その次の週から次の土曜日まで、由香ちゃんの家庭教師の時間はほとんど、いつどこでどんなデートをするのかという話ばかりになってしまった。
これでは、週4に増やした時間も無駄に終わってしまう・・・。
PCMAX

俺「ほら、土曜日までにノルマこなさないと、どこにも行かないでここで2人勉強デートになるぞ!」

由香「はいはいw」

少しは真面目に勉強してくれる様になって成績は上がっているが、元が酷いからもっと頑張って欲しいところだ。

由香「タッ君、今日もお母さん居ないから寂しいねw」

俺「余計な事は良いから集中してくれ」

順子さんは弁護士を交えた話し合いなどで、あれから毎日、家庭教師の時間も出掛けている。
だからあの日別れたきり、俺と順子さんはまだ一言も話を出来ていない。
電話番号もメールアドレスも知っているけど・・・メールすら送れないでいる。
順子さんからも来ない・・・。

由香「あの日さ」

この日2回目の休憩時間、机に向かいながら由香ちゃんがペンシルを鼻の下に挟んだりしながら話し出した。

俺「ん?」

由香「だから、あの日、タッ君と私のファーストキスの日」

俺「あ、ああああ~うん」

由香「なにその反応?」

由香ちゃんに失礼だが、俺の中ではあれは犬に舐められた程度の記憶にしようとしていた。

俺「別に・・・それでなんだい?」

「なんか気になるなぁ」とか言いつつ話を続ける由香ちゃん。

由香「あの後、お父さんとお母さん帰ってきたじゃない」

俺「うん」

由香「お父さんと会った?」

俺「ああ、厳しそうな人だったね」

由香「まあね、口は五月蝿いね、日頃家に居ないくせにさ。『なんだその短いスカートは!女の子がだらしない!!』」

どうやらお父さんのイメージなのか野太い声を出して話す。

由香「自分だって短いスカートの女と一緒に歩いてデレデレしてたくせにねwチョーウケるwアンタが一番だらしないっつーのって、誰か言ってやってよね。タッ君もそう思うよね?」

俺「いや・・・それは・・・」

由香「あっ、そっかーwタッ君もその悪い大人の一人だったねw」

俺「・・・」

由香「しかもタッ君の場合、母とその娘に手を出しちゃうから凄いよねw」

俺「ひ、人聞きが悪い!娘には手は出してないぞ!」

由香「あれ?そうだったっけ?w」

俺「そうだ!」

由香「あの後お母さんにさ、先生をあまり困らせないようにって注意されたんだけど、もしかして、全部話した?」

俺「まあ、大体はね」

由香「ふーんw仲良いんだw」

俺「大人をからかうな」

由香「ふふふwだってタッ君ってからかいがいがあるんだもんw私って好きな子に意地悪したくなるんだぁw」

俺「お前は思春期の男子か」

由香「へへwでね、あの後、凄かったよ~、もう昼ドラ」

俺「何が?」

由香「だからタッ君が帰った後、『なんだあの若い男は、色気を振りまいて、いい歳してハシタナイ!』」

また野太い声でお父さんの真似をする由香ちゃん。

俺「お父さんが?」

由香「うんwそれでお母さんが、『みっともないのはどっちですか?娘の先生になんですかあの態度は!!』ってねw」

由香(旦那)「こんな時間まで親が居ないのにやって来て、男と年端も行かない娘と2人、何をしてるか本当にお前は解ってるのか?」

由香(順子)「こんな時間まで娘をほったらかしにしないといけない原因は誰が作ったの?先生はね毎日熱心に由香の勉強をみてくださってるの!あなたにも私にもできない事をやってくださってるの!親ならそんな方を丁重におもてなしするのは当然でしょ!!」

由香(旦那)「ふん、どんなおもてなしをしてるかわかったもんじゃないな!お前、私の浮気にかこつけて、財産むしりとって若いツバメと体よく再婚でもする気じゃないだろうな!!」

