旅館の前を通過して、駐車場に到着しました。
さっきと同じく、一番奥のところに車を停めます。

(あ・・・)

自転車が何台も停まっていました。
別に、今となってはもう関係ありません。
さっさと体を流して、早く帰途に就くまでのことです。

(疲れちゃった)

最低限の物だけトートバッグに詰めて、車を降りました。
森の歩道をひとりで歩いていきます。

(鷲鼻さん・・・まゆげさん・・・内気くん・・・)

考えてみれば、不思議な感じがしました。
何の縁もない人たちなのに・・・。
こんなに続けざまに・・・。

(きっと今、3人とも、私のこと思い浮かべてるだろうな)

日差しに汗が止まりませんでした。
とにかく、もう時間がありません。

例の階段道を下っていきました。
視界が開けると、やっぱり先客がいます。

(あれ?)

若い人たちでした。
男の子2人と、女の子1人がいっしょに男湯に浸かっているのが見えます。

階段道を下りきって、男湯スペースに下り立ちました。

高校生ぐらいの感じでした。
さっき自転車が停まっていましたから、地元の子たちなのでしょう。
まるでプールにでも来ているかのように、3人とも水着を着けてお湯に浸かっています。

(お風呂だよ?なにやってんだよ)

ちょっとイラッとしましたが、構っている暇はありません。

怒られるとでも思ったのでしょうか。
みんな警戒した顔で私を見ていました。

見て見ぬふりをして、にこにこと男湯スペースを通り抜けます。

(知ったことじゃない)

急がないと、帰りつくのが夜遅くなってしまいます。
それよりなにより、もう私はヘトヘトでした。

木戸を開けて中に入ろうと・・・。

(ん?)

中から男の子の声が聞こえてきます。
石垣をまわりこむと・・・。

(あっ)

そこにいた2人が、現れた私を見て固まっていました。
やはり水着を着けた男の子と女の子が、仲良くお風呂に入っています。

(こっちもかよ)

イライライラっとしました。

(急いでるのに、私が注意しなきゃいけないの?)

瞬間的に、頭の中がスパークします。
ちょっと羨ましいというか、私にはない青春の1コマを見せつけられているような嫉妬心もありました。

(なんだよ、おまえたち)

大人げないのもわかっていますが、またも無性に腹が立ってきます。

(かまうもんか)

昔、この温泉で外国人のふりをしたときのことが・・・。
なぜか瞬時に頭をよぎります。

「Oh,desculpe(ごめんね)」

とっさに、にこにこ顔を作っていました。
そのまま引き返してしまいます。

(やってやる)

男3人、女2人・・・。
リスクがないわけじゃありません。
でも、いわゆる不良っぽい子たちではありませんでした。

木戸から男湯スペースに出て、最初の3人のほうに戻ります。

「Ola,Tudo bem?(こんにちは、いいですか?)」

ニコニコと、陽気に挨拶を投げかけました。
おそらく耳にしたこともないであろう言語に、高校生たちが顔を見合わせています。

(どきどきどき)

適当な岩の上に、トートを置きました。
そのまま服を脱ぎはじめます。

(かまうもんか、ここはお風呂なんだから)

戸惑い顔を向けられていました。
カットソーとスカートを脱いで、下着姿になった私・・・。
男の子たちの表情が固まっています。
躊躇いはありませんでした。

(あんたたちが女湯まで占拠するからだ)

ブラを外して、胸を曝け出します。
丸出しにしたおっぱいに、彼らの目が釘付けになっていました。

(ひいいん)

女の子がびっくりしています。
やめさせてくれようと、「Here・・・here is(ここは・・・ここは)」と、一応英語で話しかけてくれようとしていました。

何もわかっていないふりをして、パンツもするっと下ろします。

(イヤああぁ)

真っ裸になっていました。
言葉を失ったまま、男の子たちが呆然と見ています。
その彼らの顔を見て、死ぬほど興奮しました。

「here is・・・this side spa・・・This is for men(ここは・・・男性用です)」

カタコト英語の女の子に、不思議そうな顔で・・・。

「Eu nao sei do que voce esta falando(私はあなたが何を話しているのかわかりません)」

素っ裸のまま立ちつくしてみせます。
その間も、舐めまわすような視線を私に浴びせてくる男の子たち・・・。

(ひいん、だめえ。ひいいい)

強烈でした。
あまりの恥ずかしさに、胃がきゅうっと締め付けられます。

(いやん、いやん)

あっけらかんとした表情で、思春期真っ盛りの男の子に近づいていくお姉さん・・・。

(きゃあああ)

