長年勤めてきた会社を、年度末で退社することになりました。
2月中に引き継ぎも終わらせて、3月は、溜まりに溜まった有給休暇をまるまる消化させてもらっています。

以前からいつかやってみたいと思っていた、写真撮影を目的とした海外ひとり旅に行ってきました。
正直、まだまだ下手くそなのですが・・・。
風景や植物の写真を撮りに出かけるのが、ここ数年の私の新しい趣味です。

具体的な地名を記すのはやめておきますが、日本からは飛行機でほんの数時間・・・。
時差も僅かしかないその地へと私は降り立ちました。
旅行会社のツアーなどとは違う、まったくの自由旅行です。
ずっとひとりぼっちでしたが楽しくて仕方ありませんでした。
念願の◯◯にも足を運ぶことができ、その風景に感動しながら懸命にシャッターを切ったことも、私にとっては貴重な経験になったとしか言いようがありません。

宿泊場所だけは、あらかじめ予約してありました。
食事もなるべく現地の人たちが行くようなお店ばかりを選んで、ひとり旅の空気感を味わいます。
もともと親日家の人たちが多いとされているだけあって、危ないことなど何もありませんでした。

思えば、こんなに自由を感じることができたのは学生のとき以来かもしれません。
私なんか、たいして能力があるわけでもないのに・・・。
20歳のときに就職してからというもの、ずっと自分のなすべき仕事の重圧に追い立てられるだけの日々を過ごしてきたような気がします。
それだけに旅行をしながら、そういったストレスから解放されている自分に幸せを感じつつ、あちこちで写真撮影を楽しむことができました。

毎日移動と撮影と宿泊を繰り返しながら、ひとり旅も終盤を迎えつつありました。
この日に泊ったのは、ロッジが並んでいるようなスタイルの宿泊施設です。
個々のバンガローの中は、ベッドと戸棚と簡易テーブルだけ・・・。
トイレはありますが、お風呂は付いていません。
お風呂は専用のお風呂建物があって、皆が共同でそこを利用する形でした。
予約した時からわかっていたことですから別に驚きはありません。
一応温泉で、水着を着用した上での男女混浴の施設でした。

近くの簡易食堂のようなところで夕食を済ませてあった私は、早々にお風呂に入ることにしました。
旅行も何日か続いてくると、シャワーだけではなく足を伸ばしてお湯に浸かることのできるお風呂というのが嬉しくてなりません。

自分のバンガローを出て、お風呂ロッジに向かいます。
建物の中に入ると、まずそこはロッカールームのような脱衣場所になっていました。
たまたま無人でしたが・・・。
ガラス戸の奥にある浴室の方からは、確かに人の気配が伝わってきます。
このロッカールームは男女共用ですが、壁際には着替え用の個別ブースのような空間が並んでいました。
そのドアのひとつを開けて中に入ります。
服を脱いで上下セパレートの水着に着替えました。

(温泉か・・・)

妙に緊張しました。
混浴とはいっても水着着用です。
プールにでも来たような気持ちでいればいいはずなのですが・・・。
男の人とも一緒に『お風呂に入る』ということを意識しすぎてしまって、なんだか気持ちが落ち着きません。

ブースから出て、服をロッカーにしまいました。
自分がいま、たったひとりで外国にいるのだということに重圧を感じてしまいます。

(ドキドキ)

浴室へと続くガラス戸を開けました。
一瞬・・・中にいた人たち全員が入ってきた私に視線を注ぎます。
が、それも束の間のことで、すぐにまた皆それぞれ自分たちのおしゃべりに戻っている感じでした。

桶のようなものがあったので、水着姿のまま、一応かけ湯をします。
そして湯船の中に入りました。
先客は全部で6人いました。
老年のご夫婦と私と同世代ぐらいのカップル(夫婦?)・・・。
そして20歳前後ぐらいの男の子2人組です。
宿泊者専用のお風呂ロッジですから、おそらくは皆どれかのバンガローに泊っている夫婦や友人同士のはずでした。

(ふうー)

のんびり肩まで浸かります。
雰囲気は、日本でいうところの温泉旅館の浴場に近い感じでした。
ただし広さはあまりありません。

(良かった。緊張するほどのものでもない)