由香(順子)「あ、あなたと一緒にしないで頂戴!!誰がそんな事を考えますか!!」

俺「うわ。お父さんは酷いクオリティだけど、お母さんの方はそっくりだな」

由香「そう?事実を知ってる私にはもう喜劇だったわよ。まあ別れる事にはなったみたいよ。お父さんは最後まで世間体が気になるみたいで渋ってたけど」

俺「ふーん」

由香「良かったね」

由香ちゃんがニコニコして俺を覗き込む。

俺「え?」

由香「お母さんとお父さんが別れたら、お母さんはこれでタッ君と幸せになれるじゃないw私もあんなおっさんよりタッ君がお父さんなら嬉しいしw」

俺「いや、俺と順子さんはそんな風にはならないよ・・・」

由香「どうして?好きなんでしょ?」

俺「好きでもさ」

由香「やっぱり歳の差?」

俺「色々だな」

由香「ふーん、大人って面倒臭いんだね、私ならさっさと幸せになっちゃうけどな」

俺「俺はともかく、順子さんにはその気はないよ」

(あの日はっきり言われちゃったからな・・・)

由香「・・・ねぇ」

俺「ん?」

由香「私と結婚すればお母さんも、もれなく一個付いてくるよ」

ぶーっとコーヒーを噴出しそうになった。

俺「ばっ!馬鹿な事を!君のお母さんは応募者全員サービスやグリコのオマケじゃないんだぞ!」

由香「えー、お得だと思うけどなぁ、私もタッ君大好きだし、お母さんもタッ君大好きだし。きっと上手くいくと思うけどなぁ」

俺「第一、そんなの由香ちゃんだって嫌だろ」

由香「別にぃ、お母さんと娘で男をシェアするってなんかカッコよくない?」

にひひwと笑う由香ちゃん。

俺「君の言うことがわからないよ・・・最近の中学生は皆そうなの?」

由香「皆が皆じゃないけど、最近の中学生は家庭事情が複雑なのよ。うちのクラスにも親が離婚した子、結構いるしね」

俺「ふーん・・・」

由香「まあ、考えておいてよ」

俺「考えません」

由香「嘘嘘w本当はこんな可愛い子とお母さん両方手に入れてウハウハじゃわいとか思ってんじゃないの?w」

ニヒヒwと笑う由香ちゃん、本当に君は中1なのか?

俺「由香ちゃんって時々発想がオヤジくさいよね」

由香「がーんショック・・・それショック・・・」

机に突っ伏してのびる由香ちゃん。

俺「ははw」

由香ちゃんを凹ますのは嬉しい。
毎回こっちが凹まされてるから。

俺「でも、由香ちゃんみたいに楽しい妹と順子さんみたいなお母さんが居たら、毎日楽しかったかもねw」

本当にそんな風だったら良かったかもしれないと思った。

由香「えー、それじゃあつまんないよ、私の夢は昼ドラみたいな家族なんだから」

俺「・・・」

土曜日、朝早く由香ちゃんを迎えに行くと、俺がドアノブに手を掛けるより早く順子さんがにこやかに玄関のドアを開けて迎えてくれた。

順子「おはようタクヤ君w早かったわね」

俺「お、おはようございます」

今日の順子さんは朝の日差しの中、白いフワフワな生地のセーターのワンピースだった。
お化粧もほのかに薄いピンクのルージュ、しっかりメイクしてるけどちっともケバくない上品な感じで、なんだかキラキラ輝いて見える。
この間会った時の攻撃的な黒いドレス風の服も色っぽくて良かったけど、俺はこっちの順子さんの方が何倍も良いと思った。

