今思えば、これもただの治療なのですが・・・異様に緊張している私がいました。
浣腸器を持った先生が、私の後ろに回り込みます。
先生に声を掛けられました。
体を横向きにして寝そべったまま、自分の両膝を抱えます。
2本の指を宛てがうような感じで、お尻の穴を開かれました。

「open your mouth」

なぜか口を開けさせられます。

「relax・・・,re・・・lax・・・」

先生のやさしい声とともに、お尻の穴に何かが触れました。
そのままぎゅっと、肛門の中に入ってきます。

(んあ)

なんとも言えない嫌な感触です。
そして・・・お腹に、ぐうううっと圧を感じました。

(あああ)

ゆっくりと浣腸液を注入されているのがわかります。
経験したことのない気持ち悪さでした。
今にもうんちが漏れそうな感覚に見舞われます。
ぬるっという感触を残して浣腸器が抜かれました。
もうだめです。
思わず上半身を起こしていました。

「I must go・・・go bathroom」

先生に便意を伝えます。

「no,no・・・not yet」

鋭い口調で制されました。

「be patient 5minutes」

(5分って、そんな・・・)

その言葉に気が遠くなる思いでした。
先生が私の腰にバスタオルのような布をかけてくれます。
そして衝立の向こうに顔を伸ばして、次の人に声をかけていました。
痩せたおじさんが入ってきます。
診察ベッドに横たわっている私をちらっと一瞥して、丸椅子に座りました。

「□◯×□◯△・・・」
「×△△?・・・□◯△□?」

文化とか風習とか、そういったものの違いとしか言いようがありません。
私が横にいることなんてお構いなく、おじさんの問診が始まってしまいます。

「△◯△□、××◯△」
「◯□□×・・・△×◯□」

私は横たわったまま、じっとしているしかありませんでした。

「◯×△□△□◯×」
「△××、□△◯・・・◯・・・」

あれだけ強烈だった排便感も、なんとなく収まってきています。

「◯□△×◯・・・」
「□×□◯、△◯・・・」

そうかと思えば、また急激に便意を催してきました。

「□◯□×△、□□◯・・・」
「×△◯、◯□△・・・」

服を捲ったおじさんの胸に先生が聴診器を当てています。

「×△◯×□◯×△・・・」
「□◯△・・・□×◯・・・」

私は必死で耐えていました。

(ああ・・・無理)

5分も耐えるなんて、できる気がしません。
張りつめるようにお腹が重くて、お尻の穴が今にも開きそうな感覚でした。
肛門をすぼめるようにきゅっと力を入れて、懸命に我慢します。

(でも・・・でも・・・お腹が痛い・・・)

「□△◯□△・・・」
「×□△◯、△◯□△◯・・・」

もう耐えられません。

「excuse me,I’m・・・」

先生に声をかけました。
診察の会話が止まって、2人が私を見ます。

(早くトイレに行かせて)

もうその気持ちしかありません。
限界を訴える私に、諭すような口調で先生が答えます。

「だめ・・・もうだめ」

もう日本語しか出てきません。

「我慢できない」

私がよっぽど泣きそうな顔をしていたのかもしれません。
先生が、おじさんに何か断わって聴診器を外しました。
横向きで寝そべっていた私に、仰向けになるよう、先生が身ぶりで示します。
ベッドの上で仰向けになります。
先生が私の腰にかかっていた布を取りました。

(あっ)

おじさんも見てるのに下半身丸出しです。
でも恥ずかしがっている余裕などありません。
藁にもすがるような思いでした。
先生が壁の時計に目をやりながら、私のお腹を擦ります。
ゆっくり円を描くようにお腹をマッサージされました。
丸椅子のおじさんも、平然とした顔で私を見ています。
恥ずかしい部分が丸見えですが、気にしてなどいられません。
奥歯を噛み締めて便意をこらえます。

(もうだめ・・・早くトイレに行かせて)

先生が再び時計に目をやります。

「OK」

私は跳ねるように起き上がっていました。
先生が向こうのドアを指します。
私は腰に巻いた布を手で押さえながら、よたよたと走りだしていました。
ドアを開けてトイレに入ります。
便座に腰をおろすと同時に・・・。

ぶしゃー!

恐ろしいほどの勢いで水分が噴き出します。

しゅー・・・しゅー・・・。

ひとしきり汚い水分を出し尽くしましたが、まだうんちは出てきません。
お腹がきゅるきゅるしていました。
便座にうずくまったまま・・・。

ぶしゅー・・・ぐるるる。

何度も汚い音だけを響かせます。
すぐに感覚がありました。
大きな固いうんちが出そうになってきています。
まさに悪戦苦闘でした。
汚い話ですから詳しくは書きませんが・・・頑張ってなんとかそれを出しきると、あとは堰を切ったようなものでした。
ほとんど下痢のような感じで、どんどんうんちが出てきます。
途中、何度か気分が悪くなったりもしたのですが、自分でも驚くぐらいの量のうんちを出していました。

便意の波は断続的にやって来ます。
終わりの感覚が曖昧で、なかなかトイレから出られません。
時間にして・・・たぶん20分ぐらいは、ずっと籠っていたと思います。

(もう大丈夫)

備え付けの紙でお尻を拭きました。
もちろん日本のトイレットペーパーのような柔らかい紙質ではありません。
自分で紙を持って来なかったことを後悔します。
ごわごわした紙の痛みに泣きそうな気分でした。

トイレから出ました。
診察室に戻るのが、なんだか恥ずかしくてなりません。
先生のもとに戻ると・・・。

(あ・・・)

