時間は4時を回り始発電車が動き出した。
日曜日ということもあって人影もまばらだ。
楽しかったA子との1日が終わる。

(今度A子と会えるのはいつかな・・・)

そう思いながらA子と最後の会話を交わす。

A子「これからK太さんにホテルまで送ってもらうの」

K太がそのままホテルに泊まるということは簡単に想像できた。
A子もその覚悟はあったようだ。
俺の顔を見るとちょっと泣きそうな顔になっていた。
俺と目を合わせることもできない。
(K太に負けた・・・)という悔しさもあり、俺は返す言葉が出てこなかった。

俺「うん、今日は楽しかったよ、また会えるといいね」

そう言った俺にA子が近づいてきた。

A子「先生、ちょっといいですか?」

そう言うとA子は俺の耳元で囁いた。

A子「先生、心配しないでいいよ、K太はただの友達だからさ」

俺はその言葉を信じるしかなかった。
Y美とS子と3人でK太とA子を見送った。

S子「A子、K太とやっちゃうのかなぁ」

Y美「ばか、そんなこと言うな」

S子は俺のA子に対する気持ちは知らないようだ。

Y美「あの子、そんなに軽い子じゃないよ」

S子「そうかなー、K太はA子にぞっこんだし、ホテルに行くってことはヤルってことでしょ~」

Y美「M君さ、A子のこと好きなんでしょ?何で止めなかったのさ。A子もそれを望んでいたんじゃない?」

俺「・・・」

何も言えなかった。

Y美「さっきA子、耳元で何か言っていたじゃん、何って言ったの?」

俺「『心配しないで、K太は友達だから』って・・・」

Y美「そっか、じゃあ大丈夫だよ、あの子、ああ見えてしっかり者だからさ」

今なら携帯電話ですぐに連絡取れるだろうが、当時は携帯電話なんて持っている人はほとんどいなかった。
俺はどうすることもできずA子の言葉を信じるしかなかった。

次の日の夜、A子は飛行機で地元に帰っていった。
夜になってA子からメールが届く。

A子『先生、ただいま。さっき帰って来た。すぐにメールしました』

すでにA子は2人のチャットルームで待機していた。
K太とのことを聞くのはヤボだと思っていたが、A子の方から切り出してきた。

俺と別れたあと、駅前のシティホテルに2人で入ったそうだ。
予約していたのはちゃっかりダブルの部屋だったそうで、したたかなA子はフロントで、「あたし1人なんで、シングルでいいです」と勝手に部屋を変えてさっさと1人で部屋に行ってしまったそうだ。
フロントに取り残されたK太はお金だけ払ってそそくさと帰っていたという・・・。
女は怖い・・・。
飛行機代にホテル代まで出させておいてこの仕打ち。
当然だがK太は納得できるはずもなく、激怒のメールを送ってきたそうだ。
それをA子は、『あんた勘違いしていない?』みたいな冷たい返事であしらったという。
それ以来、K太がA子のサイトに訪れることもなく、K太が主催だったオフ会も行われることはなくなった。

A子は俺のことをどう思っているのか確かめる度胸もなく、またいつも通りの日常に戻っていた。
それから1年の時が過ぎたある日、A子から衝撃のメールが届いた。

『結婚しました』

(な、何~?!)

驚きはそれだけではなかった。

『もうすぐ赤ちゃんが産まれます』

言葉を失った。
この1年、A子とメールをしたりチャットをしたりする日々は確かに少なくなっていた。
それでも週に1度のペースでメールは交わしていた。
結婚はおろか、男の影すら感じることもできなかったのに・・・。
A子は隣の県に住む男と妊娠をきっかけに入籍していた。

(終わった・・・本当に終わった・・・)

そう思った瞬間だった。

しかしA子とはそれ以来、以前にも増して頻繁にメールをするようになった。
仕事のこと、ダンナのこと、赤ちゃんのこと、俺は相変わらず『先生』だった。
A子はよく悩んでいた。

