恭子と申します。
だいぶん以前に、何度となくこちらに体験談の投稿をしていた者です。
先日、久しぶりにかつてのようなことをしてしまいました。

改まってPCの前に向き合ってみると、この感じ、なんだか懐かしい・・・。
はたしてちゃんと順序立てて書いていけるのかな?
とりあえず、頑張って書いてみます。

わずか1年ばかりの結婚生活に終止符を打って、2ヵ月ほど前に帰国しました。
幸せな毎日になるはずだった海外での新生活は、結果的に虚しいものになってしまいましたが・・・。
そのことについては、多くを語るつもりはありません。

現在の私は、神奈川に住んでいます。
昔からの友人が住んでいる町の近くに私も部屋を借りて、一人暮らしを始めたところです。

日々、やりきれない気持ちに苛まされていました。
ハローワークに通いながら仕事を探していますが、これはと思える求人先にもなかなか巡り会うことが出来ていません。

・・・私は、大卒じゃないし。
・・・退職してからのブランクもあるし。

今更ですが、何の取り柄もない自分が情けなくて仕方ありません。

バツイチだし、ひとりぼっちだし・・・。
なんだか自分がどこまでも落ちぶれてしまったというような気分でいっぱいでした。
それなのに・・・。

(もうこんなのやだ)

いつまで経っても、どこかプライドだけは高い自分がいるのです。

自転車に乗っていて、風に帽子を飛ばされたことがありました。
ちょうどそこを歩いていた高校生ぐらいの男の子が拾ってくれた時のことです。

「すみません」

無言で手渡してくれたその帽子を受け取りながら思いました。

この子の目には、私はどう映るんだろう。
33歳の女なんて、ただのおばさんなんだろうな・・・。

(しかも、無職・・・)

そのとき、本当に切ない気持ちになりました。
自分という存在が、世間から完全に切り離されてしまっているかのような感覚になります。

その2~3日後だったでしょうか。
ふと、魔が差した瞬間がありました。

(久しぶりにやってみたい)

ここのところ、私はいろいろな意味で疲弊していたのだと思います。
環境の変化であったり、自分の将来に対する不安だったり・・・。

(どきどきしたい)
(昔の気持ちを取り戻したい)

自己分析するまでもありません。
明らかに、今の自分が置かれている現実から逃避しようとしているだけでした。

(あの頃みたいに)

躊躇う気持ちは、当然あります。
もう、そういうことからは完全に卒業したつもりでいたのですから。

(できるの?)
(・・・自信がない)

でも・・・。
その更に何日か後には、とうとう新幹線に乗ってしまっている私がいました。
そんな私の心によぎっていたのは、はるか彼方にある温泉地・・・。

(あの場所に行きたい)

目的の駅に着いて、新幹線を降りました。

そこからは、あらかじめ予約しておいたレンタカーに乗り換えます。
正直なところ、そういうことをするにあたっての感覚的なものが、まったく戻っていませんでした。

(到着してから考えればいい)

ハンドルを握りながら、逸る気持ちを戒めます。

(ぜったいに無理したらだめ、とにかく慎重に)

おそらく、実際に経験したことのある人にしか理解できないでしょう。
日本での露出行為なんて、まぎれもなくリスクと隣り合わせの『危ない賭け』でしかありません。

(だいじょうぶなの?)

今でもそんなことが私にできるのかどうか・・・。
本当のことを言えば、もうあまり自信はありませんでした。

長い長いドライブの末、そのひなびた温泉地が近づいてきます。
途中から山道に分け入って・・・。
やがて、見覚えのある温泉旅館がひとつふたつと目に入ってきました。
玄関の横に、『そば』とのぼりが立っているのに気がつきます。

(ちょうどいい)

目的地までは、もうあと2~3分で到着というところでした。
その前に、ここで昼食をとっておこうと決めます。
旅館の駐車場に、車を停めました。

(懐かしいな)

お食事処と書いてある暖簾をくぐって中に入ります。
お客さんは、私以外に2人組のおじさんたちがいるだけでした。

注文したおそばが来るまでの時間を使って、ちょっとスマホで調べものをします。
手元の画面を見ていると、不意にそのおじさんたちに声をかけられました。
唐突だったので『えっ』と思いながら、そちらに顔を向けます。

