脱いだ着物をハンガーに丁寧にかけてカーテンレールに引っ掛け、白い浴衣のような姿になったユキエさんを、俺はボーっと見ていた。

「満足してないって、そのそういう意味じゃないんです。それに脱いじゃったら帰れなくないですか?」

ユキエさんはその白い服のまま俺の横に座り、「着付けくらい出来るのよ、この年になると」と言い、俺に顔を近づけた。
PCMAX
俺はキスをして、そのまま押し倒した。
鼻息を荒くしながら白い服の前を肌蹴ると、すぐに白い肌が見えて綺麗な胸が出てきた。

(着物って下着をつけないんだ・・・)

俺は変なことに感心してしまった。

俺はユキエさんを裸にした。
彼女はされるがままになっていた。
仰向けに寝ているユキエさんの足元に手を伸ばすと、白い足袋が目に付いた。
俺は軽くユキエさんの脚を持ち上げ、足袋を脱がせた。

俺はふと、高校の部室にあった『女の責め方』みたいな題名の頭の悪い本に書いてあった、「足の指を責めろ!」という格言を思い出した。
ユキエさんの裸の足を両手で持ち、俺は思い切って足の親指を口に含んだ。
彼女はびっくりして体を起こし、「ちょっと、どうしたの?」と少し大きな声を上げた。

「そんな汚いところ・・・」と、上半身を起こして俺を止めようとした。

ユキエさんを無視して、俺は両足の指を1本1本舐めた。

(俺ってMなのだろうか?)

舐めていると気持ちよくなってきた。
ユキエさんは再び仰向けに寝ると、時々息を漏らし始めた。
10本の指を舐め終わると、俺はくるぶしから膝、太ももとゆっくり舐め上げた。

「は・・・ん・・・」

ユキエさんが上げる声が多くなってきた。
俺は妙な自信をつけ、太ももを舐め終わると、脚の間の黒い部分に思い切って口をつけた。

「シャワーも浴びてないのにダメ・・・」

俺の頭を掴んでやめさせようととするユキエさんの腕を握って動きを止め、俺はその部分を舐め始めた。
正直言ってよく分からないし、しょっぱいし、胸と違ってどこをどうしたらいいのかよく分からない。
かといって聞くのもなんだかだ。
俺はとりあえず割れた部分を上から下まで舐めてみた。
上の方に舌がかかると、一瞬ユキエさんの腰が上がった。

「痛いですか?」と聞いても答えてくれない。

もしやと思い、俺はその部分を舐め続けてみた。
ついでに指も入れてみた。
ユキエさんの腰が持ち上がる回数が増え、だんだんと背中を反らせるようになり、俺の頭をくしゃくしゃと掻き回し、あからさまに気持ちよさそうな声をあげ始めた。

ユキエさんは大きな声をあげ、俺にしがみついた。
俺は嬉しくなり、指を掻きまわし、舌を動かし続けた。
ユキエさんはくぐもった声を上げると、反らせた背中をベッドにつけ、脚の力を抜いた。

俺は1回出したのにも関わらず、カチカチでビンビンのチンチンを一気に入れた。
ユキエさんは今日一番大きな声を上げて俺にしがみついた。
入れてからは、ただただ腰を大きく動かし続けた。
たぶん色々なやり方があるのだろうが、そんな余裕はないし、ユキエさんも俺にしがみついて声を上げ続けているから、たぶんこれでもいいんだろう。
綺麗にまとめた髪の毛のまま、ユキエさんは時々頭を反らせたり、半開きの口から聞き取れない声を上げたり、俺の背中や肩に爪を立てたりしていた。

ギシギシギシギシ・・・。

安ベッドが鳴る。
俺は、「んご」とか「んぐ」とか「フハッ」とか、全然それっぽくない声を上げながらひたすら腰を動かし続けた。
そして最後、「ムムム・・・」と俺はうなり、ユキエさんの中に出した。
しばらくしたらまた動かそうかと思っていたが、ユキエさんが荒い息を吐きながら壁の時計を見て、「ユウダイが戻る前に帰らないと」とかすれた声で言ったので、仕方なく身体を離した。
白い服を重ねて着て、その上から着物を羽織るユキエさんを、俺はパンツを穿き、ベッドに座りながら見ていた。

「阿部君、ちょっと手伝ってくれる?」

俺は「はい」と立ち上がり、背中の帯を押さえた。
俺はいい匂いに我慢できなくなって、そのまま抱きつき、首筋にキスをした。

「だめよ」とユキエさんは後ろを振り返って少し笑い、その体勢のままキスをしてくれた。
化粧を直し、机の上のチケットを手に取り、「これを取りに来たの、今日は。ありがとう」と言い、「送って行きます」と言う俺を止め、部屋から出て行った。

俺は何がなんだかわからなくなった。

「彼女を作れ」とか「責任」とか難しいことを言うユキエさんと、俺にしがみついて声をあげているユキエさんが、どうしても結びつかなかった。

俺のことは好きじゃないのか?
そりゃあご主人がいるもんな。
でも何で、それならああいったことを俺とするんだ?
欲求不満、バカバカ、そんなわきゃないだろ!