ちょうど、あの無精ひげさんが診察を受けているところでした。
診察ベッドに横になって点滴をされています。
私に気づいた先生が丸椅子に座るよう言います。
先生が無精ひげさんの点滴を調整していました。
私は椅子に腰かけて、その様子を眺めます。
彼は、ベッドに寝たまま私の顔を見ていました。
一通り作業を終えた先生が、自分の椅子に座って私に向き合います。
先生がシャツを捲くるように身ぶりをします。
すっかりぺったんこになった私のお腹を、先生が触診しました。
私のお腹のへっこみ具合に、なんだか先生も満足そうです。

「もう痛くない?」

単刀直入に聞かれました。
反射的に『紙が痛かった』ということをなぜか連想してしまった私は・・・。

「just a little」

ついそう返事してしまいました。
先生が『おや?』という顔をして、私を立たせます。

(しまった)

一瞬そう思いましたが、今さら「いいです」とも言えません。
腰の布を取らされます。
下半身丸出しの状態で先生に後ろを向かされました。

(あ、ちょっと)

すぐ目の前のベッドの上で、こっちを見ている無精ひげさんが目を見開いています。
たまらず両手で前を隠しました。
私のお尻を手を掴んだ先生の指先が肛門を開いていました。

(わっ)

前を押さえたままで思わず前屈みになってしまいます。

(ああ、イヤっ)

先生にお尻の穴を見られるのは、もう平気でした。
でも、そんな私を目の前で見つめている無精ひげさんの視線が恥ずかしくてなりません。
委縮してしまった私には、「恥ずかしい」と言うことさえ出来ませんでした。
言ったところで配慮してもらえるような気もしなくて・・・。
結局、その気持ちを先生に伝えるだけの勇気を出すことが出来ません。
先生が私のお尻から手を離しました。

「OK」

椅子から立ち上がって棚の方に歩いて行きます。
私は手で前を隠したまま俯いているしかありません。
先生がビニールの手袋をつけていました。
棚から出した薬のチューブを持っています。
さっきのゼリーとは違うようですが・・・なんだか嫌な予感がしました。
先生が戻ってきて、自分にお尻を向けるよう指示します。
そのとき・・・。

「◯×△×□◯×△□」

無精ひげさんが先生に何か話しかけました。

「×◯□×、◯△×□」
「◯□◯×・・・△×◯□」

彼が体を起こします。
点滴の支柱を持ったまま診察ベッドから降りました。
そして丸椅子に座ります。
ベッドに行くように先生が私に言いました。
無精ひげさんが場所を譲ってくれたような形になっています。
とても拒否できるような状況ではありませんでした。
言われるがままにベッドにあがります。

もう観念しました。
ここは辺境の地なのです。
見られるぐらい我慢するしかありません。

体を横にして寝そべりました。
大きな手が私のお尻を全開にします。
先生は肛門に軟膏を塗ってくれていました。
あれだけのうんちをしたのです、切れたところでもあったのでしょうか。
自分ではわかりません。
薄いビニール越しに先生の指の感触がリアルでした。
うんちしたばかりで汚いのに・・・。
なんだか申し訳ない気分です。

首だけ捻って背後の様子を窺いました。
無精ひげさんが、ちゃっかり先生の横から覗き込んでいます。
まさに特等席といったところでしょう。
全開になっているお尻とともに、あそこも露わなのが自分でもわかります。

(もういい。見たければ見て)

東洋人の女・・・。
若い日本人・・・。
この無精ひげさんにとっては、いかにも珍しい外国人の割れ目なのでしょう。

(良かったね。相手が私みたいな容姿の女で)

二度と会うこともない相手だと思ってしまえば気持ちも紛れました。

(満足した?・・・私の恥ずかしいところを見れて)

「OK」

先生が離れました。
私がベッドから下りると、入れ替わりに無精ひげさんがベッドに戻ります。
先生が机に向かって書き物をはじめました。
私にくれる医療費証明の保険の書類です。
無精ひげさんが、私の顔を見上げて微笑んでいます。
今さらおどおどするまでもありません。
私だって、もう完全に開き直っていました。
挨拶するような感じで、義理の微笑みを返してあげます。

カゴの中の服を身に着けました。
先生に治療費を払って書類を受け取ります。
私は診療所を後にしました。
確かに、お腹はもうすっきりしています。
初めての浣腸でしたが、こんなに効くものとは思ってもいませんでした。
それにしても・・・あの無精ひげの男の人・・・。

(まあ、いいか)

どうせ二度と会うこともないのですから。

<P.S.>
経験のある人にしかわかってもらえないかもしれません。
遠い異国の地で体調を崩すのは、本当に不安なものなんです。
まして、それが後進国と呼ばれるようなところであれば・・・。

この体験談だけを読めば、あの先生は無神経な人と映るかもしれません。
でも決してそんなことはありません。
ただ『日本とは違う』、それだけのことだったのです。
現地の言葉をわからない私に丁寧に接してくれましたし・・・。
あのときの先生には今でも感謝の気持ちでいっぱいです。

でも無精ひげさんに対しては・・・。
私のことをどんな目で見ていたんでしょうね。
点滴を必要とするぐらいの病気だったくせに・・・私の恥ずかしいところを覗き込んでいた、あのときの表情・・・。
正直な気持ちを聞いてみたい気もしますが、今となっては確かめようもありません。

海外赴任中の一番恥ずかしい体験でしたが、不愉快に思った方がいればすみません。
最後までお付き合いくださってありがとうございました。