俺はそそくさと家に帰り、使用方法を予習し始めた。
使い方はすぐに覚えた。
今日ほど機械が得意だったことに感謝する日はないだろう。

次に洗面所へ向かった。
都合よく、斜め上にカゴがある。
下着なんかを入れる何段にも連なった小さいタンスの上。
俺はワクワクしていた。
同時にバレたら終わるとも思った。
二階に戻り、カメラのレンズだけ出るように布で包んで充電を開始した。

適当な夕ご飯を終え、同時に二人も帰宅した。
沙耶はホクホクした顔でブランド物の紙バッグを持っていた。
俺は迷わず彼女の服を見る。
襟の付いた藍色のワンピース。
スカートは膝上まであり、そこから彼女の線の細い足が伸びている。

(成功すれば、あの向こう側が拝める)

俺はすでに勃起した股間を隠しながら、毎度毎度の安い笑顔を振りまいた。
すると沙耶は手のひらをこちらに向けた。

「お土産はないよ!東京からのやつがあるしね!」

「いや、そうじゃないから」

俺は首を横に振った。
沙耶はいつものように接してくれた。
疑いを持った顔ではない。

じゃあ、あの下着は?
なんで着もせずに洗濯機に入れたんだ?
気が変わったとか、そんな理由か?
わからない。
わからないが・・・まあ、いい。

俺は運転に疲れた妻の肩を揉みながら言う。

「な、なんか沙耶ちゃん、眠そうだね?」

もちろんそんなことは思っていない。

「そうかな?」と、沙耶は目を擦った。

妻は、「あー」なんて気持ち良さそうだ。
話に興味はないらしい。
そのとき俺は立ち上がった。
妻は不機嫌そうにこちらを見上げる。

「俺、先に入っていいですか?」

「もう!また敬語だ!」

「ああ、やっちゃった・・・」

道化を演じる。
和むリビング。
そうして俺は何事もなく、洗面所に入った。

ここからがスタートだ。
まず俺の下着入れにあらかじめ仕込んでおいた充電済みの小型カメラを取り出す。
次にカメラの配置を確認。
上のカゴであることは間違いないのだが、レンズの位置や広がりも考慮して、なおかつ見つかりにくい場所を選ばなくてはいけない。
しかも時間がない。
自意識過剰かもしれないが、長時間に洗面所にいることは不自然だ。
そそくさとカメラをセットして、これまたそそくさと風呂をあがった。

「あがったよー」

ひっくり返りそうな声を抑えながらリビングに行くと、案の定、沙耶が風呂の準備をしていた。

「ね、眠いんでしょ?入りなよ。俺の後だけど」

「気にしないよ、そんなの」

沙耶は笑顔を浮かべながら、俺の肩を叩いて洗面所に入っていった。
それは俺にとって、初めての沙耶への肉体的接触だった。

「上にいるわ」なんて言って二階へ。

俺はすでに勃起していた。
沙耶が俺に触れた。
それは今の俺にとって性行為に等しい。
しかしマスはかかない。
すべてはカメラと共にある。

二階では、風呂場の音が反響して聞こえる。
コンコンと音が鳴り、少しして鼻歌が聞こえてきた。
最近人気のバンドだ。
沙耶の雰囲気に合っている。
まあ、俺の手中で風呂に入っているわけだが。

十数分、落ち着かない時間が過ぎて、洗面所の開く音がした。
俺はすぐに下へおりた。
顔を火照らせた沙耶がリビングにだらしなく寝そべっている。
へそが出ているが気にも留めない。

「眠いから歯磨きしていい?」

俺は嘘をついた。

妻は「いいよ」と答えた。
洗面所に入り、何気なくドアを閉めてカゴからカメラを回収。
計画通り、あとはパソコンで見るだけだ。

「よし」と呟いて、カメラをポケットに仕舞った。

「・・・こーくん?」

その声に俺は振り向いた。

「・・・沙耶・・・ちゃん?」

俺は喉を詰まらせて咳をした。
なんと洗面所の前に沙耶がいたのだ。

「どうしたの、こーくん?」

答えられない。
声が出ない、と言っていい。

(いつからいた?カメラを見たのか?やっぱりすべてを知っていたのか?)

