クスクス笑いが聞こえて、余計に苛立つ。
手が添えられて、入り口に先端があてがわれる。
口内に入ってくる整えられた指先。
長い爪を舌で舐め上げる。
オレを見下ろす恍惚とした表情。
どっちがどっちを犯しているのか、わからない。

先輩「最終判断よ。欲しい?」

オレ「・・・いい加減にしてください。ホントに無理やりしますよ」

先輩「あれ、そんなの信じてたの?男ってバカみたいに臆病なんだから。最初から強制なんて成立しないわ。私も君のこと、ずっと気になってたんだから」

オレ「へ?何言ってるん・・・」

一瞬戻ってきた普段のテンションが、押し付けられた唇に飲み込まれる。
下半身に圧迫感、そして粘膜にゆっくりと包み込まれていく快感。
量感ある臀部を堪らずに鷲掴みにして爪を立てると、くぐもった声が漏れた。

先輩「気に入ってくれたみたいで嬉しいわ」

オレ「気に入り過ぎて癖になりそうです」

先輩「それはダメ。契約違反」

オレ「損害賠償請求でも何でもしてください。そもそもこの体勢が最初からフェアじゃないんですよ・・・っと」

先輩「わ、ちょ・・・ダメだって・・・ああぁっ!」

オレ「先輩、職場でもベッドでもドSですね」

先輩「そ、そうよ。悪い?」

オレ「いいえ、全然。大歓迎です。Sの人って、同じ分だけMにも振れ幅を持ってるって聞きました。ちょうど良いサンプルがオレの下で喘いでるんで、今から検証しようと思います」