周りの人たちの容姿も日本人と一緒なので、私もすぐに慣れていきます。
お湯は割とぬるめでした。
換気用の大窓が外側に大きく開いています。

しばらく、くつろいでいると・・・ご年配夫婦の男性のほうの方が・・・。

「◯△×◯△×」

◯◯語で、にこやかに私に話しかけてきました。
ちょっと戸惑いましたが・・・。

「◯□×△(私は◯◯語はわからないです)」

ガイドブックで覚えた数少ない会話例を思い出しながら、たどたどしく返します。
男性は『おっ』とした表情を見せましたが・・・。

「ニホンノカタデスカ?」

今度は日本語で話しかけてきてくれます。
その割と流暢な発音に驚きつつも嬉しい気持ちになりました。

「はい」

思わず私も笑顔になって、おしゃべりに応じます。

「日本語、お上手ですね」

奥様も、かなり日本語を話せる方でした。
3人で会話を弾ませながらお湯の中でリラックスします。
10分ぐらいそんな時間を過ごしたでしょうか。
ご夫婦は『そろそろ出よう』という感じになってきて・・・。

「デハ、イイ旅ヲ」

2人でお風呂をあがっていきました。
本当は人見知りの私なのに、旅先で、赤の他人とコミュニケートすることの心地良さ・・・。
お湯につかったまま、その楽しさの余韻に浸ります。

そのうち今度は男の子2人組が・・・。

「Hi」

私に話しかけてきました。
彼らは日本語がわかりませんでしたので、お互いにカタコトの英語でおしゃべりをしてみます。

あっちにいるカップルの男性のほう・・・。
私は、その彼の視線を感じていました。
これでも外見の容姿にだけは多少の自信がある私です。
幾度となく、こちらにチラチラと目線が飛んできていました。
おしゃべりをしている私たちのことを、羨ましそうに見ているのが伝わってきます。
そして・・・一緒にいる女性のほうは、明らかに不機嫌そうな表情をしていました。

(嫌な感じ・・・)

彼氏が私のほうを見てるからってヤキモチを妬かれるような筋合いじゃないのに。

そろそろのぼせてきていました。
お湯から上がります。
日本のような洗い場みたいな設備はありませんでした。
代わりに、カプセルタイプのような円柱体のシャワーブースが2つ並んでいます。
両方とも空いていました。
左側のブースの扉を開けて中に入ります。
この中では、シャンプーやボディーソープを使用することが可能でした。
戸を閉めて水着を脱ぎます。
全身を洗いました。

(やっぱり旅行っていいな。ひとり旅って、私の性格に合ってるのかも)

明日の予定を頭に思い浮かべながら気分良くシャワーのお湯を浴びます。
扉の接合部のゴムパッキンが劣化して取れてしまっているのに気づきました。
でも、まあ別に関係ありません。
再び水着をつけました。
シャワーブースから出ます。
さっきの男の子2人組は、もういなくなっていました。
残っているのは、あのカップルだけです。
内気そうな彼が、私のことをチラチラ見ていました。
性格のキツそうな彼女さんのほうが・・・。

「◯△×□◯△」

不機嫌そうに男性に文句を言っています。

(関わりたくない)

だいたい察していました。
あの男性は、『自分も旅行中の日本人に話しかけてみたい』と思っている・・・。
でも彼女のほうは、私が『女』だからそれを快く思わない・・・。

(喧嘩ならあっちでやって。私を巻き込まないで)

再び湯船に入った私に、彼女さんの視線が突き刺さります。
目障りに思われているんだということが、ひしひしと伝わってきていました。

こんなことを正直に書けば、それこそ自分の性格の悪さをつまびらかにしてしまうようなものですが・・・。
あの女性の心の中には、自分の彼がずっと見ている私の容姿に対する嫉妬の気持ちも少なからずあったはずです。
私とは同世代ぐらいの女の人・・・。
客観的に言えば、あの彼女さんはおチビでおでぶな・・・太ったタヌキみたいな顔をした女性でした。

だからって、私には関係ないじゃない。
私は何もしてないでしょ。
そんな露骨に睨まないでよ。

そういう国民性なのでしょうか。
自分の感情をストレートに顔に出してくる女性・・・。
何もわかっていないふりをすることで、やり過ごそうとしていました。
こんなところで嫌な思いをするのはごめんです。