「ひとりですか?」
「ここにお泊りの方ではないですよね?」

その2人組のおじさんたちは、多少ほろ酔い加減のようでした。
テーブルの上には、もう食べ終わったおそばの器とビールの瓶が並んでいます。

「ご旅行ですか?」

人のいいおじさんたちでした。
アルコールでいい気分になったまま、隣に居合わせた女性とのコミュニケーションを楽しみたがっているんだというのがわかります。

突然のことでしたが、別に嫌な感じはありませんでした。
気軽な時間潰しのつもりで、おしゃべり相手になってあげます。

「○○○でしょう?」
「ええ、わかりますか?」

「○○○○ですか?」
「はい、あまり詳しくないですけど」

とりとめのない会話を交わしていくうちに、ずっと心の中にわだかまっていた何かが氷解していくような感覚になりました。
ここ最近の私は、自分でも気づかないうちに周りに心を閉ざして、どこかで無意識に人との関わりを遠ざけるようになっていたのかもしれません。

会話を重ねていきながら、すーっと肩の力が抜けていくのを感じていました。

「○○ですよねー」

「私もそう思いました」

出てきたおそばを食べながら・・・。

「美味しい」

「このあたりは、水が◯◯だからね」

見ず知らずのおじさんたちに心を開くことで、すごく気持ちが軽くなっていくのを実感している自分がいます。

「よかったら一杯どうですか」

鷲鼻のおじさんが、私のコップにビール瓶の先を向けてくれます。
「車なので」と、さすがにそれは断りました。

「このへんは、◯◯も名産なんですよ」

「へーえ、そうなんですか」

げじげじまゆげのおじさんのほうは、「僕たちは昼から飲めるってだけで嬉しい人間だから」と、美味しそうにおそばをすする私を見ながらビールを飲んではしゃいでいます。

ふたりとも、50代後半ぐらいの人たちでした。
ひとりでふらっと現れた『この女』に、だんだんと興味が湧いてきたようです。
どうしてこんなところにと問われて、私は答えました。

「温泉が好きなんです、この先の『○○の湯』というところを訪ねてみようと思って」

意外にも、反応がありました。
おじさんたち2人が、互いに『ぱっ』と目を見合わせています。
そして・・・。

「いや、僕たちも行こうと思ってたんですよ」
「今からちょうど、なあ」

偶然だなぁという顔をしています。

見抜けない私ではありません。
なんとなく、とっさに話を合わせてきたという印象を受けていました。
思わず・・・。

(なにかあるの?)

一瞬、猜疑的な気持ちがよぎります。

まゆげさんが、「よかったら、ご一緒しませんか」と私を誘いながら、子どもみたいに目を輝かせていました。

「ぜひ、ぜひ」

悪意はまったく感じられません。
でも、油断しませんでした。

(ぜひって言われても・・・)

私は、今でも自分の外見の容姿にだけは自信を持っています。
決して自惚れているつもりはありません。
そりゃあ、20代の若い子に比べれば肌の張りは多少劣るかもしれないけど・・・。

それでも、はっきり感じ取っていました。

(私が、美人だからでしょう?だから、一緒に行きたいんでしょ?)

読んでくださっている皆さんには、初めからお断りしておきます。
このあともずっと、私は自分の高慢な部分もふくめて心の内側をありのままに記していくつもりです。
ですから、きっと読んでいて、私のことを『なんて性格の悪い女なんだ』と腹を立てる方も多いかもしれません。
不快でしたら無理に最後までお付き合い頂かなくて結構です。

予想外の展開になって、まだ戸惑っている私がいました。
警戒心を緩めることはありません。

(どうしよう・・・)

すぐには返事をせずに、「行かれたことあるんですか?」と相手の反応を見ながら、おじさんたちの本心を探ります。
と同時に、したたかに心の中で計算をはじめている自分もいました。

私がこの地にやって来たのは、久々にあの興奮を味わいたかったからに他なりません。

(誰かにお風呂を覗かれながら、何も気づいていない恥ずかしい女になりきる・・・)

そのために、かつて何度となく足を運んだのがこの先にある野天温泉でした。

(うまくいけば、この人たちを利用できる?)

