決着の時は唐突に訪れた。
彼女が折れたのだ。
考えてみれば厳格な両親の元で育てられた彼女なのだ。
親には逆らえないと悟ったのだろう。
・・・僕らの敗北だ。

そうして僕は彼女に別れを告げられた。
最後の会話は電話だった。
すごく長電話になった。
僕が諦めたくなかったからだ。
でもその電話が長く続けば続くほど、僕の心も折れていった。
僕と彼女はその電話を最後に恋人をやめた。

2日後、「ちょっとだけ話がしたい」と彼女から電話があった。
時間も経って少しは気持ちの切り替えが出来はじめていた僕は、可能なら会話はしない方がいいような気がしたが、とりあえず応じた。
とりとめのない話から始まって思い出話もした。
初めて会った時の話。
桜を見に行った時や、美術館に行った時のことも。
やがてだんだんと会話が下の内容になってきたのをきっかけに、僕はなんとなく付き合っていた頃には聞けなかったことを、今だからこそと聞いてみた。

「最初にセックスしたとき、『初めて』だって言ってたけど、あれって嘘じゃなかった・・・?」

そう聞くと彼女はしばらく黙った後、「・・・うん」と言った。

「バレてたんだ」とも。

僕は少しショックを受けながら、「そっか」と返事をした。

「ごめん・・・」

小さな声が帰ってくる。
そして新たな疑問が浮かんで、また訊ねた。

「男の人と付き合ったことがないってのも嘘?」

彼女は答えた。

「ううん、それは本当・・・」

「じゃあ付き合ってない人とセックスしたことがあったんだ?」

また彼女はちょっと黙って、「ごめんなさい、嫌われたくなくて言えなかった」と、過去の話を少しだけ語りだした。
聞けば色々と経験済みだった。
フェラも昔はよくしていたらしい。
セックスも。
もちろん、そういう水商売的な仕事をしてたわけではないと言う。
ただ交遊関係上、そういう知り合いがたまに居ただけだそうだ。

「そうだったんだ・・・」

残念そうに呟くと、彼女は泣き出してしまった。

「嫌いになったよね?」と。

僕は否定した。
これからも好きな気持ち自体は消えないと思う。
どれだけ自分では気持ちの切り替えが出来たと思っていても、心の奥底では・・・。

彼女は電話の最後で、これからのことを語った。
今度、両親の勧めで婚活パーティーに行くことになった。
これからはそういうので結婚相手を選んでいくらしい。

僕は婚活パーティー以下なのか・・・とは言わなかった。

代わりに僕の何がダメだったのか聞いた。
どうして会ってもくれなかったのかも・・・。
理由は、「僕のほうが年下だったから」だそうだ。
会えない理由は、「きっといい人だから、会ったら結婚を許してしまう。だから会いたくなかった・・・」とか。

(なんだよそれ・・・)

とは口に出さずに僕はその話を聞いていた。
色々と心がモヤモヤしたまま電話は終わった。

それから何ヶ月も僕と彼女は連絡を断った。
季節がいくつか過ぎた頃、唐突に彼女からメールが入っていた。
報告したいことがあるから今夜電話したいそうだ。

夜、久しぶりに彼女と電話をした。
報告内容は、新しい恋人が出来たことだった。
予測出来ていたとはいえ、ショックは大きかった。
しかしそれでも、久しぶりに彼女の声を聞けたことで、僕はとても嬉しくって泣きそうになっていた。

また思い出したのだ。
初めて会った日のことを。
あの桃色の浴衣姿を。
桜の景色の中、振り返る彼女の微笑みを・・・。

「そっちはどう?」

彼女の問いに僕は、「全然だよ」と返事した。

「そうなんだ・・・」と彼女。

少しの沈黙の後、僕は訊ねた。

「前に言ってた婚活パーティーで会った人?」

彼女は、「違うよ~」と照れ笑いのような口調で答えた。
聞けば婚活パーティーは結局いい人がいなくて諦めたようで、その後、知り合いの紹介で今の人と会い、付き合い始めたらしい。
僕はドキドキしながら、勇気を出してあることを聞いた。

「その人とは、その・・・もう、したの・・・?」

彼女は押し黙った後、「・・・なんで?」と聞き返してきた。
ちょっと静かで冷たい声だった。
僕はばつが悪くなったようにどもって、「いや、別に、なんて言うか・・・」と言い訳を考えていると、彼女が答えた。

「うん・・・もうした」

その答えを聞いた瞬間、急速に僕の鼓動が高鳴った。
自分でも聞き取れるくらいに。
この動悸は、後悔なのか何なのか。
訳がわからないまま、とりあえず確認した。

「えっと、何の話かわかってる・・・よね?」

彼女は突然吹き出しながら・・・。

「わかってるよ、セックスでしょう?もうしたよ、した。何回か」

僕は、なぜか勃起していた。
電話を手に握りながら反対の手でチャックを下ろし、前に彼女の前でよくしていたようにペニスを露出させ、気づけばそれを握ってゆっくりしごき始めていた。

