「タクヤ、久しぶり・・・」
「久しぶり・・・ヨウコ・・・」
なんで、よりにもよって今ここでお前に会うなんて・・・。
ヨウコ「その子、妹さん?タクヤって妹いたっけ?」
俺「この子は・・・」
家庭教師先の生徒さんだよと言うよりも早く、「私、タッ君の彼女だよ!あなた誰?」と由香ちゃんが俺の腕を掴んで言う。
「えっ!」
俺とヨウコが同時に声を上げる。
2人あちこちお店を見て回った後、公園で順子さんのお弁当を食べて、お昼から市内の小さな遊園地に行くために地下鉄のホームで電車を待っている時だった。
ヨウコ「タクヤ?」
凄く懐かしい声がして振り返るとヨウコだった。
ヨウコは俺の彼女・・・だった。
別れてからずっと連絡をとっていなかったから彼女を見るのは久しぶりだった。
ヨウコは少しやつれたみたいで、昔のような明るい面影がなくなっていた。
俺「ちょ、違うだろ。この子は家庭教師先の娘さんで俺の生徒。今日は親御さんの了解をもらって遊びに連れてきたんだ!」
慌てて訂正する。
由香「えー、タッ君酷いよ!ーデートだって言ったじゃん!!」
不満顔の由香ちゃん。
ヨウコ「そっか・・ビックリしたw」
ヨウコはあっさりわかってくれた。
ヨウコ「そうだよね、さすがに歳が違いすぎるもんね」
由香「なんかそれ失礼じゃない?」
由香ちゃんが厳しい目つきでヨウコに食って掛かる。
由香「大体あんた誰よ、人の事とやかく言う前に名乗ったら?」
由香ちゃんは、子供扱いされたのが余程気に入らなかったのか、なんだかヤンキーみたいな口の聞き方だ。
俺「ゆ、由香ちゃん?!」
なだめようとする俺の手を振りほどく。
由香「タッ君は黙ってて!」
ヨウコ「ごめんなさい、私は松崎ヨウコ・・・あの・・・タクヤと付き合ってたのよ」
年下の態度に落ち着いた態度で答えるヨウコ。
由香「付き合ってたって昔の事でしょ、馴れ馴れしく話し掛けてこないでよね」
ヨウコ「べ、別に良いじゃない・・・話し掛けるくらいw」
あーどうやらこの2人は相性最悪みたいだ。
“◯◯線に電車が~”
ちょうど良いタイミングで乗る予定の電車が来る。
俺「ま、まあとにかく俺達は今から行く所あるから、ねっ、由香ちゃんも早く、電車来たし!」
由香「・・・」
2人とも睨み合っている・・・。
由香「ふん!タッ君の元カノだから私のお母さんみたいに素敵な人かと思ったら大したこと無いのね」
ヨウコ「えっ?」
ヨウコが俺を見る。
俺「由香ちゃん!?」
とにかく余計な事を言う前に強引に手を引いて電車に乗り込む。
ヨウコ「あっ、タクヤ!」
俺「ん?」
ヨウコ「私、まだあなたのこと諦めてないから!」
俺「・・・」
プシューッと音を立てて電車の扉が閉まる。
ヨウコは扉越しに俺を見つめていたと思う。
でも俺は顔をあげて真っ直ぐ彼女を見ることができなかった。
由香「ベーーーだ!」
走り出すと隣で由香ちゃんが舌を出してヨウコに丁重なお別れの挨拶をしていた。
ホームを過ぎてヨウコが見えなくなる。
俺「由香ちゃん!君は本当に連れて歩くとロクな事しないな!」
由香「なにさ!元カノだからってあの態度、失礼しちゃうわ!」
聞いてない・・・。
由香「大体なに?タッ君に捨てられたくせに未練タラタラでダッさい!」
俺「・・・」
由香「タッ君もああいう態度は良くないよ!もっとはっきりしないと!タッ君には私とお母さんがいるでしょ!」
俺「ちょっ、由香ちゃん声でかい!!」
車内の視線が痛い・・・。
由香「ね、あの女のどこが良かったの?」
遊園地でも遊具そっちのけでヨウコの話題に。
俺「どこがって・・・言われてもな」
黒いロングの髪落ち着いた感じ・・・とか。
由香「別れたんでしょ?」
俺「別れたよ・・・」
由香「何で別れたの?」
真剣な顔で聞いてくる由香ちゃん。
俺「何でって・・・って、なんで俺がそんなことまで由香ちゃんに教えないといけないわけ?」
由香「だってタッ君はお母さんの彼氏だし、一応気になるじゃん、娘としてはね」
