学生時代ほぼ女性との付き合いに無縁だった僕は、生活や学校での印象も地味でおとなしく、高校在学中は彼女を作ることができずに3年が過ぎました。
次々と初体験を済ませていく周囲の連中や、登下校で手を繋いで歩くカップルを横目に、羨ましい気持ちと、自分は一生セックスには縁がないのでは?・・・と不安になる事もありました。
今思うとただの嫉妬や、自分の至らなさがそういう葛藤を生んでいただけの事だと思えるようになりましたが、当時はそのせいで同じ部活だった連中とも距離を置いてしまい、段々と疎遠になっていき高3の秋頃からは、学校生活を送る事自体が不安にさえなっていました。
四月から故郷を離れて違う土地に行く事にもかなり不安を覚えていました。
そんな思いを持ちながら4月を迎え、新しい土地で生活を送っていました。
社会に出ても相変わらずで、先輩や同僚達の飲みの誘いもよく断って一人で部屋にいる事が多く、いつも暗い顔をしていました。
そんな時に、自分と上司の間で仕事上のトラブルも重なり半年で故郷へ帰りました。
悔しい気持ちよりも、ほっとした気持ちの方が強くて、情けなさで胸がいっぱいになりました。
実家に帰ってしばらくは、短期のバイトやイベントの手伝い等をしていましたが、この時に香織という女の子と出会いました。
香織は2歳年下の高校生で、イベントの手伝いの際にたまたま同じ係を受け持つようになって、お互いのアドレス等を交換したのが始まりでした。
少しドジな所と、真っ直ぐで嘘のない瞳が印象的なかわいい子だったので、次第に香織の魅力に惹かれていきました。
しかし香織には、当時付き合っていた人がいて、僕もそれを壊すような真似はしたくありませんでしたので、時々メールで近況報告をする程度で、1年近くが過ぎました。
二十歳を迎えた僕に人生の転機が訪れました。
それまで髪型や外見にあまりこだわりがなかった僕を、友人の一人が美容室へ連れていってくれたのです。
はじめは気後れして、恥ずかしい気持ちと場違いな気がしていましたが、せっかく来たんだと覚悟をきめ、そこで初めて髪の色を変えました。
目が隠れるくらい長かった髪をバッサリ切り落として、出来上がった姿を鏡で見てみました。
そこには今まで見たことのない表情をした自分が写っていました。
担当してくれたスタイリストさんも驚くばかりで、あまりの変身ぶりを気に入っていただき、お店の広告写真に掲載されたほどでした。
周りの人からも声をかけられて、人に注目される事がこれほど気持ちのいいものだとは思いもしませんでした。
今まさに新しい道が開かれ、一気に心にかかっていた雲が吹き飛んだ瞬間でした。
その晩、友人と夕食を食べに行った時に、友人の口から嬉しい言葉をもらいました。
「ぜったい髪型変えたらお前は変わると思ってた。自分の気持ちに正直に、楽しく生きるのもいいもんだよ」と言われ、泣きながら友人にお礼を言った事でした。
翌日からは、職場や周囲の人の目線が明らかに変わったのを感じました。
気持ちの持ち方次第で、人の全てを変えられるような気がしました。
香織にも変わった姿を写メで送ると、すごく喜んでもらえました。
香織から「来週からイベントはじまるね。そのとき会えるの楽しみにしてるよ」と返信が入っていました。
去年香織と初めて会ったあのイベント以来、ほぼ1年ぶりの再会です。
イベント当日、去年と違う係でしたが昼過ぎの休憩中に懐かしい声が聞こえました。
笑顔で近付いてくる香織と1年ぶりに会話します。
高校3年生になった香織は相変わらずの明るさで、1年も会っていないような感じは全くしませんでした。
二人ともお昼を済ませてなかったので、一緒にやきそばを買って、話しながら食べていると思わず本音をこぼしてしまいました。
「香織は、彼氏と仲良くやってるの?」と言ってしまいました。
唐突だとは思いましたが、言ってしまったものはしょうがありません。
