私がその支社のトップだったときに手がけた公共ビジネスは、今や我が社の売り上げを支える大きな柱の一つになっている。
だが、まだまだロシアには新しいビジネスチャンスが転がっているはずだ。
私は対露ビジネスの最前線であるこの支店には愛着がある。
だからこそ、ここ何年間かの業績の安定ぶりには大きな不満を抱いている。
特許申請など正直どうでもいい話だ。
私はパーティーの開催を聞き、お祝いと称して現状視察をすることに決めた。
パーティーは午後6時から始まった。
女性社員はみんな同僚の結婚式に出るような格好をしている。
どうせ今の支社長が号令を掛けたのだろう。
馬鹿らしい話だ。
「常務がお築きになられたロシアとの交流もますます深まり、今年はウラジオストックから3人の研修生を迎えております」
私の前に二人の女性と一人の男が紹介された。
私の目はそのうちの一人に釘つけになった。
これは美人だ・・・。
極東ロシアにこれほどの美人がいるなんて珍しい。
「エルヴィラ=ぺトローヴナ=トルスタヤです。ハジメマシテ」
黒いドレスから覗く白い肌が悩ましい。
なんて立派な胸だ
「Очень приятно Меня зовут Цудзи(とても素敵ですね、私の名前はツジです)」
彼女は少し驚いて、「ロシア語がお上手ですね」と笑った。
しばらく二人でロシア語で話した。
ウラジオでは短大を出て、電話局で働いていたこと。
日本ではシステムの研修を受けていて、非常に有益だがそろそろ違う研修を受けたい、自分自身は人と人とのコミュニケーションがとれる仕事を希望している、とのことだった。
私を一番落胆させたのは彼女に夫がいること。
その容姿からは想像しがたいが、2歳の娘を持つ母であることだった。
思いのほか彼女と多く話してしまい、必然的に他の研修生二人とも同じ時間を割いて話さなければいけなくなった。
部下を容姿で区別を付けることは、今の管理職としてもっとも犯してはいけないミスである。
退屈なパーティーは3時間にも及んだが、私はエルヴィラ=ぺトローヴナのことが気になって仕方がなかった。
ロシアでシビアな商談をしているときも、私周辺には魅力的なロシア女性はたくさん現れた。
しかしどこで足をすくわれるかわからない。
ロシアのやり口は有名だ。
外務省から末端の民間企業まで、美しい女性はつねに危険である。
しかし、エルヴィラ=ぺトローヴナの美しさ、均整の取れた体、というのは、久しぶりにロシア女性を見たことを差し引いても一級品であることは間違いなかった。
パーティーが終わり、結局私は彼女と再び会話をするチャンスに恵まれなかった。
人は私を押しの強い人間だと思っているかも知れないが、女性に対して臆病に過ぎる自分、特に相手が美しくなればなるほど無意識に遠ざけようとする小心さは、いくら社会的な地位を占めても克服することが出来なかった。
二次会をホテルのバーで行うようだが、早く部屋に帰り、眠りたかった。
私がトイレに向かうと、エルヴィラ=ペトローヴナが一人でどこかへ電話している姿が目に入った。
軽く会釈をすると、彼女は私に「名刺をいただけないか」と聞いてきた。
私が頷いて渡すと、「今日は友達とこれから会う約束をしてしまったので無理だが、私の日本でのキャリアについて相談したいことがあるので連絡をとってもいいか」と、青い目で訴えるように話してきた。
私は内心躍り上がって喜びたいのを抑え、「いつでも連絡をしてください。メールアドレスも書いています」と伝え、2次会の会場に向かった。
彼女から連絡があったのは、東京に帰ってからパーティーの次の週の火曜日のことだった。
そのメールは、少しの日本語と、多くのロシア語で書かれていた。
あのパーティーでの会話で、彼女は私のロシア語能力を充分と思ってくれたのだろう。
光栄なことだ。
自分は営業の研修を受けたい、そのほうが研修費を支払ってくれているこの会社や、ウラジオストックで私の成果を待っている人達のためになると思う。
どうか協力して頂けないか、とのことだった。
私はすぐに返信をした。
あなた方の処遇はすべて支社長に任せてあるので、私が上から何かを言うことは出来ない。
ただ、あなた方がせっかく日本に来ているのに希望の職種を研修できないのは私としても残念だ。
一度直接のトップ、つまりシステム開発のリーダーに相談してみなさい。
私のほうでもあなた方の希望を最大限に叶えるように打診はしてみる、との旨をメールで送った。
私はすでに自分自身が引いている公私混同のラインを超えてしまった気がして仕方がなかった。
いや、しかし、たとえ他の研修生から同じことを聞かされても、私は同じことをしたはずだ。
私はそう自分に言い聞かせた。
その次の週、彼女から無事研修場所の異動が叶ったとの返信が来た。
私は彼女の期待を裏切らなかったことに安心したが、これ以上関わるのはやめようと決心した。
何か彼女には危険な感情を抱いてしまいそうだからだ。
彼女より美しい造形をもつロシア人は数多くいるだろう。
しかし彼女の雰囲気は尋常ではない、その理由がまだ私には分からなかった。
人妻だからなのだろうか?