「そっか、そうだよね・・・。付き合ってるんだもんね・・・」

焦ったような変な口調で言うと、彼女はまた冷静な口調に戻り・・・。

「ごめんなさい、違う人としちゃって・・・」と申し訳なさそうに言ってきた。

(あぁ、あれから今日までの、いつかどこかの日に、何回か・・・。彼女は僕の知らない人と、知らない間に、セックスしてたんだ・・・)

ビクンビクンと、勃起したペニスが今までにないくらい痛いくらい、硬くいきり勃っていた。
透明な分泌液も容赦なく滲み出て、床にぱたぱたと雫を垂らす。
彼女のあのいい匂いのする綺麗なおまんこには、今は違う男が勃起したペニスを挿し込んでいるんだ。
そして勢いよく出し挿れを繰り返して彼女を気持ちよくさせているんだ。
想像してしまう。
そしてそれが想像でなく、現実に行われたことだと頭の中で再確認すればするほど、居ても立ってもいられない気持ちになってくる。

(なんだこの気持ちは・・・。これは・・・)

「・・・その話、もっと聞かせて?」

僕はペニスを思いきりしごきながら、電話の向こうの彼女にせがんだ。
彼女は最初、「えー・・・」と困ったように渋っていたものの、やがて照れるような口調でのろけ話をし始めた。
その話は、要約すると僕の頭をおかしくするものの連続だった。

「口でもよくする」
「精子も飲ませてもらってる」
「この前は顔にもかけてもらった」
「結構セックスしてる」
「割といつもやってる」
「会えばやってる」
「本当は付き合い始める前からやってた」
「一昨日もやった」
「昨日もやった」
「実は今日もやってた」
「いつも生で挿入される」
「いつも中に出される」
「でも正直気持ちいいと思う」
「そういえば生でしたことなかったよね、ごめんね」
「そうそう、今日も生でしたんだけど・・・」

彼女の言葉を聞きながら、僕は引き出しから、昔撮った彼女の顔写真を探し出していた。
当時部屋に飾るためにプリントしたものだった。
この時は僕のために微笑んでくれていた彼女が・・・。
僕の一番大切な、この人が・・・。
今は違う人の勃起したペニスをしゃぶって、精子を飲んで、顔にかけられて、生のペニスをおまんこに出し挿れさせて、悦んでる。
そう、僕は出来なかったのに、今は生挿入も中出しもされてる。
それを許してる。
それも何回も何回も!
僕の大切な彼女が!
知らない人と!
何回も何回も!
昨日も今日もしてた!
生で!
中に!

「・・・ああ!!」

僕は思わず声を出しながら、彼女の顔写真に精子をぶっかけた。
彼女の笑顔が僕の精子でいっぱいになった。
でも、それは写真だった。
本物の彼女は・・・、本物の彼女の笑顔は、もう僕の知らない誰かの精子でいつも満たされているのだ。
・・・電話の向こうで僕の声に驚いた彼女がぽかんとしているのが容易に想像できた。
案の定、「・・・どうしたの?大丈夫?」と聞いてくるので、正直に今やったことを話した。

「聞いてたら勃起してきちゃって・・・、聞きながら手でしごいて、君の顔写真に精子をかけた」
「悔しくてたまらなくて、でも今の自分にはそれしか出来ない」

そう泣きながら訴えた。
彼女は少しだけ黙った後、同じように泣いているようだった。
そして泣き声のまま、「悔しがってくれて嬉しい」と言った。

「まだ私を好きでいてくれてありがとう」と。

そして、「お礼にいいものあげるよ・・・。それじゃあね」と、そう最後に言った後、彼女はすぐに電話を切ってしまった。

放心状態でどうしたのかと考えていると、ちょっと経ってから彼女からのメールが何通か届いた。
それぞれ添付されているものがあったので開いた。
全部、彼女のハメ撮り動画だった。
全部、生だった。
全部、中に出されてた。
彼女がこんなものを撮るのを許しているのがショックだったと同時に、また妙な興奮と絶望的な悲壮感が一緒になって襲ってきた。

おまんこから溢れた誰かの精子を自分で掻き出しているシーンもあった。
誰かのペニスを美味しそうにフェラしてる動画もあった。

僕はひとしきりそれを見終わった後、メールをそっと閉じた。
そしてさらに精子まみれになった顔写真を眺める。
きっとこうしていれば彼女はいずれ、この人の精子で受精して妊娠するんだろう。
そして結婚だって当然するんだ。

嫌だった。
そんなのは絶対に。
でも僕がどれだけ嫌でも、もうとっくにどうしようもなくなっていた。
一筋の涙が精子の海に落ちていった。

僕も生で挿れたかった・・・。
中に出したかった・・・。
僕が妊娠させたかった・・・。
僕が彼女と結婚したかった・・・。

メールの動画はすべて保存した。
大切にパソコンにも移して。
だってこれが、彼女と交わした最後のやりとりだったから。

あれからもう二度と、会うことも、声を聞くこともなくなった。
人伝の噂すら聞かない。
もう本当に知らない人になってしまった。
まるで最初からそんな人とは知り合っていなかったように。
だから他の人とセックスしているところを見せられるこのメールが、本当に最後の彼女との思い出となった・・・。
今でもそれは僕にとって、最低で最悪の宝物になっている。