そんな風に言ってはいるけど目がランランと輝いてて嘘臭い。
俺「・・・嘘だ、絶対興味本位だろ」
由香「まあ、それもない訳じゃないけどw」
俺「・・・別に、それこそ由香ちゃんが言った通り、ダサい話だよ。彼女が浮気して、許してくれって言われたけど、俺が我慢できなくて終わっただけだよ・・・」
由香「それで、あの女さっきあんなこと言ってたわけ?」
俺「まあ、そういう事だね」
由香「まだ好きなの?」
俺「え?」
由香「あの女のこと」
俺「まさかwもう俺は終わったと思ってたよ・・・。あんな所で久しぶりに会ってちょっと昔のこと思い出したりはしたけどね、辛いだけだったし」
由香「ならいいけど・・・でも気になるな、あの女・・・」
俺「ほら、ヨウコの事はもう良いから、せっかく来たんだから遊んで帰ろうぜ!」
由香「そうだね!行こっ!」
ヨウコとは大学で知り合った。
同じサークルで活動してるうちに自然と付き合うようになった。
はっきりどっちかが告白したわけじゃなくて、気がついたら一緒に居るようになって、デートしてキスしたりエッチしたり・・・。
ちゃんと、『付き合おう』って言おうとしてた矢先だった。
ヨウコに別の男がいるって知った。
俺と知り合う前からの関係だったらしい。
ただ、ヨウコの気持ちは離れ始めていたけどズルズルと続いていたそうだ。
そんな時に俺と出会って好きになった、別れようとしてる時だった・・・。
そういう風に言われた。
「好きなのはあなただけなの・・・」
ヨウコは泣いていた・・・。
今思うと、その言葉に嘘は無かったのかもしれない。
でも、俺は結局我慢できなかった。
一方的に別れを告げて、サークルもやめた。
大学でも遠くで見かけると回れ右をして回避した。
番号もアドレスも変更した。
空いた時間は家庭教師のバイトを入れた。
由香「ねえ、聞いてる?!」
由香ちゃんの声にハッとなる。
2人の乗る観覧車はちょうど頂上に来たところだった。
俺「あっ、ごめん・・・なんだっけ?」
由香「もー!ちゃんと話聞いてよ!」
俺「ごめん!で、なんだっけ?」
由香「・・・もういい」
これはいかん・・・明らかに怒ってる。
俺「本当ごめん!色々考えちゃって、ごめん由香ちゃん!!」
拝み倒すようにして謝る。
由香「じゃあチューして!」
俺「えっ?」
由香「前みたいにまたチューしてくれたら許す」
俺「そ、それは・・・」
由香「いいから!!しなさい!」
由香ちゃんの眼から涙がポロリとこぼれ落ちた。
俺「由香ちゃん・・・」
しまった!という感じで必死に涙を拭おうとする由香ちゃんだが、必死に手で涙を押さえようとすればするほど両目からポロポロと止め処なく溢れてくる・・・。
由香「もういやだぁ・・・馬鹿みたいじゃん・・グスッ・・ずっと楽しみにしてたのに・・・グスッ・・・ううっ」
とうとう本格的にボロボロ涙が溢れ出す。
俺「由香ちゃんごめん!本当ごめん!!」
由香「馬鹿!タッ君の馬鹿!!うえぇぇええ」
大変だ、マジ泣きだ・・・。
由香「私だってタッ君大好きなのに!!」
俺「ごめん・・・」
小さい身体で力いっぱい俺に抱きついてくる。
俺「ごめん・・・」
馬鹿の一つ覚えみたいに同じ台詞しか出てこない俺。
由香「ごめんばっか!」
俺「ごめん・・・」
そう言い続けるしかなくて・・・。
由香ちゃんを抱き締めたまま、ただ子供をあやすように背中を擦るしかない俺・・・。
由香「・・・」
由香ちゃんが涙目のまま俺を見上げる、その表情が順子さんにそっくりだった。
そのまま顔を近づけてくる由香ちゃん・・・唇が触れ合う。
何度も短いキスをもどかしそうに繰り返す由香ちゃん。
由香「違う・・・」
俺「違う?」
由香「違う・・・」
由香ちゃんがキスしながら何度も言う。
俺「何が?」
由香「こんな風じゃない・・・もっと違うキスがいい」
俺「それは・・・」
由香「じゃないと許さない・・・」
俺「でも・・・」
由香「いい・・・もう勝手にする・・・タッ君は動かないで」