それとも私の個人的嗜好なのだろうか?
思いがけなく彼女に再会する日は早かった。
11月の始めに、あの支社のロシア人研修生3人が本社研修ということで上京してきたのだ。
一人はデザイン、一人は開発で受け入れているので、営業畑の私には始めに挨拶に来ただけで、一週間の研修の間、何の接点もなかった。
しかし、エルヴィラ=ペトローヴナは海外営業の研修を受ける。
営業の研修など、はっきり言って前例がない。
そもそも本社研修も、一種の物見遊山のような認識しかない。
受け入れた海外営業の本部長も当惑しているようなので、私は、「取締役である私の秘書というような形で色々なビジネスシーンに立ちあっていただいたらどうでしょう?まあ秘書をつけるほど私もまだ偉くないですが」と助け舟を出すような形で提案してみた。
私より8つも年上の本部長は喜んでこの提案を受け入れた。
彼にしてみたら、ここ10年で急に勢力を伸ばしたロシア閥に好きにさせておけ、くらいで考えていたのだろう。
こうして私と彼女、エルヴィラ=ペトローヴナは一週間の間、ほぼ一緒に過ごすことになった。
彼女の美貌、彼女の肢体に惹かれているという負い目があり、私は彼女を重要な商談にも平気で連れて行くことにした。
私が会うような役職の人間は、さすがに他の会社の部下の容姿を話題にするといった不用意なことはしないが、私が「この一週間だけ秘書をしてくれます」と事情を簡単に説明すると、皆一様に眩しそうに彼女を見て、時折スーツから覗く綺麗な脚のラインや、スリットから覗く腿、ジャケットを突き上げる胸などをチラチラと見ている姿が愉快ではあった。
彼女は非常に真面目な態度で研修に望んでいた。
宿泊先のホテルに帰っても、遅くまで日本語の勉強や、名刺の整理などをしているらしい。
彼女の日本語は驚異的な上達をしていた。
私は、なるべく夜の会合を増やし、彼女に東京の美味しい食事を楽しんでもらおうとした。
しかし個人的に誘うのは必死に我慢した。
今は上司が部下を1対1の食事に誘える時代ではない。
研修もあと二日となった木曜日。
関係官庁の役人達と新橋で食事をした後(彼らがエルヴィラ=ペトローヴナの脚ばかりを見ていたのは今思い出しても滑稽だが)、店からタクシーに乗り自宅へと向かった彼らを見送り、最後に来た車に乗り込んだ。
彼女をホテルまで送り、そのまま自宅へ帰るつもりだった。
運転手にホテルの名前を告げると、私は少し酔いもあってかロシア語で彼女に話しかけた。
「ご主人とお子さんに逢いたいでしょう?往復の飛行機代くらいはおそらくこちらの研修費用として処理できると思います。6ヶ月は長いですね」
彼女はそれには答えず、同じようにロシア語で言った。
「ツジさんとゆっくりお話する機会がないのが残念です。二人で」
私の腕を軽く握り、今までとは違うトーンの声を出し、潤んだ青い瞳で私の目を見つめた。
「しかし・・」
「私が嫌いですか?ロシア語で色々相談したいことがたくさんあるのに・・・」
降りると、彼女は私の手を上から握り、指を絡めた。
私はその瞬間、今まで自分が守っていた何かを破られたような気がした。
運転手に少し離れた繁華街を告げ、信用できる知り合いのやっているバーへと向かった。
バーの前に行くと彼女は立ち止まり、入ろうとしない。
都心の高級ホテル、それも超の付くホテルが意外に一番目撃される恐れが少ない。
とは言うものの、どこでどういった人間が見ているか分からない。
私は一番人が出入りすることの少ないスウイートをとり、先に彼女に鍵を持たせ、しばらくロビーで時間を潰した後、ここ10年で一番緊張しながら高層階へと上がった。
まだ引き返せる。
こういった浮気は必ず妻にばれてしまう。
それも会社の費用で呼んでいる研修生、しかも既婚者だ。
一言声を掛け、そのまま家に帰ろう。
そんな決心も、ドアを開けた途端に抱きついてきた彼女の体の感触にすべて吹き飛んでしまった。
ドアの近くで激しく唇を貪りシャツの上から胸を揉みあげる。
彼女はシャワーを求めたが私は聞かず、そのまスウイートの広いベッドに押し倒した。