私も、ざぶっとお湯に入りました。
彼らが露骨に興奮しているのがわかります。

「もう、イヤあだぁ」

その様子に居た堪れなくなったのか、女の子が立ち上がって、お湯から出ていました。
そのまま、逃げるように女湯スペースの方へと駆け込んでいきます。

(どきどきどき)

「ガイジン?ガイジン?」
「やべえだろ、これ」

(どきどきどき)

怖くはありませんでした。

「Sinto me bem(気持ちいい)」

肩までお湯に浸かって、陽気にニコニコしてみせます。

「まっぱだぞ、超すげえ」
「こ、こんにちは」

挨拶されましたが、言葉が通じていないふりをしました。
私の顔をじろじろ見ながら、ふたりでひそひそ言っています。

「何人だろ?」
「日系の外人かな」

あっちに行った女の子から聞きつけたのでしょう。
入れ替わるように、向こうにいた男の子が女湯スペースの木戸を開けて出てきます。
お風呂に入っている私を見て、『うおっ』そんなふうに目を丸くしていました。
嬉々とした表情で、彼もお湯に入ってきます。

(ひいいいん)

まさに羞恥の極みでした。
男子高校生3人といっしょにお湯に浸かっています。
しかも、全裸なのは私ひとりだけ・・・。

「ぜんぜん言葉が通じねーよ」
「ガイジンみたいだぜ」

私は、野天風呂を満喫しているように見せていました。

「Belo cenario!(美しい景色!)」

陽気なキャラを装って、気分よさげに終始ニコニコしています。

お湯に浸かったまま、くるっと体を反転させました。
彼らに後ろを向いた状態から、両手を伸ばして、湯だまりの淵の上に乗せます。

“ざぼん、ざぼん”

少しだけ、バタ足をしてみせました。
まるで子どもみたいに、露天の開放感を味わっているふりをしてみせます。
緩慢な動きで、“じゃぼん、じゃぼん”と2度3度とお湯のしぶきをあげていました。
そうかと思えば湯面に腰を持ち上げて、ぷかっぷかっとお尻を浮かせます。

(どきどきどき)

男の子たちの囁き声が、耳に届いてきていました。

「見えそう、やべえ」
「まんこ見える」

心臓のどきどきが止まりません。
まさに、非日常の興奮そのものを味わっていました。

“ざぶっ、ざぶっ”

わざとらしくならない程度に、きわどい部分をチラつかせてあげます。
そして・・・。

“ざばっ”

お湯から立ち上がりました。
少しのぼせたかのように、そのまま岩風呂のふちに腰かけます。

(だめぇ)

ここぞとばかりに浴びせられる、容赦のない視線・・・。

(ひいっ、ひいいっ、耐えられない)

3人とも、いやらしさ全開の目をしていました。
そのまま素っ裸で向き合っている自分に、涙が出そうです。

「小っちぇえおっぱいだな」
「てか、貧乳すぎるだろ」

あまりの屈辱に、頭がどうにかなりそうでした。

(そんなふうに言わないで)

「でも見ろよ、乳首の(ヒソヒソヒソ)・・・」
「ほんとだ(ヒソヒソヒソ)・・・」

高校生に自分の胸を品評されながら・・・。
その言葉のひとつひとつにプライドをえぐられている私がいます。

「横顔、えろいけどな」
「がっかりおっぱいだよな」

耳まで『かーっ』と熱くなりました。
何もわからないふりをして、なおも彼らの囁きに聞き入ります。

「25歳ぐらいかな」
「もう少し上だろ?」

真ん中の子が・・・。

「もうちょっと脚開けよ」

ニヤニヤ顔で、いちばん興奮していました。

「まんこ、まんこ」
「ちょうど俺んとこから見えてんだよ」

そんな彼に・・・。

「O que aconteceu?(どうしたの?)」

微笑みながらも、きょとんとした目を向けてみせます。

「やべえ、この人」
「俺のこと、見つめちゃってるよ」

通じ合えないふりをしました。
私は、わからないという顔をするだけです。
あたかも野天の温泉を満喫しているかのように、ニコニコしてみせました。

「なんか、超カワイイんだけど」
「やべえ、まんこ見えてるし」

(もうだめ、もうだめ。耐えられない)

外見は、なんら日本人と変わらないこの女の人・・・。

「Estou feliz que voces esta?(嬉しいですか?)」

通じなくても関係ないかのように、自然体のまま、にこやかに話しかけてあげます。

「ぜんぜんわかんねえ」
「英語もだめみたいだぞ」

死にそうなほど興奮している自分がいました。
体を捻るようにして、後ろの渓流に目をやります。

「que e aquilo?(それは何?)」

適当に一点を指し示しながら、おもむろに立ち上がりました。
くるっと彼らに背を向けて、岩風呂のふちに両手をつきます。

(ああん、だめえ)