そう言うと由香ちゃんは強引に舌を入れてくる。
なんだかがむしゃらなキスだ・・・。
由香ちゃんが乗り出してくるように俺の口に吸い付いてくるから徐々に仰け反って2人観覧車のシートに伸びるように転がる・・・。
「んっ・・・ふっ・・・」
2人の吐息だけが響く。
由香ちゃんからなんだか順子さんと同じ匂いがする。
そうか・・シャンプーの匂いか・・・。
そんな事を考えてしまう。
由香「ふう・・・はぁ・・・はぁ・・・」
夢中でキスを繰り返す由香ちゃん。
由香「お母さんとタッ君ばっかり仲良くしてズルいよ・・」
俺「・・・」
由香「私もタッ君のこと好きだから・・・同じじゃなきゃヤダ・・・」
俺「・・・」
そう言うと由香ちゃんが俺の手をとって自分の胸に置く。
由香「お母さんみたいに大きくないけど・・・すぐに大きくなるよ・・・」
俺「由香ちゃん・・・」
由香「タッ君だって男の人なんだから私のこと好きじゃなくてもドキドキするでしょ?」
確かにドキドキする・・・。
それに今の由香ちゃんは順子さんの若い頃みたいでなおさらだ・・・。
俺「・・・」
由香「私、タッ君が言うほどわがままじゃないよ・・・私とお母さんどっちか選べとか言ったりしないよ・・・。だから、私を仲間はずれにしないで・・・」
泣きそうな目で俺を見つめる由香ちゃんは、いつものような強気で大人っぽい小悪魔な雰囲気はなく、どこか孤独に震えているようなそんな儚げな幼い少女に見えた。
ちょうど観覧車が一回りして扉が開く。
2人無言で観覧車を降りて歩く。
由香ちゃんは本当は寂しいのだろうか・・・。
お父さんに裏切られ、自分を置いて出て行き・・・母親は違う男を好きになった。
たった一人孤立して、誰も傍に居ないような気がしてるのかもしれない・・・。
俺との関係に拘るのも、お母さんと同じ男を好きでいようとしているのも、本当はお母さんと離れたくない・・・そういう気持ちからなのかも知れない・・・。
俺「由香ちゃん・・・」
由香「・・・」
俺の声に隣を歩く由香ちゃんはビクッと震える。
俺「お母さんの事、好き?」
由香「・・・前は嫌いだった・・・お父さんもお母さんも嘘ばっかりだったし・・・。でも、今のお母さんは好き・・」
俺「・・・」
由香「でも、私は本当にタッ君も好きなの・・・そういうこと関係なくタッ君が好き」
必死に手を握って訴える由香ちゃん。
俺「わかった・・・」
由香「今すぐじゃなくて良い・・・今はお母さんの次でも良い・・・でも、いつかは私だけを見て欲しい・・・」
順子さんは許してくれるだろうか・・・。
たぶん許してくれる気がする。
もし俺が、「由香ちゃんと付き合います」と言えば、あの人は笑ってそれを許してくれるだろう。
なら、順子さんにとって俺はなんなんだろうか・・・。
歳が違いすぎる事がそんなに大きな事なのだろうか・・・。
俺には想像がつかない。
帰り道2人はずっと無言だった。
由香「タッ君・・・私、今日は帰りたくない・・・」
電車の席で2人座っていると由香ちゃんが言い出す。
俺「なに言い出すんだ・・・それは無理だよ・・・」
由香「今日はタッ君の隣で寝たい・・・」
俺「無理に決まってるだろ・・・。第一、お母さんになんて言うんだよ」
それこそ顔向けできない・・・恋人としても先生としても。
由香「お母さんには許可貰ったよ・・・」
俺「なっ・・・そんな嘘・・・」
由香「嘘じゃないよ」
由香ちゃんの目はまっすぐ俺を見ていた。
由香「昨日、離婚が正式に決まった後ね、お母さんと2人で話したの。はっきり言ったよ・・・お母さんに。私はタッ君が好きだからお母さんにも渡したくないって」
俺「それで、順子さんは何て?」
由香「何も・・・。ただ『タクヤさんが決める事だから』って・・・。『それでお母さんは良いの?』って聞いたら、『世界で一番タクヤさんの事が好きだけど、私と一緒になる事はあの人の幸せじゃない』って」
俺「そんな!俺は・・・」
俺にとっての幸せが何か。