彼女は両手で私の頭を抱き、お互いお激しく舌を絡め、乱暴に服を脱がせ脱がされしていく。
白いシーツより、なお白く思えるような肌、金髪、そして体の中心の黒い繁み。
上から見下ろす彼女の体は完璧だった。
耳に残るピアス、細いネックレス、そして左手に光る指輪が、全裸よりいっそう興奮させる。
私は迷わず彼女の繁みに口をつけた。
日本人より少しだけ強い匂いがしたが、私は構わず舌を彼女に中にこじ入れ、核心部分を捕まえ舐め回した。
すぐに顔はびしょびしょに濡れていった。
彼女は私の髪の毛を掻き回し、細く高い声を断続的に上げ始めた。
危うく終わってしまいそうになった私は、何の避妊具も持っていないことに気が付いた。
一瞬動きが止まり、膝立ちになった私を見て、エルヴィラ=ペトローヴナは起き上がり、私の方を向いて四つん這いになり、膝で立つ私のそそり立つモノを、その赤い唇で包んだ。
私はうめいた。
彼女の白く綺麗な背中と括れた腰、そして大きなヒップ見ながら、私は膝立ちのまま彼女の口による奉仕を受けている。
彼女は時折首をかしげ、私のモノを根本から先まで舐め回すようなことさえする。
結婚してまったく浮気をしなかったわけではない。
同僚と風俗店へ行ったり、銀座や新橋の女性と深い関係になったこともある。
しかしエルヴィラ=ペトローヴナの技巧は今まで経験したことのない快美さを伴っていた。
彼女の舌が私のモノを這い回ると、脳髄が背中から快感がダイレクトに刺激を受け、私はすぐに限界に達した。
「ああ・・・」
情けない声を出すと、予告する余裕もなく私は彼女の唇へと射精していた。
広いベッドに横たわる私の腰の辺りにエルヴィラ=ペトローヴナは蹲り、私のモノにその柔らかい唇と良く動く舌で奉仕を続けている。
40も半ばを超えた私のモノも、彼女の舌の動き、そして時折私のほうを向き、恥ずかしそうに笑う彼女の顔のおかげで、ゆっくりと芯を取り戻してきた。
体勢を入れ替え、彼女にのしかかる。
避妊具はないが、外で出す余裕くらいはあるだろう。
二回目でもあるし・・。
私は彼女の胸をしゃぶりながら、そのまま彼女の中にゆっくりと入っていった。
彼女はゆっくり脚を私の腰に絡め、少し切なそうな顔をして私を下から見た。
1回出してしまったこともあり、少し余裕を持ちながら彼女の体を楽しみながら、私は自分のモノをゆっくりと出し入れした。
見れば見るほど素晴らしい体だ。
シミひとつない肌と、バランスを崩しているのではと思えるくらい大きな胸、細い腰。
視覚が与える興奮が大きすぎ、早くも私は限界に達していた。
なんてことだ。
スパートを掛けて腰の動きを速める。
もうだめだ、と腰を引こうと思ったのだが、エルヴィラ=ペトローヴナは下からしっかり抱きつき、私の肩に口を押し付け、呻きながら豊かで白い両脚で腰を抱え込んで離さない。
「あ・・・」
私はあえなく彼女の体の中に射精した。
2回、3回とヒクつきながら・・・。
抱き合ったまま黙ったいると、彼女は、「気持ちよすぎて夢中だった。妊娠しにくい体だから大丈夫、迷惑は掛けない」と言い、唇を合わせてきた。
その晩、私は20年ぶりに3回目の交わりをした。
シャワーを浴び、ボーイを呼んで支払いを済ませた後、「午前12時までにはこの部屋を出なさい。今日は午後から出社してもいい。研修の最後なのだから、きちんと各部署に挨拶しなさい。仕事の相談はこれからもいくらでも乗るからメールをしてきなさい」と言った。
自分の部下であり、既婚者と関係を持ってしまったことが今さらながら恐ろしくなり、私はシャワーを念入りに浴び、彼女の香水の匂いが残っていないかを滑稽なほど念入りに確認し、朝の4時、自宅へと向かった。
翌朝9時に出社すると、驚くことに彼女はもう会社に来ていた。
何事もなかったように、他の役員や秘書と談笑する彼女を見て、昨日、私の腕の中でのたうちまわった白い肢体を思い出し、どうしても頭の中から彼女の仕草と声が離れなかった。
我が社の常務全員に個室が与えられているわけではないが、海外営業担当という職務上、商談の場として私には個室が与えられている。
この部屋に私とエルヴィラ=ペトローヴナは二人きり。
