車をスタートさせて、私は慎重に運転していました。
林道をのろのろ車を走らせます。
もう何度も通ったことがありますから、道に迷うこともありません。
やがて分岐点が見えてきます。
ハンドルを切りました。
何度も行ったことのある、あの野天温泉を目指します。
バックミラーに光が見えていました。

PCMAX

(オートバイ?)

遥か後方で、よくわかりません。
普通だったら気にも留めないところです。
でも、今の私はすべてに敏感でした。

温泉へと続く道に出ます。
舗装されていない山道を、ゆっくり進んでいきました。
やはりスクーターです。
何か直感のようなものがありました。

(美大くん?)

違うかもしれません。
でも・・・こんなところでスクーターなんて・・・。
そうそう出会うものでもありません。
1軒・・・そしてまたもう1軒・・・ひなびた温泉旅館の前を通過しました。
道路脇の目立たない駐車場が見えてきます。
私の目指す目的地でした。
スピードを落として車を進入させます。
一番奥に停めました。
シートベルトを外して、リアシートからトートバッグを引き寄せます。

ヴー・・・。

さほど待つまでもなく、そのスクーターが道をそのまま通過していきました。
走り去ってカーブに消えていきます。

(やっぱり)

乗っていたのは、あの美大くんでした。
偶然でしょうか・・・。
彼の帰り道も偶然こっちだった・・・もちろんその可能性はあります。
車から降りました。

(違う)

なんとなく・・・釈然としない感じがあります。
そもそも同じタイミングになること自体が不自然でした。

(まさか・・・後をつけてきた?)

林道の途中のどこかで、私の車が出て来るのを待ち伏せていたということでしょうか。
トートバッグを肩にかけました。
野天風呂へと続く、森の歩道へと入っていきます。
確かめようと思いました。
もやもやした気持ちのままではいられません。
少し入ったところで足を止めました。
木の陰から顔だけ出して様子を見ます。

(意図的に追いかけてきた?)

もしそうだとしても・・・恐怖心はありませんでした。
あの子の性格はよく分かっているつもりです。
彼の人見知りぶりを考えれば、なんとなく想像がつきました。

裸を覗いてしまった相手・・・。
せめて、帰りの途中でも・・お姉さんを少しでも見ていたかった・・・。

おそらく、そんなところでしょう。
私に危害を加える気持ちなどないはずでした。
絵を描きに、あの渓流に来るくらいの子です。
だったら、ここの野天風呂のことも知っていて当然でした。

(確か、スクーターも地元ナンバーだった)

朝、この目で確かめたのですから間違いありません。
そして、今・・・。
彼は、お姉さんがここに駐車したのを見てしまっています。
そのまま通過していったものの・・・。
あの子の心は揺れているはずでした。

(戻って来る。たぶん、来る)

私の直感が、そう訴えかけてきています。
駐車場に他の車はありません。
目指す『◯◯湯』は、今行ってもおそらく無人でしょう。
私は計算していました。

(このまま行っても空振りになるかもしれない)

来るかどうかもわからない誰かを延々と待ち続けるくらいなら・・・。
あの男の子に来てもらったほうが確実でした。
何よりも・・・あの子なら安全な相手だという安心感があります。

(美大くん、戻っておいでよ・・・)

耳を澄ませて様子を窺います。

今なら誰もいないから、今度は、お姉さんのお風呂が覗けちゃうよ・・・。
あのモデルさんのお風呂、見てみたいでしょ?

待つほどのことでもありませんでした。
遠くから、ヴぃー・・・。
さっきと同じスクーター音が戻ってきます。

(やっぱり)

思った通りです。
歩道の入口の向こうに、駐車場に滑り込んでくるスクーターが一瞬見えました。
私は、とっさに歩き出していました。

(思った通りだ)

早足で温泉の方へ向かいます。
再び気持ちが高揚していました。

(あの子なら問題ない。またいっぱいドキドキできる)

木々の生い茂る歩道を進みながら、その興奮に胸がときめきます。

(あそこだ)

見えてきました。
懐かしい、朽ちた表示板です。

『◯◯湯→』

色褪せた字が横を指していました。
下に降りていく階段道に入っていきます。
崖に沿うように急こう配を下っていきました。
カーブしたところで眼下に男湯が見えてきます。

(また来ちゃった)

ここに来るのは、これで何度目でしょう。
渓流沿いに伸びた細長い岩風呂は、いつも通り無人でした。
残りの階段道を下りきります。
誰もいない男湯を突っ切りました。
奥に見える古びた木戸が女湯の入口です。

