翌朝パッと目が覚めて焦ったけど、既にベッドには姉はいなくて、キッチンで朝シャンのあと朝食食ってた。

姉「おはよーw」

やたら明るい姉。
PCMAX
俺「おはよう・・・」

メシの間中、姉が俺の事を見てる気がして姉の方を見れない。
その間も姉はなぜかやたらと俺に話し掛けてくる。

「ねえ、今日は晴れるかなぁ」とか、「今日は何曜日だっけ」とか。

部屋に戻った後も俺の部屋にやってきて勉強してる俺の後ろで漫画とかを読み始める。

姉「ねぇ~トオルちゃん~」

俺「なに?」

姉「昨日は一緒に寝ちゃったね~」

俺「そうね」

姉「朝起きたら隣でトオルちゃん寝てるんだもん、ビックリしちゃった☆」

俺「俺も姉ちゃんがあんなに酒癖悪いとは思わなかったよ」

姉の方を見ないで言う。

姉「私も初めてだよ、あんなに酔っ払ったのw」

俺「そう?」

姉「うん・・・」

俺「・・・」

ちょっとした沈黙。

姉「やっぱりトオルちゃんが一緒だったからかなぁ・・・」

俺「彼氏とだって飲む事はあったでしょ」

姉「彼氏の前じゃ飲んだ事ないよ・・・」

俺「ふ~ん・・・」

姉「本当に好きだったのかな・・・?今じゃソレもわかんないよ・・・」

俺「・・・まあそう思えるって事は吹っ切れたって事でしょ?」

姉「・・・そうかもね・・・うん、そうかも」

姉「ねえ・・・」

俺「なに?・・・っていうか今日はやたら絡むね」

姉「あのね、トオルちゃん今の彼女とはHした?」

俺「!!・・・なに言ってんの急に!」

姉「別にそんなに驚かなくてもいいじゃん!」

他の家の姉弟の事は知らないが、うちの姉はそういう話は昔から苦手というか恥ずかしがるので一切したことがない。
その姉が急に『H』とか言い出すので、ビックリして思わず振り向いた。
姉は顔を真っ赤にしながらコッチを見ていた。

姉「ち、ちょっと姉として気になっただけよ!」

俺「いや、そんなん姉弟で話すこっちゃないだろ・・・」

その時、姉の携帯が鳴る。
しかし姉はぱっと携帯を見ただけで、今それどころじゃないという感じでピッと電源を切って側に放った。

俺「友達からじゃないの?」

姉「うん・・・でも今はいいの。・・・ねえ・・トオルちゃんの初恋って、やっぱりお姉ちゃんだったの?」

俺「・・・なんでそんな話を急に?」

姉「いいじゃんそのくらいの事教えてよ!」

『そのくらい』と言った割には姉の目はやたら真剣だった。

俺「・・・もう小学生の頃だよ・・・ガキの頃はよくあるだろそういう事」

姉「本当?トオルちゃんの初恋って本当に私?」

俺「・・・だから小学校の時だってば!」

姉「そうなんだ・・・。じゃあやっぱり今の彼女さんが私に似てるのってそういう事なんだ・・・」

一人で結論付けて突っ走る姉。

俺「ちょ!そういう事は関係ないよ。たまたまだろそれーーー」

姉「ねえ、トオルちゃん」

(こいつ聞いてねぇ・・・)

俺「なんだよ・・・」

姉「お姉ちゃんと付き合いたいとか思う?」

俺「はあ?!!」

思わず階下の両親にも聞こえそうな勢いで声をあげてしまった。

俺「なに言ってんだよ・・・」

思わず小声になる。

俺「馬鹿言うな」

姉「バカじゃないもん・・・お姉ちゃんは真剣だもん・・・」

俺「今彼氏にふられて、姉ちゃんショックで、ちょっとまいってんだよ。だからそんな事考えるんだ」

姉「違うもん!もうあの人の事はどうでもいいもん!」

俺「違う事あるかよ。実際ここ最近姉ちゃんおかしいじゃん・・・。弟のデートについてきたりさ、酔っ払うし・・・」

姉「・・・」

姉「トオルちゃんが悪いんだよ!」

俺「何で俺が悪いんだよ!」

姉「だってトオルちゃんが慰めてくれて、お姉ちゃん凄い嬉しかったんだもん!トオルちゃん凄い優しいんだもん!今まで会った男の人たちの中で一番優しいんだもん!姉弟でも関係ないもん!私トオルちゃんがいいもん!」

そう言うと姉が抱きついてきた。
あまりの騒動に下から両親が、「おーい、なに喧嘩してんだ、うるさいぞ」と言ってくる。
どうやら騒いでるとはわかっても会話の内容はわかってない様だ。