固まる俺をよそに沙耶は洗面所に入ってきた。
そして何事もなく、歯磨きを始めた。

「あ、あの・・・沙耶ちゃん・・・?」

「悪いけど、先に借りるよーん」

口角に白い泡をつけながら、沙耶は歯ブラシを咥えて去っていった。
どっと疲れが押し寄せる。
ギリギリバレなかったらしい。
俺はマウスウォッシュを済ませて、二階へ向かう。
パソコンの電源はすでについている。
迷わずマイクロSDをセットした。
無料のプレイヤーで再生する。
暗い画面が十秒続き、失敗を微かに匂わせたが、やがて画面に見なれた洗面所が映し出された。

胸がドキドキしてきた。
今まで生きてきて、こんな恍惚とした罪悪感はない。
それは嬉しさそのものだった。
イコールで沙耶への愛だとも思った。
彼女と住む名も知らぬ男よりも深い愛を、俺は確信的に持っていた。

洗面所に沙耶が入ってきた。
外に行っていたこともあり、化粧を落としている。
カメラ位置は初めてにしては上出来だ。
むしろ素晴らしいと言える。
なんなら家の前で販売したい。
そんな自惚れすら感じた。

「あっ・・・来た!」

思わず声が出る。
沙耶は着ていたワンピースを脱いだ。
カメラには背を向けている。
ブラ紐が見える。
パンティーもだ。
そこであることに気付いた。

(同じやつだ・・・)

そう、沙耶はあのカラフルな下着を穿いていたのだ。
しかし今日洗濯した・・・、謎は解けた。
彼女は同じブラとパンティーを持っていたのだ。
そういえば沙耶はこだわるタイプと妻に聞いたことがある。

“同じ物でないと落ち着かない”と。

それは下着だけでなく、ノートや靴などの消耗品もだ。

「驚かしやがって!」

俺はディスプレイを笑顔で小突いた。
まるで恋人の肩でも突つくように。

映像の沙耶はカメラに身体を向けた。
俺の股間はすぐに反応した。
血液がどんどん注がれるのがわかる。
下に落ちていく手を押さえながら、映像に目を向けた。

その瞬間、沙耶はブラを外した。
あの夢にまで見たEカップが露呈した。
グラビアアイドルのような均整のとれたお椀型。
乳首はまだピンクで幼い。

俺は頬を伝う涙に気付いたが、放っておいた。
これは感動だった。
あの沙耶の裸がここにある。
原始人が初めて美しい彫刻に出会えば涙を流すだろう。
沙耶の身体に潜んでいた彫刻を見つめながら、俺は微笑した。

「次はアソコだよ」

俺はまた呟く。
沙耶はもう俺の玩具だった。
愛玩とは彼女のためにある言葉だ。
言われるがまま、沙耶はパンティーを脱いだ。

「来た・・・!」

あまり多くない沙耶の陰毛は、まるで俺を誘っているようにも見えて、ひどく興奮を盛り上げた。
俺はすでにイチモツを握り締めていた。
五回も擦ったら射精するだろう。
それくらいに興奮は悦を超えていた。

その後、沙耶は風呂に入った。
画面から彼女は姿を消した。
俺はすぐに射精し、ティッシュに包んで捨てる。
今日、沙耶のすべてを見た。
俺はクズ野郎。
最高のクズ野郎だ。

(これで・・・終われるのか・・・?)

