貴重品をミニロッカーに仕舞います。
誰もいない脱衣所に私1人だけでした。
服を脱ぎます。

『かもしれない』なんかじゃない・・・。

(きっと来る)

私の勘がそう言っています。
脱いだ服を畳んで、手近な脱衣カゴの中に入れました。
下着も脱いで全裸になります。

「ふーっ」

息を吐いて気持ちを落ち着かせました。

(大丈夫)

ここは銭湯です。

(裸でいるのは当たり前のこと)

これでも外見の容姿にだけは多少自信がある私です。
姿見の鏡の前に立ちました。
ほっそりした色白な女・・・。

(どこからどう見たって)

そこに映っているのは、いかにも“奥ゆかしげ”な女の子です。

(相手は銭湯の人なんだから、堂々としてればいい)

そう、わかっていても・・・。

「ふーう」

久々の緊張感に、ついつい何度も深呼吸してしまいます。

(役に立つかも)

そんな気がしてトートバッグからヘアピンのケースを取り出しました。
ポーチの中に移します。
ポーチとタオルを持って奥のガラス戸を引きました。
お風呂場へと入ります。
洗い場のイスに腰かけて手早く髪を洗いました。

(親切そうな、あのおじさん)

50代の後半ぐらいでしょうか。
年の割には、禿げ上がった頭がつるつるでした。
いい人なのは間違いありません。
でもやっぱり・・・。

(さっきの、あの目・・・)

ちょっとはにかんで見せただけで、簡単に鼻の下を伸ばしちゃって、良くも悪くも人のいい田舎のおじさんという感じでした。

流した髪を後ろで結わえました。
続けてカラダも洗ってしまいます。

(あのおじさん)

きっと女湯に入って来ます。
仕事がら、たぶん女の裸なんて見慣れているに違いありません。
あの人には日常の光景かもしれないけど・・・。

(それでも構わない)

私にとっては十分恥ずかしすぎるシチュエーションです。

シャワーでカラダを流しました。
ポーチは洗い場に置いたままにしておきます。
タオルだけ持って立ち上がりました。
大きな湯船に入ります。

「ふーっ」

カラダをお湯に沈めて、大きく息を吐きました。
もう後には戻れません。
頭の中でイメージしていました。

(おじさんが脱衣所に入って来たら・・・)

そのタイミングで私もお風呂からあがるのです。
あの人だったら、きっとまた・・・、掃除をしながら気さくに話しかけてくることでしょう。
少し恥ずかしげにタオルで胸を押さえながらも・・・。
下着もつけずに、おじさんと談笑する私・・・。

「ふうー」

想像するだけで、なかなかのプレッシャーです。

10分ぐらい?
だんだんのぼせながらも、ずっとドキドキしていました。

大丈夫、自然体でいればいい。
私は何も悪くない・・・。
ただ銭湯に来ているだけ。
しばらくして・・・。

(あ・・・)

そのときは唐突にやって来ました。

(来た!)

ガラス戸の向こう・・・。
脱衣所に、あのおじさんが入ってきています。

(ドキドキ・・・)

女湯を一望する感じで、おじさんがこっちを見ました。
ガラス越しに目が合います。
お湯に浸かったまま軽く会釈して見せました。
おじさんもガラス戸の向こうでにこっとしてくれます。

(ドキドキ・・・)

自分の心拍数が急上昇しているのを感じていました。

(ドキドキドキドキ・・・)

おじさんが向こうで脱衣カゴを重ねています。
お風呂から上がるなら・・・今しかない。
あの人が脱衣所にいる今こそが絶好のチャンスでした。

(行かなきゃ、行かなきゃ)

タイミングを逸したら、もうそれまでです。
あっちは客商売。
絶対に安全な相手。
私は、ただの入浴客。
後ろめたいところなどありません。

(ドキドキ・・・)

自分の心のタイミングを計りました。

ざばっ!