俺にだってまだわからない・・・。
でも少なくとも今の俺には順子さんと一緒に居る時間は何よりも大事なものだ。
由香「『本当は年齢の近い人と一緒に歳を重ねて行くのがいいの、私のわがままであの人を私の人生に巻き込んだけど、私はそれ以上は求めちゃいけない』って。『本音を言えば、しばらくの間、あの人の温もりを分けてくれるなら、あの人が最終的に誰を選んでも私は構わない』って・・・。『もしあなたとタクヤさんがそういう風になってくれるなら、むしろずっと傍で見守っていきたい』って・・・」
俺「そんな・・・そんなこと・・・順子さん・・・」
順子さんは最初から、俺の気持ちが冷めてしまうような先の未来まで見越して、別れが来ることも覚悟で関係を結んでいた。
だからそういう風に思うのだろうか。
由香「私、その話を聞いてやっぱり親子だって思った。私もそんな風だったら素敵だって思ってたから・・・」
俺「でも、幾らなんでもおかしいだろ。君はまだ中学生で・・・」
由香「うん、だから私が大人になるまではタッ君はお母さんのものでいいの。その間に私はタッ君に大好きになってもらえるように努力するから。私、勉強も頑張るし、お料理もお母さんに教えて貰うことにしたの」
駅を降りて携帯を取り出して順子さんに電話を掛ける。
すぐに順子さんが電話に出る。
順子「はいwタクヤ君、娘とのデートどう?迷惑掛けてるかしら?w」
なんとも暢気な声で順子さんが言う。
俺「あの・・・由香ちゃんが俺の家に泊まりたいって言い出したんですけど・・・」
順子「あー言ったのね、あの子も大胆よね。私とあの人とどっちに似たのかしらねw」
俺「いや、そういう事じゃなくて!」
思わずイラッとしてしまう。
順子さんの気持ちがわからない。
本当に俺の事を真剣に思ってくれているのか。
順子「うん、ごめんね・・・。でも私としては何も言えないのよ、だって説得力がないでしょう?」
俺「そ、それでも母親なんですから!」
順子「そうね・・・母親失格かもね。でもこれは私も由香も納得してる事なの。後はタクヤ君の判断に任せようと思ってるの」
俺「そ、そんな!」
順子「私は娘なら良いかなって思うし、娘も私なら良いかなって思ってるから。私もう無理に母親面するのやめたの。あの子とは姉妹とか友達関係で行くつもりよ」
俺「・・・」
順子「軽蔑した?」
俺「いえ・・」
順子「タクヤ君には私達わがままばっかりよね・・・。でも、私にもあの子にもあなたが必要なの・・・」
俺「それは愛情なんですか?」
順子「わからないわ・・・。私達親子がおかしいのかもしれないわね・・・。私は娘を使ってでもあなたを繋ぎ留めておきたいだけかもしれない・・・。考えてみて・・・今はあなたに無条件で愛してもらえるけど、私はすぐにお婆ちゃんになってしまうわ。その時あなたが居なくなって一人になるのは寂しいし怖いの・・・。夫婦になってあなたがいつか私に飽きて、あの人のように女を作って二度と私の前に現れなくなるなんて考えたくないの・・・」
俺「そんなことありません!!俺は順子さんのこと!!」
順子「前にも言ったけど、あなたのその気持ち、私は少しも疑ってないわ。凄く嬉しい・・・でも先の未来はわからない、あなたにも私にも誰にもわからない。それが凄く怖いの」
俺「それは、矛盾していますよ・・・」
順子「そうかもしれないわ・・・。でもそれが私の掛け値なしの本音なの」
俺「・・・」
順子「・・・わかりました・・・。でも泊めるだけです・・・それ以上の事は何もありませんから」
俺「ええ、そうして頂戴・・・。ありがとうタクヤ君・・・この埋め合わせはするから・・・」
そう言って電話を切る。
俺「・・・」
由香「お母さん何て言ってた?」
由香ちゃんが聞いてくる。
俺「娘をよろしくって・・」
由香「泊まって良い?」
俺「・・・」
もうどうでも良くなっていた・・・。
はっきり言って俺は納得していない。
何もかもがおかしくて突っ込みどころ満載だ。
