それと言うのも同窓会の幹事の中に、妻の元彼の名前を見たからです。
その彼とは高校2年の時から5年間付き合い、22歳の時に妻から別れを切り出して、1ヶ月後に私と知り合って交際するようになりました。
何故私が妻と彼との付き合いを知っているのかと言うと、付き合い始めて2ヶ月くらい経った頃に、私に取られたと勘違いした彼が、何処で調べたのか電話してきた事があったからです。
事情の分からない私が会って話を聞くと、彼は妻との付き合いの深さを必死に話し、最後には今でも忘れられない捨て台詞を残して去って行きました。
「朋子は俺が女にしてやった。それからもやりまくっていたから、朋子のオマンコは俺のチンボに馴染んでしまっている。あの口だってそうだ。散々俺のチンボを舐め回して、味を覚えてしまっている口だ。いつか俺のチンボが懐かしくなって帰って来るまで、暫らくの間貸してやる。俺のお古で悪いが、それまで精々楽しめ」
私が言うのも変なのですが、妻と彼は美男美女のベストカップルに見えました。
妻は私には不釣合いな美人で、彼の事を忘れたくて私と付き合い出したのかも知れないのです。
妻も彼もお互いに結婚して子供までいて、今ではいい大人なのだから間違いは起こさないと思っていても、その様な訳で、今迄は妻を行かせてやる事が出来ませんでしたが、今回だけは事情が違います。
それと言うのも、母が倒れてから半年前に死ぬまでの1年間、妻は母の面倒を本当に良く看てくれました。
妻達も45歳になって、子供の世話から解放された歳になり、今回は温泉で泊まりの同窓会だったので、正直今迄以上に行かせたくは無かったのですが、寝たきりの母を看ていて、満足に外食にも行けなかった妻に対して、彼との事が心配だから行くなとは言えなかったのです。
妻が出掛けてから、20年も前の事を、何を拘っていると自分に言い聞かせますが落ち着かず、何とか忘れようと何年か振りにパチンコに行きましたが、それでも頭から離れません。
それは夜になると尚更で、いつも以上に酒を飲んでも眠れないのです。
そんな時妻から電話が掛かり、そこは歌声も聞こえて来る賑やかな場所でした。
「二次会でスナックに来ているの。私がいなくて寂しい?」
妻は酔っているらしく、いつに無くハイテンションです。
「みんなで行っているのか?」
「男の子が3人と、女の子は私を入れて3人」
同窓会になると昔に戻ってしまい、45歳のおじさんとおばさんでも、男の子と女の子になってしまいます。
「岩井君もいるのか?」
「誰?」
「岩井健一君だ」
私は彼の事を気にしていない振りをして送り出しましたが、私も少し酔っていたので、つい聞いてしまいました。
「健ちゃんのこと?名前を覚えていたの?あっ!もしかして心配している?ねえねえ、主人が私と健ちゃんの事を心配しているの」
すると電話の向こうから、冷やかす声が聞こえます。
「ヒューヒュー。それなら心配する気持ちにお応えして、本当によりを戻して、今夜やっちゃえー」
「それでは期待にお応えして」
「健ちゃん。そんな事しないの。こらー」
私は電話を切りましたが、不安は大きくなっていきます。
彼が抱き付いて来たのだろうか?
妻は浴衣を着ているのか?
家では風呂上りにブラジャーを着けた事はないが、温泉に入ったあと、きちんとブラジャーを着けているだろうか?
そのような事を考えていると、益々不安は大きくなります。
大勢いる同窓会で、どうして3対3なのだろう?
妻と彼のように、元恋人同士が抜け出してスナックに?
そもそも同窓会を知らせるハガキ自体カモフラージュで、本当は6人で行ったのでは?
そうなると部屋は最初から3部屋予約してあって、今頃は元恋人同士に別れて?