ガタタッ。

中に入って石垣を折り返すと、そこが女湯スペースでした。
女湯にも人はいません。
完全に私だけの貸し切り状態です。
乾いている小岩の上にトートバッグを置きました。

女湯は、男湯のような広さはありません。
だいたい5m四方くらいのスペースの中央に、小さな湯だまりがあるだけです。
すぐ正面に流れる川と、向こうの山・・・。

(清々しい)

来るたびに思うことですが、本当にいい景色でした。
以前と変わっていることがないか素早く確かめます。
女湯の縁にはすだれが立てられている部分があって、周囲からの目隠しになっています。
近くに寄ってみると・・・相変わらずボロボロで隙間だらけのすだれでした。

(よし)

何ひとつ変わっている点はありません。
完璧でした。
このこぢんまりした女湯は、もう私だけの世界です。

サンダルを脱ぎました。
スペースの端っこには、コンクリート部分があります。
それが、そのまま川の護岸でした。
高さは1mほどしかなく、下に降りれば男湯のほうまで繋がっています。

(美大くん、そのこと、知ってるんでしょ?)

急いで服を脱ぎました。
小岩のところにまとめて置きます。
全裸になった私は木戸の裏に行きました。
隙間から男湯スペースを覗きます。

(来て)

確信がありました。
駐車場に戻ってきたスクーター・・・。

(あの子は、この温泉のことを知ってる)

だから戻って来た・・・。

(来た!)

階段道を下ってくる美大くんが見えました。

(やっぱり来た)

全身が震えてきます。
自らの意思を持って、あの男の子は、私の後を追って来たのです。
何の罪もない、キレイなお姉さんのお風呂を覗くために。
男湯に降り立った美大くんは、まっすぐ護岸に走り寄っていました。
一瞬きょろきょろしていましたが・・・すとんと下におりています。

(やっぱり知ってた!)

もう確実でした。
やはり知っているのです。
護岸の下を伝ってくれば、簡単に女湯の前まで来られてしまうことを。
私は慌てて湯だまりに戻りました。

(来る)

もう待ったなしです。
置きっぱなしになっている古い手桶を掴みました。

ざば・・・ざば・・・。

かけ湯をして、お湯の中に飛び込みます。

(来る)

熱いお湯に肩まで浸かりました。
体を伸ばしてリラックス顔を作ります。
全然違うほうを見ているふりをしました。
でも、視界の隅にしっかりすだれを捉えています。
だいたい予想がついていました。
この温泉でお風呂を覗かれるのは初めてではないからです。

(絶対、あの裏側だ)

覗こうとする彼にとっての絶好の場所は・・・あのすだれのところをおいて他にありません。

(ドキドキ・・・来る・・・もう、来る・・・)

すだれの隙間に影がちらつきました。

(来たっ。ドキドキドキドキ・・・)

私は何も気づかないふりをします。
でも、ちらちら見えていました。
護岸の下に身を潜めた男の子・・・。
頭だけを上に出して、粗いすだれに顔を寄せています。
普通だったら、まず気づかないでしょう。
でも・・・そのつもりで注意を払っていた私には丸わかりでした。
すだれの隙間から、こちらを見ている美大くん・・・。
実際に覗いている彼が一番驚いているかもしれません。
女湯スペースが丸見えの、まさに『特等席』でした。
お湯に浸かっている私を目の当たりにして・・・そのあまりの『近さ』に鼻息を荒くしているかもしれません。

ドキドキ・・・。

もちろん、こちらからは何も見えていないふりをします。
リラックスした顔で景色を眺めて見せながら・・・追い込まれた自分に興奮していました。

(もう逃げられない)

ひとたびお湯から出れば、どこにも隠れ場はありません。
こんなに近いのに、裸の体を隠す方法は、もうありませんでした。
体の中心がじーんと痺れてきます。
肩までお湯に浸かった私と、頭だけ護岸の上に出している男の子・・・。
お互いの顔の高さは、ほぼ同じでした。

(誰もいない。私は1人っきり)

のんびりと、くつろぐふりをして見せながら・・・。
実際には、目の前で男の子に向き合っているのです。

(2人を隔てているのは、あの薄いすだれだけ)

非日常の、起こりえない現実に身を置いている私がいました。

(あああ、だめ)

このお姉さんは何も知らないのです。
完璧なシチュエーションでした。

(緊張しちゃう)