この親子の考える事は俺の理解をはるかに超えている。
でも、それでも俺が愛想を尽かさないのは他でもない、やっぱり順子さんが忘れられないからだ・・・。
何の事はない、結局俺も同じ穴の狢だったわけだ。
むしゃくしゃする・・・。
由香ちゃんよりも順子さんよりも、そんな俺に一番腹が立った。
由香ちゃんは準備が良かった。
お弁当を入れるにしても大きなバックだなと思ってたら、各種お泊りセットと着替えなんかも1日分しっかり入っていた。
由香「ここがタッ君の部屋かぁ、思ってたより綺麗だねw」
俺「・・・」
由香「臭くなるからお弁当箱洗っちゃうね」
そう言うと勝手に台所で弁当箱を洗い出す。
由香「本当は晩御飯作ってあげないといけない所だけど、私、料理下手だからピザでも頼もうよ♪」
洗物をしながら由香ちゃんが楽しそうに言う。
由香「お金はお母さんから沢山貰ってるし、お寿司でもいいよ?」
俺「・・・」
由香「もー、タッ君!無視しないでよ!きゃっ!!」
怒りとか苛立ちとか色んなものが渦巻いてた。
気がつくと由香ちゃんを後ろから襲っていた。
由香「タッ君?・・・」
俺「俺のこと好き?」
由香「うん・・・タッ君、痛いよ・・・」
俺「本当?」
由香「そう言ったでしょ・・・いたっ・・・」
俺「男の家に泊まるってどういうことかわかってる?」
由香「・・・」
黙り込む由香ちゃん・・・。
水道の音だけがする。
(もうどうにでもなってしまえ・・・)
そう思った。
なにか綺麗なものを壊してやりたい・・・そんな感情が俺の中を支配していた。
目の前に無邪気に笑う由香ちゃんを汚してやりたい・・・。
俺「はっ・・・はっ・・・」
由香「んっ・・・ぐっ・・・」
俺の吐息と必死に痛みを堪える由香ちゃんのくぐもった声、水道の水が出続ける音だけだった。
由香ちゃんのそこは濡れてなかった・・・。
当たり前だ、処女だったし・・・あんな風にいきなり貫かれたら誰だってそうなる・・・。
電話を切る時に順子さんと約束した事をこんなにあっさり裏切るなんて思わなかった。
ただ悶々とした気持ちのまま2人アパートに着いて、由香ちゃんが無邪気にはしゃいでいる姿を見たら急にカッと頭に血が上った。
こんな感情が自分の中にあったなんて・・・今まで知らなかった。
由香「ん・・・ぐっ・・・」
俺「はっ・・・はっ・・・」
由香ちゃんを流しに押し付けならがスカートを強引に捲り上げてショーツを脱がし、後ろから強引に突き入れた。
こんな事、女性にしたのは初めてだった・・・これはもうレイプだった。
由香ちゃんは最初抵抗したけど・・・入れた後は泣きながら痛みを耐えるようにして声を押し殺していた。
腰を振りながら・・・だんだんと正気になっていくと涙が止まらなくなってきた。
徐々に萎えてきて腰の動きも止まった。
涙が服を着たままの由香ちゃんの背中にぽたぽたと落ちた。
由香「ぐっ・・・ふっ・・・タッ君・・・」
由香ちゃんが俺が泣いている事に気がついた。
俺「ごめん・・・こんなはずじゃ・・・」
最悪の気分だった。
頭を抱えて床にうずくまる。
由香ちゃんの手がそんな俺の頭に優しく置かれた。
由香「私達がタッ君を追い詰めたんだね・・・」
俺「違う・・・俺が・・・俺は・・・」
由香「大丈夫・・・私は気にしてないよ・・・ちょっと怖かったし痛かったけど・・・」
俺「そんな・・・違う・・・俺は・・・」
由香「タッ君は優しいから・・・私達が追い詰めたんだよ・・・ごめんね・・もう泣かないで・・・」
まるで順子さんみたいに優しい顔だった。
俺は泣きながら由香ちゃんに抱きついていた。
そんな俺を由香ちゃんは優しくその小さい腕の中に精一杯抱き締めてくれた。
由香「ね、タッ君・・・」
俺「・・・何・・・」
由香「ちゃんとしよう・・」
俺「えっ・・・」
由香「ちゃんとして欲しいの・・・最後まで優しく・・・。大事な思い出にしたいから・・・悲しいままにして欲しくないの・・」
俺「由香ちゃん・・・俺は君に・・・酷い事を・・・」