この様なあり得ない事まで考え始めて、眠る事が出来ません。
翌日私は、不機嫌な顔で妻の帰りを待っていました。
「ありがとう。久し振りに楽しかった」
私が返事もしないで部屋を出ると、妻はすぐに後を追って来ます。
「どうしたの?何かあったの?」
妻にとっては、たいした事では無かったのかも知れません。
しかし私の怒っている理由すら分からない事に、更に怒りは増して行きます。
「あの電話は何だ!俺に電話して来た時、何をされた」
「何をされたって・・・あなたに電話して・・・みんなに冷やかされて・・・隣に座っていた健ちゃんが、ふざけて私に抱き付いて・・あっ・・・」
「もしも俺が昔の恋人と同窓会で会って、抱き合っていても酔っていればいいのだな?人妻に平気で抱きつく男と、抱きつかれて喜んでいる女。おまえの考え方はよく分かった」
ようやく妻は神妙な顔になります。
「すみませんでした。羽目を外し過ぎました。許して下さい」
20数年ぶりに懐かしい仲間と会って飲み過ぎて、はしゃいでしまう気持ちが分からない訳ではありません。
ただでさえ旅の恥は掻き捨てで開放的になるのに、妻の場合は看病から解放されて、より開放的になってしまったのでしょう。
しかし横に座って抱き付いて来たのは、ただの幼馴染みでは無いのです。
妻から電話して来た事で、彼と疚しい関係で無い事は分かるのですが、疑い出すと、逆に疚しいから疑われない様に電話して来たともとれるのです。
妻が反省して謝った事で今回は許し、今迄通りの平穏な生活が続いたのですが、同窓会から2ヵ月が過ぎた頃、急に妻が同窓会の打ち合わせに行かせて欲しいと言い出しました。
「なぜ次の幹事になった事を黙っていた」
「あの時は私が羽目を外してしまって・・・あなたに嫌な思いをさせてしまったから・・・言えなくなって・・・」
「誰と幹事をする?」
「・・・圭子と言う・・・3年生の時に仲の良かった子・・・」
妻は一瞬言葉に詰まりました。
「それにしても、次の同窓会は5年後だろうから、いくら何でも早過ぎるだろ」
「それが・・・」
温泉での同窓会が好評で、参加人数は減っても毎年やれと言う声が上がり、それならば色々な人が出席出来るように、毎年お盆ばかりではなくて、隔年で正月にする事に決まったそうです。
「来年はお正月の番だから、すぐに来てしまうの」
「幹事と言う事は、朋子は次回も出席するのだな?」
「勝手にごめんなさい。断わったのだけれど、最後には多数決で決められてしまって。一度やったら次の人に交替していく事に決まったので、今回だけなのでお願いします」
結局妻は打ち合わせに行ったのですが、帰って来てもその話題には触れません。
「正月の同窓会は、何処ですることになった?」
「えっ・・・ええ・・前回と同じ所。それよりも、この間お隣の奥さんが・・・」
私が聞いても、妻はわざと話を逸らします。
妻に不信感を抱いた私は、入浴中に見てはいけない物を見てしまいました。
(来週また逢えるな)
(そんな言い方はやめてよ。同窓会の打ち合わせで会うだけでしょ)
(それは、打ち合わせで会うだけでは嫌だと言う意味かな?)
(またその話?それはこの前はっきりと断わったでしょ。いつまでもそんな事を言っているのなら、もうメールもしないわよ)
(朋子は俺に逢えるのが嬉しくないの?)
(そりゃあ会えば懐かしいし、話していて楽しいわ。でもそれは友達として)
(ただの友達か?そんな冷たい言い方をするなよ。そうだ。今度は静かな場所で打ち合わせしない?)
(静かな場所?)
(ああ。昔は逢えば必ず静かな所に行っただろ?)
(怒るわよ。厭らしいのは、昔と少しも変わらないんだから)
(厭らしい?昔は朋子だって厭らしい事が大好きだったのに、今は嫌いになったの?よほど旦那が下手なのかな?俺がまた、厭らしい事が大好きな朋子に戻してやろうか?)
