偶然見つけてしまいました。
実家から県庁所在地のある◯◯市へ向かう途中の国道沿いです。

2階建ての商業施設の中に、そのお店はありました。
大きな建物ですが、ショッピングモールと呼ぶほどのオシャレ感はありません。
1階にはスーパーが入っているようなところです。
平日の昼過ぎの時間帯・・・。
人の姿もまばらな感じでした。

2階のカフェで休憩をしていた私。
さっき、ぷらっと中を通り抜けてきた同じフロアの洋服屋さんのことが気になって仕方ありませんでした。

(あのお店・・・)

経験上わかっていました。
たまたま条件がすべて整っているのです。
心の中で“いけない気持ち”がもやもやしていました。
色々考えごとをしなければならないのに、まったく集中することができません。

(ああ、どうしよう)

まもなく海外で新生活(結婚生活)を迎える予定の私なのですが・・・。
日々そのための準備に忙殺される中、最近そのもやもやの頻度が異常に高くなっているような気がしていました。

(どうしよう?)

人生の節目を迎えるにあたって、大きな幸せを感じているのは確かです。
自分でもよくわからないけど・・・。
潜在的に、己の生活の変化に対する恐れのような気持ちでもあるのでしょうか。
ある意味では、一種の現実逃避なのかもしれません。

(いいじゃない、日本にいるうちは。誰にもバレさえしなければ)

強烈な欲求でした。
だって・・・やろうと思えば、やれるのですから。

(やっちゃうか)

レジを済ませてカフェを出ました。
まずトイレに行って、念のためメイクを確認します。

(完璧)

直すところなんてありませんでした。
どこからどう見ても美人な女が、鏡の中で微笑んでいます。

(大丈夫。私には誰にも負けない武器がある)

気持ちを昂ぶらせました。
鏡の自分を見つめながら、内面から自信が湧いてくるのを待ちます。

トイレを出て、まっすぐそのお店に歩いていきました。
カジュアルウェアの洋服屋です。
男性用が6、女性用の服が4ぐらいの割合のお店でした。
さっきと同じく、店内のお客さんはゼロ・・・。
店員は、20代後半ぐらいの男性が1人いるだけです。
そして、あそこの棚にかかっているのは、まぎれもなく水着・・・。

(ドキドキ)

そして向こうに見える入口が、カーテン式の試着室・・・。

(絶対できる)

それとなく近くに並んでいるカットソーを広げてみたりしました。
すぐに店員くんが近寄ってきます。

「どういったものをお探しですか?」

いかにもマニュアルどおりの声かけをしてきました。

「え・・・ああ・・・夏の旅行とかに持っていけるものはないかと思って」

にっこりしてあげると、すぐさま説明トークがはじまります。

「そちらの◯◯は△△ですので、ひとつカバンに入れておくと重宝しますよ」

「ふーん」

洗濯方法について尋ねると、「コットン100ですから・・・」と、素材の特性を交えながら丁寧に教えてくれました。
相手の目をみつめながら真剣に説明を聞くふりをします。
すぐに感じ取っていました。
私を見る、店員くんの微妙な目の動き・・・。
話しているときの些細な表情の変化・・・。
自意識過剰と非難されるかもしれませんが、私には感覚的にわかるのです。
この男の人が私の容貌に惹かれているということが。

(かかった)

もちろん表面的には、彼は普通に客対応をしているだけです。
不自然な行動は一切ありません。

「ご旅行は、どちらのご予定ですか?」

彼の販売トークに乗せられたふうに・・・。

「来月、◯◯に行くんです。行ったことありますか?」

目を輝かせながら嘘の話をしている自分がいました。

「いえー、僕はないです。いつか行ってみたいですねえー」

今度は別のカットソーを広げて見せます。

「飛行機の中って、結構エアコンが効きすぎたりしてて」

「あ、それ聞いたことあります」

迷っているふりをしている私の顔を、横から店員くんが眺めているという感じでした。

(いい流れ)

