学校代表でなんたら大使に任命され、某オセアニアの姉妹都市へと旅立って10日あまり。
各校男女1名ずつだとは聞いていた、それっぽい集団を改札口付近で見つける。
そう、もうすぐアイツと会えるのだ。
本当であれば両親が迎えに来るはずだった。
仕事の都合で迎えに行けなくなった、とTELが来たのがほんの1時間前。
代わりに俺がここにいる。
面倒臭いという顔をしてはいるが内心ドキドキ。
長身、一際目立つ栗色の髪、周囲の高校生とは明らかに異様な女が階段を昇ってきた。
そう、アイツが俺の姉なのだ。
周りと較べて異様なのは、ルックスが整っているからとかそんなんじゃない。
俺の姉だけ荷物を持っていないのだ。
(ちょ、おま、手ブラで海外かよっ!)
と、遠くからツッこみを入れた直後にその理由が判明する。
姉の後ろから背の高いイケメン高校生が登場、2人分の荷物を持っている。
姉もデカイがそれ以上に俺もデカイ、が、彼のほうが俺よりデカイかな。
日焼けした肌に白い歯、軽々と荷物を持ち運ぶ様子は筋骨隆々といったイメージ。
持っているのが姉の荷物であろうことは簡単に想像できた。
イジメられっ子が皆の荷物を背負わされているのとはワケが違う、ただならぬ雰囲気。
俺のスカウターが奴の戦闘力を計測・・・。
110000・・120000・・BOMB!
・・・なんだとっ!?
それもそのはず、イケメン野郎はこの辺じゃ知らないものがいないくらいの有名人。
甲子園は惜しくも逃したものの、MAX150キロの直球はプロも注目する逸材との噂。
甘いルックスも手伝い超人気の某高校のエースピッチャーなのである。
親しげに会話を交わしながら改札口を出てくる男女、なんかお似合いのカポー。
周囲の皆も違和感なく、その様子を見ているのが腹立たしい。
俺がフリーザ様なら真っ先にザーボンさんとドドリアさんに抹殺指令を下す。
おい姉と一緒に代表に選ばれた同じ高校の男子、そこのメガネ、なに疲れ切った表情してやがる、このヤムチャ!!!(仮名)
せめて荷物持っているのがオマエなら俺はこんなに怒りを覚えていなかったはず。
ああ超サイヤ人になっちゃうよ、純粋な怒りが沸いてきたよ、また姉パンツに矛先が・・・(ry
引率の先生?らしき人の元に一旦集まり、そして解散した模様。
思わず柱の影に身を隠す俺。
(ピッコロさん、俺上手に気配消せてますか?)
姉の後ろ姿を黙って見送る。
隣にはまだダルビッシュ(仮名)。
ヤムチャはもういない。
(こんなはずじゃなかった・・)
「あーシコタン、迎えに来てくれたんだー」
嬉しそうに駆け寄る姉、そして荷物を面倒くさそうに受け取るのが俺のはずだった。
恐らくあの様子じゃ、両親は代わりに俺が迎えに行くとは伝えてないのだろう。
いや、俺がメールで伝えていれば良かっただけの話なんだが、なんとなくコッソリ迎えに来たかったんだ。
いつもだらしのないジャージ姿の俺なのに、結構お洒落な格好までしてきたのがますます虚しい。
一体何しに来たのかと自問しながら駅の入り口付近にある喫煙所へ向かう。
覚えたてのタバコに火をつけ、ケムリを一気に吐き出す、不味いったらありゃしない。
「すいません、火ぃ貸してもらえますか?」
振り向くとそこにはヤムチャ。
お前制服姿じゃん、そんなとこだけ戦闘力高けぇなオイ!
込み上げる笑いを抑えながらライターに着火、ヤムチャが堂に入った仕草で紫煙を燻らせる。
「サンキューです」
さすが、なんとか大使に任命されて帰国しただけのことはある、英語喋りやがった。
「サンキュー」に「です」を付けるあたりに、ヤムチャの人柄の良さを感じた。
ほんの少しだけイライラが解消された気がした。
数分後、なぜか吉野家で牛丼食っていた。
姉、隣にダルビッシュ、その隣にヤムチャ、そのまた隣にシコタン。
詳しい経緯は省くが、なんぞこれw
「ここは俺が御馳走するよ」とダルビッシュ。
「ダル君はもうすぐ契約金とかでお金持ちになっちゃうのかな」とヤムチャ、黙れ。
財布から乱暴に二千円を取り出し渡す俺。
それから奪い取るように姉の荷物を背負い店を後にする。
姉も素直に俺を追いかけてきた。
「お釣り、お釣りぃー」とヤムチャも追いかけてきた。
やっぱりヤムチャの人柄の良さを感じた。
またほんの少しだけイライラが解消された気がした。
「アドレス交換しようよ、また会いたいから」
ダルビッシュが涼やかな笑顔で、爽やかな一言を口にした。
姉、ダル、ヤムの3人でアドレスを交換するという形ではあったが、ダルとヤムがメールを交わすことは一生あるまい。
解消されたイライラがまたもマックスへ到達し、第四章のスタートです・・・。
仕事の都合で迎えに行けなかったとは言え、両親もいつもよりは早めに帰宅。
久しぶりに家族揃って共にする夕食、自然と会話も弾む、俺以外は。
足早に自分の部屋へと戻り、窓際でコッソリ食後の一服、そしてリセッシュ。
最近ではオナニー後に加えてタバコの後にもリセッシュ、減りが早い。
そこに姉が登場し、タバコを咎められる。
健康を害するから止めろ、とか未成年だから止めろ、とかそんな野暮は言わない。
シコタンには似合わないから止めたほうが良い、のだそうだ。