自然な感じで、お湯の中から立ち上がります。
目線を上げると、脱衣所のおじさんが目に入りました。
顔はにこっとしたままで・・・。

(あ・・・あ・・・あ・・・)

じっと、こっちを見ています。
一糸まとわぬ真っ裸でした。
おっぱいも、アンダーヘアも、丸出しです。

(ドキドキ・・・)

私は、当たり前の何食わぬ顔をしていました。
そのまま髪を結わえ直します。

ざば、ざば・・・。

お湯の中を大股に歩いて・・・。

ざばっ。

湯船の縁に置いていたタオルを取りました。

(やぁん、見られてる)

そのまま跨いで湯船の外に出ます。
15メートルぐらい向こう・・・。
ガラス戸の向こうから、ずっと視線を感じていました。

(恥ずかしい)

顔がかーっと熱くなってきます。
でも、そんな感情はおくびにも出しません。
平然とした顔で控えめにタオルを胸に当てました。
カラダの前に垂らしたまま、なんとなくといった感じでおじさんの方を見ます。
また目が合いました。
警戒心のない表情で、ちょっと微笑んで見せます。
内心ものすごく興奮していました。

(気持ちいい)

真っ裸でいながら無垢な女の子を演じる自分が快感です。
非日常の興奮にドキドキしていました。
あそこに男の人がいるのに、私はこんな格好でいるのです。
表情こそ、いやらしさは感じさせなくても・・・。
あのおじさんは、間違いなくじっとこっちを見ています。

(もっと)

脳を溶かすような陶酔感が私を後押ししていました。

(もっと近くで)

自然に演技に入っている自分がいます。
洗い場に置いたポーチを取りに向かっていました。
そして、どうして突然そんなことを思いついたのか・・・自分でもわかりません。

(ああ、どうする?)

頭にイメージが浮かんでいました。

(できる・・・やっちゃえ)

洗い場の前まで来て・・・いきなり、ふらふらとよろけてみせます。
立ち止まって、顔をしかめていました。
おじさんが・・・またこっちを見ています。

(今だ)

突然カラダをくにゃっと折り曲げます。
その場に、へたり込んで見せました。
お風呂の床に、お尻をぺたんとつけてしまいます。
そのまま、がっくりと俯いてみせました。

ガガっ。

ガラス戸の開く音がしました。
脱衣所にいたおじさんが慌てて近寄ってきます。

「大丈夫ですか!?」

さすがに驚いた感じの口調でした。
私は辛そうに歪めた顔をぼーっと上げて・・・。

「すみません・・・ちょっと貧血が・・・」

かすれた声を絞り出します。
タオルで胸を押さえて、辛うじて前だけは隠していました。

「大丈夫?」

おじさんが寄り添うようにしゃがみ込んでくれます。

(いやん、近い)

目の前におじさんの顔がありました。
私は、辛そうに顔をしかめたまま・・・。

「気持ち・・・悪い・・・」

それどころではないふりをします。
ただの貧血とわかって・・・とりあえず、おじさんも安心したのでしょう。

「向こうにベンチがありますよ」

優しく声を掛けてくれます。
・・・が。

「ここだと冷えるから」

銭湯の人といえども相手はやはり中年の男性でした。
その目線だけは“正直”です。

(いやん)

カラダに当てた細いタオルだけがよりどころの私・・・。
すべてを隠しきれているわけではありませんでした。

(恥ずかしい)

羞恥心に火がつきます。

「向こうまで行ける?」

おじさんが脱衣所のほうを指しています。

「立てる?」

泣きそうな声で、「はい・・・」と返事をしていました。
のっそり立ち上がろうとする私・・・。
補助するようにおじさんが私の両腕を取ってくれます。
そして・・・。

(あっ、あ・・・ああ)

その腕を引かれていました。
押さえていたタオルが離れて・・・。

(あ、ああ)

カラダが露わになってしまいます。

(いじわる)

絶対にわざとでした。
おじさんの眼前で私のおっぱいが丸見えです。

「大丈夫?」

立たせてもらった私は・・・。

「・・・はい・・・すみません」

それとなくタオルで胸を隠します。
弱々しく俯きながも・・・。

(泣いちゃう)

内心では興奮に打ち震えてしました。

<続く>