姉「他の男の人はもう信じられない・・・トオルちゃんは浮気なんかしないでしょ?」

俺「確かに俺は浮気はしないけど、ソレとコレとは話が違うだろ」

姉「違わない!だって私トオルちゃんの事が好きで好きで仕方ないんだもん・・・」

俺「もう、姉ちゃん落ち着けよ・・・俺達は姉弟だぞ。そういう関係にはなれないんだよ・・」

姉「ヤダ!」

俺「ヤダって・・・だって姉弟だぞ。寂しい時は一緒にいてやるし、いくらでも遊んでやるから」

姉「ヤダ!」

このとき思ったのは、姉は付き合う男相手だとこんな風なのかなという事だった。
まるで子供みたいに駄々っ子で甘えん坊、日頃の姉からは全く想像できない。

姉「ねえ・・・トオルちゃん・・・お姉ちゃんのこと嫌い?」

俺「嫌いなわけないじゃん・・・」

姉「じゃあ好き?」

俺「だから好きとか嫌いとかさ・・・子供じゃないんだからさ」

姉「私トオルちゃんに嫌われたら・・・もう一生一人だよ・・・」

俺「何バカなことを言ってんだよ・・・」

ほとほと困り果ててしまった。
日頃わがままを言う人じゃない人の突然のわがままというのは、どうしたらいいのかわからない。

俺「大体、俺と姉ちゃんが付き合いだしたら、今の彼女はどうなんだよ・・・。それって結果的には俺だって浮気したことになるじゃん・・・」

姉「それは・・・」

初めて狼狽える姉を見てここだと思った。
姉を諭す糸口が見つかったと思った俺はそこに論点を絞る事にする。

俺「アイツいい子だっただろ?あの子を姉ちゃんと同じ目に遭わせていいの?俺を姉ちゃんを裏切ったような男にするの?」

姉「・・・それはヤダ・・・」

俺「だろ?だからもうその話は無しね。姉ちゃんもそのうちいい人が出てくればすぐにそんな事忘れるよ。俺もこの話は忘れるからね・・・」

姉「・・・」

そう言うとまた俺は勉強に取り掛かる。
姉は随分と長いことベッドに座ったままこっちを見てたんじゃないかと思う。

姉「わかった・・・」

長いこと黙ってた姉が口を開く。

姉「トオルちゃんに彼女がいる間は私も我慢する・・・。でも、もし彼女と別れたら私と付き合ってね」

(コ、コイツワカッテネェ・・・)

ただ逆に言うと、俺と彼女が別れない限りそれはないわけだし、そのうち姉も正気に戻るだろうと思ってたので、つい生返事で、「ああ、そうだね」と言ってしまった。
このとき俺は甘く見てた。
姉の強情さと一途さを・・・。

しばらくは何も無かった。
姉はすっかり立ち直ったみたいに見えるらしく、父も母も喜んでいた。
実際俺に対しても変な事を言うことはなくなって普通だった。
ただ、相変わらずメールの頻度は高いし、部屋にいるとやって来て、「一緒にTV観よう」とか、「怖いDVD借りてきたから一緒に観てくれ」とか、姉は頭も良いので俺も勉強見てもらったりと助かってた。

姉「ねぇ彼女とはその後どうなの?w」

俺「うーんまあ、ぼちぼちだよ」

軽い感じで聞いてきてるけど、さすがに探りを入れられてる気がして身構えちゃう。

姉ちゃんは子供の頃から自慢だった。
頭いいし、友達には美人だ美人だって羨ましがられてた。
それに凄い優しかったしね。
でもやっぱ、『好き』だとか言われると引いちゃうわけで、ちょっと警戒心を持ってたのは事実。
でも、それも時間が経つにつれて溶けていって、俺も高校卒業して大学生になったり、姉ちゃんが社会人になったりして俺もいつの間にか忘れてた。

姉ちゃんは就職しても実家住まい。
俺も自宅から通える大学。
彼女とは残念ながら大学入って、「サークルの先輩が好きになった」とかで別れた。
凄いショックでかかったけど、姉ちゃんには黙ってた。
というか家族にも黙ってた。

姉ちゃんも仕事が忙しいみたいで毎日遅くまで働いて帰ってくる。
気になるのは、そろそろ年頃って事で、「決まった人がいないのか?」って心配する両親に対して、「私、結婚願望ないし」ってノラリクラリしてるところ。
お見合い写真とか頻繁に親戚とかが持ってくるんだけど、色々理由をつけて断ってるみたい。

彼女と別れてから3ヶ月くらいして、母親が趣味で応募してるペア懸賞旅行が当たった。
当たったのは良かったけど両親とも仕事の都合が付かずに、「勿体無いからあんた達で行って来なさい」と母。

俺「何でだよ・・今更姉弟で旅行もないだろ」

母「でも勿体無いじゃない・・」

俺「叔母さんにでもあげればいいじゃん」

母「叔母さん達はもうお年でしょ、海外旅行は無理よ」

俺「どこなの?」

母「グアム」

俺・姉「グアム?!」

俺と姉は同時に声を上げた。
正直グアムはちょっと憧れた。

姉「私、グアム行きたいなぁ・・」

姉が目を輝かせて言う。

母「ほら、お姉ちゃんと一緒に行きなさいよ」

姉「そうだ、お姉ちゃんだけじゃ心配だ。お前も一緒に行きなさい」

結局そんな調子で押し切られた。
まあ実際、海外旅行中に誘拐されて殺された人がいた事もあって、報道関係の両親にしてみれば気になるところだったとは思う。
結局俺もグアムの誘惑に負けて、小遣いもたくさん出るのでいいかなと思った。

今思えば、油断してたと言えば油断してた・・・。

<続く>