(本当に怒るわよ)
(嫌われそうだから、今日はここまで。明日またメールします)
それは送られて来るのを待ってすぐに送り返すといった、まるで会話をしている様なメールでした。
内容も、彼はふざけて書いている様に見えますが、本気なのが分かります。
妻もまた、断ってはいても本当に怒っているような書き方ではありません。
何より、このメールが初めてで無いのは明らかなのですが、残っていたのはこれだけで、他は全て消されている事からも、身体の関係は無いにしても、この様な内容のメール交換をする事自体、既に私には知られたく無い、疚しい関係だと自分でも分かっている事になります。
私はすぐに妻を起こして問い質そうと思いましたが、これだけでは冗談だと言われて終わりです。
しかし彼と幹事を引き受けておきながら、もう一人は女友達だと言って嘘を吐いた事は誤魔化し様の無い事で、来週も彼と2人だけで会うのは間違いありません。
最初は凄く卑劣な事をしているようで気が引けましたが、一度開けてしまうと平気になってしまい、妻が寝静まると毎晩のように盗み見てしまうのですが、就寝前にその日のメールを全て消してしまっているようで、何も残ってはいませんでした。
入浴中がチャンスだと思っていても、都合悪く帰宅の遅い日が続き、妻は入浴を済ませていて見る事が出来ません。
ようやく2回目の打ち合わせの日の前日になって早く帰る事が出来、妻がお風呂に入った隙に見てみると、案の定その日のメールが残っています。
(やっと明日逢えるな。一週間が長かった)
(恋人同士が逢うような言い方はやめてよ)
(えっ、違うの?)
(違うでしょ。昔はそうだったけれど、今はただの友達)
(朋子が一方的に離れて行ったから、俺は未だに納得出来ないでいる)
(やめてよ。20年以上前の話よ。健ちゃんだって、今は愛する奥さんや可愛い子供達がいるでしょ)
(妻を愛しているが、朋子ほどは愛していない。子供は可愛いが、朋子ほどは可愛くない)
(そんな冗談ばかり言っていると、明日は行かないからね)
(ホテルには行かないと言う意味?)
(馬鹿。そんな所には行かないに決まっているでしょ)
明らかに妻も、メールのやり取りを楽しんでいるように感じました。
翌日、妻が着替えている横で私も着替えていました。
「あなたも何処か出掛けるの?」
「ああ。朋子と一緒に行って圭子さんの顔を見てから、一人で映画でも観に行くよ」
妻の着替える手が止まります。
「早くしないと間に合わないぞ」
それでも妻の手は止まったまま動きません。
「俺が行って、何か不都合な事でもあるの?」
「彼女は恥ずかしがり屋だから」
「それなら分からないように、遠くから少し見るだけで消えるから」
「どうしてそんなに圭子を見たいの?」
「分からない。もしかすると、髭の生えた圭子さんかも知れないと、疑っているのかも」
「えっ」
「悪い、悪い。そんな事は思っていない。そのような事をしたら夫婦は終わってしまうと分かっているだろうし、父親に隠れて男に会っているような母親だと子供達に知られたら、当然親子の関係も壊れてしまうと分かっているだろうから、朋子がそのような事をするはずが無い」
妻の顔が蒼ざめていきます。
「悪い冗談だったな。圭子さんは美人だと言っていたから、男としては一目見てみたくなっただけだ。さあ、行こう」
ここまで言えば、妻は私に懺悔するだろうと思っていましたが、どうにか着替えを済ませた後、お腹が痛くなって来たので今日は断わると言い出しました。
「もう家を出ているだろうから、早く断わらないと迷惑を掛けるぞ」
私が側にいては電話出来るはずも無く、妻はトイレに行って来ると言って、携帯の入ったバッグを持ちました。
「トイレにバッグを持って行くのか?まあいいが、その間に俺が断わりの電話をしておいてしてやろうか?」
「自分で断わりますから」
「俺がちゃんと断ってやるから、携帯は置いていけよ。何て登録してある?岩井か?それとも健ちゃんか?」