(出よう)

すっかり居心地が悪くなってしまった私は、もう上がろうと思いました。
ちょうどそのタイミングで・・・。

「◯△□×、◯△×□」
「□◯△×△」

あっちの2人のほうが先にお湯から立ち上がります。
帰るようでした。
内心、ほっとしている私がいます。
私の前を横切りながら、最後まで未練がましく視線を送ってくる彼氏さん・・・。
そして彼女さんが私を横目で睨みながら・・・。

「◯◯◯◯」

一緒に浴室から出ていきます。

(えっ!?)

結構ショックでした。
私は何も悪いことをしたわけじゃないのに・・・。

(「◯◯◯◯」って!?)

そして、かなりカチンときていました。

(ふざけんな!)

あの人は最後、私の前を通りながら・・・。
確かに一言・・・。

「ugly(醜い)」

そう吐き捨てて行ったのです。
腹が立ちました。
なぜか無性に・・・許せない気持ちになります。

(こっちは何も気づかないふりをしてあげてたのに。睨まれても我慢してあげたのに)

この感情に説明をつけることはできません。
とにかく頭に来ていました。
やり場のない憤りを・・・お湯の中でひとり噛み締めます。

(ブスは、あなたのほうでしょ!)

私の性格の悪さが全開になっていました。

(あんたの彼がどんなに私を見たからって、そんなの私の知ったことじゃない!)

怒りにまかせて、お湯の中から出ます。
一度感情をコントロールして表情を作りました。
何もわかっていない、楚々とした日本人の顔になりきります。

(見てろよ、あの女)

ガラス戸に手を伸ばして浴室から出ました。
ロッカールームにいた彼氏さんがぱっとこっちを見て、目が合います。
私は社交辞令的に、軽く会釈だけしてみせました。
彼は、すでに着替え終わっていて、端っこで手持ち無沙汰に立っています。
あの女は・・・いない。
まだ着替え中のようでした。
ドアの閉じている個別ブースがひとつ見えます。
頭の中で・・・。

(男がいるよ・・・男がそこにいる・・・)

自身の羞恥心を一気に煽り立てました。

(こんな男の人の前で、イヤだよう)

表面上はお風呂上がりらしいリラックスしているふりを演技します。

(ああん、こっち見てる)

自分のロッカーの前に立って、そのままその場で、おもむろに上の水着を取りました。

(ひいい)

彼の目が私の胸に釘付けになっています。
私は、まったく意に介していないという感じで自然体を装って見せました。
丸出しにしたおっぱいを露わにしたまま・・・。
開いたロッカーの扉の上に脱いだ水着をかけます。

(ああん、見てるよう)

興奮していました。
見ず知らずの男が、すぐそこに立っているのです。
中からタオルを取り出して、髪をもしゃもしゃ拭きました。
ふと視線を感じたかのように彼の方に目をやります。
ニヤけた表情がそこにありました。

『まさかブースに入らず、この場所でそのまま脱ぐなんて・・・』

相手の顔には、まるでそう書いてあるかのようです。

(ばかっ、そんなにニヤニヤしないで)

私は『ん?』と、不思議そうな顔をして見せました。
温泉の脱衣所で裸になるのは普通のこと・・・。
あたかも、それが当たり前の感覚になっているかのような、日本の女を演じます。

(恥ずかしいぃ)

きょとんとしながらも・・・相手の目を見ながら戸惑いの微笑みを返してあげる私・・・。

(あなたの彼女なんかより100倍キレイな女でしょ?)

タオルをロッカーの扉にかけました。
彼が思いっきり私を見ています。
その目の前で、普通のことのように下の水着に手を伸ばしました。

(イヤぁ、恥ずかしすぎる)

躊躇う素振りを見せることもなく、ふくらはぎまで下ろします。
下半身も丸出しでした。
強烈な視線を感じながら水着から足首を抜きます。

(イヤあ、嫌ぁ)

一糸まとわぬ全裸でした。
じろじろ見ている男の前で素っ裸になっている自分がいます。

(ああああ、泣きそう)

膝がガクガクになりそうでした。
なんとか必死に演技を続けます。
さっき脱いだ上のほうの水着も手に持って・・・すっぽんぽんのまま彼の前を通りました。
舐めるような視線で、体を見られているのがわかります。

(あああ、もうだめえ)

浴室へのガラス戸を開けました。
腕だけを中に伸ばして濡れた水着を絞ります。
もう頭の中が真っ白になりそうでした。

(どんな気分?)