俺は自問自答した。
答えはもちろん“NO”だ。

ある種の出来心から始まった俺の盗撮DAYS。
沙耶が実家に戻る度に実行した。
何度見ても美しい肢体、顔、乳、陰毛。
俺はお礼として精液を飛ばした。
抜き終わった後に気付く。

(興奮は射精ではなく、もしかすると盗撮行為のスリルの方が上かもしれない)と。

そんなことも思うが、しかしレンズ越しの沙耶を見つめると、その裸体がすべてと思わざるを得ない。

そんな日々が一年続いたある夏の日。
妻が妊娠した。
そうか、と俺は思った。
瞬間、なにを血迷ったのか、俺は盗撮を続ける誓いをした。
まったく最低な父親だ。
カス。
ゴミ。
でも今の俺は、「褒め言葉だろ?」と狂ったように笑う。
間違いない。
つまり、沙耶への愛は違うのだ。
妻は妻として生きているが、沙耶は俺の手の中で生きている。
まるでガラスの小屋に住んでいる少女が遊ぶ新喜劇のような家に住んでいるわけだ。

ディスプレイを撫でる。
しかし沙耶には触れられない。
ガラスの向こうにいるのに。
もうわかっていた。
俺はすでに用意していたあるブツを引き出しから取り出した。
強力な睡眠剤。
非合法のアレだ。
小型カメラなんか比ではない。

二階の自室で、そっと床に耳をつける。
リビングからの楽しい声。
生まれてくる天使を祝う声だ。
俺は明日の計画を立てる。
沙耶はどうするか、それはまだわからないが・・・。

しばらくして沙耶が部屋に来た。
漫画を借りに来る約束をしていたのだ。
俺はすでに閉じたノートパソコンに肘をつき、用意していた漫画を床に置いた。

「これで全巻だよ」
「うわあ、多いね。いる間に読めるかなあ?」

「明後日の月曜日の朝に出るって言ってたね。10巻まであるから難しいかも」
「そっか。明日全部読もうかな・・・」

そこで俺はハッとした。
しかし顔には出さない。
グッとこらえた。

「あ、明日は家なの?出掛けないの?」

「たまにはね。DVDレンタルしたりするよ。お母さんはお姉ちゃんと病院行くらしいから、自宅警備ってのをするの」

沙耶は笑顔で答える。

「俺も行くべきだよな、病院」

すると沙耶は首を横に降った。

「行かなくていいよ。明日はお姉ちゃんじゃなくて、うちのお母さんの子宮検診だからさ。お姉ちゃんは付き添いで、本当の目的は帰りに子供服を見ることだって」

「そうか」

俺は勃起をこらえていた。
明日は沙耶と家に二人きり。
土曜日は確か義父もどこかへ行っている。
つまり、最高の睡眠薬記念日ってところだ。

「じゃあ、俺はなにしよっかな?」

「たまにならかまってあげるよ。漫画の合間とかさ」

「俺、子供じゃないから」

ふふふ、と沙耶は笑った。
俺は彼女の裸を知っている。
乳首の色も形も、陰毛の感じも見た目の肌の滑らかさも。
そんなことは知らず、笑顔で話し掛ける沙耶。
こんな陵辱行為があっていいのか?
悪だ。
俺は“最も悪い”と書いて“最悪”と読むクズ野郎だ!
俺は笑いをこらえながら沙耶を部屋から追い出した。

次の日、朝から早速二人きりになった。
沙耶はだらしなくキャミソールのままでいた。
もう俺に対しての遠慮は皆無だ。
彼女はいつか勝手に裸になるかもしれない。
もちろんそれはやめてくれ。
俺の楽しみが減ってしまうのだから。

「レンタル屋さんっていつ開店かなあ?」

沙耶の問いに、10時と答えた。
今はまだ9時前。
ちょっと早すぎる。
俺は椅子に座り、沙耶が飲んでいたカップを探す。
少しコーヒーの残ったカップ。
俺のポケットには、すでに睡眠剤がある。
作戦はすでに組み上がっている。
早くしたい。
そう思った。

<続く>