そんなことを姉から常々言われていた。
どうかな、見た目ヤムチャ・・・いや、ヤンチャな俺にタバコは似合わなくはないはず。
『見た目』で思い出したが、姉とダル、傍から見れば理想のカポーだった。
嫌なことを思い出し、イライラついでに再びタバコに火をつける。
最初は父親のタバコをくすねて悪戯する程度だった。
食後の一服に大人の快感を覚え、週末にテーブルの上に準備される千円で初めて買ったメンソールに味をしめた。
「吸いすぎるとインポになるらしいよね?」
ベッドに腰を下ろしながら姉が呟く。
「まったく使う予定ないですから全然問題ありませんけど?」
言葉が刺々しくなるのを抑えることができなかった。
頭の中にダルが浮かんで、それを払うかのようにケムリを吐き出す俺がいた。
「あっそ」
姉が冷たく言い放ち、部屋を出て行った。
ベッドの枕元に小さな箱が置いてあり、中身は俺のイニシャルの入った指輪。
ありがとうって言いたかったけど、実際に言えたのはずいぶん経ってからだった。
それからは姉が携帯を弄っている姿を見るたび、内心穏やかじゃなかった。
姉は普通に話し掛けてきたし、俺も表面上は平静を装ってた、と思う。
が、実際のとこ、姉は俺の異変に気付いていたらしく、気付いているからこそ普通に話し掛けていたそうだ。
夏休みも終盤に差し掛かり、休み明けに提出しなければならない大量の課題に手をつける。
いつも通り俺の部屋に姉が登校してきて受験勉強に励んではいたが、時々鳴る携帯のメール着信音に俺は神経を尖らせた。
一向に減る気配のない大量の課題に辟易していたのも手伝い俺は声を荒げた。
「つかマナーモードにして、携帯弄るなら自分の部屋でやってよ、頼むから」
ぶっきらぼうに言い放つ。
「ごめんなさい・・・」
ヤバ!って思った。
姉が素直に謝るなんて、よっぽど俺の言い方マズかったと気付いた。
でも止まらない。
「つか誰?受験勉強で忙しいってわかってんのソイツ?」
ソイツなんて言ってはみたものの、ダルなのはわかりきってた。
そもそもメールというものをあまり好まない姉は通話で用件を伝えるのがほとんど。
「ダル君、最近メール頻繁にくるんだ、一応返事は返さないと悪いかなって・・・」
あっそ、あっそ、あっそ、あっそぉぉぉぉぉっぉぉぉおおって思ったね。
「つか俺アイツ嫌い、なんか知らないけどムカつく」
本当に無様、情けないにも程があるだろって感じのセリフ。
そんな自分に嫌気が差して、逃げるようにして窓際に行きタバコに火をつける。
その最中にも無機質なメール着信音が鳴り響く。
「イラっつくわマジで・・・」
「ごめんね、今マナーモードにす・・・あ、シコタンお姉ちゃんにメール送ってみて」
「めんどくせぇ、なんで?」
「いいからお願い、早く送って、つかさっさと送れ」
なんか形勢逆転の悪寒。
姉の勢いに圧され空メールを作成、すぐさま送信した。
“♪~♪♪~♪♪♪~♪~”
あらなんて素敵なメール着信メロディー、某ラブソングじゃん。
「シコタンのは特別なんだぁ、うふふ」
なにその恋する乙女みたいな表情はっ!?
「時々しか鳴らないから、ちょっと淋しいけど」
はい、今度からもっといっぱいメールしますっ!!
喜んでいいのか?俺は喜んじゃっていいとこなのかコレ?
チクショウコノヤロ、ダキシメタイゼ、ダキシメテ、ムチューッテ、クチビルトクチビルクッツケタイゼ!!!
直前までフテッ腐れてた手前、態度急変でイチャイチャとかは出来るわけもなく、なぜか勃起してしまったムスコをなだめようと、メンソールを深く吸い込んだ。
初めてキスしたいと思った、今更だけど。
思い返せば、フェラをする姉の口元とか、精液を吐き出したりとか、姉のクチビルを意識する機会は十分すぎるほどあったはずなのに、キスしたいとは思ったことなかった。
「勉強しよっ、終わらなくなるよ」
「ん?うん」
おい、姉よ、オマエ弟の扱い方を心得すぎじゃないか?
ってゆうか、弟よ、オマエ簡単に弄ばれ過ぎじゃないか?
ああそういえば、と指輪を取り出し、どの指に付けたらいいのか姉に聞いた。
黙って指輪をはめてくれる姉の指にも、お揃いと思われる指輪が光ってた。
そして、姉と目が合った。
なんだか目を逸らせなくて、そのままちょっと見つめ合った気がする。
またメール着信音が鳴った。
「あ、マナーモード、マナーモード!」
姉が大袈裟なリアクションで携帯を手に取り、なんか操作したあと、定位置に戻り勉強の続きを始めた。
ムードをぶち壊した携帯の着信音だったけど、むしろ助かったって思った。
心なしか頬を紅く染めた姉も、ホッとしているような印象だった。
とりあえず「お土産ありがとう」ってやっと言えた。
姉は「ただいま」って返してくれた。
ああ帰ってきたんだな、って心の底から思った。
照れ臭かったので「おかえり」とは言えなかった。
一度芽生えたキスしたいという感情はなかなか抑えがきかず、それからも俺を苦しめることになる。
自営業を営む両親は多忙を極めはじめ、運が良いのか悪いのか、夏休み最後の週末の夜を俺たち姉弟は2人きりで過ごすことになるのだった。
運命の一夜がもうすぐそこまで近づいて来ていた。
第四章『いざ決戦でござる編』[完]