見た目は楚々としていても、内心は計算高い私です。
演技していました。
笑顔をつくりながら、「もう、このすぐ近くなんですよね?」と、あたかも初めて訪ねて来たかのように装ってみせます。

「僕らは、昨日も行きましたよ」
「けっこう気に入っちゃって」

(いかにも気の良さそうな人たちだけど・・・)

ほとんど人のいないような渓谷の温泉に行こうとしているのです。
途中で豹変でもされようものなら厄介でした。

なおも会話を続けながら、慎重に人柄を見極めます。

少し不安そうな表情で、「まさか、○○の湯って混浴とかじゃないですよね?」と、わざとそんな男性の下心を刺激しそうなことを聞いてみました。
もちろん、実際には違うと私は知っています。

「あはは・・・ちがうちがう」
「残念ながら、男女別ですよ」

ビールで顔が真っ赤になっている鷲鼻さんが、陽気に答えてくれました。
ちょっとあからさまなくらいに、「一緒なのは、お風呂に入る前までですよね?」と自分が身持ちの堅い女であることを、しっかりとアピールしておきます。

(だいじょうぶだ)

だんだんと確信を得ていました。

「これこれで、こんなふうになっている野天風呂ですよ・・・」

まゆげさんが◯◯湯の概況について丁寧に説明してくれます。

(悪い人たちじゃない、しかもこの流れなら、もしかしたら・・・)

それこそ私に都合のいい展開にも持ち込むことができるかもしれません。

「じゃあ一緒に行きます。連れていってください」

おそばを食べ終えるのに合わせて、OKしてみせました。

「よっしゃ」
「そうこなくっちゃ」

おじさんたちは、この旅館の宿泊客とのことでした。
いちど荷物を取りに部屋に戻ると言っています。
現地の駐車場で待ち合わせることにして、私は先にお店を出ました。

(いい流れかもしれないな)

車に乗りこみます。
エンジンをかけてスタートさせました。

ものの数百メートル走ったところで、その目立たない駐車場が見えてきます。
一番奥の位置に停めました。
後部座席からトートバッグを出して、車から降ります。

(この場所・・・懐かしい・・・)
(この土の匂い・・・)

サイドミラーに近づいて、自分の顔を映しました。

(だいじょうぶ。私には、この『見た目』がある)

このあいだの帽子を拾ってくれた高校生にとっては、おばさんかもしれないけど・・・。
あの人たちにとっては、まだまだ若くて『美人』なこの女・・・。

不思議なもので、みるみる自信が湧き上がってきます。
うまく説明できないけれど・・・。
晴れ晴れしい気持ちでした。
会社勤めをしていたころの、毎日頑張っていたあの頃の自分を思い出します。

(きっとチャンスはある。私なら、なんとかできるはず)

昔の感覚が『ぱあっ』と蘇ってきているのを感じました。

おじさんたちが来るのを待ちながら、頭をフル回転させて考えます。
さりげなく誘導する必要がありました。
決して怪しまれないように、私の思うような展開に持っていかなければなりません。

(まずは、演技だ。真面目なタイプを演じよう・・・)

やがて、向こうからおじさんたちの姿が現れました。
ふたりとも中年太りの体を揺するようにしながら、こっちに歩いてきます。
私はにっこりと手を振ってあげました。

「お待たせしましたー」

「いえ、ぜんぜんです」

駐車場の奥のところから、森の歩道がはじまります。

「こっちですよ」

鷲鼻さんを先頭に、3人で野天温泉に向かって歩き出しました。

「混んでますかねえ?」

「いやあ、そんなことないと思いますよ」

「たぶん貸し切り状態じゃないかなあ」

もう、お互いにすっかり打ち解けた雰囲気です。
いろいろ世間話をしながら、森の歩道を進んでいきました。

「◯◯の◯◯温泉って知ってます?」

「あー、行ったことあるな」

「私、あそこの◯◯◯とか大好きなんですよ」

鷲鼻さんも、まゆげさんも、屈託のない笑顔を振りまいてみせる私に嬉しそうな顔をしています。
自意識過剰なんかじゃありません。
私には、ちゃんとわかるのです。

(ねえ、この私に・・・ちょっと、ときめいてるんでしょ?)