まだブースの中で着替えている、あの女の顔を思い浮かべます。

(今、あんたの男は、私の裸を見ることに夢中になってるよ)

ロッカーの前に戻ろうと振り向きます。
歩いていきながら、また彼と目が合ってしまいました。
相手の目線が、ヘアーも丸出しの私の股間にすっと落ちるのがわかります。

(恥ずかしい)

私は特に意識していないというふりをしました。
相手としゃべるつもりもありません。

(嬉しくてしょうがないでしょ?こんな美人が真っ裸なんだもん)

再びタオルを手に取りました。
冴えないあの女の彼氏が、すぐそこから私を眺めています。

(イヤあん)

まるで私の裸を鑑賞しているかのような、ねちっこい視線でした。
私は気にも留めていないふりを続けます。
さりげなく彼の方に背を向けました。
スリムにきゅっと切れ上がった私のお尻を眺めさせてあげます。
時間はほとんどないはずでした。
少し背中を丸め気味にして首を前に傾けます。
頭からバサッと髪を垂らしました。
タオルで包み込むようにしながら、もう一度丁寧に髪を拭きます。

(ドキドキ)

興奮が止まりませんでした。
私は痩せていて、あまり贅肉のない体型です。
こうして、ちょっと前屈みになっただけで・・・。

(イヤあん、恥ずかしい)

元々開き気味のお尻から肛門が見えているのは確実でした。

(見ないでぇ・・・そんなとこ見ないでぇ)

あくまでも淡々と・・・。
しとやかな手つきで髪をケアする“この女”・・・。

(ああ、私・・・こんな男の前で)

お尻の穴を丸見えにしたまま・・・無垢な女を演じている自分が快感でなりません。

(もうだめ。泣いちゃいそう)

姿勢を戻して無造作に髪を束ねます。
そのとき、バタッと、個別ブースのドアが開きました。
あの女が出てきて真っ裸の私にぎょっとしています。

(驚いてる)

相手の心理を一瞬にして読み切っている自分がいました。

「Hi」

私は何の罪もないような表情で彼女に微笑みを向けます。

「◯×□△◯、◯◯×□・・・」

タヌキ女がとげとげしい声で彼氏に何かを言っていました。

「×□◯□、△◯×・・・」

私の方にも毒づくような口調で何か呟いています。

(やってやる)

何を怒られているのかわからないと、びっくりした感じで困惑の顔を作ります。
そして、つんとして見せました。
わけがわからないというふうに、そっぽを向いて体を拭く私・・・。
せわしなく自分の荷物を持って・・・。

「△□◯□××◯・・・」

タヌキ女が『早く行くよ』とばかりに彼氏のことを急かしていました。
自分の彼が・・・いつまでも私の裸にチラチラ目をやっているのが癪でたまらないといった様子です。

(私に、『ブス』なんて言うからじゃない。どっちが『ugly』だよ)

私の中でプライドがばちばちと火花を放っていました。
ひとりマイペースに、ロッカー前で体を拭いている演技を続けます。

(ああん、彼氏さん、その女を嫉妬させてやって)

すべて計算尽くでした。
自然体を装いながらも絶妙のタイミングで・・・かなり前屈みになって脚を拭きます。

(あ・・・あ・・・)

後ろから、もろにあそこが丸見えになる格好でした。
帰ろうとするタヌキ女が出口のあるこちら側へと歩いてきます。
その彼女について来るようにして・・・。

(あ、あぁぁ・・・)

私の真後ろを、彼がゆーっくりと通りすぎていきました。
きっと間違いなく・・・私の恥部を、その目にばっちり焼きつけながら・・・。
そして2人が建物から出ていきます。

(ドキドキ)

姿勢を戻しました。
心臓が破裂しそうになっています。
ひとりぼっちになって服を着ながら、興奮に頭がクラクラしてくる私でした。

<続く>