由香「違うよ・・・酷い事じゃないよ・・・ね・・・酷い事で終わらせないで・・・お願い・・・」
2人でさっきまでの事を洗い流すようにシャワーを浴びた。
キスしながら優しく抱き締めた。
由香ちゃんの太ももから血が流れ落ちていく。
自分のしてしまった事に心が締め付けられる・・・。
由香「私は後悔してない・・あなたが好きだから・・・だからタクヤ君も後悔しないで・・・」
俺「ごめ・・・」
謝ろうとした俺の唇を由香ちゃんが人差し指で遮る・・・、順子さんが俺にするように。
由香「これ、お母さんが昔から良くやるの・・・後悔はいいから・・・良い思い出にしよ・・・」
ベッドで裸のまま抱き合う。
細い身体、膨らみきれない胸、顔と声以外、順子さんと何もかもが違う・・・。
優しく・・・とにかく優しく・・・、それだけを考えて抱いた。
全身に舌を這わせ傷を癒すように丁寧に愛撫した。
由香「あっ・・・タッ君・・・はぁ・・・はぁ」
由香ちゃんはさっきのような苦しそうな声ではなく可愛い声で反応してくれた。
綺麗な背中、お尻の溝、可愛い脇やオヘソ、足の指先、耳・・・、順子さんにもまだしたことがない沢山のことを由香ちゃんにすることで、さっきまでの自分の罪に報いたいと思った。
由香「嬉しい・・・タッ君とこうなれて・・・」
俺「由香ちゃん・・・」
由香ちゃんのそこはさっきとは違って濡れている。
俺はコンドームを付けるとゆっくりと入れていく。
由香「んっうっうぐっ・・・」
やっぱり痛いのだろう。
俺「大丈夫?」
由香「うん、ちょっと痛いけど・・・やめないで・・・んっ・・・」
少し休んでは前進する繰り返し。
さっき強引に入れた事が嘘みたいに締め付けがキツい。
きっとさっきの事が恐怖感に繋がっていて身体が拒否しているのかも知れないと思った。
俺「入った・・・」
数十分かけて何とか根元まで繋がった。
由香「よかった・・・嬉しい・・・」
そう言って抱き合い、キスする。
由香「お母さんには内緒にしておくからね・・・」
俺「うん・・・」
由香「タッ君も言わないでね・・・2人だけの秘密だから・・・」
俺「うん・・・」
由香「痛いけど幸せ・・・一人じゃないって気持ちになる・・・お腹の中にタッ君がいるんだね・・・」
俺「由香ちゃん・・・」
由香「なに?」
俺「俺・・・君の事も好きだから・・・」
結局上手い言い回しが見つからずに平凡な台詞が口をついて出た。
聞き様によってはなんとも勝手な言い草だと思った。
由香「うん・・・知ってる。いつもどんなこと言っても、優しくお兄ちゃんみたいに接してくれてたから・・・。私達がそんなタッ君に甘えすぎているの・・・だから気にしてないよ・・・。でも嬉しい・・・タッ君に好きって言ってもらえて」
ふふふっと順子さんにそっくりの笑い方。
でも順子さんとは違う無邪気で無垢な笑い声。
由香「ねぇ、これからは時々こうして一緒に寝てくれる?」
俺「えっ・・・」
由香「エッチはしてくれなくてもいいから・・・って言うか、たまにはいいけど・・・しばらくは痛いから無理だけど・・・タッ君に抱っこされて寝てみたかったの・・・」
俺「・・・うん・・・」
由香「本当?」
俺「ああ・・・」
覚悟を決めるしかないのかなと思った。
俺「毎日は無理だけど、たまになら良いよ・・・。そのかわり勉強とか頑張ってくれよ」
由香「うん!頑張る!あと、デートももっと行こうね!」
俺「・・・大丈夫かなぁ・・・俺の人生・・・」
由香「なに、大丈夫だよぉ♪私とお母さんが付いてるじゃないw」
俺「それが余計に不安だ・・・」
由香「ふふふw」
俺「はははw」
裸でベッドの中、手を握り合って2人一緒に笑った。
この妹みたいな女の子を本気で愛せる自信はまだ無い・・・。
順子さんとの関係もまだ完全に割り切れない・・・。
でも2人が俺を必要と思ってて、俺も2人が大事だから、なんとか今は前向きに考えていくしかない、そう思うことにした。
おわり。