俺は誰かに相談したかったが、高校のツレの顔をいくつか思い出して諦めた。
大学の同級生や先輩の顔も浮かんだが、しっくりこない。

そのとき、「久しぶりですねー」と声があり、すらっとした女性が部室に入ってきた。
クドウさんだ。
クドウさんは、うちの大学を出たあと音大に入り直して、今は近所の医大の1年生という、まあ変わった人だ。
ホルン吹きだったが、家が近所なので時々練習をつけてくれ、みんなに人気のあるOBだ。
初めてクドウさんと会ったとき、「君、ポセイドンみたいだねー」と微妙に年がバレそうなことを言って、よく指導してくれた。

「私も阿部ちゃんくらい体格がよかったらチューバやりたかったなあ」とよく言っていた。

女性が苦手な俺でも気策に話せたのは、あまりにも美人なのでリアリティがないのと、端的に言って俺の好みではまったくなかったからだ。
というか、このタイプの美人、どんなタイプだと言われれば難しいが、女性が好きになりそうな美人に反感にも近い気持ちを持つクセが俺にはあった。
まあクドウさんはいい人だったし、年も10歳近く上なので、初めの印象から持った反感はなくなってはいたが。

クドウさんは常々、「恋愛で失敗したことがない」と豪語しており、その言葉には非常に説得力があった。
悩んでいる時にクドウさんが来たたのも何かのお告げかもしれない。
ブオーっと練習している俺に、「阿部ちゃん上手くなった?何か垢抜けたねー」とクドウさんがホルンを持って横に座った。

「今、どんな曲吹いてんの?」

「あ、これです」

「へえ、ちょっと合わせてみる?」

しばらく練習をしたあと、一息ついたタイミングで俺は思い切ってクドウさんに、「すみません、実は相談したいことがあるんですが、いつか時間をいただけないでしょうか」と持ちかけた。
クドウさんは物凄くびっくりした顔をして、「じゃあ、今日このあとでどう?」と言った。
大学の最寄りの駅の少し入ったところの喫茶店に2人で入り、俺はなるべく他の客から離れた席を探して座った。
飲み物が置かれるとクドウさんは、「ちょっといい?」と話し始めた。

「阿部ちゃんはいい子だと思うよ。嫌いか好きかって言われたら、だいぶお気に入り。でもね、そういうのと恋愛感情は違うの、ごめんなさい」

俺は固まった。

「いえ、そういうことじゃないんです」

「え?何?違うの?なんだそれ、普通、私に相談ってそういうことっしょ?」

恐ろしく傲慢な態度を見せるクドウさん。
まあ、こういう人だから逆に嫌味がないんだよなと俺は思い、ユキエさんとのことを詳しく話した。
クドウさんもだんだん熱心に聞き始めてくれた。
詳しく話したと言っても、初体験だったとか、着物を脱がせたとか、ソファでしたとかということを話したわけではもちろんない。
ひと通り話すとクドウさんは、「で?」と言った。

「え?」

「だから相談って何?何をどう相談してるの?話したかっただけ?」

俺はちょっとビビった。

「ユキエさんが何をどう考えているのか俺には全然わからないんです。『彼女を作れ』とか。でも仲良くしてくれるし、この前も家まで来てくれるし・・・」

俺が言い終わる前にクドウさんは、「欲求不満なんでしょ」とタバコに火をつけて言った。

「そういう問題じゃないんじゃないでしょうか?」

「そういう問題なの。そのユキエさんはダンナと別れる気なんかないよ。『彼女作れ』とか『責任』とか言ってるのは予防線を張ってるだけ。阿部ちゃんも女の人と付き合うのが初めてだからのぼせてるんだよ」

俺が納得しない顔をするとクドウさんは、「その奥さんは遊びたいだけだって。阿部ちゃんに彼女が出来てセックス出来なくなりそうになったら、誘ってくるよ、向こうから。たぶんそれだけが目的だもん」と笑って言った。

「せせせせ、セックスですか・・・」

「面白そうだから試してみようか?それにね、こういうのは向こうが積極的になると、今度は阿部ちゃんが引くよ、絶対」

クドウさんはコーヒーを飲み、「つまりね」と話し始めた。

ユウダイにあげたチケットの試合を俺とクドウさんは見に行った。
それとなく連絡を取り、試合が終わった後、スタジアムの外で顔を合わせた。
ユウダイは生意気にも彼女と一緒だった。
目のクリクリした、今どき珍しい高校生らしい高校生だった。

「先生の彼女?知らなかった」

ユウダイははしゃいでいた。
彼は写メをとり、「じゃあ」と言って別れた。
その次の日、珍しくユキエさんが電話をかけてきた。

「こんにちは、今、学校?」

「いえ、家です」

内心、ユキエさんの声が聞けてものすごく嬉しかったが、クドウさんに言われた通り、出来るだけクールに答えた。

「ユウダイが嬉しそうに見せてくれたんだけど、阿部君、彼女いるんじゃない」

「彼女じゃないですよ、先輩です」

「そう?でも仲良さそうに腕を組んでたって言ってたよ。すっごく綺麗な人らしいね。誰だったかな、SPEEDの誰かに似てるって」

似てねえよユウダイと思いつつ、「彼女じゃないんですって」と伝えた。
ユキエさんはまだ疑っているようだったが、「明々後日から主人が香港に1週間ほど出張なの」と言った。

「そうなんですか」

「平日の昼間、空てる日とかある?」

「うーん・・・」

俺は「ありますあります、なければ空けます!」と言いたいところだったが、クドウさんの言いつけを守り、返事を濁した。

「彼女に怒られる?」

「だから彼女じゃないんですって」

「でも阿部君、乗り気じゃないでしょ。おばさんに飽きちゃったかな?」

「そんなことないです、じゃあ、金曜日はどうですか?」

そう言うと、「うちに来てくれる?」と聞いてきた。

俺は、「はい」と答えた。

結局、クドウさんの言った通りになりました。
長々とすみませんでした。