるとき独特の早口で捲くし立てられる。
「合コンとかは?」
「私あんまり友達いないし」
「それ以外に出会えるようなところは?」
「あ、スポーツジム行ってる」
「じゃあそこで」
「マッチョ嫌い。キモイ」
「マッチョばっかじゃねえだろ」
自然と坂を下りた所の公園に足を向けてベンチに座った。
「だから?飢えてんの?」
そう言うと意外なほど素直に彼女は頷きながら言った。
「飢えてるって言い方悪いし」
「人肌が懐かしいとか?」
「それもエロいし」
「人のぬくもり、暖かさを感じたい」
「そうそれ」
「捨てられた犬みてえ」
「うるさいわね」
ベンチで足をぶらぶらとさせながら彼女はそう言った。
「でも、そういうのない?」
「あるね」
「なんかすっごいわかるよ私、最近。フランケンシュタインとか」
「そうなんだ」
「あたたかい声を掛けてもらいたい。それだけなのにさ」
「なんか切実だなオイ」
「なんかこう、可愛いとかあんまり言われてないと老いちゃうよ。私は」
「可愛いよ」
「いいよもう。取って付けてるよもう」
それでも、「いやマジマジ」と言うと彼女は満更でもない顔をした。
男としてここで勝負に出るかどうかなんだけれど、酔ってる俺はあっさり勝負に出た。
セクハラという手段で。
酔った弾みで。
隣に座り直して聞く。
「じゃあ、もう一人エッチバリバリっすか?」
「うえ?し、しないよ。何言ってんの」
「でも寂しいんしょ?」
「寂しくなんかないです。しません」
「へー、しないんだ」
「うん」
そう言いながらじりじりと隙間を詰める。
それでも彼女は間を空けなかった。
近寄って肩を再度抱く。
これで振り払われたらダメだろう。
「な、なんで肩抱いてんのよ?」
上目遣いで睨んでくる。
けれど振り払われはしなかった。
「いや、なんとなく。寒そうだし。足とか」
そう言って彼女を抱え込むようにして足に手を伸ばした。
「えーーちょっと待って。ちょっと待って。セクハラ?これセクハラ?」
小さい声で言ってくる。
「セクハラじゃない」
「じゃあ何よ?」
「セクシュアル・ハラスメント」
「同じだし」
足に手を這わす。
「濡れてなかったらセクハラ。濡れてたらセクハラじゃねえってのは?」
ああ、俺はAVの観過ぎだ。
それは認める。
けど今までの経験上、これで本気で嫌がらなきゃ大丈夫だって俺は知ってた。
「濡れてません」
彼女は俺の腕の中で小さな声で言った。
「じゃあ、賭けは成立?」
「濡れてないから私の勝ち。セクハラー」
つうか完全に体を抱え込まれて、これで濡れてなきゃ確かに負けだけど。
「わかった。じゃあ確かめる」
そう言ってスカートの中に手を突っ込む。
「うわ、冷た。ってダメだって。それはダメだって」
「確かめるだけだから。確かめるだけ。だからこれセクハラじゃないよ」
「うわ嘘だよ。こっちの方がセクハラだって」
足の付け根まで指を伸ばして下着を横によける。
そのままなぞるように開くとすんなりと指は中に入った。
<続く>