ふと・・・一瞬くらっと、よろける演技をして見せます。

「あ」

商品棚に手を置いて、きゅっと目を閉じました。
そのまま5秒・・・10秒・・・。
そして目を開けます。
戸惑いを浮かべた彼の顔がそこにありました。
私はすぐに元どおりになって見せます。

「今朝からちょっと貧血気味で。ごめんなさい、もうなんでもないです」

「大丈夫ですか?」

すみませんという感じで、にこっと微笑みを返しました。

(よしっ、上手くいった)

何事もなかったかのように・・・手もとのカットソーを持って、姿見の鏡の前に行きます。
店員くんは、元の販売モードに戻っていました。
カットソーを肩に宛てがう私に・・・。

「ご試着もできますよ」

明るい口ぶりで試着室の利用を勧めてきてくれます。

「うーん」

まだちょっと迷って見せる私・・・。
試着室の方にチラッと目をやって、その手前にある水着に気づいたふりをします。

「あ・・・可愛い」

すーっと歩いていって、セパレートのビキニを手に取りました。
結構気に入った感じで・・・。

「可愛い・・・」

楽しそうに呟いてみせます。

「それ、□□なんですよ、可愛いですよね」

店員くんの言葉に頷いて見せました。
鏡の前に持っていって服の上からあてて見せます。

「◯◯◯に行かれるんでしたら、すごくいいと思いますよ」

自然と顔が火照ってきているのを感じていました。
トップの部分をシャツに当てて、恥ずかしそうにつぶやきます。

「私、あんまり胸がないから・・・。そういう体型でビキニとか、どう思います?」

照れたふりをする自分自身に興奮していました。
たぶん本当に顔が真っ赤になっていたはずです。

「お客様でしたら、お似合いだと思いますよ」

「私の胸だとカップが浮いたりして、見えそうになるのが怖くって」

赤の他人に自分の口から何度も“コンプレックス”を告白している私・・・。

(相手は男なのに・・・)

相談しながら耳まで熱くなっていました。
恥ずかしそうにしている私の表情に・・・。

「サイズさえ合っていれば大丈夫ですよ」

明らかに目尻が下がっている、店員くんのスマイル・・・。

(いやらしい)

遠慮がちに、顔を真っ赤にしたまま彼に尋ねます。

「水着も試着できるんですか?」

「はい、・・・ぜひぜひ」

店内にいる客は私1人でした。
完全にマンツーマン状態になっています。
彼が引き出しのようなところを開けていました。
試着時につける、使い捨ての紙のショーツを手渡してくれます。
あくまでも店員として・・・。
でも瞳が結構楽しそうでした。
目の前の美人が、水着を試着したいと望んでいるのです。

パンプスを脱いで試着室に入りました。
店員くんが、きちんとカーテンを閉めてくれます。

シャッ。

荷物置き代わりの小さな椅子がありました。
その上にバッグを置いて、着ている服を全部脱ぎます。
持ち込んだこの水着が、私には大きすぎるサイズなのは最初からわかっていました。
一度全裸になってから紙ショーツをつけます。
その上にビキニのパンツを穿きました。
ビキニのトップもつけますが、明らかにカパカパです。
彼との直前のやりとりが効いていました。
胸の小ささを気にして見せたことで、あの店員くんに対して、私はすでに羞恥の気持ちでいっぱいです。

(ああ、恥ずかしいよ)

カーテンを少しだけ開けました。
首だけを外に伸ばす感じで・・・。

「すみません」

ちょっと離れたところに控えていた彼に声をかけます。

「これのもうひとつ小さいサイズの・・・持ってきていただけますか?」

「はい、お待ちください」

店員くんが在庫を調べに、さっと奥へと走ってくれました。
その隙に・・・バッグの中に入れたまま・・・。

ぴこん。

スマホのムービー録画をスタートさせます。

(ドキドキ)

罪悪感がありました。
でも、もう自分でもやめることができません。

<続く>