どんな遠慮がいるというのでしょう。
たとえどんなに見られてしまおうと、このお姉さんは悪くありません。

(悪いのは覗くほう)

私は可哀想な被害者の立場でした。

(ああん)

自分で演じるこのお姉さんに感情を振り向けます。
可哀想な私が不憫でなりませんでした。
普通にお風呂に来ただけなのに、裸を見られてしまう運命の、憐れなお姉さん・・・。
すだれの裏の、あの男の子の気持ちを想像してしまいます。
言いようもなく興奮してくる自分を感じていました。
あのモデルさんの入浴シーンを覗きながら・・・彼は今、どれほどドキドキしていることでしょう。

(美大くん、そんなに見たい?)

ざば。

お湯の中から立ち上がりました。
後ろに下がって・・・そのまま湯だまりの縁に腰かけます。

(ああん、見ないで)

まさか見られているなんて思ってもいないお姉さん・・・。
当たり前にヌードを曝け出しながら・・・。

「ふうー」

大きく息をついて見せました。
腰かけたまま風景に目を奪われているふりをします。

(あああん、恥ずかしい)

照りつける陽射しが眩しいほどでした。
無防備におっぱいを丸出しにして・・・。

(恥ずかしいよ)

美大くんに私の胸を観察させてあげます。
渓流のときが『動』ならば、この温泉では『静』でしょうか。
腰かけたまま、1人たたずむお姉さんは・・・。

(ああん)

幸せそうに野天風呂を満喫している表情を浮かべて見せました。
直接、この目で確かめることはできません。
それでも、しっかり彼の視線を感じていました。

(ああん、イヤぁ、見ないでぇ)

素晴らしい景色に微笑んで見せながら・・・膨らんだ乳首は痛いくらいに尖っています。

(ああああん)

恥ずかしくてたまりませんでした。
あの子は、私を『何かのモデルさん』と信じ切っているはずです。
そのお姉さんの丸出しなおっぱいが見放題でした。
私の乳首を観察しながら・・・きっとニヤニヤしているに違いありません。

隠さずに腰かけたまま羞恥心に耐えました。
こういうときに限って会社の男性たちの顔が浮かんできます。

(ああん、イヤあ)

あの男たちには絶対に見せられない、こんな姿の私・・・。
見知らぬ男の子に『素』の自分を曝け出していることで、ものすごく興奮してしまいます。

(美大くん、ひどい)

内気なあなたのスケッチを褒めてくれたお姉さんなのに・・・。
そんな人のお風呂を覗いちゃうなんて。
興奮する?
裸の私を見てドキドキしてるの?

ちょっと考えごとをしているかのようにじっとしていました。
一点を見つめて、ぼーっとして見せます。
そして・・・おもむろに立ち上がりました。
何かを思い出しているかのような顔で正面を見据えます。
全裸のまま、姿勢よく立っていました。
胸も、お尻も、前も・・・一切隠していません。
全身の血が、頭にかーっと昇りました。
ぜんぶ丸出しの真っ裸で、すっ・・・。
その場でポーズを決めます。
『違うな』という顔をして・・・またすっと、ポーズをしました。

(ああああん)

恥ずかしすぎて膣の奥がきゅうっとなる感覚・・・。
また体の中心がじーんとなります。

美大くん、見て。
このお姉さん・・・裸のままでポーズしてるよ。

羞恥に悶える内心を押し隠しました。
表情は至って真剣です。
さっきの撮影を思い出しているかのように・・・。
あたかも、そこにカメラの三脚があるかのように・・・。
誰もいるはずのないすだれの前で・・・。

・・・すっ・・・。
・・・すっ・・・。

立ちポーズを、おさらいしているふりをしてみせます。
丸見えでした。

可哀想。
お姉さんが可哀想。
何も知らずにポーズをしているモデルさん・・・。
足もとから見上げる角度の美大くんの前で、股の間が見えっぱなしです。
ファッション誌の表紙のようにかっこつけた顔で・・・。

(恥ずかしいよぅ)

惜しげもなく縦の割れ目を見せてあげました。
何かを自分で納得したかのように、大きく息を吐いて力を抜きます。
また湯だまりに入って、お湯の中に体を沈めました。
すっかり顔が火照っています。

(恥ずかしいってばぁ)

ものすごく興奮していました。
完全に覗きの被害者です。
しかも裸のまま、あんなポーズまでしちゃって、不憫すぎる自分が快感でなりません。
お湯に浸かったまま空を見上げました。

(ねえ、知らないでしょ)

「んー」

声を漏らしながら伸びをします。
私、本当のモデルじゃないけど・・・。
でも私、今年もうちの会社案内に載るんだよ。
自分が覗いている女の顔を彼によく見せてあげました。
あなたは・・・そんな私のあそこを見たんだよ。

「んー・・・」

鼻の穴が見えてしまうくらいまで真上を向いて・・・私の顔を観察させてあげます。

(こんなキレイなお姉さんのお風呂を見れて、ラッキーって思ってるでしょ?)