順子「由香はまだ寝てるのよ。もうすぐ起きてくると思うけど、上がってコーヒーでも飲んで待ってて」

俺「はい」

順子「お弁当作ってるから持って行ってね」

俺「えっ、順子さんの手作りですか?」

普通こういう場合はデートの当事者が作るもんだろ・・・。
肝心な所でお嬢様だな・・・由香ちゃん・・・。

順子「そうよw由香の手作りの方がよかったかしら?」

俺「いえ、そんな・・」

順子「あの子はお料理なんかしないからwやめといたほうが良いわよw」

ニコニコなんだか楽しそうな順子さん。

由香「私だって卵焼きくらい焼けるわよ・・・」

そう言いながらパジャマ姿の由香ちゃんが寝ぼけ眼でリビングに入ってきた。
髪の毛ボサボサ。

順子「あら、由香おはようw先生来てるわよ」

由香「知ってる・・・」

由香ちゃんは朝が弱いのかボーっとしている。
しばらくソファーに座ってボーっとしてる由香ちゃん。

順子「ホラ由香、先生待たせちゃダメでしょ、さっさと支度しなさい」

由香「もー、娘のデートなのになんでお母さんが張り切ってるの?」

ブツブツ言いつつ洗面所へしばらく洗面所で水の音や歯磨きの音が聞こえていた。
その間もコーヒーを飲みつつお弁当の仕度をしている順子さんと話をする。

順子「この間はごめんなさいね、バタバタして恥ずかしい所見せちゃって」

俺「いえ、俺もタイミング悪かったみたいですみません・・・」

順子「由香から聞いたと思うけど、あの後かなり揉めちゃったわ」

俺「大変だったみたいですね・・・」

順子「まあ、後は弁護士さんにお任せしてるから良いんだけど。この家は私達の物になるみたいだし」

俺「そ、そうですか・・・旦那さんは?」

順子「さぁ・・・そのうち荷物は取りに来るみたいなこと言ってたけど」

かぼちゃでも切ってるのか、心なしか包丁の音が大きい。

俺「・・・」

順子「タクヤ君は何も心配しなくて良いから・・・こうなったのは私達夫婦が100%悪いんだし。あなたとの事は後からの事だから」

それは喜んで良いのだろうか?
俺にはそうは思えなかった・・・。
なんだか順子さんに庇ってもらってるみたいで・・・まるで子供みたいじゃないか?
でも何も気の利いた台詞が思い浮かばなくて黙っているしかなかった。

由香「お母さん、シャンプーどこ?」

そう言いながら由香ちゃんがリビングに顔を出した。

順子「切れてた?」

由香「うん、どこ?」

順子「いつもの所にあるでしょ、ちゃんと探してみたの?」

由香「えー」

そう言いながら戻っていく。

由香「あー、あったー♪」

声だけが聞こえた。
朝シャワーらしい。

順子「もう・・・あの子は・・・まあ、あの明るさなら心配しなくてよさそうで助かるけど・・・」

離婚で最も影響を受けるはずの由香ちゃんが一番明るいことは順子さんには救いだったのかもしれない。
順子さんが自分のコーヒーカップを持って俺の隣に座る。
凄く自然に俺のすぐ隣に隙間をあけることなく座ってくれた。
そのことが凄く嬉しい・・・、とても良い匂いがする。

順子「ね、見てw」

順子さんが俺にコーヒーカップを見せる。
ピンクの熊が書かれた可愛いカップだ。

俺「可愛いですね」

順子「でしょwお店で見てつい衝動買いしちゃったのよw」

俺「高かったんですか?」

順子「ううん、そんなことないのよw値段は良いの。ただ2つ並んでて素敵だったから」

俺「2つ?」

意味がわからなくて聞き返す。

順子「もー鈍感w」

そう言いながら人差し指を俺の唇に当ててメーっと子供を叱るような口の動きをする。
それだけの仕草なのに凄くドキドキさせられる。

順子「タッ君のコーヒーカップ見てみなさい」

俺「あっ・・・」

それは順子さんのコーヒーカップと同じ熊の絵が描いてあるカップだった。
ただ、こっちは青い色の熊だ。

俺「2つって・・・ええっ・・・」

順子「ね、お揃いで素敵でしょ・・・仲がいい熊の夫婦みたいで」

「由香には秘密ね」と小さい声で言う順子さん。

順子「由香、シャワー長いのよ・・・」

俺「そうみたいですね・・・」

ドキドキする・・・順子さんの顔が異様に近い・・・。

順子「そうだ・・・こないだ由香とキスしたのよね」

俺「はい・・・してしまいました・・・」

順子「ふふw同じ男の人が好きだって・・・何でも似過ぎよね。あのね、最初に家庭教師の人たちの顔写真を沢山見せられた時にね、私が『この人』ってタクヤ君を選んだのよ・・・たぶん由香も好きかもって・・」

そう言って俺の唇に順子さんが唇を合わせてくる。
順子さんの舌が入ってきて口の中で俺の舌と絡む、コーヒーの味がした。

順子「由香にキスした分、今貰っておくわね・・・」

俺「・・・」

順子「明日、日曜日は予定ある?」

俺「ありません・・・」

あってもなくても関係ない・・・。

順子「じゃあ、空けておいてね」

俺「はい」

順子「由香にはまだまだ負けないわよw」

<続く>