昨日、私の腕の中にあったあの体は、今シックな薄いグリーンのスーツと白いキャミソールの下に隠されている。
私は3流のポルノ映画のようなことがしたくなった。
今までの私では考えられない、もし誰かに見つかれば失脚は免れないことだ。
私は立ち上がって部屋を横切り、鍵を確認した。
そして隣のデスクで後片付けらしいことをしている彼女に近づき、しゃがんで後ろから抱き締め唇を奪った。
彼女は驚いたが、すぐに体を委ね、舌を絡めた。
あまり時間はない。
私はベルトを外し、ズボンをおろし、彼女の顔の前にモノを突きつけた。
今この瞬間、彼女が声を上げて誰かを呼べば私は終わりだ。
そういうことを考えられる精神状態ではなかった。
彼女は自然な動作で私のモノを唇で包み、ゆっくりと顔を動かした。
デスクに座ったままで。
数回のストロークを楽しんだ後、私は彼女を立たせ、机に手をつかせ、薄いグリーンのタイトスカートとストッキング、最後の下着を下ろすと後ろから挿入した。
異常な興奮が私を包んだ。
現実のこととは思えないが、私はしっかり彼女の細い腰を巻くベルトを掴み、腰を打ちつけた。
彼女はくぐもった声をあげるだけで、表情は窺えない。
ほんの3分後、私は彼女の体の奥深く射精した。
もうこれ以上深入りすべきではない。
私の理性は警告していたが、その週末、家族には仕事に向かうと言い、西日本の旅館を取り、2泊3日で彼女の体を堪能した。
何度体を重ねたのか分からないが、避妊具を嫌がる彼女の意向もあり、2回に1回は私は外に出し損じて彼女の中に吐精した。
一度、戯れに浴衣の帯で彼女の目を覆うと、彼女の反応が大きく変わったのには少し驚いた。
「叩いて・・・私を叩いて・・・」
うなされるように呟く彼女に言われるがまま、彼女の頬を張った。
その瞬間、彼女の中は急速に締まり、あえなく私は中に漏らしてしまったこともあった。
彼女が支社に帰った後も、海外営業での研修は3月まで続き、一月に1回のペースで彼女は上京してきた。
その度に私は彼女の体を貪った。
いくら食べつくしても尽きることのないほど、彼女の体には魅力があった。
彼女の研修が終わろうとする2月、彼女は妊娠を私に告げた。
私は予想できたこととはいえ、この先訪れるであろう様々な問題を考えると言葉を失った。
しかし彼女は、「ツジさんは何も考えなくていい。なんの問題もない。家族がいるのは知ってたから私も悪い。ただ、私はしばらくロシアに帰れないので、東京でしっかりとした貿易の仕事を紹介して欲しい」と言った。
ロシア国籍の彼女を雇用できる会社はあまりない。
それに彼女の夫が何を言ってくるか、常務である私もこのままではもちろん済まされない。
彼女にそう告げると、彼女は、「大丈夫です」とニコニコしながら話した。
「実は結婚します。会社の人です。彼はまだお腹の子供のことを知りません。ツジさんも黙っていてください。ただ、私とのことで彼が会社に居づらくなったときにはお願いします」
すぐには事情は飲み込めなかったが、しばらくしてエルヴィラ=ペトローヴナのいる支社のトップから私に報告があった。
部下がロシア人研修生に手をつけた。
向こうの夫も怒って、研修を斡旋した現地の関係者も困っている。
訴訟するとまで言っている、とのことだった。
私は誠意を持って対処するように伝え、私の知らない社員と私と、どちらが先に彼女と関係したのかが少し気になった。
私はエルヴィラ=ペトローヴナにかなり大きい貿易会社を紹介した。
彼女自身も能力があったのですんなり採用された。
彼女の夫は会社を辞めた。
私も彼女の口から何かを話されても困るので、退社の方向で話を進めるように支社長には伝えた。
ただ、彼の再就職先は、きちんと根回しさせてもらった。
私の会社よりも待遇はいいかもしれない。
それが私なりの責任の取り方だった。
夫婦で東京に住んでいるエルヴィラ=ペトローヴナは、二児の母親とは思えない肢体を保っている。
なぜ私が知っているかって?
つい先日、ロシアとの合弁を考えているある自動車メーカーへの転職を彼女に相談されたからだ。
相談だけかって?
それは・・・。