「ふうう」

全身の力を抜きました。

(もっと、もっと見て)

お湯に浸かったまま・・・湯だまりの縁に両手を置いて重ねます。
その自分の手の上に顔を乗せました。
目を閉じて、「ふううう」と、気持ちよさそうに声を漏らします。
わずか1m半くらいの至近距離でした。
すぐそこのすだれ1枚を挟んで、顔と顔とを突き合わせています。

(ほら・・・すごくきれいなお姉さんでしょう?)

目を瞑ったまま、幸せそうに、にっこり微笑んでみせました。
心の中で美大くんに話しかけます。

あなたって悪い子・・・。
覗かれてるなんて知ったら、このお姉さん・・・きっとショックで泣いちゃうよ。

ふわーっ・・・と快感に包まれました。
目を閉じたまま、くつろぐふりを演じながら・・・脳がとろけそうに気持ちよくなります。

ねえ、美大くん。
・・・帰ったらオナニーしたりするの?
私の裸を思い出してオナニーするの?
美大くん・・・もっと私の恥ずかしいとこ、見たい?

膣の奥が、またきゅうっとなりました。
終われない・・・まだ、終わらせたくない・・・。
この子の前で、恥をかいてあげたい・・・。
何も知らないふりをして。
でも・・・どうやって?
いい方法、ある?
不自然じゃなく、恥ずかしい格好を・・・。

ざばっ。

湯だまりから出ました。
全裸でトートバッグのところへ歩いていきます。
化粧ポーチの中からクレンジングオイルを取り出しました。
指先につけて、クルクルと顔の表面に馴染ませます。
立ったままでメイクを落としていきました。

美大くん・・・。
ほら、私の体を見て。
私のヌードで何度もオナニーするんでしょ?
ちゃんと見なきゃ。

メイクを崩しながら、所在無げにウロウロ歩いてあげます。

(何も知らないお姉さん・・・が、あなたの前で真っ裸だよ)

両ひざを揃えて、しゃがみました。
彼のすだれの、すぐ前です。
手桶を拾って、お湯をすくいました。

ばちゃ、ばちゃ。

べたべたになった手を流します。
手桶を横に置きました。
湯だまりに、にじり寄ります。
その場で、静かに跪きました。

(美大くん)

ちょうどすだれを背にして、地べたに両膝をついています。

(ああん、見えちゃう)

湯だまりに手を伸ばしました。
前屈みになって、手のひらで直接お湯をすくいます。

(あああん)

丸出しのお尻が全開になっていました。
わずか1m後ろには覗いている美大くん・・・。
私は痩せていて、女にしてはお尻も小さいほうです。
彼の目の前で、肛門が、思いっきり露わでした。

(見ちゃだめぇ)

何も知らないお姉さん・・・。
放射状にすぼまった、しわの中心まで、男の子にお披露目してあげます。

見て・・・。
ちゃんと見て。
これが、このモデルさんのお尻の穴だよ・・・。

手のひらにすくったお湯で、優しく自分の顔を撫でます。
オイルを洗い落としながら、内心、屈辱感に打ち震えていました。

(そんなとこ、見ないでぇ)
(あああ、だめ、もうだめ)

顔を流し終えた私はすっと立ち上がって、湯だまりに入ります。
振り向けません。
もう・・・恥ずかしすぎて。
お湯に浸かって、木戸のほうを向いたままでいました。
必死に平静を保ちます。

(大丈夫。収まる・・・収まる・・・)

取り乱しそうになる自分を、なんとかこらえます。
無理やり笑みを作りました。

(いや、違う)

ぼーっとした顔に直します。

バクバクバクバク・・・。

心臓が、破裂しそうなほどに鼓動しています。
景色を眺める感じで・・・。
川のほうを振り返りました。
もう余計なことはしません。
ぼけーっとお湯に浸かっていました。

<続く>