すると香織は
「うーん・・・その事で聞いてもらいたい事があるんだけど・・・。今日片付け終わったら時間ある?」
僕は了承し、片付けが終わった夜9時に、近くの公園で待ち合わせをしました。
「ごめんね。待たせちゃった」と、息を切らせて僕の前にあらわれた香織は、昼間とは違う大人の女性に見えました。
化粧、服装、仕草、すべてが僕にとって新鮮でした。
公園にはイベントの後という事もあり、たくさんの人がいたので、僕の車でドライブをしながら話を聞くことに。
ある程度車で走って着いたのは町外れの海浜公園でした。
車から降りて近くのベンチに腰をかけ、香織に問い掛けます。
「香織、うまくいってないのか?」
すると彼女は、
「うん・・・あれから1年の間にいろいろあって・・・」
そういうと香織はしばらく黙ってしまいました。
僕も正直言って何を話せばいいのかわからずに、時間だけが過ぎていきました。
1年ぶりに香織に会って、本当に彼女の魅力に気づいた僕は自分の気持ちに正直になる事にしました。
「香織、俺お前にふさわしい男になるから、俺の所に来て欲しい。香織の事、ずっと好きでした。今まで誰とも付き合った事もない男だけど・・・お前の事大切にするから」
そう告げました。
「ありがとう・・・」
香織はそう言いながら泣き出してしまいました。
どうしてあげればいいかわからずに、ただ彼女の手を握ったまましばらく時間が経ち、突然彼女が言いました。
「私ね、前の彼氏の子供妊娠して、産ませてもらえなかった・・・。その時にあなたに相談したかったけど、話をして、軽蔑されるのが怖くて言えなかった。この前髪型変えて写メ送ってくれた時、本当に嬉しかった。私のこと全部あなたに話そうと思って今日はここにきたんだよ」
結局その彼氏とはすぐに縁を切る事ができず、子供を堕ろした後の今現在でさえも、体の関係だけを求められていたそうです。
どんなに不安で悲しかっただろうか、こんな小さい体で一生懸命一人で悩んできたのかと思うと、自然と彼女を抱きしめていました。
彼女を抱きしめながら一緒に泣きました。
そして生まれて初めて、人を好きになる事の大切さに気がつきました。
香織の体を強く抱きしめて、はじめてキスをしました。
彼女の辛い思いや、苦しみを受け止めている気持ちになりました。
車に戻り、後部座席で二人は裸になり、今から初体験なのだという思いは不思議と全く無くて、ただ香織と同じ時間を過ごせる事の方が幸せに思えました。
緊張と喜びが一緒になったような不思議な感情の中で、香織の大切な部分をただただ優しく触れる事だけに気を使いました。
だんだん濡れてくる部分に、ゆっくりと挿入しました。
熱さと包み込むような優しさを感じながら、少しだけ腰を動かしました。
唇を重ねあいながら、香織の中から伝わる感情を受け止めながら、今まで味わったことのない快感に襲われ、出るタイミングがわからず、射精の瞬間よりもずいぶん早く彼女の中から抜いてしまいました。
恥ずかしかったのですが、香織に手でしてもらい、香織のお腹の上に、僕の全てを受け止めてもらいました。
香織は僕の背中に手を回して泣きながら抱きついてきました。
その日は車のなかで手を握ったまま彼女を寝かせて一夜を過ごしました。
香織とは今も一緒にいます。
一緒とは言っても二人は付き合ってはいません。
なぜそうなのかはわかりませんが、ただ一つ言えることは、あの日の出来事が決して寂しさや悲しさを紛らわす為の事ではなくて、お互いの思いを分かり合えた結果でそうなったのだということ。
香織も僕も今は付き合っている人もいなくて、時々二人だけで話をしたり、会ったりするだけです。
もし、二人が遠く離れ離れになっても、本当に切れることのない強い心の繋がりがあるからこそ、一緒にいないでもやっていけるのかもしれません。
僕は彼女と出会い自信を持つことができた。
その事をいろんな方々に知って欲しいです。