先輩「誰が喘いで・・・や、ちょ、ゆっくり動かないで!優しくしないでって!」

オレ「さっき何か言ってましたね。オレのことがずっとどうとかって。あれ、もう一度聞きたいんだけど」

先輩「はぁ?そんなの忘れたわ。何のこと・・・やっ・・・速いのもダメ!」

オレ「文句の多い人ですね。ほら、指あげるからコレでも舐めてて。美味しいですか?」

先輩「う・・・ちょ、やめ・・・喋れないでしょ!」

オレ「あれ、何か言いたかったんですか。じゃ、どーぞ」

先輩「く・・・卑怯者。ジェントルとか褒めて損したわ」

オレ「で、さっき何て言いましたか?聞かせなさい」

先輩「・・・知らない」

オレ「ふー・・・こんなに手間が掛かる人だとは知らなかった。ま、いっか。記念すべき初めてだし、手間を掛けてあげる。今から深くするけど、もし痛かったら言ってね」

先輩「んぁ・・・優しい言葉もダメなんだって!あと、これが最後だから!タメ口も禁止!」

オレ「どうして?ずっと何とかって、さっき言わなかったっけ?」

先輩「・・・言いました」

オレ「もう一度全文を聞かせてくれたらやめてあげるよ、この深い動き」

先輩「ちょっと・・・調子に乗らないで・・・く・・・あ」

オレ「じゃ、抜いちゃおっかな」

先輩「や!ダメ!それはダメ・・・わかったわよ。私は・・・ずっと君のことが・・・」

オレ「聞こえない。いつもの毅然とした先輩はどこに行ったんですか?」

先輩「ぐ・・・私は、君のことが!ずっと気になってたのよ!これでもういいでしょ?」

オレ「・・・満足したら急に込み上げてきたかも」

先輩「・・・何が?」

オレ「内緒。でも、どこに欲しいですか?」

先輩「・・・中以外ならどこでも。どうぞご自由に」

オレ「じゃ、どこにしようかな?この大きな胸も捨てがたいけど・・・いや、ここかな?」

先輩「優柔不断な男って大嫌い。最低」

オレ「あ、今決まりました。オレを罵るその綺麗な形の唇に思い知らせてあげる」

先輩「ちょ、最初から口なんてダメ。他にして!」

オレ「あれ、でもコレが最後なんでしょ?じゃ、中かな?」

先輩「や、ダメ!それだけは絶対ダメ!口でいいから!」

オレ「飲んでくれる?」

先輩「・・・それは無理」

オレ「先輩の中、最高に気持ちいいよ。こんな美人にエロい下半身を与えるとか、神様の不公平っぷりに思わず出そうかも」

先輩「あぁ・・・もう何言ってるのかわかんない。わかった。飲む。飲んであげるから!」

オレ「『飲ませてください』の間違いじゃないの?早くしないと間に合わないよ?」

先輩「く・・・飲ませて・・・ください・・・」

オレ「もう一つ条件がある」

先輩「あぁ、もう何よ!早く飲ませなさいよ!」

オレ「先輩のコレの使用権、まずは1000回」

先輩「・・・はぁ!?馬鹿じゃないの!1回でおしまいだって!」

オレ「1000回使用後は双方の合意に基づいて自動更新。この条件を受け入れるなら上の口に、受け入れないなら下の口に飲ませてあげる。どうする?社内屈指の決断力を見たいんだけど」

先輩「あぁぁぁ!選択・・・出来るわけないでしょ!わかった!1000回、もう好きにしなさいよ!」

オレ「・・・じゃあ契約締結の証ってことで。もう我慢出来ない。オレの目を見て、舌出して」

水音、嬌声の後に荒い息遣いだけが残る。
そのままぐったりと倒れ込み、大粒の汗を浮かべた細い背中を後ろから抱く。
うなじに唇を押し付けると、濃厚な女の匂いが誘眠剤になって急速に遠のいていく意識。

先輩「・・・ちょっと」

オレ「ん・・・なんですか?もう眠気マックスなんだけど」

先輩「確かに飲むとは言ったけど。顔にも掛けていいなんて誰が言ったの?」

オレ「あーもう細かいですね。職場と同じ。飛んじゃったんです。コントロール不可。そんなこと言ってたら、あと10000回こなせないですよ?」

先輩「だから!勝手に桁を増やさないで!」

オレ「あーうるさい。ほら、もう寝ますよ。寝ろ寝ろ」

先輩「・・・この後、どうするつもり?」

オレ「知りませんって。目が覚めたら適当にチェックアウトして・・・昼飯かな。せっかくだからこの辺鄙な街を軽く観光し・・・」

先輩「って、話の途中で寝ないで!観光の後は!?」

オレ「ん、どっちかの住む街に行って・・・地元デート」

先輩「デ、デート!?そんな単語、久しぶりに聞いたわ。バカじゃないの、恥ずかしい」

オレ「じゃ、チェックアウトの後、即解散でいいですよ、ハイ」

先輩「それは嫌よ。デ、デート付き合ってあげるわ」

オレ「じゃ、そういうことで。おやすみ」

先輩「・・・はぁ、おやすみなさい」

土曜日。

先輩「ね、ちょっと!起きてって!」

オレ「んー無理です。もうちょい寝かせて・・・」

先輩「あと5分でチェックアウトだって!とにかく起きて!」

オレ「だって、あの後も目が覚めるたびに襲うから・・・」

先輩「そ、それはお互い様でしょ!荷物まとめてあるから、とりあえず服だけ着て」

ギリギリの時刻になんとかホテルを出る。
昨夜は先輩を運んでいて気付かなかったが、周囲はこぢんまりとした商店やアパートの間に田んぼが点在する長閑な風景。
柔らかい日差しが眩しくて顔をしかめていると、ぐいと腕を引っ張られる。

先輩「ちょっと、いつまでそこに立ってるのよ。恥ずかしいでしょ」

オレ「おわっ・・・いやー、なんか気持ちいい朝だなーと思って」

先輩「もうお昼だって。お腹ペコペコだよ、私?」

オレ「あーでも、夜も気持ち良かったなー」

先輩「・・・今後の付き合い方については、後でゆっくり話しましょう」

商店街で食事出来そうな店を探す・・・までもなかった。
長さ100m程のアーケードには候補が3軒しかない。

オレ「んー、どれにします?」

先輩「それぞれ入りたい店を、せーので指差す方式で決めましょう」

オレ「あ、商品パッケージのデザイン案を選ぶ時と同じやり方ですね。了解」

先輩「じゃ、いくわよ。せーの・・・!」

2人の人差し指がビシッと同じ方向を向く。
その先にはレンガ造りの外観の古びた喫茶店。
顔を見合わせてから入口のドアを開けると、カランカランという来客を知らせる音が店内に響いた。