『仕事で車をぶつけました』
『寝坊して遅刻しました』
『ダンナと喧嘩しました』

その度に俺は親身になってA子にアドバイスを送っていた。

A子『先生がいなかったらあたし、すごく困っていたと思うの』

その言葉は素直に嬉しい。
でも、それが恋愛対象ではないのも明らかだった。

それからまた1年ちょっとが経過した。
俺は26歳、A子は22歳になっていた。
A子の子供も1歳になっていた。

A子がメールではなくチャットをしたいと言い出した。

俺『悩みならメールでもらって返事するよ』

A子『・・・とチャットがいい』

深刻な話だろうと察した俺はすぐにチャットに応じる。

A子『あたし、離婚します』

これまた衝撃的な告白であった。
結婚して1年ちょっとだ。
聞けばダンナの浮気が原因らしい。
詳しく聞くとダンナは当時、彼女がいたそうだ。
しかしオフ会で会ったA子に一目惚れ。
彼女と付き合いつつA子にも手を出していたのだ。
A子はそのダンナに俺と一緒にいるような安心感を覚えたとのことで、体を許す関係になるまで時間はかからなかったそうだ。
若かったA子は避妊に対する知識も乏しく、為すがままに受け入れたようで、付き合って2ヶ月ほどで妊娠が判明。
ダンナは責任を取る形で結婚することになったようだ。
しかし本命の彼女がいたダンナにとって、A子と結婚すれば済む問題ではなかった。
A子に寝取られた形の彼女は結婚後も執拗にアプローチを続けていたようで、会うたびにセックスもしていた。

そんな浮気が発覚した原因が、彼女からのメールだったというから驚く。
ダンナとのメールのやりとりをすべてA子に転送。
ダンナに問い詰めるA子。
その日以来、ダンナがA子のもとに戻ることはなく、間もなく判の押された離婚届が届いたという。
養育費の話もなければ慰謝料の話もない。
幸いA子の父親はそれなりに地位のある実業家であったため、金なんてどうでもいいから一刻でも早く実家に戻って子供とともに生活しろと言われたという。

(あわよくばA子といい関係を・・・)と思い続けていた俺はA子を呼び出した。

ちょっとオシャレなシティホテルのツインルームを予約した。
A子は、「こんなホテル初めて」とはしゃぎながら部屋に入った。
(あのK太が予約したホテルよりも数倍高いホテルだ)
部屋に入るなり、俺はA子に抱きついてしまった。

A子「セ、先生、やだ・・・」

俺「好きだ」

A子「えっ・・・」

気がつくと俺はA子にキスをしていた。
いきなり俺に抱きつかれて驚き、体に力が入っていたA子だが、すぐに体の力が抜ける。
時間にして10秒程度だろうか・・・唇を離すとA子は照れくさそうに言った。

A子「先生って意外と大胆なんだね」

実は俺自身が一番驚いていたりする・・・。

A子「あたし、バツイチ子持ちだよ」

俺「そんなの関係ないよ」

A子「ホントかなぁ・・・」

着ていたTシャツとジーンズを脱がす・・・ブラに隠れた小ぶりのおっぱい。
白いブラとお揃いのパンティが刺激的だ。
トランクス1枚になった俺とA子はそのままベッドで抱き合った。
出産で乳首が黒ずんでしまったとブラを外すことを拒んだA子。
ブラ越しにおっぱいを揉む。
小さいといっても子供を産んで少し大きくなったというおっぱいは柔らかかった。
ブラの隙間から手を滑り込ませる。

A子「ダメだよぉ」

搾り出すように小さく声を出すが、その声は聞きなれたA子の声ではなかった。
ブラのホックに手をかけるが、ふと我に返ったように無言で拒否するA子。
俺の意識を逸らすかのようにトランクスの上から俺のムスコに触れるA子。
もちろんこれ以上にないというくらいに硬直している。
A子は何も言わずに優しくしごくように上下する。
スルリと手がトランクスの中に入り込む。
ちょっと冷たいA子の指先がムスコに触れた。

A子「先生・・・」

そう言うとA子は唇を重ねてきた。
A子の下半身に手を伸ばす。
しかし俺が手をパンティに触れると同時に手を押さえつける。
仕方なく手を遠ざける・・・そしてまた近づける・・・が、また拒否される。

A子「これ以上はダメだよ」

手コキだけでも十分といえば十分だが、この生殺しのような状況にいつ理性が飛んでもおかしくない俺。
俺のトランクスを脱がしたA子は両手で俺のムスコの愛撫を始める。

A子「ふふ、こんな可愛い先生って初めて見るね」

いたずらに微笑みながらA子の手の動きが速くなる。

俺「口で出来る?」

A子「んー、ダメ。お口はダメ」

俺「なんで?」

A子「ダメなものはダメです。それより先生、これからどこか遊びに連れて行ってください」

俺「うん、いいよ」

そう言うとA子はそこで手コキを止めてしまった・・・。

俺「えっ、A子・・・」

そそくさと服を着るA子。
そうだ、A子はこういう性格だ。
一人素っ裸で股間を大きく膨らました俺はとても間抜けに見えた。

A子「先生、いつまでもそんな格好じゃ風邪引くよ」

後になってわかることだが、A子はダンナに対しても、“抜いてあげる”という行為はしたことがなかったそうだ。
自分が風俗嬢のように相手を射精させるという行為はどうしてもできないらしい。
それもダンナとの離婚の原因のひとつでもあったようだ。