トイレに向かう、妻の足が止まりました。
「何年一緒に暮らしていると思っているんだ?朋子の様子から、そのくらいの事は分かる」
携帯を見たとは言えません。
「ごめんなさい。あんな事があったから言えなかった。健ちゃんとは何もないの。疚しい事は何もないの」
こちらに背を向けたまま話す妻によると、旅館での朝食の時に次の幹事の話しになり、あの時一緒にスナックにいた友人達に、2人で仲良く幹事をやれと冷やかされ、彼が一つ返事で引き受けた事もあって全員から拍手され、強引に幹事にされてしまったそうです。
今にも倒れそうなほど真っ青な顔をしている妻を見て、私は気持ちとは正反対の事を口走っていました。
「朋子が彼とおかしな関係になるとは思っていない。朋子が俺に言い辛かった気持ちも分かる。ただ、嘘を吐かれるのが嫌なんだ。その様な嘘は一度吐くと、辻褄を合わせるために更に嘘を吐かなければならなくなる。そして次第に嘘を吐く事が平気になっていく」
「その通りです。今もどうやって嘘を吐いて逃げようか、そればかり考えていました。ごめんなさい」
「みんなに迷惑を掛けるから、会って同窓会の事を決めて来い」
私は妻を殴って怒鳴りつけたいほど怒りに震えていたのですが、それを隠して軽くて理不尽な彼とは逆の、冷静な大人の男を演じてしまいました。
妻もまた「二十歳の頃に戻ったような気がして、浮かれてしまいました」と言って反省し、私の目の前で彼に電話を掛けて、今後は会わずに電話で打ち合わせをする事を告げました。
「彼も分かってくれて、あなたに謝っておいて欲しいと言っていました。ただ、あとの事は全てやっておくから、幹事として同窓会には出席して欲しいと」
「行って来い。行って、当日くらいは幹事の仕事をして来い」
あの時は若かったのと、妻から一方的に別れを切り出されたショックから、あの様な捨て台詞を吐いただけで、彼も大人になったと安心したのですが、実際はそうではありませんでした。
正月が来て妻が同窓会に行った夜、私が寝ようとパジャマに着替えていると、妻の高校の同級生を名乗る女性から電話が掛かります。
「同窓会に行きましたが」
「中学か何かの?」
「いいえ、高校の同窓会です」
「ええっ?それは人数が集まらなかったので・・・」
彼女は同窓会で妻に会えるのを楽しみにしていたのが、中止になった事で声だけでも聞きたいと電話を掛けて来たのです。
「あっ、私の勘違いでした。ごめんなさい」
妻が嘘を吐いて何処かに行ったと察した彼女は、慌てて電話を切ってしまいます。
私は妻に電話しましたが妻は出ません。
おそらく電話に出られない状態なのでしょう。
私は眠れずにいると、1時間ほどして妻から掛かって来ましたが、今度は私が出ませんでした。
翌朝妻達が同窓会をする予定だった旅館に行き、ロビーで待っていると中年のカップルが後ろに座り、フロントで支払いを済ませているもう一組のカップルに手を振っています。
「朋子達はまだ?」
「うん。名残惜しくて、まだ布団の中にいたりして」
私はこの4人と妻と彼が、前回スナックに行った6人だと直感しました。
「朋子。こっち、こっち」
後ろから声が掛かると、男の後ろを俯いて歩いて来た妻が顔を上げ、私を見つけると立ち止まって手に持っていたバッグを落しました。
「私、知らなかったの。同窓会が中止になったなんて、本当に知らなかったの」
「家には帰って来るな。落ち着く先が決まったら連絡して来い。離婚届を送る」
「待って。行かないで。待って」
私が旅館から出て行こうとすると、妻は大きな声で何度も私を呼び止めましたが、他の5人は何も言えずに立ち尽くしていました。
その後妻とは別居し、離婚の話し合いの度に許して欲しいと謝って来ましたが、彼の方の離婚が成立したのを知ると、私との離婚を受け入れて去って行きました。
彼が言っていた様に、元々借りていただけなのかも知れません。
そうでも思わないと、私は生きていられないから。