もう一度同じ辺りを指さしてみせました。

「E constrangedor(恥ずかしいわ)」

顔だけ振り向いて、男の子たちに話しかけます。

「Que ves?(何が見えるの?)」
「Tirar o folego,nao e?(息をのむようね)」

言葉の意味もわからないくせに、「イエース、イエース」と、ここぞとばかりに私の真後ろに詰め寄ってくる男子3人・・・。

気持ちが倒錯していくような感覚で、昔の自分を思い出していました。
高校時代、陸上に打ち込んでいたあの頃、男の子と話すだけでも緊張して駄目だった内気な私・・・。

そんな私が・・・。

(いやんいやん。高校生の前でなんて)

お湯の中に立ったまま、上半身を護岸のコンクリートに乗り出してしまいます。

「Vistas bonitas(美しい景色)」

しきりに渓流の向こうを指さしてみせました。

「うわ、まる見え」
「おまんこ(ヒソヒソヒソ)・・・」

(ひいいん)

まる出しのお尻を彼らに向けたまま、泣きそうになるのを必死にこらえます。

(いやあぁん、見ないで、見ないで・・・)

「(ヒソヒソヒソ)・・・」
「(ヒソヒソ)・・・」

(恥ずかしいよぉ・・・)

振り返って、再び“じゃぼん”とお湯に身を沈めた私・・・。
ものすごい屈辱でした。

(ひいいいいん)

目の前に、私を見ながらニヤつく顔が並んでいます。

「Muito envergonhado(とても恥ずかしい)」
「Eu quero voltar(戻りたいです)」

間を保つことが出来ず、すぐに立ち上がって岩風呂からあがっていました。
トートからスポーツタオルを取り出して、体を拭きます。

(ああん、もうだめ。そんな目で見ないで)

お湯の中から、3人が『じーっ』とヌードの私を見上げていました。
とにかく必死に自分の目に焼き付けているという感じです。

頑張って、最後まで明るいキャラを通しました。

「E verdade,eu sou japonesa(本当は私、日本人です)」

股間を隠すこともなく、一糸まとわぬ姿のままで、にこにこと話しかけてあげます。
ちょっと卑屈な気持ちになっていました。

(どうせ私なんて、いつもひとりぼっち・・・)

神奈川に帰ったら、また職探しの地味な生活です。

パンツも穿かずに、全裸のままボディクリームを塗ってみせました。
無造作に足幅を開いているお姉さんを前に、男の子たちがニヤニヤしています。

(私なんて誰も心配してくれる人がいない)

さりげなく後ろ向きになって、手のひらにクリームを足しました。

「Por favor,nao olhe(見ないでください)」

屈託ない声色で、どこまでも陽気なふりを続けてみせます。

(ああああ、もうダメえ)

すぐ後ろから『見上げている』彼らの目の前で、思いっきり前屈みになりました。

「Por favor,olhe para o buraco nas nadegas(お尻の穴を見て)」

こんなにキレイな女の人が、お尻の穴までまる見えにしたまま、無頓着な感じで自分の脚にクリームを伸ばしていきます。

(ひいいん、恥ずかしい・・・そんなとこ見ないで)

“ざばっ”

さっき真ん中にいたあの子が、いきなりお湯からあがって近づいてきました。
心の中で、瞬時に緊張が走ります。

「O que?(なに?)」

ニヤニヤ顔を隠しきれていない彼でした。
身振りを交えて、「ヘルプ、ユー」とクリームを塗ってくれるような仕草をしてきます。

「Nao,obrigada(いいえ、結構よ)」

きっぱりと断りました。
親切心で言ってくれているのではないことぐらい、私にだってわかります。

(どきどきどき)

その代わりに、大仰に両腕を開いて、歩み寄っていく私・・・。

「Obrigada(ありがとう)」

ハグしてあげました。
すっぽんぽんのまま、相手のからだに“ぎゅうっ”と抱きついてあげます。
左右の頬に、ちゅっちゅっとしてやって・・・。

「Deus o abencoe(神はあなたを祝福します)」

ニコニコ顔で彼から離れました。
手早く服を身に着けて、トートバッグを持ちます。

「Tchau tchau(さようなら)」

その場をあとにしました。
階段道を上がりながらも、胸の鼓動の激しさが尋常ではありません。
出会ってから、わずか10分か15分限りの出来事・・・。

(危ない・・・危ない・・・、さすがに無茶しすぎ)

どきどき興奮したまま、駐車場の車へと戻る私でした。