そして驚いたのは、A子は妊娠がわかってから、ダンナと一度も肌を合わせたことすらなかったという。
元々セックスが好きとは言えないA子は、ダンナと付き合い始めてすぐに関係は持ったが、その後はほとんど体を許さなかったという。
すぐに妊娠したA子は、ダンナとのセックスはおそらく両手で足りるくらいではないかと言っていた。
なるほど、ダンナが元彼女とよりを戻したくなる気持ちもわかる。

2日間を共に過ごしたが、そんな会話もあって、俺はA子にそれ以上手出しをしなかった。
お互いの気持ちがないのに一方的な欲望を押し付けては人間関係にヒビが入る。

A子「先生、1ヶ月後にあたしのところに遊びに来てね。そこで2人の気持ちが今と同じなら付き合おう」

そう言ってA子は帰って行った。

そして1ヶ月後。
A子の所に行こうかという話を10年近く付き合いのある友人としていた。
この友人はA子のことも知っており、俺がA子と関係を持とうとしていたことも知っていた。
そんなA子に相談を持ちかけられた友人だったのだが、お互いに電話やメールで相談したりアドバイスをしている中で、お互いに恋愛感情が目覚めていたのだ。

友人「悪い・・・お前とA子のことは知っていたんだが・・・」

この友人とはかつて自分が狙っていた女を横取りされた・・・というようなことがあり、それで恨みがあったわけではないのだろうが、友人にとってはA子の存在はまさにそのリベンジ・・・とも言えるものであった。

A子にすぐに電話をする。

A子「先生、ごめんなさい。やっぱり先生は先生だから・・・」

俺の告白に戸惑い、一時は本当に付き合おうと決心したらしい。
しかしA子は信頼していたはずのダンナに捨てられ、男性不信に陥っていた。
そんな中、バツイチである友人の助言は誰よりも説得力があり、次第に惹かれていったという。
もっとも俺自身も冷静になると、バツイチ子持ちの女を養うほどの勇気と責任感があったのかというと、正直、その場の勢いであった部分も多かった。
(ヤったらおしまい・・・みたいな)
だから俺は会いに行く決心はしていたが、それは断りのケジメをつけに行くつもりだった。
それにこの頃、俺には別の気になる存在の女性がいた。
本気で愛した女であれば、はらわたが煮えくり返るほど腹立たしいことなのだろうが、俺は友人に対してそれほどの怒りは持っていなかった。
そうは言っても俺の知らないところで話が進んでいることに気分がいいことはなく、その友人とはそれから1年の間、連絡を取ることもなくなっていた。
友人と別れ際に、「A子はこちらの予想を遥かに超えるしたたかさで自分勝手な女だから気をつけろよ・・・」と忠告をした。

A子とはそれからもしばらくはメールをしていたが、気がつくとA子からのメールは届かなくなっていた。
そんなことも気にならないほど、A子に対する俺の気持ちは冷めていた。
友人と連絡を取らなくなって1年ほど過ぎた頃、連絡があった。

友人「お前の忠告、まさにその通りだったな。あいつは手に負えん・・・」

結局、友人もまたA子と別れることになったという。
実はA子は俺たちの住んでいるところから1000キロも離れた地に住んでおり、会いに行くにもお金も時間もかかった。
それでもA子に1年の間に4~5回会いに行ったという。
しかし、そんな遠距離関係が長く続くわけもなくA子から別れを切り出されたという。

久しぶりにA子にメールを送ってみた。

A子『先生、久しぶりです~』

出会った頃と変わらぬA子がそこにいた。
聞けばA子は1人の男に縛られるよりも自由に遊びたいという。
バツイチ子持ちの自分はもう結婚する気もなく、そんな自分でも気軽に相手をしてくれる近くにいる人と楽しみたいそうだ。
遠くから時間もお金もかけて遊びに来てくれる友人よりも、近くにいる身近な人の方が気が楽という理由。
ホントかウソかわからないが友人にもカラダは許しておらず、この先も他の男にカラダを許すつもりはないと言う。

そしてA子は今の気持ちを話してくれた。
これまでネットで知り合った人たちとの出会いは忘れたくない。
でも、そこで出会った人の優しさに触れるとまた甘えてしまうくらい自分は弱い。
そうならないように環境を変えてゼロからスタートしたいと思った。

A子『おばあちゃんが住むところに引っ越すことが決まったの』

そこにはネットもパソコンもないと言う。
それはネット依存であったA子には相当の覚悟が必要だったはずだ。

それからしばらくしてからメールを送信してみたが、あて先不明で戻ってきた。
勇気を出してかけた携帯電話も、「この電話番号は現在使われておりません・・・」というメッセージだった。

A子と音信不通になって何年になるだろうか・・・。
俺は今でも、『先生』と慕ってくれたA子の笑顔を思い出す。