オレ「店選びの感覚が合うみたいですね。でも先輩と入るにはちょっと雰囲気が足りないっていうか・・・」

先輩「そう?こういう下町の喫茶店って好きよ、私。意外にコーヒーが美味しかったりするし」

オレ「もっとこう、小洒落たカフェでランチしてるイメージでした」

先輩「そういうところは後輩とかに会うから避けるよ、特に平日は。職場の近くに行きつけの蕎麦屋さんがあるから今度行きましょう」

オレ「お、いいっすねー。蕎麦屋デートかー」

先輩「・・・その呼び方やめて。いちいち恥ずかしいから」

やたら愛想の良い奥さん相手にそれぞれ勘定を済ませる。
先に出た先輩が店を出たところでなぜか棒立ちになっている。
視線の先には黄色いテントのたい焼き屋。

先輩「・・・あれ、食べたいんだけど」

オレ「今、昼飯食べたとこですよ?」

先輩「正確には朝昼兼用の食事よ。まだ足りないの。奢って」

オレ「それは構わないですけど。食事は割り勘なのにたい焼きは後輩にたかるんですか?」

先輩「だって、もう後輩じゃないんだもん」

オレ「え、なんて言いました?」

先輩「私、カスタードクリームね」

オレ「うわ、邪道な選択。オレは古典的にあんこですよ」

先輩「オフの時は欲望に忠実なの。あんこも半分ちょーだい」

オレ「容赦ないところはオンオフ変わらないんですね」

先輩「うるっさいわね。次、どこ行くの?ちゃんとリードしてよね」

オレ「・・・」

先輩「何よ、急に黙って」

オレ「いや、スーツ姿でたい焼き咥えてるのが可愛くて」

先輩「ば、ばかじゃないの!?外歩きながら可愛いとか真顔で言わないでよね!」

オレ「カワイイカワイイ、センパイカワイイ」

先輩「はぁーだから年下の男って苦手なのよ。先が思いやられるわ」

オレ「先は長いですねぇ。残り9996回ですから」

先輩「ちょ、だから勝手に桁を増やさないでって・・・」

夕方、オレは当時通ってた資格予備校へ。
先輩は飼い猫の様子が気になるとのことで帰宅。

講義が終わったら先輩から、『ちょっと。一緒にいないと落ち着かないからどうにかして』みたいなメールが。
着替え取りに帰って先輩の家へ。
オレも実家がずっと猫を飼ってたから、久しぶりの毛皮の感触を堪能。
猫を構い過ぎて先輩に怒られる。
週末はそのまま先輩の家に泊まることに。

日曜。
適当に決めた予定通り、先輩の住んでる地元を散策。
2人で歩いてたら、違う部署の女性社員(オレも先輩も顔見知り程度)に後ろから声を掛けられる。
組んでた腕を慌ててほどく先輩。
河原に座って草野球を眺めながら2人で徒然と話す。
と言っても2人とも仕事人間だったので、主に会社、仕事、これからのキャリアイメージとか。

月曜。
出勤すると部署の空気が何か違う。
特に女性社員から微妙な視線を感じる。
社内のゴシップには無関心だったが、自分が当事者となると、そうも言ってられない。
冷やかしやら、ちょっとした嫌がらせを受けたり。
先輩ならこんなの一蹴するだろうと思ってたが、予想外に照れまくってオタオタしてたり。
オイオイ・・・。
あと、下らない社内の内紛に巻き込まれたり。

しばらくしてそんなゴタゴタも落ち着いた頃、オレの昇進を機に入籍した。
相性が良かったのかすぐに娘を授かり、今は2人で子育てを楽しんでる。
もちろん夜には恋人に戻って、相変わらず楽しんでる。
こんな感じのどこにでもある話。

・・・ってことで、やっと書き終わった。
多少のフェイクと大幅なアレンジを加えながら、ウチのデキる姉さん女房との初めてを書いてみた。
実際にはこんなドラマティックじゃなかったけど、大筋はこんな感じ。
『1000回契約』は途中からカウントをやめたからわからないが、もうとっくの昔に消化して今も自動更新中だ。