同時に、すごく苦しくなりました。

(それなのにこの人たちに覗かれる??)
(恥ずかしすぎて、ぜったい無理だ)

親しげな雰囲気になればなるほど・・・。
反比例するように、どんどんハードルが高くなっていくのを強く感じます。

その後も、3人で歩きながら自然と会話が弾んでいました。

「俺、◯◯のとき◯◯◯だったんですよ」

「えー、そうなんですか?」

そのうちに仕事や生い立ちの話になってきます。

「えー、私ですか?」

ここからが私の真骨頂でした。
もちろん、本当のことなんて言うわけがありません。
CAだと嘘をつきました。

「CA?」
「スチュワーデスさんなの?」

食いつくように私の顔を覗きこんできたのは、まゆげさんです。
私を見つめて、「すごいじゃないですか」と、ますます興味津々の表情になっています。

「いえ、そんなことないんですけど」

照れたようにはにかんでみせると、鷲鼻さんも話に乗ってきました。

「◯◯◯?」

私は、本当に悪い女です。
軽く頷きながら、すらすらと嘘に嘘を重ねている自分がいました。

「でも、もう29ですし、早くいい人を見つけて、身を引きたいんですけどね」

さらっと年齢も偽りながら、「あれっ、水の音がする」と急に立ち止まったりして、さりげなく話を逸していきます。

「この下に、川が流れてるからね」
「もうすぐ着きますよ」

ふたりとも・・・。

『へえー、CAさんか』
『どうりでキレイな顔してるわけだ』

露骨にそんな表情になっていました。
私は、まったく意に介していないふりをしています。

時折歩みをゆるめて、「だいじょうぶですか?」と、このふたりをやさしく気遣ってあげました。
肥満体のせいで、さっきから息が上がりかけているおじさんたち・・・。
私だけが、ひょいひょいと歩けている感じです。

(もっと私の顔を見て。高嶺の花だと、もっと見惚れて)

「けっこう、でこぼこ道ですねえ」

なりきって演技をしている自分が快感でした。
良心の呵責を覚えながらも・・・。

(べつに迷惑をかけてるわけじゃない)

人を騙していることの罪悪感に、どきどき興奮してしまいます。

「もうすぐですよ」

そう言いながら、先頭を歩く鷲鼻さんがこちらを振り向きました。
前髪の生え際のところに、枯れ葉のようなものがくっついています。

「あ、待って」

チャンスでした。
足を止めた相手に、『すっ』とにじり寄ります。
そして・・・。

「葉っぱが・・・」

おもむろに鷲鼻さんの顔に手を伸ばしました。

一瞬、見つめ合うような距離感になりながら・・。
そっとゴミを摘み取ってあげます。

「ありがとう」

このちょっとした振る舞いが、効果てきめんでした。
鷲鼻さんの表情が、デレッと弛んでいます。

「ごめんなさい、くっついてたから」

私は自然体を装いました。
その物腰は、あくまでも真面目な女そのものです。

(完全に、こっちのペースだ)

やがて『◯◯湯→』という朽ち果てた木の表示が見えてきました。
この歩道から逸れるように、下へとおりていく階段道が続いています。

3人で、急こう配の階段道を下っていきました。

「あぶないから気をつけて」

崖を沿うような感じでカーブしていくと、いきなり眼下に野天風呂の景色が広がります。
立ち止まって、「わあっ、すごい」と、渓流沿いの岩風呂を見下ろしていました。
人の姿はどこにもありません。

「あ、あ、でも・・・これって外から丸見えなんじゃないですか?」

困惑したようにつぶやいてみせます。

「大丈夫ですよ、こっちは男湯だから」
「女湯は、ほら、あそこの・・・わかる?」

指さされたほうに目を向けました。

「女湯は見えないようになってるから」
「ぜんぜん心配ないよ」

お上品そうなキャラクターを印象づけながら、なおも戸惑っているふりをします。

「もし覗きとかいたら・・・私、本当にそういうの嫌なんです」

不安そうな顔をしました。
きょろきょろと、何度も対岸の川沿いに目を走らせます。

十分でした。
これだけ警戒心が強い素振りを見せつけておけば・・・。
そんな『私』を覗き見ることが出来たとき、この人たちの興奮はきっと倍増するはずです。

(こんなに、ガードの固そうな女だよ)

そう・・・。
私は、このおじさんたちを喜ばせてあげたい気持ちでいっぱいでした。
すっかり仲いい感じになったこのふたり・・・。

(ねえ、もし女湯を覗けちゃうとしたら、どうする?)

「大丈夫そうですね」

ようやく安心したような顔で、微笑みを取り戻してみせます。

<続く>